氷の魔女の二度目の人生は落ちこぼれ聖女〜今度は愛されるために魔法を極めたら、神獣たちと最強の家族に溺愛されました〜

平山和人

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帝国の刺客を返り討ちにし、何食わぬ顔で学園生活を続けるエルサのもとに、今度は「宗教」という名の厄介事が舞い込んできた。  ある日の昼下がり。学園の白亜の正門前に、金糸の刺繍が施された豪奢な馬車が停まった。現れたのは、国教である「ルミナス教会」の枢機卿、マルティスという男だ。彼は数十人の聖騎士を従え、傲岸不遜な態度で学園内へと足を踏み入れた。


「アデレイド公爵令嬢、エルサ・ヴァン・アデレイドはどこかな? 神のお告げがあった。彼女の中に宿る強大な力は、教会の管理下でこそ正しく運用されるべき聖なる遺産であるとな」


 その言葉が学園内に響き渡った瞬間、ちょうど中庭でシロ(フェンリル)にブラッシングをしていたエルサは、小首をかしげた。 「教会の管理……? あの、私はここで普通にお勉強したいだけなのですが」  エルサの控えめな返答に対し、マルティスは鼻で笑った。 「無知な娘よ。お前が使っているのは、個人が持っていい力ではない。その魔力、そして付き従う神獣どもを教会に差し出せ。さすればお前を『偽りの聖女』ではなく、公式の聖女として迎えてやろう。光栄に思うがいい」


 その瞬間、学園の空気が物理的に「重く」なった。  エルサが怒ったのではない。彼女の背後に立つ、守護者たちの逆鱗に触れたのだ。  ドォォォォォン!!  校舎の三階の窓を突き破り、一人の男が着地した。シグルド・ヴァン・アデレイドである。彼は抜き放った愛剣をマルティスの喉元に突きつけた。


「……今、私の妹に対して、なんと言った? 『差し出せ』だと?」  シグルドの瞳には、かつての冷徹さを遥かに凌駕する、苛烈なまでの殺意が宿っていた。 「し、シグルド卿!? 私は教会の意志を伝えているのだぞ! 公爵家といえど、神に背くつもりか!」 「神など知らん。私の神は、目の前で困惑しているこの愛らしい妹だけだ。教会がエルサに指一本触れるというのなら、今この瞬間から、我が公爵領は教会への寄付をすべて停止し、領内の教会をすべて物理的に解体するが、構わないな?」 「ひっ……!?」


 エルサは、兄のあまりの過激な発言に「お兄様、それはやりすぎですよ」と袖を引いたが、シグルドの怒りは収まらない。さらに、学園の屋根からは「賢者」バルカスが杖を構えて身を乗り出していた。 「おい、マルティス。わしの『師匠』に無礼を働くなら、お前の教会の総本山に、明日の朝までに隕石を落としてやるぞ。ちょうど計算が終わったところだ」  教会という巨大権力すら恐れぬ「エルサ信奉者」たちの包囲網。エルサはため息をつきつつ、マルティスに歩み寄った。



「マルティス様。私の力は、誰かに差し上げるようなものではないんです。……でも、そんなに『聖女の力』が見たいなら、少しだけお裾分けしましょうか」


 エルサはそっと地面に手を触れた。  教会が誇る「奇跡」とは、長時間の祈りと触媒、そして数千人の信者の信仰心を集めてようやく発動する、ごく狭い範囲の治癒や光を指す。  だが、エルサが行ったのは「定義の書き換え」だった。


「【命の呼吸】」  彼女が呟いた瞬間、学園を中心とした半径数キロメートルの土地が、眩いばかりの緑の光に包まれた。  石畳の隙間からは見たこともない美しい花が咲き誇り、学園中の木々は瞬時に果実を実らせ、さらには学園内にいた怪我人や病人が、一滴の聖水も使わずに完治していく。それどころか、あまりに純粋な魔力の奔流により、マルティスが隠し持っていた「私腹を肥やすための呪具」が、光に耐えきれず粉々に粉砕された。


「な、なんだ、これは……!? 儀式も、祝祷もなしに、世界を書き換えたというのか……?」 「これが私の魔法です。管理なんて必要ありません。だって、世界は最初からこんなに綺麗なんですから」  エルサが微笑むと、彼女の背後でルビィ(フェニックス)が翼を広げた。その神々しい炎の粉が舞い落ち、聖騎士たちの鎧を「純金」に変えてしまう。重すぎて動けなくなる聖騎士たち。


「枢機卿様。もし、これ以上の『管理』を望まれるなら、あなたの教会の神様に直接伺いに行きましょうか? たぶん、私の知り合いの誰かですから」  エルサの金色の瞳に宿る、千年の深淵。マルティスは直感した。この少女は、神が遣わした使いなどではない。神そのものを、対等な友人として扱う「何か」なのだと。


 彼は言葉を失い、黄金に変わった部下たちを引きずりながら、這う這うの体で逃げ出した。  シグルドは剣を収め、エルサをぎゅっと抱きしめた。 「よくやった、エルサ。だが、あんな汚いジジイと二度と話すんじゃないぞ。耳が汚れる」 「お兄様、苦しいです……」  またしても、エルサの「普通の女の子になりたい」という願いは、異次元の力によって遠ざかっていくのだった。
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