35 / 78
第1章
第35話 揶揄って、本気になって
しおりを挟む
「ねえ、レイ」
「んー?」
「……近くないかな」
「何がぁ?」
早めの夕食後、サロンのソファでレイは本を読んでいた。エディがわざわざ離れたところに座っていたからその横に移動し、背中を預けてだらけきった格好で。
意識しているのが丸わかりなエディを見上げ、レイはにやりと笑う。
「返事はしなくていいしなかったことにするんだろ?」
「手を出したこと怒ってる?」
「いーやぁ、全然? 膝貸して、眠くなってきた」
「え、ちょっと」
「おっ勃てたらぶん殴るから」
在学中エディを枕にして爆睡することだってあった。流石に膝枕ではないけれど、似たようなものだろう。
エディの腿に頭を預け、エディ色の織毛布を被ったレイは顔を上げ、何かに耐えている表情を眺めてにんまりと笑う。
もっと限界まで揶揄い続けてやろう。人の感情を勘違いだと決めつけて言わせないよう線引きした罰だ。
「エディ、手」
「……はい」
「頭、撫でて」
熱く大きな手で撫でられるのが好き。甘やかな声で言ったそれを反芻させてしまうのか、耳まで赤くしながらレイの頭をぎこちなく撫でてくる手にすり、と頬を寄せた。
ここまですれば、レイが勘違いでなく好意を寄せているなんてわかりそうなものだ。いつまで耐えるのか見もの。
「……レイ」
熱の籠った目で見下ろされ、撫で方が怪しくなるとレイはふいと顔を逸らす。
恋人でしかしないようなことはしない。エディを枕にして昔のように撫でてもらいたいだけだから、顔が近付いても許さない。
レイは手にしていたままの本に視線を向け、エディを無視した。
「生殺しだ……」
「それを望んだのはお前だろ、親友」
レイが言葉にしない限り、この関係は変わらない。それを望んだのは、先に好きになったはずのエディの方。
本で顔を隠しながら、レイはエディをちらりと見上げる。
「……俺の返事、どっちだと思ってる?」
「……これでお断りだったら心が折れるから聞きたくない」
「うん、まあ英断。でもお前は俺のこと好きだしそれでもいいんだろ?」
腿を指でつうとなぞりながら、断ること前提の言葉を匂わせる。
今言われたって断るのは事実。焦らして焦らして、エディなんてもう親友でしかない相手に一生囚われて生きていけば良いんだ。
「触ったら、我慢できないんだって」
「天下の聖騎士サマが嫌がる相手に無体を働いたって知ったら世間はどう思うかな」
「……気持ち良さそうにしてたのに」
「なかったことなんじゃねえの」
「うう……」
翻弄する側になるとこんなに楽しいのか。レイはエディの珍しく狼狽える様を見上げ、身体を起こす。
すぐ隣に座り直し、耳許に顔を寄せた。
「エドガー、明日は休み?」
「っ、休み、だけど」
「んじゃ夜更かしできるな。トランプある? ポーカーしたい」
敢えて愛称ではなく本名で甘ったるく聞けば示すわかりやすい反応に笑ってしまう。
早く手を出せ。発言全部撤回しろ。でも何があってももう頷いてなんてやらないし好きだなんて絶対言わない。
恋人未満の甘ったるいやり取りでずぶずぶになってしまえばいい。レイが折れてやるのは、助けられた時以上にときめくかエディが必死になって謝ってきてからだ。
「それとも、お前は親友とベッドに行きてえの?」
「……悪魔だ」
「聖騎士サマを誑かせるなんてすっげえ悪魔がいたもんだな?」
早く堕ちてしまえばいい。
レイはエディ色の織毛布を羽織ったまま、忍耐を試すためにまた寄りかかり本を読み進める。
何度か読んだこともあるし、展開も知っている冒険譚。少しだけ表現が過激なところもある話で、学校の図書室の端にひっそりと置かれていた大人向けの本だ。
騎士達の戦いと恋愛を描いたものを読み進めているうち、ふとレイは思いつく。
「騎士も戦いに出るんなら戦場で同僚とそういうことすんの?」
「そういうことって?」
「戦いの熱が冷めないからお互いに慰め合うみたいな」
「知らないし、俺はしないからわからないな」
「ふうん。……つまり一昨日のなかったことにしたあれはただしたいからしたと」
存在していることを確かめたくて触れてキスして、延長線であんなことしてしまっただけ。欲求が湧いたからしただけか。
レイは理不尽な難癖だと内心笑いながら詰ってみる。
「っ、あのねえ」
「目先の欲に溺れてしたのになかったことにできるくらいには俺に魅力がないってことか、わかったわかった」
「そんなわけないだろ、レイは」
「俺は、なに?」
距離を詰めようとした胸を押し戻し、まっすぐに視線を合わせる。
じわじわと赤面していく顔から目を逸らさずにしていれば、エディは簡単に折れた。
視線を顔ごと逸らし、呟くように続ける。
「……魅力的だと、……思います、けど」
「ふうん。どこが?」
「え!? えっと、……えっと、……か、顔とか」
「……お前、趣味悪いのな」
まさかこの色男から顔が好きだと言われるなんて露ほども思わず面食らってしまう。
もっとこう、あるだろう。瞳だとか褒めるところはそれなりに。瞳だって整っているわけじゃないから褒められても困るけれど、こんな地味な顔のどこが良いんだか。
小さくなってしまったエディを眺めていると、腕が伸び抱き寄せられてしまった。腰をがっしりと抱き込まれ、膝の上に乗せられる。
「おい」
「この細い腰も、声も、俺には世界で誰よりも魅力的に見えるんだからこれ以上は煽らないで。じゃないとまた」
「しない。……エディ、自分が言ったこと忘れんな」
触れない、近付かないと言ったのはエディだ。もうしないから、なかったことにしようと。
散々揶揄いはしたけれど、その先はもうしない。レイは至近距離にエディが好きらしい顔を近付け真顔で問う。
「俺とお前は親友だろ、エディ?」
「んー?」
「……近くないかな」
「何がぁ?」
早めの夕食後、サロンのソファでレイは本を読んでいた。エディがわざわざ離れたところに座っていたからその横に移動し、背中を預けてだらけきった格好で。
意識しているのが丸わかりなエディを見上げ、レイはにやりと笑う。
「返事はしなくていいしなかったことにするんだろ?」
「手を出したこと怒ってる?」
「いーやぁ、全然? 膝貸して、眠くなってきた」
「え、ちょっと」
「おっ勃てたらぶん殴るから」
在学中エディを枕にして爆睡することだってあった。流石に膝枕ではないけれど、似たようなものだろう。
エディの腿に頭を預け、エディ色の織毛布を被ったレイは顔を上げ、何かに耐えている表情を眺めてにんまりと笑う。
もっと限界まで揶揄い続けてやろう。人の感情を勘違いだと決めつけて言わせないよう線引きした罰だ。
「エディ、手」
「……はい」
「頭、撫でて」
熱く大きな手で撫でられるのが好き。甘やかな声で言ったそれを反芻させてしまうのか、耳まで赤くしながらレイの頭をぎこちなく撫でてくる手にすり、と頬を寄せた。
ここまですれば、レイが勘違いでなく好意を寄せているなんてわかりそうなものだ。いつまで耐えるのか見もの。
「……レイ」
熱の籠った目で見下ろされ、撫で方が怪しくなるとレイはふいと顔を逸らす。
恋人でしかしないようなことはしない。エディを枕にして昔のように撫でてもらいたいだけだから、顔が近付いても許さない。
レイは手にしていたままの本に視線を向け、エディを無視した。
「生殺しだ……」
「それを望んだのはお前だろ、親友」
レイが言葉にしない限り、この関係は変わらない。それを望んだのは、先に好きになったはずのエディの方。
本で顔を隠しながら、レイはエディをちらりと見上げる。
「……俺の返事、どっちだと思ってる?」
「……これでお断りだったら心が折れるから聞きたくない」
「うん、まあ英断。でもお前は俺のこと好きだしそれでもいいんだろ?」
腿を指でつうとなぞりながら、断ること前提の言葉を匂わせる。
今言われたって断るのは事実。焦らして焦らして、エディなんてもう親友でしかない相手に一生囚われて生きていけば良いんだ。
「触ったら、我慢できないんだって」
「天下の聖騎士サマが嫌がる相手に無体を働いたって知ったら世間はどう思うかな」
「……気持ち良さそうにしてたのに」
「なかったことなんじゃねえの」
「うう……」
翻弄する側になるとこんなに楽しいのか。レイはエディの珍しく狼狽える様を見上げ、身体を起こす。
すぐ隣に座り直し、耳許に顔を寄せた。
「エドガー、明日は休み?」
「っ、休み、だけど」
「んじゃ夜更かしできるな。トランプある? ポーカーしたい」
敢えて愛称ではなく本名で甘ったるく聞けば示すわかりやすい反応に笑ってしまう。
早く手を出せ。発言全部撤回しろ。でも何があってももう頷いてなんてやらないし好きだなんて絶対言わない。
恋人未満の甘ったるいやり取りでずぶずぶになってしまえばいい。レイが折れてやるのは、助けられた時以上にときめくかエディが必死になって謝ってきてからだ。
「それとも、お前は親友とベッドに行きてえの?」
「……悪魔だ」
「聖騎士サマを誑かせるなんてすっげえ悪魔がいたもんだな?」
早く堕ちてしまえばいい。
レイはエディ色の織毛布を羽織ったまま、忍耐を試すためにまた寄りかかり本を読み進める。
何度か読んだこともあるし、展開も知っている冒険譚。少しだけ表現が過激なところもある話で、学校の図書室の端にひっそりと置かれていた大人向けの本だ。
騎士達の戦いと恋愛を描いたものを読み進めているうち、ふとレイは思いつく。
「騎士も戦いに出るんなら戦場で同僚とそういうことすんの?」
「そういうことって?」
「戦いの熱が冷めないからお互いに慰め合うみたいな」
「知らないし、俺はしないからわからないな」
「ふうん。……つまり一昨日のなかったことにしたあれはただしたいからしたと」
存在していることを確かめたくて触れてキスして、延長線であんなことしてしまっただけ。欲求が湧いたからしただけか。
レイは理不尽な難癖だと内心笑いながら詰ってみる。
「っ、あのねえ」
「目先の欲に溺れてしたのになかったことにできるくらいには俺に魅力がないってことか、わかったわかった」
「そんなわけないだろ、レイは」
「俺は、なに?」
距離を詰めようとした胸を押し戻し、まっすぐに視線を合わせる。
じわじわと赤面していく顔から目を逸らさずにしていれば、エディは簡単に折れた。
視線を顔ごと逸らし、呟くように続ける。
「……魅力的だと、……思います、けど」
「ふうん。どこが?」
「え!? えっと、……えっと、……か、顔とか」
「……お前、趣味悪いのな」
まさかこの色男から顔が好きだと言われるなんて露ほども思わず面食らってしまう。
もっとこう、あるだろう。瞳だとか褒めるところはそれなりに。瞳だって整っているわけじゃないから褒められても困るけれど、こんな地味な顔のどこが良いんだか。
小さくなってしまったエディを眺めていると、腕が伸び抱き寄せられてしまった。腰をがっしりと抱き込まれ、膝の上に乗せられる。
「おい」
「この細い腰も、声も、俺には世界で誰よりも魅力的に見えるんだからこれ以上は煽らないで。じゃないとまた」
「しない。……エディ、自分が言ったこと忘れんな」
触れない、近付かないと言ったのはエディだ。もうしないから、なかったことにしようと。
散々揶揄いはしたけれど、その先はもうしない。レイは至近距離にエディが好きらしい顔を近付け真顔で問う。
「俺とお前は親友だろ、エディ?」
30
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる