16 / 18
第一章 家を買ってワイワイ編
116 鉱床
しおりを挟むダンジョンの金策はコツコツといかない。
モンスターから魔石が採れる日と採れない日があるからだ。魔石つきの敵に出くわすのは低確率であり、出たら出たで往々にして他の魔物より強い。ガチャみたいなものである。モンスター魔石ガチャだよ、俺たちの仕事ってさ。
モンスターの肉を集めて、食材屋や食堂なんかに出荷するという手もある。ただ店と契約を結べば、同じモンスターの肉を同量、毎日配達してください、ってことになりかねず。それは悪い方法では無いのだけれど却下である。
ダンジョンと言えば、強くなってどんどん下る。それが醍醐味なのだ。もっと下の階には何が待っているんだろうな? ワクワクするじゃん。と言う訳で今のところモンスターの肉を集めて売るようなことはしない。
ダンジョン地下14階。
洞窟の四方八方は相変わらず湿気の多いヌメヌメとした地肌。滑りやすい地面である。明るく照らす淡光石の光。
出現している敵はキラービーだった。人間と同等サイズの蜂モンスターである。黄色と黒のしましまの尻尾。飛ぶために羽を動かしており、バチバチと羽音を響かせている。お尻には黒くて鋭利な毒針。刺されたらあの世行きが必至だ。
魔獣のみんなが戦って倒してくれている。というかお前たちはどうしてそんなに勇敢なんだ? ビーストには恐怖耐性があるのだろうか。知らんけど。
洞窟の行く手を巨大な蜂の巣が通せんぼしていた。天井からぶら下がっている薄黄色の禍々しい球体。中にはやっぱり蜂の子がいるんだろうし、女王蜂がいるんだろうし。それはマジで見たくない。きしょく悪いよな、やっぱり。
ピンクの髪色の少女が一体のキラービーをぶった斬ってから振り返った。勝ち気に揺れる瞳。ウキウキと口の端をつりあげている。好戦的な声を響かせた。
「スティフ、蜂の巣があるわ! おっきいの! すごいわっ」
「本当だな。ちっ、どうするかな」
「あたしが吹き飛ばしてやるわっ、くらえっ!」
「おい待て、エヴリル! ちょっ」
焦って右手を伸ばすのだが彼女の肩には届かず。
黒い翼に尻尾の少女がサディスティックな声色で唱えた。剣を素早く振る。刀身に火がついた。ちょっ、待てお前っ。
「――鳳凰剣舞」
「今宵は花見酒、王子様、愚女と踊っていただけますか?」
三つの火の刃が巨大な蜂の巣を強襲する。ザクザクに切り裂いた。砕けた薄黄色の物体がどさっと地面に落ちる。やっちまった。とはいえ、そうするしか無いのであったが。
中にいた女王蜂が姿をのそのそと現す。普通のキラービーよりも一回り体格がでかくてキモい。青と黒のしましまの尻尾。細い木枝のような足で地面に立ちあがり、歩行した。こいつ怖えぇぇ。
マジ怖いとはこのことだ。ごめん、貴方の家、吹っ飛ばしちゃいました。やったのはエヴリルです。怒ってるよねやっぱり。立っているっていうのに羽をバチバチとはためかせているのは威嚇以外の何物でもなくて。
翡翠色の双眸の魔法少女が杖を高く持った。その顔にはコワイと文字が書いてある。臆して震える唇をそのままに叫ぶ。
「――す、水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。と、飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
エヴリルとボロックが両脇にジャンプして回避した。
放たれた水の球体を女王蜂は右手で次々と弾いた。バチンバチンッと払い落とす。え? うそっ。水弾って時速150キロは出てると思うんですけれど。お前こわい。
「う、嘘!?」シノの声がわななく。
ここは鼓舞を使おうかな? 俺のたった一つのスキルである。
「キシューッ」
禍々しい口をピクピクと動かして怒りを露わにする女王蜂。お前たちを許さないぞ、と言ったんだろうな。家を壊された恨みなのだろう。だけど残念、蜂に人権は無いのだ。
「グルルゥッ」
狼が走り出す。その大きな瞳が銀色に光った。凶暴な口を開き、クイーンビーの左足にかじりつく。そのまま横に激しく回転した。デスローリングである。
ドルルルッ。
小枝のような脚があらぬ方向に曲がってポキリと折れる。よっしゃー、こいつ、最強ボスって訳じゃ無さそう。
「キシャーッ!」
つんざくような悲鳴が上がっている。
「死になさい!」
甘ロリ服がモンスターに歩み寄った。袈裟懸けに斬りつける。しかし手で弾き返される。
バチンッ。
エヴリルは何度も剣を振るった。左足を無くしたせいで女王蜂は体勢を崩し、いま中脚と後ろ脚で立っている。
ガンッ、バンッ、バツンッ。
二人の攻撃が交差して火花が散っている。一進一退の攻防である。
「このっ!」
「シューッ」
女王蜂がお尻を突き出した。今までで最も素早いお尻アタックがエヴリルの胸を狙う。あれに当たったらヤバい! 恐怖に染まる彼女の表情。意表を突かれたような声。
「嘘!?」
「――水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
ボコボコボコボコボンッ。
射出された五つの水の球体がクイーンビーに全て命中した。体がボコボコとひしゃげている。お尻の毒針アタックは勢いを無くす。よっしゃっ、ファインプレーだぞ、シノ。
エヴリルは振り返りもせずに、
「ありがとう、シノ」
「グルルゥッ!」
ボロックが女王蜂の右足に噛みついた。デスローリングし、激しく横回転する。
ドルルルッ。
巨大な昆虫の右足が根元から吹き飛んだ。ヌメッとした体液がこぼれている。生々しくて気持ち悪いな。ああ、嫌嫌。
痛みに悲鳴を上げる女王様。
「キキャーッ」
「せやっ!」
黒い翼の魔人っ娘がその首を真上から切り裂いた。エヴリル斬りである。ズドンッ。切断される女王蜂の頭部。いよっしゃー、勝ったぜ。俺の唯一のスキル、鼓舞の出番は無かったようだ。また今度に取っておこう。
「やったわっ!」
「ぐるう、倒したな」
「やりました!」
三人が俺を振り返り見つめる。いや、そんな粋の良い笑顔を向けたって何も出ないぞ? だけど手拍子を送った。パチパチパチッ。
「ナイスだ、お前たち!」
「えへへ、あたしたちは強いんだからっ」
「うむ、これで先へ進めるな」
「スティフ、私も頑張りましたよ」
「よくやった」
一番近くにいる翡翠色ポニーテイルの髪を撫でてやる。にっこりと細まる両目。杖を持った両手をお尻の後ろに組んだ。突き出る大きな乳房。嬉しそうにつり上がる頬。
どうしてかエヴリルが面白くなさそうな顔をした。「ふんっ」鼻を鳴らして洞窟の奥へと歩を進める。ん、お前どうしたんだ? まあいいか。
蜂の巣の中にはまだ子供がいるんだろうが、無視して良いだろう。食べるにしてもゲテモノを魔獣たちは受け付けないだろうな。俺も無理だ。
洞窟の最奥部、その階段前でささやかな幸運に出くわす。壁の下に宝石のように光る黄色い鉱床があった。マジか! これ、魔鉱石だ。
ピンクの髪色の少女がニコッと笑って振り向いた。
「スティフ、これ!」
「ああ、魔鉱石だな! みんな、発掘するぞ」
「発掘ってどうやるの?」
「つるはしで掘るんだよ。持ってきてあるから。ステータスオープン」
水色の画面からつるはしを三つ取り出す。俺とエヴリルとシノの分である。ボロックが振るのはさすがに無理だ。狼だからな。
それから、三人で魔鉱石を掘った。だけどシノはSTR(腕力)が低くてすぐにバテてしまう。ほとんどつるはしを振るったのはエヴリルだった。怪力少女である。ゴリラ女とも言う。
説明書きを少々。
魔石は、術者の魔力を増幅させる。
対し、魔鉱石は魔法スキルを使う者の触媒になる。回復魔法を使えない人間でもこれがあれば行使できる。使えば魔鉱石は消失する。
説明終わり。
ボロックはずっとおすわりをしていた。発掘には二時間ぐらいかかった気がする。やがて銀狼がグワウルルと大きなあくびを一つくれた。今、鉱床を掘り尽くした。鉱石の全てをステータス画面にしまい、俺はよしよしと笑う。
全部売ればいくらになるんだろうな。さっそく冒険者ギルド支部へ換金しに行こう。ちょうど昼食の時間なので、こいつらをベアビリーズ食堂へ連れて行ってやろうか。ヘミリー先生にもまた会えるしな。
という訳で次の階に降りる。ダンジョン水晶に進行度を記憶させてから帰還した。
0
あなたにおすすめの小説
気がつけば異世界
蝋梅
恋愛
芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。
それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。
その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。
これは現実なのだろうか?
私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~
星上みかん(嬉野K)
ファンタジー
この作品は、
【カクヨム(完結済み)】
【ノベルアップ+】
【アルファポリス】
に投稿しております。
最強を目指す少年エトワールが町に行き着くと、メル・キュールという女性と出会う。
メルが道場主らしいという情報を仕入れたエトワールは、弟子入りを決意する。
それにしても、この師匠強すぎない?
タフなことだけが取り柄の少年が最強を目指すお話。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる