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「彼女は大切な友達だ」
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「彼女は大切な友達だ。下衆の勘繰りはやめてくれ」
ただの友人? 出会ったときからずっと貴方は熱のこもった目で彼女を見つめていたのに。その頬をほんのり染めて。
たった一週間で彼女は貴方の大切な人になった。心が……痛い。
その日のカフェテリアでのちょっとした騒ぎを受けて、留学生レイア、第二王子ジュール、護衛イザークの三人はガーデンベンチのところに避難していた。
「ああ、もうカフェテリアには行きにくくなったぜ。どうしてこんなことに……泣きそう」王子は嘆く。
「殿下はまだ良いですよ。タブレットをカチャカチャ、レイアさんと肩を寄せ合いイチャイチャ。教育的指導が飛んでも悔いはないでしょう。
で、護衛として監督不行き届きだーって、こっちまで叱られて。大人しく座っていただけなのに、とばっちりもいいとこですわ」
「イザーク、イチャイチャって……レイアさんにも失礼だろう」
「これからはイチャイチャと見られないように、よりいっそう気をつけます。
ご注意の後からの流れるような礼儀作法特別講座へのお誘い——断るのがとても心苦かったので再発防止に努力します」
ちなみにレイアとジュールはベンチの端と端に離れて座り、イザークは護衛らしく立っている。
「特別講座の存在自体が誤解を招く根源だなと思うようになった今日この頃です。あれは学園内実習が込みになってるんですが、その活動に留学生の方々を巻き込むのは問題と思います。すみません」
「わたしには受講する動機や気力がないですが留学生も人それぞれと聞きます。
卒業後に帰化を希望する人もいれば、外交や商業で作法を必要とする人もいるそうです。そのような人たちにとって学園内実習は将来への良い予行演習となることでしょう」
「まあ必要な人たち同士で好きに切磋琢磨すれば良いんじゃないですか。
僕らを巻き込もうとするなら『マナー違反を指摘する奴こそ最大のマナー違反!』と何度でも怒鳴ってやりますから安心してください」
「いや待て殿下。そこで怒鳴ったからカフェテリアを追い出されたんだろう?」
「うーんと、それを言われると辛いけど」
「笑っている場合じゃないと思うんだが。殿下はレイアさんが絡むとタガが外れ過ぎだ。
……レイアさんを前にしてこんなことを話すのもアレですが」
水を向けられたレイアは少し困ったように微笑み、無言で首を横に振る。
「冷静さを欠いているかなという自覚はなくもないんだ。
だってずっと憧れていたから。
ゲットした人が片手で数えるくらいしかいないレア衣装を颯爽と身につけて。
いくつものランキングの十位以内に入っていて。
でもランキング経由では、なぜか友達申請できなくて。
それが学園内で出会えた。友達申請しますかのメニュー音声が聞こえた。承認してもらえた」
「ランキングからの友達申請ができない設定をした覚えはないので、わたしの年齢による制限かもしれません。ただ物理的にすぐ近くにきただけで申請が促されるとしたら、適切な仕様なのかどうか判断に迷う部分はあります」
「どこかの誰かのように、いきなりナンパしてくる奴が続出かと思うと怖かったり不快だったりしますか?」
(逆にジュールと友達になりたいと突撃してくる生徒が湧いても厄介かもな)と内心でつぶやきながらイザークが尋ねる。
「ジュールさんのときは、同じ学園の生徒で場所も学園内で、身の危険は感じませんでしたし嫌らしい目的だなんて全然思えませんでしたから良かったのですけれど」
「そうおっしゃっていただけて本当に嬉しいです!
イザークといいウィリアムといいローズマリーといい下衆の勘繰りばっかりで。
レイアさん本人にまで誤解されていたらどうしようかと」
——カフェテリアでローズマリーとウィリアムを相手に、苛立たしげにジュールは言い放ったのだ。
「彼女は大切な友達だ。下衆の勘繰りはやめてくれ」
「まじめな話、恋愛的な出会いを求めるのなら絶対このゲームは選ばないです。
その手の利用を断固許さない会話追跡AIの優秀さは実際にプレイしている者以外にも有名ですから。
そうでなくても友達関係やギルドが恋愛沙汰で揉めるのが大嫌いなんで、極力そういうのは持ち込みたくないです」
「ジュールさんが『そういうの』を極力排除するプレイスタイルなのはわかっています」
だから大丈夫と宥めるかのようにレイアは言う。
「しかし、ローズマリーさんやウィリアムさんを含めた、このゲームひいてはジュールさんの方針を知らない人にも理解してもらうには努力が必要かとも思います」
「……愚痴になりますが、あいつらのご理解を得なきゃいけないのは何故なんだぜと、うんざりしています。
この学園は人目のない場所というのを徹底的になくしています。不埒な行為ができないように。不健全性的行為ってやつだけでなく、虐めとか暴力行為も防止したいですしね。トイレの個室のような例外は、一度に一人のみ利用可能にする入退室チェックあり、別な目的で場所をふさがせないための時間制限あり、です。
すみません、何が言いたいかというと、こんな作りの学園では実行不可能な不適切な行為をですよ、やらかすと決めつけられるのには腹が立つんです」
「うん、やっぱり落ち着け、殿下」
イザークはガーデンベンチの後ろに回って、ジュールの肩に手を置いた。
「必死なんだよ、ウィリアムは側近候補として、ローズマリー嬢は婚約者候補として。どんなに殿下の怒りを買おうともお諌めする必要があるーってな」
「地獄への道は善意で敷き詰められている、だっけ」
「そう言うな。特別講座への招待にしたって今まではそれで〈ヒロイン〉の疑いのある女子を上手いこと牽制できていたんだ。
だからと言って過去の成功体験に固執するのは間違っている。そこら辺は俺から話をしてみるよ」
ただの友人? 出会ったときからずっと貴方は熱のこもった目で彼女を見つめていたのに。その頬をほんのり染めて。
たった一週間で彼女は貴方の大切な人になった。心が……痛い。
その日のカフェテリアでのちょっとした騒ぎを受けて、留学生レイア、第二王子ジュール、護衛イザークの三人はガーデンベンチのところに避難していた。
「ああ、もうカフェテリアには行きにくくなったぜ。どうしてこんなことに……泣きそう」王子は嘆く。
「殿下はまだ良いですよ。タブレットをカチャカチャ、レイアさんと肩を寄せ合いイチャイチャ。教育的指導が飛んでも悔いはないでしょう。
で、護衛として監督不行き届きだーって、こっちまで叱られて。大人しく座っていただけなのに、とばっちりもいいとこですわ」
「イザーク、イチャイチャって……レイアさんにも失礼だろう」
「これからはイチャイチャと見られないように、よりいっそう気をつけます。
ご注意の後からの流れるような礼儀作法特別講座へのお誘い——断るのがとても心苦かったので再発防止に努力します」
ちなみにレイアとジュールはベンチの端と端に離れて座り、イザークは護衛らしく立っている。
「特別講座の存在自体が誤解を招く根源だなと思うようになった今日この頃です。あれは学園内実習が込みになってるんですが、その活動に留学生の方々を巻き込むのは問題と思います。すみません」
「わたしには受講する動機や気力がないですが留学生も人それぞれと聞きます。
卒業後に帰化を希望する人もいれば、外交や商業で作法を必要とする人もいるそうです。そのような人たちにとって学園内実習は将来への良い予行演習となることでしょう」
「まあ必要な人たち同士で好きに切磋琢磨すれば良いんじゃないですか。
僕らを巻き込もうとするなら『マナー違反を指摘する奴こそ最大のマナー違反!』と何度でも怒鳴ってやりますから安心してください」
「いや待て殿下。そこで怒鳴ったからカフェテリアを追い出されたんだろう?」
「うーんと、それを言われると辛いけど」
「笑っている場合じゃないと思うんだが。殿下はレイアさんが絡むとタガが外れ過ぎだ。
……レイアさんを前にしてこんなことを話すのもアレですが」
水を向けられたレイアは少し困ったように微笑み、無言で首を横に振る。
「冷静さを欠いているかなという自覚はなくもないんだ。
だってずっと憧れていたから。
ゲットした人が片手で数えるくらいしかいないレア衣装を颯爽と身につけて。
いくつものランキングの十位以内に入っていて。
でもランキング経由では、なぜか友達申請できなくて。
それが学園内で出会えた。友達申請しますかのメニュー音声が聞こえた。承認してもらえた」
「ランキングからの友達申請ができない設定をした覚えはないので、わたしの年齢による制限かもしれません。ただ物理的にすぐ近くにきただけで申請が促されるとしたら、適切な仕様なのかどうか判断に迷う部分はあります」
「どこかの誰かのように、いきなりナンパしてくる奴が続出かと思うと怖かったり不快だったりしますか?」
(逆にジュールと友達になりたいと突撃してくる生徒が湧いても厄介かもな)と内心でつぶやきながらイザークが尋ねる。
「ジュールさんのときは、同じ学園の生徒で場所も学園内で、身の危険は感じませんでしたし嫌らしい目的だなんて全然思えませんでしたから良かったのですけれど」
「そうおっしゃっていただけて本当に嬉しいです!
イザークといいウィリアムといいローズマリーといい下衆の勘繰りばっかりで。
レイアさん本人にまで誤解されていたらどうしようかと」
——カフェテリアでローズマリーとウィリアムを相手に、苛立たしげにジュールは言い放ったのだ。
「彼女は大切な友達だ。下衆の勘繰りはやめてくれ」
「まじめな話、恋愛的な出会いを求めるのなら絶対このゲームは選ばないです。
その手の利用を断固許さない会話追跡AIの優秀さは実際にプレイしている者以外にも有名ですから。
そうでなくても友達関係やギルドが恋愛沙汰で揉めるのが大嫌いなんで、極力そういうのは持ち込みたくないです」
「ジュールさんが『そういうの』を極力排除するプレイスタイルなのはわかっています」
だから大丈夫と宥めるかのようにレイアは言う。
「しかし、ローズマリーさんやウィリアムさんを含めた、このゲームひいてはジュールさんの方針を知らない人にも理解してもらうには努力が必要かとも思います」
「……愚痴になりますが、あいつらのご理解を得なきゃいけないのは何故なんだぜと、うんざりしています。
この学園は人目のない場所というのを徹底的になくしています。不埒な行為ができないように。不健全性的行為ってやつだけでなく、虐めとか暴力行為も防止したいですしね。トイレの個室のような例外は、一度に一人のみ利用可能にする入退室チェックあり、別な目的で場所をふさがせないための時間制限あり、です。
すみません、何が言いたいかというと、こんな作りの学園では実行不可能な不適切な行為をですよ、やらかすと決めつけられるのには腹が立つんです」
「うん、やっぱり落ち着け、殿下」
イザークはガーデンベンチの後ろに回って、ジュールの肩に手を置いた。
「必死なんだよ、ウィリアムは側近候補として、ローズマリー嬢は婚約者候補として。どんなに殿下の怒りを買おうともお諌めする必要があるーってな」
「地獄への道は善意で敷き詰められている、だっけ」
「そう言うな。特別講座への招待にしたって今まではそれで〈ヒロイン〉の疑いのある女子を上手いこと牽制できていたんだ。
だからと言って過去の成功体験に固執するのは間違っている。そこら辺は俺から話をしてみるよ」
応援ありがとうございます!
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