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♡story♡

3章 急げ! 広樹に会うまであと少し!

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【水曜日】

昨日の帰り道、僕は自分の気持ちに気付いてしまった。
いや、でも男が男のことを好きになるなんて……ないな。
だけど、広樹と一緒にいると楽しいとか思えるのってやっぱり僕が広樹のこと、好きだから?それに付き合いたいなとかも、本当に好きじゃなかったら思えないし。

朝、登校してきて教室に入ると、京奈と龍二がいた。
龍二「なーんだ、転校生かよ」
僕の姿を見て、肩をおとす龍二。
京奈「おはよー♪」
京奈は手を振ってきた。
領子「お、おはよう」
僕は手を振り返した。
龍二「早く亜伊来ないかなぁー」
京奈「あんた、どんだけ亜伊ちゃんが好きなのさぁ。気持ち悪いよ?」
確かに龍二は亜伊のことが好きだ。
でもその愛が亜伊に届くことはないだろう。
亜伊は、広樹が好きだから。
龍二「な、なんだと!ケーキ女!お前はみんなにケーキを配ることしかできないくせにー!」
京奈「はぁ?みんなが喜んでくれてるなら、それでいいじゃない!」
2人はすぐに喧嘩をしてしまう。
それにしても……あと木曜日と金曜日の2日間でこの姿も終わりか。
そしたら、僕は今まで通りの姿に戻る。それは嬉しいことだけど、広樹と一緒にいられる回数が減るだろう。
それは嫌だなぁ……
でも、元の姿の方が僕は好きだ。カッコいいから!
だけど、領子に対しての接し方は絶対にされなくなってしまう。
僕は広樹と一緒にいたい。
だからといって、自分から告白すれば亜伊がその情報をキャッチして……今度こそ僕は殺されるだろう。
男の姿のまま告白しても気持ち悪いと思われるだけだ。
なら、あっちから告白してくるのを待とう。
あと、2日間で広樹に告白させる。

それしか方法はない。

でも……僕は広樹と付き合って何がしたいのか…………
今の僕には分からなかった。


放課後、まだ龍二と京奈が喧嘩していた。
京奈「何なの?ケーキ女って!侮辱してるようにしか聞こえないんだけど!」
龍二「え、侮辱してるの気付かなかったの?」
下駄場で靴を履き替えながら、喧嘩をしている2人。こりないなぁ。
いつも通り、僕も広樹を誘って帰ろうとしたが、「今日は先生に呼び出されちゃって……先に帰ってて!」と言われてしまった。
仕方なく、1人で帰ろうと靴を出す。
だが、靴の中に手紙が入っていることに気付いた。


図書室では……

広樹が図書室に来ると、亜伊がカッターを持ちながら椅子に座っていた。
亜伊「来てくれたのですね」
広樹「……当たり前だろ。領子ちゃんの命がかかってるんだから。で、話って何?」
先生に呼び出されたわけではなく、亜伊に呼び出されたのだった。でも、領子に心配かけたくないという思いで嘘をついた。
実は朝、登校してきて上履きに履き替えようとしたとき自分の上履きの中に紙が入っていたことに気付き、紙に書かれている内容を読んだ。紙には【放課後、図書室に来なかったらあなたの大切な人が死ぬ。あなたに大切な話がある。】と書いてあった。
亜伊「やはり、あなたは……【大切な人】を沢波さんだと、とらえたのですか……残念です」
広樹「俺は領子ちゃんが好きだ。亜伊ちゃんは女として好きなだけで……」
亜伊「なら、どうして私たちは今付き合っているのですか?嫌いだったらすぐに別れるはずでしょう?」
広樹の言葉を遮って、亜伊は話を続けた。
亜伊「だいたい、広樹さんは外に出ちゃダメなのですわ。他の女にすぐ目を向けるから。あなたが見ていいのはこの私だけ」
広樹「何でそんなこと、決められてるんだよ?俺は領子ちゃんにそう言われるならいい、むしろ嬉しいけど亜伊ちゃんからそんなこと言われても嬉しくない!」
亜伊「だってあなたが、もし沢波さんと付き合っても、あなたはどうせまた他の女に手を出すに決まってる」
広樹「そんなことない!俺は領子ちゃんが本当に……」
不意に広樹はその場にしゃがみこんだ。
体が重く、そして眠くなってきたからである。
亜伊「やっと効いてきましたね。これから楽しいことになりそうですわ!」

広樹は完全に闇の世界へと引きずり込まれた。



一方、会議室では……

僕は会議室に向かった。
さっき僕の靴に入っていた紙にはとんでもないことが書かれていた。
【広樹さんは私がもらいましたわ。あなたがどれだけ広樹さんのことが好きなのか試させてもらいます。広樹さんの命を救いたければ、この紙に書かれていることに従いなさい。1、会議室に向かえ】
恐らく、この紙を書いたのは亜伊だろう。
そして僕はこの紙に書かれていることに従ったというわけだ。
会議室に入ると誰もいなかった。
机には紙が置いてあった。
【2、A階段に向かえ】
僕は迷わず、A階段に向かった。
行く途中に何回も先生達とすれ違ったり、ぶつかったりしたが、そんなこと気にしている場合じゃなかった。
A階段に向かった僕はまた、紙を見つけた。
亜伊は僕の行動を見ているのか?いや、そんなわけない。これはきっと僕の行動を見込んでやった計画だろう。でも広樹の居場所がどこなのか、広樹は無事なのか……それが知りたい。
【3、ランチルームに向かえ】
今度はランチルームか……


図書室では……

広樹が目覚めると、目の前は真っ暗だった。
そして自分は目隠しをされているのだと知った。
立ち上がろうとしたが、身動きができない。
広樹は椅子に固定されていた。
亜伊「……起きるのが早いですわね。でも、まぁ……助けは来ても遅いでしょうから、助けが来たときにはもう、あなたの腕は私のものになっていますわ」
……?意味がわからない。
これから何をされるのかという不安と、目の前が見えない恐怖に心臓の鼓動は高まるばかりだった。
亜伊「これであなたは逃げられない。私のものなのですわ」
耳元で囁かれたその言葉に、鳥肌がたった。
亜伊「沢波さんは今校内を回っているでしょうね。あなたのために……」
広樹「領子ちゃんに何かしたのか?」
亜伊「沢波さんの靴に、広樹さんの命を救いたければ紙に書いてあることに従いなさい、と書いた紙を入れただけですわ。彼女もあなたのことが好きなら今ごろ頑張っているでしょうね。無駄なのに」
そう言うとクスクスと笑い始めた亜伊。
広樹「……何がおかしいんだよ」
亜伊「可哀想ですわ。無駄なのに……」
広樹「………?」



一方、領子……

ランチルームに向かった僕は【4、体育館の倉庫に向かえ】と書いてある紙を見つけた。
迷わず向かったが、体育館には鍵がかかっていた。もしかしたら今度こそ、広樹はいるかもしれない。
僕は体育館の鍵をもらいに、職員室に向かった。


広樹と亜伊……

亜伊「時間稼ぎをしているのですわ。彼女は今ごろ体育館に向かっているか……それくらいでしょうね」
広樹「領子ちゃんに何かあったら……殺すからな」
亜伊「あらら、彼女に殺すと言うなんて酷いですわね」
広樹は領子のことが本当に好きらしい。
亜伊「校内の色々なところに向かわせているのです。それで、時間稼ぎをしているのですよ。図書室にいるのに……確か体育館の倉庫の次は更衣室だっけ?まぁ、体育館で結構時間稼ぎができるでしょう……」
亜伊はそう言って、カッターの刃を出した。
亜伊「これから楽しいことになりますわ」


領子の方では……

領子「失礼します、誰か先生はいませんか?」
職員室に向かった僕は、先生方に声をかけた。
先生「どうしたんだ?」
領子「体育館の鍵を貸してほしいんです!」
先生「どうしてだ?体育館は今、舞台上の修理をしているから立入禁止だ」
ということは、広樹はいないのか?
先生「全く、最近騒がしいものだ。さっきもガタガタ音がしたし……」
先生の言葉に、何かがひっかかった。
領子「どういうことですか?」
先生「職員室の上の部屋からものすごい音が聞こえるんだ。上は図書室だから、部活動で使うような部屋でもないし、今日は委員会ないし……何なんだ」
嫌な予感がした僕は、図書室に向かった。


亜伊「この机、どかしましょう」
亜伊はそう言うと机をどかした。
彼女は一体何をしようとしているのか。
亜伊「ふふ、痛いなら痛いって言ったらどうです?私はあなたのそういう言葉が聞きたいですわ」
広樹「こんなので痛がると思ってんのか……」
カッターの刃を出した後、亜伊は広樹の足を切った。それも結構深く。
傷口からは一筋の血が滲み出た。
亜伊「じゃあ次は……手ですわ。最終的にあなたは私の前で苦しみながら死ぬのですからね」
広樹「死ぬわけないだろ……俺には領子ちゃんがいるんだから……」
亜伊「まだ、沢波さんのことを口にするのですね。あなたは私に殺されたいのですね」
広樹の頬にカッターを押しつける。
そして思いっきり引いた。



一方、領子……

なぜだかわからないが、広樹が図書室にいるということは直感で分かった。
ガラガラ
図書室の扉を開ける。
真っ暗で何も見えなかったので電気をつけた。
辺りがパッと明るくなる。
図書室の真ん中には広樹と亜伊がいた。
あの場でもし、先生に会って話を聞いていなかったら広樹と会えなかっただろう。
先生には感謝しなくては。
領子「亜伊ちゃん……広樹君を離して」
亜伊「……どうしてあなたが?何で図書室に……」
予期せぬ出来事に亜伊は突っ立っている。
広樹「領子……ちゃん……?」
目隠しをされていて、こちらの姿が見えない広樹は本当に領子が来たのかと疑っているだろう。
領子「広樹君……!何でそんなに怪我を……」
亜伊「あなたは本当に広樹さんが好きなのですね。そうじゃないとここまで来れませんもんね」 
亜伊の声はいつもよりも、低かった。
領子「私が広樹君のこと、好きだって別にいいじゃない……広樹君は私のことどう思っているか分からないけど……それでも私は広樹君が好き……!」
これじゃあ、広樹に告白したのも同然じゃないか……
もう、僕は広樹から告白されるのを待たない。
広樹「……俺も領子ちゃんのこと好きだよ」
無理矢理笑ってそう言ってくれる広樹。
領子「絶対に……広樹君は渡さないから」
そう言って僕は亜伊を睨んだ。



ここから、亜伊vs僕の戦いが始まった。
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