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第1章
第60話 幼い優しさ
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散々泣いて、叫んでも、エディに裏切られたなんて心のどこかではやはり思えずずっと信じていた。
好きな人だからじゃない。ずっと親友として一緒にいたあの男がそう簡単に意思を曲げるような男じゃないと知っていたし、真っ直ぐなところをずっと見てきていた。
何より、最初はレイが他の誰かと添い遂げようとしていても見守りたいと思っていたと抜かした男だ。レイが消えて、すぐに他になんて目移りするとも思えない。
散々好きにならせたんだ、目移りしてたらぶっ飛ばす。
泣き腫らした目が落ち着き、人前でも取り乱さなくなった。何度かやってきた王太子殿下にはエディを想い泣いているところを見られ憐れまれたが、もう大丈夫。
そもそも、憐れんできたが元はと言えば王太子殿下の所為だろう。レイとエディを引き離したのは、他ならぬ彼なんだから。
厳重に毒が入っていないことを確かめられた紅茶を飲んでいると、扉がノックされた。ここ最近は王太子殿下しか入室してくることはないが、彼は不躾に突然扉を開けてやって来る。だから他の王族だろうと扉に声をかけた。
「どうぞ」
「しつれいします」
扉を開けて入ってきたのはマクシム第二王子殿下だった。
一体こんな場所に何用だろうか。レイは慌てて椅子から飛び退くと跪き、マクシム王子が来るまで首を垂れる。
「おじゃまします。気にしないで座ってください」
「いえ、ですが」
「ぼくも座りたいです。抱っこがいい」
まだ齢7歳だったか、幼いのに確りしている彼はレイに向かって両手を上げた。小さな子にせがまれては、特に王族に頼まれてはしないわけにはいくまい。レイは椅子に座るとマクシム王子を膝の上に乗せてやる。
「こ、これでいいんですか」
「うん。……ヴァンダム、何故兄上に捕まってるんですか?」
「何故……うーん、俺がエディの邪魔にしかならなかったからですかね」
「でも、ヴァンダムはエドガー兄様の伴侶になるのだと聞きました」
「誰からか聞いてもいいですか?」
「エドガー兄様」
やはり、王族の前でも平気でそんなことを言っていたのか。レイは頭を抱えたくなる。
そんなことを言い続けていたら引き離されるのは当然だ。だってエディは、血筋のいい何処かの女性と結婚して子供だって作らなければならない。
「しませんよ。男同士は結婚できませんし」
「できたらしていた?」
「……子供ができないから、しないです」
「それも全部気にしなくてよかったら?」
マクシム王子はレイを質問責めにする。
一体何を聞きたいんだろうか。レイはその問いに、マクシム王子を抱き締めた。
「気にしなきゃ駄目だから、その質問には答えられません。……それに、あいつはもう」
他の誰かを、結婚して子供を産める誰かを見つけている。
漸く泣かなくなったのにまた涙が出てきそうだ。レイの呟きに、膝の上のマクシム王子はぽんぽんとあやすように背中を優しく撫でてくる。
「あのずーっとぴよぴようるさいひよこ頭がそう簡単に諦めるわけがないです。ずっと、ヴァンダムを探してます」
「……嘘だ、だって」
「兄上の話は気にしなくていいですよ。人を操るためには嘘も必要だってよく言ってるので」
「……でも」
「ぼくの話は信じられない?」
「そんな、滅相もない」
「じゃあ信じて。ここに連れてくることもできないしヴァンダムがここにいることもエドガー兄様には伝えられないけど、エドガー兄様が何をしてるかは時々兄上の目を盗んで伝えにきます」
この子は、何故レイに良くしてくれるのか。
エディが煩いからなんてこの間は言っていた。けれどそれだけ? そんなわけない。
王太子殿下の味方をした方が本当はいいはずだ。エディとレイを遠ざけて、とにかくエディを早く何処かと結婚させてしまえばどうにかなる。それが国のためになるのに、何故。
レイが戸惑っていると、マクシム王子はぺたぺたとレイの頬に小さい手を触れさせた。
「もしエドガー兄様が嫌になったら、僕の妃にしてあげます」
「へ?」
「兄上が言ってました。お手つきじゃないって。王族の妃はお手つきじゃなきゃいいんでしょ?」
「……一体誰から教わったんですか、そんな言葉」
「兄上とエドガー兄様が言ってるの聞きました」
「忘れてください、そんな教育に悪い言葉」
それに、とレイは小さく呟く。
「……俺は、もうエディのお手つきなので。お妃様にはなれません」
果てることはできなかったけど、挿入まではした。だから王族の言う妃を迎える条件はもう外れている。
マクシム王子がどんなに可愛らしい理由でレイをお妃様にしてくれると言っていても、それは無理な話だ。
「妃にはできなくても、レイって呼びたいです。いいですか?」
「それは勿論。光栄です」
「やった。僕のことはマックスって呼んで。エドガー兄様、絶対絶対迎えに来ますから。兄上のことは信じちゃ駄目ですからね」
それが、本当でも嘘でも。
「本当に、来てくれたらいいんですけどね」
「信じてないんですか? 来ますよ、ぜーったい」
この子の優しさが嬉しい。
好きな人だからじゃない。ずっと親友として一緒にいたあの男がそう簡単に意思を曲げるような男じゃないと知っていたし、真っ直ぐなところをずっと見てきていた。
何より、最初はレイが他の誰かと添い遂げようとしていても見守りたいと思っていたと抜かした男だ。レイが消えて、すぐに他になんて目移りするとも思えない。
散々好きにならせたんだ、目移りしてたらぶっ飛ばす。
泣き腫らした目が落ち着き、人前でも取り乱さなくなった。何度かやってきた王太子殿下にはエディを想い泣いているところを見られ憐れまれたが、もう大丈夫。
そもそも、憐れんできたが元はと言えば王太子殿下の所為だろう。レイとエディを引き離したのは、他ならぬ彼なんだから。
厳重に毒が入っていないことを確かめられた紅茶を飲んでいると、扉がノックされた。ここ最近は王太子殿下しか入室してくることはないが、彼は不躾に突然扉を開けてやって来る。だから他の王族だろうと扉に声をかけた。
「どうぞ」
「しつれいします」
扉を開けて入ってきたのはマクシム第二王子殿下だった。
一体こんな場所に何用だろうか。レイは慌てて椅子から飛び退くと跪き、マクシム王子が来るまで首を垂れる。
「おじゃまします。気にしないで座ってください」
「いえ、ですが」
「ぼくも座りたいです。抱っこがいい」
まだ齢7歳だったか、幼いのに確りしている彼はレイに向かって両手を上げた。小さな子にせがまれては、特に王族に頼まれてはしないわけにはいくまい。レイは椅子に座るとマクシム王子を膝の上に乗せてやる。
「こ、これでいいんですか」
「うん。……ヴァンダム、何故兄上に捕まってるんですか?」
「何故……うーん、俺がエディの邪魔にしかならなかったからですかね」
「でも、ヴァンダムはエドガー兄様の伴侶になるのだと聞きました」
「誰からか聞いてもいいですか?」
「エドガー兄様」
やはり、王族の前でも平気でそんなことを言っていたのか。レイは頭を抱えたくなる。
そんなことを言い続けていたら引き離されるのは当然だ。だってエディは、血筋のいい何処かの女性と結婚して子供だって作らなければならない。
「しませんよ。男同士は結婚できませんし」
「できたらしていた?」
「……子供ができないから、しないです」
「それも全部気にしなくてよかったら?」
マクシム王子はレイを質問責めにする。
一体何を聞きたいんだろうか。レイはその問いに、マクシム王子を抱き締めた。
「気にしなきゃ駄目だから、その質問には答えられません。……それに、あいつはもう」
他の誰かを、結婚して子供を産める誰かを見つけている。
漸く泣かなくなったのにまた涙が出てきそうだ。レイの呟きに、膝の上のマクシム王子はぽんぽんとあやすように背中を優しく撫でてくる。
「あのずーっとぴよぴようるさいひよこ頭がそう簡単に諦めるわけがないです。ずっと、ヴァンダムを探してます」
「……嘘だ、だって」
「兄上の話は気にしなくていいですよ。人を操るためには嘘も必要だってよく言ってるので」
「……でも」
「ぼくの話は信じられない?」
「そんな、滅相もない」
「じゃあ信じて。ここに連れてくることもできないしヴァンダムがここにいることもエドガー兄様には伝えられないけど、エドガー兄様が何をしてるかは時々兄上の目を盗んで伝えにきます」
この子は、何故レイに良くしてくれるのか。
エディが煩いからなんてこの間は言っていた。けれどそれだけ? そんなわけない。
王太子殿下の味方をした方が本当はいいはずだ。エディとレイを遠ざけて、とにかくエディを早く何処かと結婚させてしまえばどうにかなる。それが国のためになるのに、何故。
レイが戸惑っていると、マクシム王子はぺたぺたとレイの頬に小さい手を触れさせた。
「もしエドガー兄様が嫌になったら、僕の妃にしてあげます」
「へ?」
「兄上が言ってました。お手つきじゃないって。王族の妃はお手つきじゃなきゃいいんでしょ?」
「……一体誰から教わったんですか、そんな言葉」
「兄上とエドガー兄様が言ってるの聞きました」
「忘れてください、そんな教育に悪い言葉」
それに、とレイは小さく呟く。
「……俺は、もうエディのお手つきなので。お妃様にはなれません」
果てることはできなかったけど、挿入まではした。だから王族の言う妃を迎える条件はもう外れている。
マクシム王子がどんなに可愛らしい理由でレイをお妃様にしてくれると言っていても、それは無理な話だ。
「妃にはできなくても、レイって呼びたいです。いいですか?」
「それは勿論。光栄です」
「やった。僕のことはマックスって呼んで。エドガー兄様、絶対絶対迎えに来ますから。兄上のことは信じちゃ駄目ですからね」
それが、本当でも嘘でも。
「本当に、来てくれたらいいんですけどね」
「信じてないんですか? 来ますよ、ぜーったい」
この子の優しさが嬉しい。
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