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第7話 探偵 帰省する 弘前編 後編
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「葵は、死んでいた?」
ぼくは声を震わせた。 大婆様は重く、深く頷き、衝撃の事実を語り出した。
「正確にはあの子たちに入れた『人工魂』は、元々一つしか完成しておらんかったのじゃ」
ぼくはあまりにもSFチック、いやファンタジーすぎる話に理解が追いつかなかった。
「一つ? だって二人に命が入っているんですよ? 二つじゃないんですか?」
「そうじゃ。人工魂はこの世で一つしかない。だが、この魂はあまりにも力が強大すぎた。一人の人間が扱える代物ではなかったのじゃよ」
大婆様は遠い目をした。
「もし、一人の人間がこの魂を扱おうとすれば、それは人間を超え『神』と言える存在になってしまう」
「か、神……?」 「だからわしらは、姉妹である葵と橙花、それぞれの亡骸に半分ずつ入れたのじゃ」
一つの魂を、二人で分け合う。 それはつまり、二人は姉妹という枠を超え、「二人で一人」の存在だということだ。
大婆様はさらに険しい顔で語り始めた。
「魂を二つに分けたのには、もう一つ理由がある実は研究の最中、わしと花崎は魂に『能力』を付与できることを知ったのじゃ」
大婆様はぼくに折れた煙管を向けた。
「葵には『万物を見る能力』がある。霊や人の心、過去、未来、隠された真実の全てを見通す能力が付与されておる」
「見る能力」
「まだ本人自身、能力が全て発揮されているわけではない。単に『イタコの才能がある』と信じ込んでおるがな」
なるほど。全ての合点がいった。 だから葵はどんな霊も認識でき、隠された過去や思念を一瞬で見抜くことができたのか。 ってことは、あれ? もしかしてぼくの恥ずかしい記憶とかも、全部読まれてたのかな?
「対して、姉の橙花には『万物を操る力』がある」
「操る?」
「そうじゃ。お前さんも見ているだろう。あの『黒いオーラ』あれが橙花の持つ能力じゃ。人の心を操り、行動を支配し、時には記憶さえも消し去ることができる」
全てのモヤが晴れた。 DV夫を狂わせたのも、御曹司を唆したのも、社員全員の記憶を消したのも全部、葵のお姉さんの仕業だったのか。
「今、橙花は花崎コンツェルンの現会長と共にいる」
大婆様は憎々しげに言った。
「先代・花崎募の死後、息子の花崎 統治が会社を継いだ。あのバカ息子は、橙花の力を使い、政財界の重鎮を洗脳し、この世の中を意のままに操ろうとしておる」
大婆様は、畳に手をつき、涙ながらにぼくを見上げた。
「これは、わしらが犯した罪じゃ。だが、もうわしらの手では解決できないところまで来てしまっておる。勝手な願いじゃとはわかっている。だが、頼む探偵! 葵と橙花を昔のような姉妹に戻してくれ!」
ぼくは天井を見上げた。 廊下からは、お風呂上がりの葵と凛の楽しそうな笑い声が微かに聞こえてくる。 何も知らない葵。 本当は一度死んでいることも知らず、姉を救いたいと願っている葵。
探偵に必要なもの。それは、依頼人を安心させるため「覚悟」だ。 ぼくは、腹を括った。
「わかりました。その依頼、引き受けましたよ」
ぼくは大婆様に向き直った。
「ただ一つ、ぼくのお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「それは、なんじゃ?」
ぼくがその「お願い」を耳打ちすると、大婆様は驚き、やがてくしゃりと顔を歪めて笑った。
「カカカ……! お前さん、やはり変なやつじゃな。よかろう! そのお願い、聞き入れよう!」
「お婆ちゃん、探偵さん! 露天風呂最高でしたよー!」
葵と凛が、湯上がりのほかほかした顔で戻ってきた。 石鹸の香りと、ほんのり上気した肌。
ぼくは二人の姿を見て、重い決意を秘めつつも男として少しだけ、ムンムンとしていた。
ぼくは声を震わせた。 大婆様は重く、深く頷き、衝撃の事実を語り出した。
「正確にはあの子たちに入れた『人工魂』は、元々一つしか完成しておらんかったのじゃ」
ぼくはあまりにもSFチック、いやファンタジーすぎる話に理解が追いつかなかった。
「一つ? だって二人に命が入っているんですよ? 二つじゃないんですか?」
「そうじゃ。人工魂はこの世で一つしかない。だが、この魂はあまりにも力が強大すぎた。一人の人間が扱える代物ではなかったのじゃよ」
大婆様は遠い目をした。
「もし、一人の人間がこの魂を扱おうとすれば、それは人間を超え『神』と言える存在になってしまう」
「か、神……?」 「だからわしらは、姉妹である葵と橙花、それぞれの亡骸に半分ずつ入れたのじゃ」
一つの魂を、二人で分け合う。 それはつまり、二人は姉妹という枠を超え、「二人で一人」の存在だということだ。
大婆様はさらに険しい顔で語り始めた。
「魂を二つに分けたのには、もう一つ理由がある実は研究の最中、わしと花崎は魂に『能力』を付与できることを知ったのじゃ」
大婆様はぼくに折れた煙管を向けた。
「葵には『万物を見る能力』がある。霊や人の心、過去、未来、隠された真実の全てを見通す能力が付与されておる」
「見る能力」
「まだ本人自身、能力が全て発揮されているわけではない。単に『イタコの才能がある』と信じ込んでおるがな」
なるほど。全ての合点がいった。 だから葵はどんな霊も認識でき、隠された過去や思念を一瞬で見抜くことができたのか。 ってことは、あれ? もしかしてぼくの恥ずかしい記憶とかも、全部読まれてたのかな?
「対して、姉の橙花には『万物を操る力』がある」
「操る?」
「そうじゃ。お前さんも見ているだろう。あの『黒いオーラ』あれが橙花の持つ能力じゃ。人の心を操り、行動を支配し、時には記憶さえも消し去ることができる」
全てのモヤが晴れた。 DV夫を狂わせたのも、御曹司を唆したのも、社員全員の記憶を消したのも全部、葵のお姉さんの仕業だったのか。
「今、橙花は花崎コンツェルンの現会長と共にいる」
大婆様は憎々しげに言った。
「先代・花崎募の死後、息子の花崎 統治が会社を継いだ。あのバカ息子は、橙花の力を使い、政財界の重鎮を洗脳し、この世の中を意のままに操ろうとしておる」
大婆様は、畳に手をつき、涙ながらにぼくを見上げた。
「これは、わしらが犯した罪じゃ。だが、もうわしらの手では解決できないところまで来てしまっておる。勝手な願いじゃとはわかっている。だが、頼む探偵! 葵と橙花を昔のような姉妹に戻してくれ!」
ぼくは天井を見上げた。 廊下からは、お風呂上がりの葵と凛の楽しそうな笑い声が微かに聞こえてくる。 何も知らない葵。 本当は一度死んでいることも知らず、姉を救いたいと願っている葵。
探偵に必要なもの。それは、依頼人を安心させるため「覚悟」だ。 ぼくは、腹を括った。
「わかりました。その依頼、引き受けましたよ」
ぼくは大婆様に向き直った。
「ただ一つ、ぼくのお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「それは、なんじゃ?」
ぼくがその「お願い」を耳打ちすると、大婆様は驚き、やがてくしゃりと顔を歪めて笑った。
「カカカ……! お前さん、やはり変なやつじゃな。よかろう! そのお願い、聞き入れよう!」
「お婆ちゃん、探偵さん! 露天風呂最高でしたよー!」
葵と凛が、湯上がりのほかほかした顔で戻ってきた。 石鹸の香りと、ほんのり上気した肌。
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