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貴族の二つの顔

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 沈黙が少しのあいだ部屋を満たした後、レイアが再び発言の許可を求めた。
「この会議を提案した際に、七人とも電子会議ができる環境にいるのは運が良い、公共の場所ではない『二階以上』なら二十二世紀の科学技術を使い放題とは必ずしもならなくて、『二階以上』でも世界観を壊すものの導入を必要最小限にしようとする家庭は少なくないが、七人ともそういう家の子ではない——ローズマリーさんの家とは違って——だから大丈夫と説明されました。
 逆に言えば、そういう家の子であるローズマリーさんはこのような会議には参加できないし、ソーシャルネットワークのつながり全般と無縁、人目にさらされない友人とのお付き合いはアリスさんだけと考えられるのでしょうか」

そこでイザークが挙手した。
「『運が良い』と言ったのは俺ですけど、自分では科学技術を使い放題でも、子どもが親の目の届かないところでアレコレするのは許さないって親御さんも多いんですよ。教育的観点から。
 ウィリアムなんて、『二階以上』でも世界観厳守なのはローズマリーのところとどっこいどっこいなのに加えて、親御さんは自分達の目が届かない個室を与える気は本来はなかったんだけど、こうして会議に参加できるのは殿下が強硬に言い張ったからなんですよねえ。
 曰く、家の者たちの見ている前でチャットや会議? 会話相手のプライバシーってもんがあるよね、うん君たちの『二階以上』の生活を尊重しない訳ではないから個室を作れなんて命令しないよ、でもそういう設備のない家の子は側近候補にはできないねえ、と。
 家それぞれの『二階以上』に干渉するタブーを犯せるなんてさすが殿下ですが、殿下の介入がなかった場合のウィリアムを想像すると『人目にさらされない友人とのお付き合い』はできなかったでしょうね。今のローズマリーと同じです。
 何が言いたいかっていうと、俺が『運が良い』と言ったのはローズマリーのような、殿下なしのウィリアムのような生徒の方が多数派だからです。こうして『人目にさらされない友人とのお付き合い』が七人揃って可能ってのは、俺的には『運が良い』としか言えないんですわ」

「発言よいです?」
「はい、ケイトさん」
「『アリスさんだけ』って洒落にならないと思うんです。
 学園は公共の場だから、そこでの友人関係は気の抜けないものとなるでしょ。
 まあ私やカタリーナは学園内でも気を抜いて話すこともあるし、こうしたソーシャルネットワークで他の人の目がないときには全力で気を抜くけど、そういうのってローズマリーさんから見ると素行がよろしくない振る舞いみたいですー。
 学園内のカフェテリアは公共の場のうちだし、家に帰る前にゆっくりお茶して話したいねと思っても塔や城は遠いし高いし。あ、高いってお値段がね。
 そんな貴方のために留学生ご用達の地下モールがあるけど、ローズマリーさん的にはそこへの出入りも不良のすることっぽいのよねー。ローズマリーさんだけじゃなくて周りのご学友も同じ。
 つまりローズマリーさんにとってはマジで『アリスさんだけ』な可能性が高く、いなくなったらどうなることやら他人事ながら心配ですー」

「地下モールは学園の衣装のまま行くと別の意味で人目にさらされますからね。
 自分自身を観光資源の一つと割り切って注目されても上等と振る舞うか、二十二世紀の服に着替えて群衆に紛れるか。
 会議室の予約が難しいからこういう密談には向かないにしても、お茶を飲みながらの他愛のないおしゃべりには向いてそうですけどね。問題はモールへの出入りを目撃されてヒソヒソ噂されたり、モール内で身バレして騒がれたりすること。皆が皆フェルゼンのように上手く対応できるとは限らない。どうですか、フェルゼン?」

「呼びましたか?
 ええと、人目を避けての出入り方法や良い着替え場所の情報提供などはある程度できますが、殿下はともかくローズマリー嬢はそういう不良っぽいことに抵抗がありそうです。
 それに、私が群衆に紛れることができるのは殿下ほど顔が売れていないからで、殿下が殿下とバレないようにするには私の変装術くらいでは難しいかと。
 ローズマリー嬢もちょっとやそっとの変装ではバレそうですし、バレる可能性もバレたときのリスクもケイトやカタリーナとは比べものにならない。なので、お忍びで地下モールで交流は、まあ難しいですよ」

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