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第1章
第59話 左耳の重み
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レイが姿を消して、エディが何もしないはずがなかった。
まずは図書館の同僚を全てあたった。けれど皆が言うのは『得体の知れない男達と出て行った』のみ。
荷物もそのままで、帰って来ることなく姿を消した。何かに巻き込まれたのは明らかだ。
けれど、幾ら上に掛け合っても誰も取り合わない。レイがいないことが普通だとでもいうように、エディの訴えは退けられ続けた。
ということは、王族が絡んでいる。他の誰でもない、自分の親類が。
レイからの手紙は丁寧に痕跡を全て消してポストに直接投函されていた。何の反応もなかったのに、レイの腕に嵌められていたはずの腕輪も共に入っており、決別だと手紙には書かれていた。
そんなわけがないだろう。震える文字で、レイがついこの間、一緒に読み直しながら一番好きだと言っていた詩まで書かれていて。
そんなことをできるのは、自分と魔力量に差のない者だけだ。
例えば、ドリスとか。
「俺は知らんぞ」
家に呼び出し、レイの手紙と腕輪を見せるもこの反応。
本当に何も知らないのか? そう思いながらも訝し気にじっと見続ける。
「得体の知れない男の特徴、大体お前と合致するんだけど」
「さあな。知らんものは知らん。いいんじゃないか、お前もとうとう結婚を考えられるようになれて」
まるでレイを邪魔者だとでも言うような言い草に、やはりこいつが何かをしたのではないかと見当がつく。
ただ、証拠のない今は何もできない。泳がせるしかなく、寧ろレイを諦めたふりをするしかない。
そんなこと、できるわけがない。自分はレイだけを愛しているのだ。生まれてからずっと他人に対する興味が薄く、初めて興味を抱けたのがレイ。
レイがいないのならこの国に、この世界にいる意味もない。
もしもこの手紙のように、本当にレイが自分以外の誰かを選んで出奔したのなら。
……相手を殺して、レイと共に心中でもしてしまおうか。
「……結婚はしないよ」
「何故? お前はあれのために聖騎士になると決めたんだろう。あれがいない今、聖騎士である必要もないし結婚を渋る理由もないはずだ」
「俺はレイ以外を愛せない」
「愛がなくとも結婚は誰とでもできる。父上がそうだ」
国王陛下と自分の結婚を一緒にされたくない。自分は愛する婚約者殿と数年後結婚することが決まっている癖に。
エディを利用したいだけなのは昔からわかっている。それにレイは巻き込まれ、傷つけられてこんな手紙を書かされた。
今すぐ、縊り殺してやりたい。
「レイを探す」
「好きにしろ。ただし一ヶ月経っても見つからなければお前の結婚相手はこちらで見繕わせてもらう」
「……絶対に見つけ出すから、その時のために命を守る魔法でも練習しておけよ」
「はっ、怖い怖い」
人情深そうな言動をとるからこそ、ずっと忘れていた。
こいつは昔から、国の為ならば自分すら駒にする。人の感情など二の次で、国を良くするためだと思えば本当にどんなことでも平気で行う。
レイはきっと、こいつが何処かに隠している。どうせ、期限はエディが結婚するまでだとか理由をつけて。
王城へと帰るドリスを家から追い出し、レイが暮らしていた客間の扉を開け中に入る。
アンジーには此処には入らないでくれと頼んだ。レイのいた痕跡を、これ以上消したくなかった。
自分の衣装部屋から持ち出した白い薔薇の花束はベッド横の花瓶に生けた。戻ってきた時驚いてほしくて。
何か手がかりでもないかと荷物を漁っていると、白い紙袋を見つけた。誰かへの、……エディへの誕生日プレゼントだ。
直接渡されなかったそれを開くのは気が引けたが、これが何かのメッセージを残していたとしたら。ドリスではなく、もしもレイが自分から姿を消したとしたらその手掛かりはこの箱の中にある。
いやに小さい、指輪を入れるにしても小さい箱だ。レイは何を自分に贈ろうとしてくれていたのだろう。
そっと箱を開く。中には、緑色の小さな輪がひとつだけ入っていた。
「……ピアス?」
レイの瞳の色のをした、小さな輪。自分がレイに贈った愛の誓いの腕輪と同じ意味を持つ、『自分の瞳の色をした石を嵌め込んだリング型の装身具』だ。
石を嵌め込むどころか、石そのもの。
紙袋の中には小さなメッセージカードが入っていた。いつしか自分が腕輪を送った時と同じく、メッセージカードに何かを書き残していたんだろう。
『意味は勝手に解釈していい。マラカイトで作った レイ』
さらりと書いた、淡白な文章。たったそれだけでもレイの勝気で意地っ張りな性格が垣間見え、エディはふっと笑ってしまう。
マラカイトはヘンドリックス家の領地の鉱山でとれる石だ。その意味もきちんと頭に入っている。
こんなメッセージカードを残しておいて、他の誰かに惚れたからなんて姿を消すなんて信じられるはずがないだろう。
絶対、何があっても見つけてやる。このピアスを装着した姿を見せつけて、レイが買った時はどんな意味を込めたのかいくら恥ずかしがっても聞き出してやらないと。
エディは左の耳朶に触れ、指先から幾重もの魔法を練り合わせた魔力を出して貫く。治癒をしながら血が出ないように調整し、開けた穴へとマラカイトのピアスを装着した。
針なんて必要ない。レイの耳に穴を開ける時は痛くないように調節してあげないと。レイの身体を傷つけるのも、自分の魔法でがいい。他の何かは頼らせたくない。
荷物の中に見つけた張型についても問い詰めたい。だから、早く見つけて連れて帰らなければ。
さあ、まずはレイの実家に向かおうか。いないとは思うし行方も知らないとは思うけれど、もしものことがある。
何よりレイの両親には、国には提出できないレイとの婚姻届の証人にもなってもらわないといけないから。
まずは図書館の同僚を全てあたった。けれど皆が言うのは『得体の知れない男達と出て行った』のみ。
荷物もそのままで、帰って来ることなく姿を消した。何かに巻き込まれたのは明らかだ。
けれど、幾ら上に掛け合っても誰も取り合わない。レイがいないことが普通だとでもいうように、エディの訴えは退けられ続けた。
ということは、王族が絡んでいる。他の誰でもない、自分の親類が。
レイからの手紙は丁寧に痕跡を全て消してポストに直接投函されていた。何の反応もなかったのに、レイの腕に嵌められていたはずの腕輪も共に入っており、決別だと手紙には書かれていた。
そんなわけがないだろう。震える文字で、レイがついこの間、一緒に読み直しながら一番好きだと言っていた詩まで書かれていて。
そんなことをできるのは、自分と魔力量に差のない者だけだ。
例えば、ドリスとか。
「俺は知らんぞ」
家に呼び出し、レイの手紙と腕輪を見せるもこの反応。
本当に何も知らないのか? そう思いながらも訝し気にじっと見続ける。
「得体の知れない男の特徴、大体お前と合致するんだけど」
「さあな。知らんものは知らん。いいんじゃないか、お前もとうとう結婚を考えられるようになれて」
まるでレイを邪魔者だとでも言うような言い草に、やはりこいつが何かをしたのではないかと見当がつく。
ただ、証拠のない今は何もできない。泳がせるしかなく、寧ろレイを諦めたふりをするしかない。
そんなこと、できるわけがない。自分はレイだけを愛しているのだ。生まれてからずっと他人に対する興味が薄く、初めて興味を抱けたのがレイ。
レイがいないのならこの国に、この世界にいる意味もない。
もしもこの手紙のように、本当にレイが自分以外の誰かを選んで出奔したのなら。
……相手を殺して、レイと共に心中でもしてしまおうか。
「……結婚はしないよ」
「何故? お前はあれのために聖騎士になると決めたんだろう。あれがいない今、聖騎士である必要もないし結婚を渋る理由もないはずだ」
「俺はレイ以外を愛せない」
「愛がなくとも結婚は誰とでもできる。父上がそうだ」
国王陛下と自分の結婚を一緒にされたくない。自分は愛する婚約者殿と数年後結婚することが決まっている癖に。
エディを利用したいだけなのは昔からわかっている。それにレイは巻き込まれ、傷つけられてこんな手紙を書かされた。
今すぐ、縊り殺してやりたい。
「レイを探す」
「好きにしろ。ただし一ヶ月経っても見つからなければお前の結婚相手はこちらで見繕わせてもらう」
「……絶対に見つけ出すから、その時のために命を守る魔法でも練習しておけよ」
「はっ、怖い怖い」
人情深そうな言動をとるからこそ、ずっと忘れていた。
こいつは昔から、国の為ならば自分すら駒にする。人の感情など二の次で、国を良くするためだと思えば本当にどんなことでも平気で行う。
レイはきっと、こいつが何処かに隠している。どうせ、期限はエディが結婚するまでだとか理由をつけて。
王城へと帰るドリスを家から追い出し、レイが暮らしていた客間の扉を開け中に入る。
アンジーには此処には入らないでくれと頼んだ。レイのいた痕跡を、これ以上消したくなかった。
自分の衣装部屋から持ち出した白い薔薇の花束はベッド横の花瓶に生けた。戻ってきた時驚いてほしくて。
何か手がかりでもないかと荷物を漁っていると、白い紙袋を見つけた。誰かへの、……エディへの誕生日プレゼントだ。
直接渡されなかったそれを開くのは気が引けたが、これが何かのメッセージを残していたとしたら。ドリスではなく、もしもレイが自分から姿を消したとしたらその手掛かりはこの箱の中にある。
いやに小さい、指輪を入れるにしても小さい箱だ。レイは何を自分に贈ろうとしてくれていたのだろう。
そっと箱を開く。中には、緑色の小さな輪がひとつだけ入っていた。
「……ピアス?」
レイの瞳の色のをした、小さな輪。自分がレイに贈った愛の誓いの腕輪と同じ意味を持つ、『自分の瞳の色をした石を嵌め込んだリング型の装身具』だ。
石を嵌め込むどころか、石そのもの。
紙袋の中には小さなメッセージカードが入っていた。いつしか自分が腕輪を送った時と同じく、メッセージカードに何かを書き残していたんだろう。
『意味は勝手に解釈していい。マラカイトで作った レイ』
さらりと書いた、淡白な文章。たったそれだけでもレイの勝気で意地っ張りな性格が垣間見え、エディはふっと笑ってしまう。
マラカイトはヘンドリックス家の領地の鉱山でとれる石だ。その意味もきちんと頭に入っている。
こんなメッセージカードを残しておいて、他の誰かに惚れたからなんて姿を消すなんて信じられるはずがないだろう。
絶対、何があっても見つけてやる。このピアスを装着した姿を見せつけて、レイが買った時はどんな意味を込めたのかいくら恥ずかしがっても聞き出してやらないと。
エディは左の耳朶に触れ、指先から幾重もの魔法を練り合わせた魔力を出して貫く。治癒をしながら血が出ないように調整し、開けた穴へとマラカイトのピアスを装着した。
針なんて必要ない。レイの耳に穴を開ける時は痛くないように調節してあげないと。レイの身体を傷つけるのも、自分の魔法でがいい。他の何かは頼らせたくない。
荷物の中に見つけた張型についても問い詰めたい。だから、早く見つけて連れて帰らなければ。
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