当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人

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編纂者から「自由の全権」を勝ち取った二人は、回廊の最果てにある、かつて神々が世界を見下ろしていた「空白の玉座」へと辿り着きました。 そこからは、自分たちが生まれ育った世界、そしてハックしたことで混ざり合った新世界が、小さな箱庭のように見えていました。


「……終わったのですわね、第1幕が」


エルナは玉座の縁に腰掛け、大きく伸びをしました。神の力と人間の意識を併せ持ったその体は、今やどんなドレスよりも美しく、絶対的な気品を放っています。


「……いや、ここからが本当の始まりだ。……エルナ、お前はもう誰の命令も聞かなくていい。世界をどう作り替えるも、お前の自由だ」


シオンは玉座の後ろに立ち、エルナの肩に手を置きました。彼の指は、まるで鎖のように彼女を繋ぎ止めていますが、その眼差しには、もはや以前のような「焦り」はありませんでした。世界から彼女を隠すのではなく、世界すべてを彼女に捧げることで、彼女を逃げられなくするという、より巨大な執着へと進化したのです。


「殿下、私は世界を支配したいわけではありませんわよ。……ただ、あなたと一緒に、このめちゃくちゃになった世界を面白おかしく冒険したいだけ。……200章まで、飽きさせない自信はありますこと?」


「……フフ。お前が隣にいる限り、私には永遠の時間すら短すぎる。……次は、どこの次元へ行く? お前を傷つけようとした『他のイレギュラー』の首を獲りに行くか? それとも、二人きりで楽園でも作るか?」


シオンはエルナの首筋に深い、深い愛の証を刻みました。それは神の力でも消せない、執着の極致。


「まずは、私たちの邪魔をした『世界の管理者』たちに、たっぷりと慰謝料を請求しに行きましょうか。……さあ、シオン殿下。悪役令嬢と執着王子の、本当の逆襲劇の始まりですわ!」


二人は玉座を蹴り、混沌と自由が渦巻く新世界へと再び飛び立ちました。 物語の枠組みを破壊した二人は、自らが「作者」となり、前代未聞の神話を作り始めていくのです。



神界の玉座を蹴り、情報の海へと飛び出したエルナとシオン。物語の「外」という絶対的な自由を手に入れた代償として、彼らは全宇宙の「バグ」や「廃棄された設定」が流れ込む、境界なき新世界での生存競争に身を投じることになります。


神界の回廊を離れ、次元の狭間を漂うエルナとシオン。彼らの足元には、もはや安定した大地など存在しません。しかし、エルナの知略と、命の樹の核(コア)を掌握したシオンの膨大な魔力は、無から有を生み出す領域に達していました。


「……殺風景なのは嫌いですわ、殿下。私たちがこれから200章、いえ、永遠に旅を続けるのですから、最高に贅沢な『家』が必要だと思いませんこと?」


エルナは、宙に浮かぶ情報の断片を指先で手繰り寄せながら、優雅に微笑みました。彼女が描いたのは、前世の知識にある「移動要塞」と、アステリア王国の「王宮」を融合させた、次元を超える方舟のデザインでした。


「お前の望むままに。……この世界のすべてのマテリアルをお前のために繋ぎ合わせよう」


シオンが虚空に向けて手をかざすと、絶対零度の冷気が次元の壁を凍らせ、結晶化させました。それはただの氷ではなく、神の心臓を動力源とした、不滅の物理法則を纏う銀の合金。シオンの魔力が構造材となり、エルナのプログラミングが内部の「機能」を定義していく。


数分と経たず、漆黒の宇宙に咲き誇る一輪の薔薇のような、巨大な移動要塞『星屑の薔薇(アステール・ローゼ)』が顕現しました。


要塞の内部は、最高級のシルクと魔導照明で彩られた、アステリアの舞踏会場を遥かに凌ぐ豪華な空間。しかし、そのすべての部屋には、シオンの執着の象徴である「監視の目」として機能する氷の結晶が埋め込まれていました。


「……ふふ、素敵な住処ですわ。でも殿下、寝室が一つしかありませんわよ?」


「当たり前だろう。お前が私の視界から消える空間など、この要塞には一寸たりとも必要ない」


シオンは背後からエルナを抱き寄せ、その白い首筋に自らの魔力を流し込みました。二人の魂が共鳴し、要塞全体が脈動するように輝きます。それは、世界から切り離された二人だけの聖域の完成でした。
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