15 / 18
第一章 家を買ってワイワイ編
115 仕事を滅せよ、休日後編。
しおりを挟む「ちょっとスティフ、何も言ってないんじゃないの?」
俺は苦笑しつつ頬をかく、
「いま言うところなんだ」
エヴリルたちはきょとんとした表情をしている。ハトが豆鉄砲をくらったような面だ。その表情がおっかしい。俺は説明を投げつけた。これでもくらえ。
「エヴリル、シノ、ボロック。今日からお前たちは、休日に音楽を習うんだぞ?」
「「ええ!?」」
「ぐるぅ?」
魔獣たちが驚きの声を上げる。そりゃあそうだろうな。こいつらの人生に音楽なんて無縁だったろうに。いや、エヴリルとボロックの過去は知らんけど。だけど音楽に触れたことがあるような話は今のところ聞いていない。
まあアレだよな。いわゆる共通の趣味作り。そして思い出作り。みんなで何かしようって訳。さらに言えば休日を家で鬱々としているよりも、だ。外に出て好き放題に楽器を奏でて歌を歌え。ストレス解消にはもってこいである。性格に合わなければ中止するけどさ。
仕事を忘却の彼方に葬り去ろうという計画である。
休日だけな。
クレナチアの花びらが漂う空気の中。エヴリルがギター、シノがアコーディオン、ボロックがクフォン(箱の打楽器)をもらった。ピクニックシートを敷いて三人と一頭で座らせてもらう。
女の子二人は興味津々に楽器をペタペタと触っていた。だけどボロックは困った顔をして箱を眺めている。まあ当然の反応だ。立方体をもらって喜ぶ狼がどこの世界にいるかって話。
ヘミリーは素敵な曲を作ってきてくれたようで、ルタークと演奏してくれた。
曲名、クレナチア。
Jポップにもあるような柔らかなメロディーが流れる。聞きやすかった。美しい上に力強い。本当、作曲代を払わなきゃいけないよな。二人は遠慮して受け取らないんだろうけどさ。
ただ楽器代は本当に後で払う。それは以前から約束していた。
エヴリルとシノ、ボロックは聞き入っていた。演奏を聴きつつ、ぽーっとした表情で頬を染める。顎をかすかに動かしてリズムを取っていた。
曲が終わるとみんなが拍手をした。赤黒のロリータ服が「すごいすごいっ、すごいわっ」と褒め称えている。ルタークとヘミリーは照れたようにはにかんで笑って、水筒の紅茶をゴクゴクと飲んだ。
エヴリルがもらったギターを膝の上に乗せる。尊敬の眼差しを送った。
「あたしにも弾けるかしら?」
「すぐには無理だよ。だけど、練習次第だね」
切り株に座っているルタークが照れたように笑って足を組み合わせる。
ヘミリーがアコーディオンを置いてステータス画面を開いた。中から歌詞の書かれた紙を取り出す。俺たちに配った。営業スマイルとはまた別のふんわりとした笑顔を浮かべている。
「今日は声で歌いましょうね」とヘミリー。
「歌えるかな!?」とエヴリル。
「私も歌えるでしょうか?」とシノ。
「ぐるう、我は声に自信が無いぞ」とボロック。
「下手でも良いんだよ、ボロック」と俺。
それぞれ歌詞をもらってそれを読む。少年少女の淡い恋を描いた詩だった。
ルタークが声で拍子をとる。
「それじゃゆっくり行くから歌ってね。1,2、3、4!」
「クレアチアの咲く頃に~♪」
……おい、俺だけが歌っているんだが。中々歌えない二人と一頭。だけど繰り返すうちに音程を掴めてきたようで、やがて声を出すようになった。シノはちょっと恥ずかしそうな小声である。まあ子供だし、というか0才だし。胸サイズだけは大人なんだよな。
エヴリルの声は甲高くて主張が強い。特徴的な響きであり面白い色合いである。
代わってシノの声は繊細で色が薄い。だけど音感が良く、メロディーをすぐに理解したようだ。ルタークは彼女の声をハモりに向いていると言った。
ボロックの声は、まあ狼である。犬が無理やり喋った感があった。笑えるけど笑っちゃいけない。たまに言葉じゃなくてガウガウと吠えている。
二時間もすると休憩をしてみんなで昼食を摂った。もちろんルタークとヘミリーの分も俺が作ってきている。まあ適当に食ってくれや。
「また料理の腕を上げたね、スティフ」とルターク。
まあな。っていうか簡単な料理しか作ってきてないけどな。サンドイッチなんぞ誰が作っても同じだろうに。特性の卵ソースだけどさ。
今日は声で歌うことと、ドレミファソラシドを覚えたところで解散となる。最後、俺は楽器代を支払った。ヘミリーは人の良い笑みを浮かべて、銀貨五枚でいいよと言ってくれた。馬鹿お前、年上に恥じをかかせるな。金貨三枚を握らせてやった。
楽器をステータスにしまい、みんなで帰宅する。
「るー、るー」
「ららー」
歩行中、エヴリルとシノが歌の音色を口ずさんでいる。俺はこっそりと安心した。どうやら楽しめたようだ。休日ぐらい、仕事のことを忘れて欲しいよな。というか仕事は死んどけって。もう一生出てくんな。そして遊んで暮らしたい。
職なんていうのは人間の一部に過ぎない。人生を楽しむという意味では、今日から習う音楽の方に重きが強いのかもしれなかった。そりゃあそうだ。仕事なんてくそ食らえ。働いたら負けだ。いや、働いているけどさ。
ボロックも背筋をピンと伸ばして闊歩している。ご機嫌そうな表情。ルンルンとした足取り。今日は連れ出してやって本当に良かった。
途中、食材屋に寄って夕飯の材料を買った。卵にタマネギに鶏肉と春菊。親子丼でも作るべ。他にもコーンスープと付け合わせにシーザーサラダの材料。
明日からはまた大変なお仕事様である。頑張ってもらわないとな、お前たちにはさ。
楽しい休日が待っているから頑張れる。知らんけどたぶんそうだ。まあ読者は仕事風景や事件を読みたいんだろうけどさ。ん? 読者って何だ?
0
あなたにおすすめの小説
気がつけば異世界
蝋梅
恋愛
芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。
それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。
その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。
これは現実なのだろうか?
私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~
星上みかん(嬉野K)
ファンタジー
この作品は、
【カクヨム(完結済み)】
【ノベルアップ+】
【アルファポリス】
に投稿しております。
最強を目指す少年エトワールが町に行き着くと、メル・キュールという女性と出会う。
メルが道場主らしいという情報を仕入れたエトワールは、弟子入りを決意する。
それにしても、この師匠強すぎない?
タフなことだけが取り柄の少年が最強を目指すお話。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる