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39話 エンペラースクウィッド(皇帝イカ)
しおりを挟む大陸歴3184年木目月(2月)。
魏府軍が海賊を装って襲撃し、菜緒虎たちが余裕で撃退に成功した3日後。
捕虜となった二百人近い魏府兵の奴隷契約を行うために、港湾砦にアルテミスがやって来た。
アルテミスは、港湾砦にクレという名前が付けられたこと告げると、悪韋が予言したように、魏府軍を撃退した功績として菜緒虎を代官に任命する。
また、環寧たちの懇願を受け、奴隷だった150人のうち希望した100人の受け入れを認めた。
これは、今年も大陸全土が凶作による飢饉に襲われる可能性が高く、耕作地を拡大し食糧を増産することが決定。
余った食料を大量にソロモンとジャンで売り捌くための「人」を多く確保する必要がでてきたからだ。
また、今回の襲撃でソウキたちの存在が魏府国に漏れたことは確実。
公式か極秘裏かは判らないが、捕虜の交換交渉も含め魏府国からの外交官が接触してくる可能性が高いと、アルテミスは想定していた。
大陸歴3184年翠月(5月)。
北へと向かうガレー船と小型帆船の数十メートル先の海面が泡立つ。
ずっと海面から蛸の頭が浮上する。
『奈緒虎様。左舷、ミズチの匂いがします。如何いたしましょう』
ガレー船にいる菜緒虎のステータス画面に、オクトパスから思念が送られてくる。
「ミズチというとあれか、サーベントの小さいやつか」
菜緒虎は、オクトパスのいう方向を眺める。
といっても、海中もしくは海底に潜んでいるのだろうから見えるハズもないのだが。
チリン
菜緒虎の背後から、乾いた鈴の音が鳴る。
菜緒虎が振り向くとそこには、赤茶色のほうき頭にガラの悪い三白眼。
素肌に革のチョッキを引っ掛け、首には奴隷の首輪。
腰に大振りの青龍刀を佩いた男、環寧が立っていた。
「姐さん。敵ですか?」
「ミズチだそうだ」
環寧の問いに菜緒虎は素っ気なく答える。
「ミズチですか」
環寧は軽く口笛を吹く。
「要るのか?」
「はい。ミズチは牙が売れますし何より肉が旨いんですよ」
環寧はニヤリと笑う。
『菜緒虎様。俺も喰いたいです』
オクトパスからも懇願され、菜緒虎は苦笑いしながら攻撃することを許可する。
すっと、オクトパスは海中へと沈む。
オクトパスは、海底の岩場の陰に鋭い鉤のような大口を持つ巨大なウツボのような生物を視認する。
頭から尻尾まで、真っすぐなら全長は約六メートルに及ぶであろう大物。
オクトパスは感謝していた。魔物であった頃なら考えなく襲っていたか、気づかないまま襲われていたかの相手だ。
気配を消しつつ尻尾の方から近く。
ミズチは、目の前に降って湧いたように現れたモノに歓喜した。何日ぶりの餌の到来であろうか。
しかも大好物の蛸の脚だ。
目の前を胴体が通り過ぎたときがチャンスである。
・
・・
・・・
・・・・
おかしい。いつまで経っても蛸は脚だけしか見せない。
脚だけでも喰うか…
意を決して、岩場から飛び出して蛸の脚に噛みつこうとした瞬間、何者かに尻尾を掴まれる。
!?
ミズチは、自分の尻尾が反対の岩場から見えていることに気づいていなかった。
振り払おうと力任せに尻尾を振った途端、ミズチは岩場から勢い良く飛び出す。
メリッ
ミズチの背後から複数の脚が伸びて来てミズチの全身を締め上げる。
メキ
固い何かがヘシ折れる鈍い音が響く。ミズチの骨が限界を超えたのだ。
途端にオクトパスが光り輝きだした。
菜緒虎のステータス画面に『オクトパスの経験が上限に達したためエンペラースクウィッドに進化します』という文字が表示される。
数分後、ミズチを抱えて海面に浮かんできたのは、十本足の巨大な烏賊だった。
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