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第1章
第62話 光を求めて
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ひと月なんて、あっという間だった。
エディは憔悴を隠しもせず、日々聖騎士としての任務を続けながらもレイを探し続けていた。
レイが出国した記録は何処にもない。王太子であるドリスが官吏のレイを本当に国外へと出すわけがないからそうだとは思っていたが、やはり国内で捕われているのだと確信を持てた。
だが、何処にもいない。王宮の中も、牢の中までも探したけれど姿は何処にもなかった。
ただ一人の愛する人に会いたいという願いすら伝わらないのか。エディは何度も腕輪を外し、レイが目の前に現れないか試し続けた。青い宝石の腕輪は自分の胸元にしまわれているのに。
「ヘンドリックス様、こちらがヴァンダムさんが最後に読んでいたものです」
レイの同僚であるクレス女史から本を受け取るも、それは何の変哲もない小説だった。メモすら残されておらず、手掛かりはひとつもない。
これが、最後の手段だった。魔力のひとつでも残されていればと思っていたのに、その望みも潰えた。
あとは、王族しか立ち入れない水晶宮くらいしかない。けれどあそこにエディは入ることを許されていない。
エディが深く溜息を吐いていると、その場に留まり続けていたクレス女史が声を上げる。
「いつまで探すおつもりですか」
「見つけて、連れ戻すまで」
「左様ですか。ですがもうそれに割いている余裕などないのでは?」
確かに、彼女の言う通りだ。ドリスとの約束だった一ヶ月はとうに過ぎ、そろそろ暦は春になる。エディはドリスの望み通り、婚約の相手を探さなければならない。
エディが言葉に詰まると、クレス女史が眼鏡のつるを押し上げる。
「ヴァンダムさんがいなくなって以来、仕事量が増えてこちらもいい迷惑です。なので、私も協力することにします」
「は、ぁ?」
「殿下の望みは貴方がその魔力を国のために使うこと。そして国に留めるため国内の王侯貴族と結婚させることでしょう」
「……そうですが」
「私、恋人とは結婚できませんので。贄にでもお使いください」
それは、公的にレイ以外の者を選べということだ。
ただ都合の良い話ではないだろう。結婚できない恋人がいる話など信用できない、これまで自分に絡んできた女というのは都合の良いことばかりを言ってきた。
何が望みだ、エディは取り繕う余裕もなくクレス女史を睨め上げる。
彼女はエディの睨みなど一切効いていない素振りで真っ直ぐにエディのことを見下ろしていた。
「貴方のような重い男と本当に結婚するなど首を括る程に嫌なので、絶対に婚約及び結婚はしないという魔法契約の書を作りましょう。あくまでもヴァンダムさんを見つけ出すことが我々の目的です」
「信じられない」
「では私の恋人も交えて話をしましょう。あくまでも表面だけ婚約者のように繕うのです」
「それでレイが見つかるとでも?」
「国外に追いやることもできない人間を秘匿しながら飼い殺し続けるなんてことは不可能。であれば、貴方が身を固めるという話を流せば相手は多少でも油断するでしょう」
ドリスはそこまで抜けた男じゃない。きっと信じさせるには時間もかかる、自分はそんなに待てない。
何より、ただのレイの同僚であるこの女を信じることはできない。
エディが一切警戒を崩さずにいれば、クレス女史はふうと小さく溜め息を吐く。
「本当に、ヴァンダムさんに対してと態度が違い過ぎる男ですね。こんな人の何処がいいのかしら、ヴァンダムさんは」
「初対面も等しい女に偽装婚約をしろなんて言われて、警戒しない者はいないと思いますが」
「まあ、それは確かに。ただ私、男に興味はないのです。特に貴方のような尋常ではない執着心を持つ重苦しい男には」
クレス女史は、そこで初めて笑った。
「私の最愛はシンシア殿下ただ一人。貴方のような男なんて御免ですが、私個人の業務を滞らせないためにもヴァンダムさんには必ず戻っていただかないと困るのです。協力なさい、侯爵家の末弟」
シンディ第二王女の本当の名を呼んだ彼女の本名はクレメンティナ=クレスウェル。
この国唯一の若き女公爵であることは、高位貴族にしか知られていない事実だ。
エディは改めて記憶の片隅に残されていたその事実を思い出しながら、彼女を見据える。
「シンディに真実を問いただしてから再度話をしたい」
「それでも構いませんよ、蝶の羽が傷ついていても貴方が待てればの話ですが」
一刻も早くレイを見つけ出したい。エディの思いはただひとつ。
協力、するしかない。互いの利害のためにも。
エディは差し出された右手を掴む。
「裏切れば、その時はお覚悟を」
「そちらこそ、私が何故名を隠しながらも女史と呼ばれるに至ったかお忘れになって?」
瞬間記憶能力を駆使して魔法の書を読み漁り知識を積み重ねた結果、幾つもの国防魔法を編み出した才女。
信頼や信用は二の次にしてもその偉業を成し遂げた彼女の知識量は確かなものだ。
一時、協力関係をとるのは悪手ではないはず。今エディに与えられた、唯一と言ってもいい希望の光だ。
エディは憔悴を隠しもせず、日々聖騎士としての任務を続けながらもレイを探し続けていた。
レイが出国した記録は何処にもない。王太子であるドリスが官吏のレイを本当に国外へと出すわけがないからそうだとは思っていたが、やはり国内で捕われているのだと確信を持てた。
だが、何処にもいない。王宮の中も、牢の中までも探したけれど姿は何処にもなかった。
ただ一人の愛する人に会いたいという願いすら伝わらないのか。エディは何度も腕輪を外し、レイが目の前に現れないか試し続けた。青い宝石の腕輪は自分の胸元にしまわれているのに。
「ヘンドリックス様、こちらがヴァンダムさんが最後に読んでいたものです」
レイの同僚であるクレス女史から本を受け取るも、それは何の変哲もない小説だった。メモすら残されておらず、手掛かりはひとつもない。
これが、最後の手段だった。魔力のひとつでも残されていればと思っていたのに、その望みも潰えた。
あとは、王族しか立ち入れない水晶宮くらいしかない。けれどあそこにエディは入ることを許されていない。
エディが深く溜息を吐いていると、その場に留まり続けていたクレス女史が声を上げる。
「いつまで探すおつもりですか」
「見つけて、連れ戻すまで」
「左様ですか。ですがもうそれに割いている余裕などないのでは?」
確かに、彼女の言う通りだ。ドリスとの約束だった一ヶ月はとうに過ぎ、そろそろ暦は春になる。エディはドリスの望み通り、婚約の相手を探さなければならない。
エディが言葉に詰まると、クレス女史が眼鏡のつるを押し上げる。
「ヴァンダムさんがいなくなって以来、仕事量が増えてこちらもいい迷惑です。なので、私も協力することにします」
「は、ぁ?」
「殿下の望みは貴方がその魔力を国のために使うこと。そして国に留めるため国内の王侯貴族と結婚させることでしょう」
「……そうですが」
「私、恋人とは結婚できませんので。贄にでもお使いください」
それは、公的にレイ以外の者を選べということだ。
ただ都合の良い話ではないだろう。結婚できない恋人がいる話など信用できない、これまで自分に絡んできた女というのは都合の良いことばかりを言ってきた。
何が望みだ、エディは取り繕う余裕もなくクレス女史を睨め上げる。
彼女はエディの睨みなど一切効いていない素振りで真っ直ぐにエディのことを見下ろしていた。
「貴方のような重い男と本当に結婚するなど首を括る程に嫌なので、絶対に婚約及び結婚はしないという魔法契約の書を作りましょう。あくまでもヴァンダムさんを見つけ出すことが我々の目的です」
「信じられない」
「では私の恋人も交えて話をしましょう。あくまでも表面だけ婚約者のように繕うのです」
「それでレイが見つかるとでも?」
「国外に追いやることもできない人間を秘匿しながら飼い殺し続けるなんてことは不可能。であれば、貴方が身を固めるという話を流せば相手は多少でも油断するでしょう」
ドリスはそこまで抜けた男じゃない。きっと信じさせるには時間もかかる、自分はそんなに待てない。
何より、ただのレイの同僚であるこの女を信じることはできない。
エディが一切警戒を崩さずにいれば、クレス女史はふうと小さく溜め息を吐く。
「本当に、ヴァンダムさんに対してと態度が違い過ぎる男ですね。こんな人の何処がいいのかしら、ヴァンダムさんは」
「初対面も等しい女に偽装婚約をしろなんて言われて、警戒しない者はいないと思いますが」
「まあ、それは確かに。ただ私、男に興味はないのです。特に貴方のような尋常ではない執着心を持つ重苦しい男には」
クレス女史は、そこで初めて笑った。
「私の最愛はシンシア殿下ただ一人。貴方のような男なんて御免ですが、私個人の業務を滞らせないためにもヴァンダムさんには必ず戻っていただかないと困るのです。協力なさい、侯爵家の末弟」
シンディ第二王女の本当の名を呼んだ彼女の本名はクレメンティナ=クレスウェル。
この国唯一の若き女公爵であることは、高位貴族にしか知られていない事実だ。
エディは改めて記憶の片隅に残されていたその事実を思い出しながら、彼女を見据える。
「シンディに真実を問いただしてから再度話をしたい」
「それでも構いませんよ、蝶の羽が傷ついていても貴方が待てればの話ですが」
一刻も早くレイを見つけ出したい。エディの思いはただひとつ。
協力、するしかない。互いの利害のためにも。
エディは差し出された右手を掴む。
「裏切れば、その時はお覚悟を」
「そちらこそ、私が何故名を隠しながらも女史と呼ばれるに至ったかお忘れになって?」
瞬間記憶能力を駆使して魔法の書を読み漁り知識を積み重ねた結果、幾つもの国防魔法を編み出した才女。
信頼や信用は二の次にしてもその偉業を成し遂げた彼女の知識量は確かなものだ。
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