【第2章開始】俺とお前は親友のはずだろ!? ~姉の代わりに見合いした子爵令息、親友の聖騎士に溺愛される~

田鹿結月

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第1章

番外編4 口癖を直したい(R)

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 レイは悩んでいた。
 図書館に通っている女性達の話で、聞き捨てならない言葉を聞いたからだ。

「馬鹿って言われるとそれだけで嫌になっちゃう」
「わかります」

 レイは近頃毎日のようにエディに馬鹿馬鹿言い続けている。いや、毎日のように盛って襲いかかってくるあいつが悪いのだが、もしそれが本当は嫌だったらどうしよう。
 興奮するとか前に言われた気もするけれど、それが方便だったら。
 レイはまた勝手に1人で考え込み、深みにはまっていく。どうしよう、もし嫌われたら。家から追い出されたら生きていけない。寮に戻るのは絶対に嫌。
 その悩みは、家に帰るまで続いていた。

「レイ……」
「や、ば……か、じゃない……」

 家に着いてからの日課のキスをした後、尻を揉まれながら襲われレイはエディのことを手で止めながらいつものように罵倒しそうになり、慌てて言葉を濁す。
 エディはいつも通り馬鹿だと言われると思っていたため、益々ぐいと顔を近付けレイが背中を反るのを手で支えながら甘く問いかける。

「馬鹿じゃないならしていいの?」
「や、だめ、だめ……まだ……」
「残念。じゃあお風呂入ってご飯食べてからにしようか」
「ん……」

 馬鹿、は簡単に言える。つい口癖になってしまっているから、言わないようにするとなるとどうすればいいのかわからなくなる。
 レイは、思い悩むのを隠さないままエディと一度別れ、自室になった客間へと入ると制服のケープを脱いだ。

「……どうすりゃいいんだ……?」

 口癖の矯正なんてどうしたらいいのかわからない。とにかく、馬鹿と言わないように気をつけるしかない。
 けれど、我慢を忘れたエディは最近何処でも襲いかかってくる。時々一緒に入る風呂でも、並んで食べるようになった食事の席でも、本を読んでまったりとしたいサロンでも、何ならお昼アンジーがいる時間帯に茶を飲んでいる温室の席でも。嗜める時、思わず馬鹿と言ってしまうのだ。
 嫌われたくない。けれど、他にどう言えばいいのかわからない。
 レイは困り果ててしまいながら、風呂に入るため着替えを持って浴室に向かった。

「レイ、お湯沸いたよ。上がったら教えてね」

 今日に限ってエディは一緒に入らないらしい。レイはこくりと頷くと1人で浴室に入り、制服を全て脱いでいく。
 本人に聞いてもきっと興奮するだの何だの言うだろう。レイが何をしたって嫌だと言ったことがないから。
 本心がわからないから、考え過ぎてしまう。
 身体も髪も適当に洗い、湯船に浸かりながらも思い出すのは図書館で雑談していた彼女らの話。

「下に見られてると思うから別れた方がいいですよ!」
「そうそう、下に見て支配したいだけなんですから」

 そんなこと、一度も考えたことはない。けれど、もしエディが本当は嫌だったら。そう思っていたら嫌だ。

 * * *

「何か悩みでもある?」

 食事を終え、2人でサロンに行ってもレイは言葉を選んで無口になってしまっていた。
 そんなレイをエディは当然のように心配し、膝に乗せてまで顔色を窺ってくる。
 別に悩みはない。けれど、どう言えばいいのか。
 レイは首を小さく振った後、エディをちらりと見上げ呟く。

「……俺のこと嫌になったら、すぐに言ってほしい」
「何それ、また誰かに何か」
「言われてない。……ないけど、……口悪いの、皆嫌だって」

 あの女性達は皆が嫌だと言っていた。主語が大きいなと思いながら聞こえてしまっているそれを考えていたのだが、よくよく考えれば口が悪い人間とそうでない人間、皆どちらを選ぶのかなんてわかりきっている。
 自分は口が悪いから同級生達にもあまり好かれなかったのだ。もしかしたら、エディだって。

「だから馬鹿って言わないんだ。いつもならこうして膝に乗せただけで止まらないのに」
「……ん」
「レイが馬鹿馬鹿言うの、割と好きだけどな。必死になって、それ以外言えなくなっちゃうみたいで」
「何、意味わかんねえこと」
「直そうとしなくていいよ。俺はレイになら何を言われたって嬉しいから」
「ば……」
「言ってってば。ほら」

 エディはちゅ、とくちづけるとソファの上に押し倒して服の中を弄ってくる。中も洗って風呂で解してきてはいるが、こうも突然だと心の準備はできていない。レイはエディの身体を押し戻し、まだ早いからと拒んだ。

「やだって、やだ」
「やだの方が傷ついちゃうかも」
「う……ま、まだ、だめ」

 馬鹿は駄目。嫌はエディが傷つく。
 でも駄目は、違う気がする。そう思いながらも駄目だと言えば、エディはつうと指先で喉元を撫でてきた。

「じゃあ、大丈夫になったらいいよって言ってくれる? それまでは触るだけで我慢するから」
「もう、お前ほんと馬鹿……」
「うん。馬鹿だよ。もっと言って」

 馬鹿と言っても、エディは微笑んで受け入れる。それさえも心地良いとばかりに、もっと言ってほしいと強請ってくる。
 レイがどれだけ何を言っても、きっとエディはずっとこのままだ。

「……馬鹿って言っても、怒んない?」
「怒るわけない。言ったろ、昔からそう言われるのが好きなんだって」
「変態だろ、お前」
「そうかも。俺のこと撫でて、揶揄いながら馬鹿って言うレイが1番可愛くて好きなんだ。学生の頃から何回キスしたいって思ったか」

 ちゅ、ちゅと唇に触れるだけのキスを何度もするエディは、本当に馬鹿だと言われることを嫌がっているようには見えない。
 ただの、自分の杞憂。それでもやはり自覚してしまえば気分の良いものではない。幾らエディが言われるのが好きだと言ったからって、自分の方が気にしてしまう。

「……エディ」
「ん?」
「言わないように、したいんだけど」
「気にしないのに」
「俺が気になる。んで、……言ったら、口、塞いでほしいんだけど」

 言う度にキスしていれば、次第に言わなくなるかもしれない。レイがそう呟くと、エディはすぐに唇を啄んでくる。

「レイはキスするの大好きなんだから、これでやめるのは無理じゃない?」
「んっ、ばか、んんっ、ぅ」
「俺とキスすると、表情もとろとろになって可愛いもんね」
「っは、ぁ……あ」

 気持ちいいのが好きだから、キスも好き。けれど塞いでほしいのは馬鹿と言いたくないから。
 レイがエディの首に腕を絡めてキスをねだると、エディは唇が触れ合う距離で囁いた。

「塞ぐためにキスするなら、レイはキスしたくなった時に馬鹿って言ってね? それ以外ではしないから」
「なんで」
「だって、馬鹿がキスの合図ってことなんだろ? ほら、言って?」
「っ、ぁ、やだ、ばか……っんん」

 エディはレイの尻を揉み、寝巻きと下着の上からカリカリと指先で秘めたそこを掻き刺激する。思わず馬鹿と言ってしまったレイはキスをされ、吐息すら奪われながら刺激を与えられだらしなく足を開いてしまった。
 そこにエディは腰を捻じ込み、服の下で熱り立つ昂りを押し付けぐりぐりと腰を擦り付けてくる。

「レイ、だめならこのまま擦るだけがいい……?」
「や、ぁ、やだ、ちゃんとしたい……」
「お風呂長かったから、解してきてくれたってことで合ってる?」
「……も、聞くなばか……ぁ、ん、ん……っふ、ぁ」
「レイ、このままじゃ一生その口癖やめられないね。ね、キスしたいから馬鹿って言って?」
「……言わなくたって、してもいいだろ」
「馬鹿って言えないしキスできないのも嫌だからって素直になっちゃうの可愛い」
「ば……っ、うぅ、もう俺どうしたらいいんだよ……」
「今まで通りでいいよ。レイ、香油ないけど挿れちゃうね?」
「や、ばか、ばかばかばか待て、っふ、ぁ、んんっ、んーっ!」

 下衣を勢いよく引き摺り下ろされ情緒もなく開脚させられたレイは、先走りの欲を垂れ流しそれで滑りを出したエディの昂りを押し付け擦られ思わず叫ぶ。何度も馬鹿と連呼してしまったレイは、風呂で存分に解してしまうのがルーティンと化してしまった所為で緩んだ襞の内側へとエディを受け入れてしまいながら激しくキスをされてしまった。
 息ができない。無理に挿入り込んでくるそれも気持ち良い。少し痛くても、それはすぐに快感へ変わる。
 叫んで何とかキスを止めようとしたのも快楽で流され、両手を指を絡めて繋がれれば受け入れゆるゆるとピストンを始めるエディの腰に足を絡めてしまう。

「ん……、っふ、ぁ」
「奥までは俺がトントンして解してあげるからね」
「も、ばか……うぅ、言いたくないのに」
「たくさんキスしたいみたいで可愛いよ。可愛いねレイ、可愛い。一生その口癖直さないで? 甘える時に馬鹿って言われるのも可愛くて大好きなんだ」
「……ばぁか」
「ふは、ほんと可愛い」

 吹き出すように笑いながらまたキスをしてくるエディの顔が良くてときめいてしまう。
 口癖、本当にやめられないかもしれない。
 こいつに限っては多分本当に気にしていないし、下手したら言わなくなる方が落ち込むんじゃないか。

「ね、もっかい言って」
「……奥まで突いてくんないと嫌」
「レイのえっち。ゆっくり優しいだけのがいい? それとも、何も考えられなくなるくらい激しくするのがいい?」
「……いちいち聞くなよばぁか」

 レイがどちらを好きなのか、わかりきってる癖に。
 唇を塞がれながら繋いだ手を解かれがっつりと身体を抱えられ、奥を突いてくるのが堪らない。

「ん゛……っ、ぁ゛」
「きっつ……やっぱり、奥は俺が解してあげないときつきつなままだね……?」
「ばか、や、んんっ、ぅ」
「これから外で馬鹿って言われたら、こうしてキスして激しく抱いたこと思い出しちゃうかも」
「もう、お前俺に言わせようとしてるだろ、っあ、ぁ……んっ」

 いつもより口数が多く、レイが思わず嗜めたくなるようなことばかり言ってくる。
 だからと詰れば、エディはにこりと笑い唇を舐めてきた。

「当たり前だろ? レイとはずっとキスしていたいんだから」
「ばかぁ……っあ、ぁ、ん、んっ、ふぁ」

 もう、これだと一生矯正なんてできない。

 レイが馬鹿と口に出せなくなったのは、散々突かれ啼かされ続け、声も出せなくなってからだった。
 エディの、馬鹿。
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