カゴノトリ

但馬憂姫

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※カゴノトリ

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ー翼をもがれた鳥は、いつかまたあの空へ還る日が来るのだろうか?ー


あれからどれだけの時が流れたのだろうか?

濡れ衣を着せられ学校を退学になり、ムシャクシャして年齢を偽って酒を飲んだところまでは記憶にあるんだが、目が覚めたら大きなベッドの上にいた。
キングサイズというのか、大人が二人並んで寝ても余るくらいの大きなベッド。
豪奢な作りでシーツや掛け布団の質感や寝心地からも高価な物だと推測できる。

ただ、普通と違うところがひとつだけ。

見回すと、ベッドをぐるりと囲むように、等間隔に空けられた柵が綺麗に並んでいる。
いや、柵というより檻だ。上を見ると分厚い鉄板で覆われている。よく見ると柵の一部が扉のようになっているが、鍵がかかっているのかびくともしない。
ふと柵の外に目をやると、お伽話に出てきそうな香炉が一つ。そういえば先程から甘ったるい匂いがする。お香か何かだろうか?
酒を飲んだせいなのか、うまく頭が働かない。
なんで俺はこんなところにいるんだろう?

その時。

カチャリ、と音がし、部屋の扉が開いた。
扉の先には見知らぬ男が…ん?ちょっと待て。知らないはずなのに、見覚えがある。
思い出そうとするが、うまくいかない。誰だ、こいつ…?

「おや、お目覚めのようだね。ようこそかわいい小鳥ちゃん」

何だ、こいつ。頭おかしいのか?
近づいてくる男に、なにか異様なものを感じて、俺は思わず後ずさった。

「そんなに怯えなくていいんだよ?今日からここがきみのおうちになるんだから」

…は?今なんて…?

「お母様には退学になった旨を伝え、うちの会社に就職して住み込みで働きながら大検も受けさせます、という事で了承を得てきた」
「いくらうちが放任主義だからってそんなんで信じるわけないだろっ!?」
「以前から卒業したら大学通いながらバイトで入ってもらう約束をしていたんです。お母様は女手一つで育てていらしたんですよね?楓君、お母さんを早く楽させてあげたいから、って言ってましたよ。親孝行な息子さんですね。楓君から聞いていませんか?って尋ねたら、うちの子あんまり家で喋ってくれなくて~、ってあっさり信じてくれたが?」

あんのくっそばばあ…!
あっさり見ず知らずの人間の言うこと真に受けやがって!!

「楓君?きみが我社で働くのは嘘ではないよ?きみの仕事は私の性奴隷になる事だけどね」
「なっ…!?ちょ、まてよ!俺男だしっ!」
「それがなにか問題でも?」
「えっ…」
「初めてきみを見かけた時、運命を感じたんだ。きみは一生僕のものだよ。可愛がってあげるからね」

淡々と話し、時折嬉しそうな笑顔を見せる男に、俺は恐怖しか感じなかった。
しかし、逃げようにもこんな檻の中じゃ逃げれない。
逃げ場などないが、無意識に距離を取ろうとして、気づいた。手足に力が入らない。頭もぼーっとしてきた。そういえば、さっきから甘ったるい匂いが増している気がする…。

「ふふ。ようやく効いてきたね。安心しなさい、害はない媚薬だから。きみは初めてらしいからね。痛くないように、せめてもの配慮だよ」

いつの間にか、男が檻の中にいた。
されるがままに、顎を取られ、唇を奪われる。

「んっ…ふ、ぁ…っ」

突然唇を塞がれ、思うように呼吸ができず、酸素を求めてほんの少し開いた箇所から生温かいものが侵入し、口内を侵していく。
舌を絡め捕られ歯列を舐められ気持ち悪いはずなのに、身体の奥が痺れるようななんともいえない心地よさが身体を支配していき、徐々に力が抜けていった。
抵抗もままならないまま、服を脱がされ、露わになった素肌に男性のものとは思えない綺麗な指が這っていく。愛おしそうに、壊れ物を触るように優しく撫でられ、擽ったさに身を捩る。性奴隷なんて言うから恐怖に駆られたけど、そんなに悪い人ではないのかもしれない。
歪んではいるが。
この甘ったるい匂いのせいなのか強制的に与えられる快楽のせいなのか、奪われつつある思考回路の片隅でそんな事を思いながら、快楽に溺れていった。



「おや、お目覚めのようだね。あまりに目を覚まさないものだから心配したよ」

どうやらいつの間にか眠っていたらしい。…気絶したのかもしれないが。
甘ったるい匂いもいつの間にか消え、頭は嘘のようにスッキリしている。
夢であって欲しいと思いながらも、男の顔と目の前に広がる鉄格子に現実に引き戻される。

「っ、てめぇ!! 一体なんの真似だっ!!!」
「おやおや、随分と威勢がいいねえ。さっき言っただろう? 君は今日から私のものなんだよ」
「ふっざけんじゃねえっ!!!」
「ふざけているわけではないな。私は本気だ」

尚悪いっ!!
思いつく限りの暴言を捲し立てたが、男はどこ吹く風で、一向に気にした様子はなかった。

「まあ、時間はいくらでもある。ここから出すわけにはいかないが、要望があれば何でも言ってくれて構わない。出来る限りの便宜は図ろう。何かあれば、そこの電話を使ってくれ。内線しか使えないが、私の秘書が24時間対応してくれる」

男がそう言うと、部屋の扉が開き、秘書じゃなくてボディガードの間違いじゃないのか?っていうような逞しい肉体を誇る男が入ってきた。

「彼の他にあと二人ほどいるんだが、まあ、後々紹介するとしよう。それでは私は仕事があるので失礼するよ。初めてで疲れただろう? ゆっくり休んでくれたまえ」

男は嬉しそうにそう言うと、秘書を連れて出て行った。

一人檻の中に残された俺は、行き場のない感情をぶつけるが如く、勢いよく布団にめり込んだ。
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