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第20話「陽菜宛の中身」
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「ただいま」
そういって家に入ると、陽菜が待ってましたとばかりに出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん」
「これ、陽菜宛」
先ほどポストの中で見つけた封筒を手渡す。
「ありがとう、なんだろう?」
不思議そうな顔をしながら、ぺりぺりとセロテープを剥がす。
逆さまにして振ると、何枚かの硬そうな紙が出てきたようだ。
手に取るとまじまじと見ている。
「じゃあ夕飯作ったら呼ぶから」
封筒の中身を確認したのを見届けると、キッチンに向かおうとした。
今まで聞いたことないような鋭い声によって妨げられた。
「待って、お兄ちゃん!」
「どうした?」
「ちょっと話したいことがあるから上来て」
いつになく真剣な表情を見ると、黙って従うしかなかった。
「わかった」
茜に軽く米や調理器具の場所を説明すると、急いで陽菜の部屋まで行く。
さっきは気が付かなかったが、中に入ると明日世界が終わると知ってしまったような顔をしていた。
部屋は昨日聞いた状態が嘘のようにきれいだった。
ただ今の雰囲気から「へ―きれいじゃん」などの軽口を叩いてはいけないことぐらい容易にわかる。
彼女の雰囲気に圧倒されその場で黙ってその場で立っていると、「座れば」と言われたので正座をした。
何も発しないのに、なにかにキレているというのは手に取るように分かった。
ヘビに睨まれたカエルとはこういう状態を言うのだろうか。
こんな不安な気分になるのは、中学の頃生徒指導室に呼び出されて以来だった。
「中見て」
手渡された茶封筒を逆さまにすると、数枚の紙と、猫のおやつが出てきた。
なにか書いてあるのかとひっくり返すと、紙はすべて写真だった。
「これは道を歩いてる俺たち、これはスーパーで首輪で指ひっかけてる俺、楽しそうに一人でお菓子を選んでる茜、あとは……」
最後の1枚を確認したときに絶句した。
「なんで茜の部屋の写真があるんだよ……」
「なんでって私が聞きたいんだけど。どういうこと?」
だいぶ頭にきているようで、力いっぱい机を叩く。
どういうことってむしろこっちが知りたい。
最後のなんかどう見ても盗撮だろ……。
部屋での一連のやり取りがすべて盗撮られていると考えると、一気に血の気が引いた。
「茜ちゃんを飼うとは言ったけど、危険にさらせとか言った覚えはないんだけど」
「わかってる」
「わかってないからこんなになってるんじゃないの?」
やっぱあそこですれ違ったのは冬木だったのか……。
あのタバコの臭いでもしやと思ったが、なぜかこの写真をみたら急に腑に落ちた。
「大丈夫、危害は加えさせない!」
「盗撮されてた人にそんなこと言われても説得力ないんだけど」
「もう犯人の目星ついてるし明日直接会ってくるよ」
完全に拒絶すればあいつだって諦めるはずだ。
「なんて奴?」
「冬木真帆、バイトの同僚」
「ふーん」
気の抜けた返事をするとすごいスピードでスマホをいじり始めた。
二人きりにならないって約束守れそうにないな。
陽菜にもやっぱ伝えたほうがいいんだろうか。
なんて考えていると時折短い質問が飛んでくる。
「髪色は?」
「黒」
ただ自分の部屋が盗撮されていると知ったら正常じゃいられないよな。
てか明日のシフトってどうなってたっけ?
「モデルかなんかしてる?」
「してない。ただここ最近ファッション誌に載ったことがあるとは言ってた」
少し画像フォルダをさかのぼるとシフト表が出てきた。
幸か不幸か明日は二人とも午前のみだった。
「見つけた! これじゃない?」
先ほどよりだいぶ高いテンションで、自分のスマホを見せてきた。
所謂裏垢というやつだろうか、そこには考えるのもおぞましいような投稿に混じって、何枚か今日の盗撮写真も上がっていた。
「ねえそいつのLINE持ってる?」
「あるよ、ほら」
あいつとのトーク画面を立ち上げると、そのまま渡す。
「オッケー」っと言いながら何か打ち始める。
「なに打ってるの?」
「明日デートしようって」
「は?」
予想外の送信内容に思わず素っ頓狂な声が出た。
「大丈夫だよ、お兄ちゃんはデート楽しんできて、これが最後になるから」
これが最後って……。
物騒なことを言うなと思っていると、突然ピコンという通知音がした。
慌てて確認すると、あいつから「楽しみ!」とだけ返信が来ている。
「デートするって」
「ならもう問題ないね」
問題しかないんだが……。
デートしてどう解決しろって言うんだ。
まあ話す機会ができたのはありがたいけど。
「明日どうしたらいいんだ?」
「茜ちゃんがいるからうちではお前のこと飼えないって素直に言いなよ」
そんな金魚みたいな……。
「わかったよ、言ってくる」
「じゃあ明日やることも決まったし、ご飯行こうか」
「そうだな」
もう完成したのだろうか。
緊張のせいで気が付かなかったが、いつの間にか部屋の中においしそうな麻婆豆腐の香りが漂っていた。
「あ、写真は私に返して」
「ん、ああ」
そこらへんに散らばっていた写真やおやつを茶封筒の中に戻すと机の上に置いた。
「写真のこと話したら本気で怒るからね、不安にさせるのは許さない。私のペットでもあるってこと忘れないで」
「……わかってるよ」
「じゃあ行こうか」
そう言って階段を下りる陽菜は、いつも通りの笑みを浮かべていた。
そういって家に入ると、陽菜が待ってましたとばかりに出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん」
「これ、陽菜宛」
先ほどポストの中で見つけた封筒を手渡す。
「ありがとう、なんだろう?」
不思議そうな顔をしながら、ぺりぺりとセロテープを剥がす。
逆さまにして振ると、何枚かの硬そうな紙が出てきたようだ。
手に取るとまじまじと見ている。
「じゃあ夕飯作ったら呼ぶから」
封筒の中身を確認したのを見届けると、キッチンに向かおうとした。
今まで聞いたことないような鋭い声によって妨げられた。
「待って、お兄ちゃん!」
「どうした?」
「ちょっと話したいことがあるから上来て」
いつになく真剣な表情を見ると、黙って従うしかなかった。
「わかった」
茜に軽く米や調理器具の場所を説明すると、急いで陽菜の部屋まで行く。
さっきは気が付かなかったが、中に入ると明日世界が終わると知ってしまったような顔をしていた。
部屋は昨日聞いた状態が嘘のようにきれいだった。
ただ今の雰囲気から「へ―きれいじゃん」などの軽口を叩いてはいけないことぐらい容易にわかる。
彼女の雰囲気に圧倒されその場で黙ってその場で立っていると、「座れば」と言われたので正座をした。
何も発しないのに、なにかにキレているというのは手に取るように分かった。
ヘビに睨まれたカエルとはこういう状態を言うのだろうか。
こんな不安な気分になるのは、中学の頃生徒指導室に呼び出されて以来だった。
「中見て」
手渡された茶封筒を逆さまにすると、数枚の紙と、猫のおやつが出てきた。
なにか書いてあるのかとひっくり返すと、紙はすべて写真だった。
「これは道を歩いてる俺たち、これはスーパーで首輪で指ひっかけてる俺、楽しそうに一人でお菓子を選んでる茜、あとは……」
最後の1枚を確認したときに絶句した。
「なんで茜の部屋の写真があるんだよ……」
「なんでって私が聞きたいんだけど。どういうこと?」
だいぶ頭にきているようで、力いっぱい机を叩く。
どういうことってむしろこっちが知りたい。
最後のなんかどう見ても盗撮だろ……。
部屋での一連のやり取りがすべて盗撮られていると考えると、一気に血の気が引いた。
「茜ちゃんを飼うとは言ったけど、危険にさらせとか言った覚えはないんだけど」
「わかってる」
「わかってないからこんなになってるんじゃないの?」
やっぱあそこですれ違ったのは冬木だったのか……。
あのタバコの臭いでもしやと思ったが、なぜかこの写真をみたら急に腑に落ちた。
「大丈夫、危害は加えさせない!」
「盗撮されてた人にそんなこと言われても説得力ないんだけど」
「もう犯人の目星ついてるし明日直接会ってくるよ」
完全に拒絶すればあいつだって諦めるはずだ。
「なんて奴?」
「冬木真帆、バイトの同僚」
「ふーん」
気の抜けた返事をするとすごいスピードでスマホをいじり始めた。
二人きりにならないって約束守れそうにないな。
陽菜にもやっぱ伝えたほうがいいんだろうか。
なんて考えていると時折短い質問が飛んでくる。
「髪色は?」
「黒」
ただ自分の部屋が盗撮されていると知ったら正常じゃいられないよな。
てか明日のシフトってどうなってたっけ?
「モデルかなんかしてる?」
「してない。ただここ最近ファッション誌に載ったことがあるとは言ってた」
少し画像フォルダをさかのぼるとシフト表が出てきた。
幸か不幸か明日は二人とも午前のみだった。
「見つけた! これじゃない?」
先ほどよりだいぶ高いテンションで、自分のスマホを見せてきた。
所謂裏垢というやつだろうか、そこには考えるのもおぞましいような投稿に混じって、何枚か今日の盗撮写真も上がっていた。
「ねえそいつのLINE持ってる?」
「あるよ、ほら」
あいつとのトーク画面を立ち上げると、そのまま渡す。
「オッケー」っと言いながら何か打ち始める。
「なに打ってるの?」
「明日デートしようって」
「は?」
予想外の送信内容に思わず素っ頓狂な声が出た。
「大丈夫だよ、お兄ちゃんはデート楽しんできて、これが最後になるから」
これが最後って……。
物騒なことを言うなと思っていると、突然ピコンという通知音がした。
慌てて確認すると、あいつから「楽しみ!」とだけ返信が来ている。
「デートするって」
「ならもう問題ないね」
問題しかないんだが……。
デートしてどう解決しろって言うんだ。
まあ話す機会ができたのはありがたいけど。
「明日どうしたらいいんだ?」
「茜ちゃんがいるからうちではお前のこと飼えないって素直に言いなよ」
そんな金魚みたいな……。
「わかったよ、言ってくる」
「じゃあ明日やることも決まったし、ご飯行こうか」
「そうだな」
もう完成したのだろうか。
緊張のせいで気が付かなかったが、いつの間にか部屋の中においしそうな麻婆豆腐の香りが漂っていた。
「あ、写真は私に返して」
「ん、ああ」
そこらへんに散らばっていた写真やおやつを茶封筒の中に戻すと机の上に置いた。
「写真のこと話したら本気で怒るからね、不安にさせるのは許さない。私のペットでもあるってこと忘れないで」
「……わかってるよ」
「じゃあ行こうか」
そう言って階段を下りる陽菜は、いつも通りの笑みを浮かべていた。
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