氷の魔女の二度目の人生は落ちこぼれ聖女〜今度は愛されるために魔法を極めたら、神獣たちと最強の家族に溺愛されました〜

平山和人

文字の大きさ
3 / 20

3

しおりを挟む
ヴィルフリート公爵が離れを訪れた翌朝、エルサの環境は激変した。  目を覚ますと、そこはカビ臭い離れの寝室ではなかった。公爵邸の本館、それも亡き母が使っていたという最高級の天蓋付きベッドの上だった。


「……夢かしら」  エルサが寝ぼけ眼で呟くと、枕元に控えていた数人のメイドが一斉に頭を下げた。 「おはようございます、エルサ様! お召し替えの準備が整っております!」 「えっ、あ、はい……?」


 困惑するエルサの前に、昨日まで冷淡だったはずの執事長が、涙を浮かべて最高級の絹のドレスを捧げ持っている。  着替えさせられ、髪を整えられ(その間、シロは「主を汚すな」と言わんばかりにメイドたちを威嚇していたが、エルサが宥めた)、案内された食堂には、見たこともないような豪華な料理が並んでいた。


 そこには、父ヴィルフリートと、病から回復したばかりの長男シグルド、そして次男のレナードが座っていた。 「エルサ、おはよう。……体調はどうだ? どこか痛むところはないか?」  父が、壊れ物に触れるような優しい声で尋ねる。 「はい、お父様。とても元気です」 「そうか……。シグルド、お前からも礼を言いなさい」


 シグルドは椅子から立ち上がり、エルサの前で深く頭を下げた。 「エルサ。私の命を救ってくれたのはお前だと聞いた。今まで、兄らしいことを一つもせず……それどころか、お前の苦境を見て見ぬふりをしてきた。この通りだ、許してくれとは言わない。だが、これからは命に代えてもお前を守ると誓おう」  その瞳は真剣そのもので、心なしか潤んでいる。


 次男のレナードも、気まずそうに視線を逸らしながら口を開いた。 「……俺も、悪かった。魔力がないなんて、嘘だったんだな。あんなに綺麗な魔法、俺には一生かかっても使えない。エルサ、お前は我が家の誇りだ」


 エルサは驚きで目を丸くした。前世では、強すぎる力を持てば持つのに比例して、人は離れていった。なのに、この家族は力を知った途端、謝罪し、歩み寄ってきたのだ。 「私……。皆さんと一緒にご飯が食べられて、嬉しいです」  エルサがはにかんで笑うと、公爵家の男三人は胸を射抜かれたような衝撃を受け、同時に心に誓った。 (この笑顔を二度と曇らせてはならない。例え世界を敵に回しても――!)  こうして、エルサの「無自覚な平穏」は、家族の「重すぎる愛」によって守られることとなった。



 エルサが本邸に移ってから、公爵邸の裏庭は「聖域」と化していた。  理由は単純だ。エルサが放つ無自覚な高濃度魔力に引き寄せられ、森から希少な魔獣や精霊たちが続々と集まってきたからである。


「シロ、そんなに怒らなくても大丈夫よ」 『……主、甘すぎる。この小鳥、ただの小鳥ではない。太陽の欠片を宿した、不浄を焼く炎の鳥だぞ』  シロが低く唸る先には、エルサの指先に止まって甘えた声を出す、手のひらサイズの赤い小鳥がいた。  それは、成長すれば一国を滅ぼすと謳われる伝説の神獣「フェニックス」の幼体だった。


「ピー、ピピィ!」 「あら、お腹が空いたの? はい、魔力のクッキーよ」  エルサが空間から取り出したのは、自身の魔力を結晶化させて練り込んだお菓子だ。一口食べれば瀕死の重傷も治るような代物を、フェニックスは幸せそうに啄んでいる。


 その様子を、遠巻きに見ていた公爵家の魔導師たちは泡を吹いて倒れそうになっていた。 「公爵閣下……あ、あれは……フェニックスの雛ではありませんか?」 「ああ。エルサが昨日、庭で拾ったと言っていたな」 「拾えるようなものではありません! あれ一羽で王国の国家予算が吹き飛ぶ価値が……というか、エルサ様が与えている菓子、あれ、純度百パーセントの魔力結晶ですよ!?」


 ヴィルフリートは頭を押さえた。 「わかっている。だが、エルサには言うな。彼女は自分が『普通』だと思って、ようやく心を開き始めたんだ。彼女の常識を壊して、また離れに戻りたいと言い出したらどうする」 「……それだけは避けねばなりませんな」


 こうして、公爵邸のスタッフたちは「エルサ様の規格外な行動はすべて普通のこととしてスルーする」という、世界で最も過酷な隠蔽工作に従事することになった。  当のエルサは、フェニックスに「ルビィ」と名付け、シロと共にモフモフ三昧の生活を満喫していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

処理中です...