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①
一年生 4月-1
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――入学式――
それは、一生のうちでそうそう味わえるものではない。
そして覚えているものと限定すると、中学生からギリギリといったところだ。
だからこそ、それは特別なもので、ちゃんと自分の中に刻み込んでいくべきものだ。
しかし、そんな時間の最中に俺はいるが……正直、そんなことはどうでもいい。
それよりも、俺とって重要なのは……
いりかちゃん(10)のことだ――!!
俺は心の中でそう叫ぶ。ああ、そうだ。俺にとってはこんな行事どうでもいい。それよりも、現在風邪で寝込んでいる彼女のほうが心配だ。
やはり、こんなところに来るよりも、いりかちゃんのほうにいったほうがよかったか……。
だが、周りから不審者みたいな目で見られるのは俺としても本意ではなかったし。っく、今からでも救急車を……!
俺は自分でいうのもなんだが――いや、誇って言うことであるが――ロリコンである。
ロリコンとは、紳士の証だ。この世で、もっとも高貴な存在。そして、真実の愛の探究者なのだ。
そう、あの小さなボディのうちに秘められたものにこそ、真実の姿があるのだと俺は思う。
と、いらない話をした。とにかく、今はあの校長の言葉よりも、いりかちゃんのことが心配だ。
というか、うるさいな。黙れ。お前も自分の孫に置き換えて考えてみろ。心配で、こっちのことなんて投げ出したくなるだろ? それと同じだ。いや、それ以上だぞ。
それに、風邪とも限らないのだ。
俺が、風邪と判断したのは、単に一番軽い症状を選んだに過ぎない。もっと重い症状の可能性は十分ある。もしもそうだったなら俺は……
(ふ、好きな人一人を救うこともできないなんて……俺はなんて駄目な奴なんだ)
やはり一人でこの地元の小学校の生徒全員を見るのは、難しいな。もっと仲間が欲しい。
そんなことを考えていると、知らないうちに入学式が終わっていた。
*****
(っち! なんてことだ! 俺としたことが、こんなにも時間を食っちまったぜ!)
まさか、考え事をしてこんなにも時間を取るとは……。いや、ある意味それはいつも通りか。
それよりも、早くいりかちゃんのところに……!
そして走ること数十分。小学校までついた。俺の高校は朝入学式をして、そのまま解散となるため、まだ午前中。いりかちゃんは授業をしているはずだ。
俺は、息を整えた後、小学校の前を通る。このとき、真横の小学校を見て、俺のスーパー・アイ(コ○ン君みたいなメガネにズーム機能がついているアレを装着している)がいりかちゃんを探す。
もちろん最初から、何年何組の何番で、席の位置及び、時間割をすべて頭に叩き込んでいるからこそ、この数秒で見つけることができる。
そして、小学校の前を通り終えて、一つため息を吐く。
……よかった。いりかちゃんはいつもと同じだった。
いりかちゃんは音楽の授業で、リコーダーを吹いていて、思わずリコーダーに嫉妬するほどに、その一生懸命さが伝わって、とても愛らしかった。
ああ……あの数秒の中で見えた、思い通りにいかなくて困った表情とか、もう音まで聞こえてくる勢いだった。おかげで、俺の下半身もビートを刻み始めるところだったぜ。
俺は例のスーパー・アイで使用したメガネをポケットにしまう。そして、再び安堵の溜息を吐く。本当によかった……。
いつもより、登校時間が五分ほど遅く、目測で熱が0.2度ほど高いから、風邪を引いたのかと思っていたぜ……。俺の思い過ごしでよかった……。
(でも、もしもまたいりかちゃんたちに何かあった時、俺には一体、何ができるんだろうな……)
そんなことをふと思うも、その時は深くは考えず、そのまま家に帰ることにした。
*****
俺はついに、高校に入学した。なんとなく、長かったように感じる。まぁ、中学時代にいい思い出なんてほとんどない。そのせいかもな。
それもこれも全部……
「たっくん! 高校入学おめでとう!」
この姉……島抜唯愛のせいだ。
家に帰ると、いきなりそういって俺に抱き付いてくる。最近ではあまりなかったパターンだったため、油断していた。
俺は邪魔な唯愛をどうにか引き離す。
「邪魔、どけろ」
「たっくん! 酷いよ! 私はこんなにも祝福しているのに!」
「言葉は受け取るが、お前はいらん」
こいつは重度のブラコンだ。そのせいで中学時代は苦労した。唯愛が卒業した後も、同じ学年のやつらがからかってきて、とてもウザかった。
そういう意味では、俺にとって中学時代というのは汚点に値する。唯一そうでないのは、ロリというこの世でもっとも高尚な愛を見つけたことくらいだ。
「それと、今どき恥ずかしいから、巧人をたっくんと呼ぶのはやめろ」
そう。俺も高校生だ。中学生なら甘んじて受けてもいいが、もうそんな子供っぽい呼ばれ方はされたくない。
だが、唯愛は不満ありげに反論してくる。
「え~たっくんって可愛いよ? それに私にとって、たっくんはたっくんであってたっくん以外の何者でもないわけで、たっくんという言葉はそれだけでたっくん……」
もう、なにいってるのかわかんねーよ。
俺はたっくんと呼ぶことに関して熱弁する唯愛に対し、ため息を吐く。
とりあえず、玄関にいるのも嫌なので(しかも扉全開)、中に入ろうとする。
「唯愛、邪魔だって」
「お姉ちゃんに邪魔っていうこともないでしょ!」
「いや、実際に邪魔だから」
「たっくん……昔はそんなんじゃなかったのに……。『ぼく、おとなになったら、おねーちゃんとけっこんするんだ!』とか、言ってたのに……!」
「どんだけ前の話だよ」
ついでに、小学校まで遡って考えても、言った記憶はない。
「幼稚園のころ」
「ほんとに、どんだけ前の話だ!」
「年月なんて関係ないんだよ! 言ったこと自体に問題があるんだよ! 既成事実なんだよ!」
「既成事実って……確かにその通りなんだろうが、お前が言うと、変な意味で使ってそうだな」
「そうだよ、既成事実! もう私とたっくんは愛を誓い合った仲なんだから!」
「破棄で」
「そんな!」
「とにかく、家の中に入りたいんだ、どいてくれ」
「あ、そういえばまだここ、玄関だったね。たっくんといるとどこでも楽しく感じるから忘れてたよ。もう、そういうことなら早くいってくれればよかったのに」
最初からそう言っていた。
やっとのことで、玄関から場所を移す。俺はまず、着替えるために部屋に戻ることにした。
「…………」
「…………」
「……なんでついてくる?」
階段を上る途中で、俺は振り返って、唯愛を睨みつける。でも、唯愛それに動じる様子もなく、さも平然と答える。
「だって、服を着替えるんでしょ? だったら、見ないと!」
「……何故?」
聞いても、返答は大体、この顔で想像がつく。それでも質問したは、単にそれをしっかりと言語化した形で知りたいだけ。
「たっくんの裸がみたいからです!」
(おー……俺が思っていたよりも直球できやがったぜ……)
「見られたくないです」
「見せてください!」
「嫌です」
不毛な言い争いを、なぜかお互いに敬語でする。
別に、見られることはどうでもいい。それなら日常茶飯事だ。ただ、部屋に入れるととてつもなく面倒なことになるから、嫌なんだ。
「む~……じゃあ、お姉ちゃんが着替えを手伝うから!」
「一人でできるから」
「で、でも何があるか分からないよ? ほら、高校生だし!」
もう、理論がわからないな。そんなにみたいのか? どうせ、今日も風呂を覗いて来るくせに。
「とにかく、一人だと何かあったときに助けが呼べなくなっちゃうし。私もいたほうがいいと思うよ!」
……駄目だな。今日はいつも以上に面倒くさいことになってる。なんていうか、浮かれている。
うん。たぶん、それも『高校生』になったからだろうな。この制服を着たのを見せたのは、今が初めてだし。朝は唯愛が、生徒会の仕事がどうこうで、俺が家をでるよりもずいぶん前に出たからな。
そうするとたぶん、今日の唯愛を追い払うのは不可能だな。仕方ないか。
俺はため息を吐いて――何だか今日はずいぶんため息を吐いてる気がするが――再び歩き出して、唯愛に言う。
「もう、いいや。部屋に入ってきていいよ」
「……!?」
その言葉を聞いた唯愛は、キラキラとしたまるで欲しいものを見るような目をした。
「たっくん、いいの?」
「いいも何も、お前から言い出したことだろ? 諦めたから。それに……」
そこで一旦言葉を区切り、部屋の前のドアに手をかけたところで、唯愛に目を向けて、笑いかける。
「今日は、特別な日だろ?」
それは、一生のうちでそうそう味わえるものではない。
そして覚えているものと限定すると、中学生からギリギリといったところだ。
だからこそ、それは特別なもので、ちゃんと自分の中に刻み込んでいくべきものだ。
しかし、そんな時間の最中に俺はいるが……正直、そんなことはどうでもいい。
それよりも、俺とって重要なのは……
いりかちゃん(10)のことだ――!!
俺は心の中でそう叫ぶ。ああ、そうだ。俺にとってはこんな行事どうでもいい。それよりも、現在風邪で寝込んでいる彼女のほうが心配だ。
やはり、こんなところに来るよりも、いりかちゃんのほうにいったほうがよかったか……。
だが、周りから不審者みたいな目で見られるのは俺としても本意ではなかったし。っく、今からでも救急車を……!
俺は自分でいうのもなんだが――いや、誇って言うことであるが――ロリコンである。
ロリコンとは、紳士の証だ。この世で、もっとも高貴な存在。そして、真実の愛の探究者なのだ。
そう、あの小さなボディのうちに秘められたものにこそ、真実の姿があるのだと俺は思う。
と、いらない話をした。とにかく、今はあの校長の言葉よりも、いりかちゃんのことが心配だ。
というか、うるさいな。黙れ。お前も自分の孫に置き換えて考えてみろ。心配で、こっちのことなんて投げ出したくなるだろ? それと同じだ。いや、それ以上だぞ。
それに、風邪とも限らないのだ。
俺が、風邪と判断したのは、単に一番軽い症状を選んだに過ぎない。もっと重い症状の可能性は十分ある。もしもそうだったなら俺は……
(ふ、好きな人一人を救うこともできないなんて……俺はなんて駄目な奴なんだ)
やはり一人でこの地元の小学校の生徒全員を見るのは、難しいな。もっと仲間が欲しい。
そんなことを考えていると、知らないうちに入学式が終わっていた。
*****
(っち! なんてことだ! 俺としたことが、こんなにも時間を食っちまったぜ!)
まさか、考え事をしてこんなにも時間を取るとは……。いや、ある意味それはいつも通りか。
それよりも、早くいりかちゃんのところに……!
そして走ること数十分。小学校までついた。俺の高校は朝入学式をして、そのまま解散となるため、まだ午前中。いりかちゃんは授業をしているはずだ。
俺は、息を整えた後、小学校の前を通る。このとき、真横の小学校を見て、俺のスーパー・アイ(コ○ン君みたいなメガネにズーム機能がついているアレを装着している)がいりかちゃんを探す。
もちろん最初から、何年何組の何番で、席の位置及び、時間割をすべて頭に叩き込んでいるからこそ、この数秒で見つけることができる。
そして、小学校の前を通り終えて、一つため息を吐く。
……よかった。いりかちゃんはいつもと同じだった。
いりかちゃんは音楽の授業で、リコーダーを吹いていて、思わずリコーダーに嫉妬するほどに、その一生懸命さが伝わって、とても愛らしかった。
ああ……あの数秒の中で見えた、思い通りにいかなくて困った表情とか、もう音まで聞こえてくる勢いだった。おかげで、俺の下半身もビートを刻み始めるところだったぜ。
俺は例のスーパー・アイで使用したメガネをポケットにしまう。そして、再び安堵の溜息を吐く。本当によかった……。
いつもより、登校時間が五分ほど遅く、目測で熱が0.2度ほど高いから、風邪を引いたのかと思っていたぜ……。俺の思い過ごしでよかった……。
(でも、もしもまたいりかちゃんたちに何かあった時、俺には一体、何ができるんだろうな……)
そんなことをふと思うも、その時は深くは考えず、そのまま家に帰ることにした。
*****
俺はついに、高校に入学した。なんとなく、長かったように感じる。まぁ、中学時代にいい思い出なんてほとんどない。そのせいかもな。
それもこれも全部……
「たっくん! 高校入学おめでとう!」
この姉……島抜唯愛のせいだ。
家に帰ると、いきなりそういって俺に抱き付いてくる。最近ではあまりなかったパターンだったため、油断していた。
俺は邪魔な唯愛をどうにか引き離す。
「邪魔、どけろ」
「たっくん! 酷いよ! 私はこんなにも祝福しているのに!」
「言葉は受け取るが、お前はいらん」
こいつは重度のブラコンだ。そのせいで中学時代は苦労した。唯愛が卒業した後も、同じ学年のやつらがからかってきて、とてもウザかった。
そういう意味では、俺にとって中学時代というのは汚点に値する。唯一そうでないのは、ロリというこの世でもっとも高尚な愛を見つけたことくらいだ。
「それと、今どき恥ずかしいから、巧人をたっくんと呼ぶのはやめろ」
そう。俺も高校生だ。中学生なら甘んじて受けてもいいが、もうそんな子供っぽい呼ばれ方はされたくない。
だが、唯愛は不満ありげに反論してくる。
「え~たっくんって可愛いよ? それに私にとって、たっくんはたっくんであってたっくん以外の何者でもないわけで、たっくんという言葉はそれだけでたっくん……」
もう、なにいってるのかわかんねーよ。
俺はたっくんと呼ぶことに関して熱弁する唯愛に対し、ため息を吐く。
とりあえず、玄関にいるのも嫌なので(しかも扉全開)、中に入ろうとする。
「唯愛、邪魔だって」
「お姉ちゃんに邪魔っていうこともないでしょ!」
「いや、実際に邪魔だから」
「たっくん……昔はそんなんじゃなかったのに……。『ぼく、おとなになったら、おねーちゃんとけっこんするんだ!』とか、言ってたのに……!」
「どんだけ前の話だよ」
ついでに、小学校まで遡って考えても、言った記憶はない。
「幼稚園のころ」
「ほんとに、どんだけ前の話だ!」
「年月なんて関係ないんだよ! 言ったこと自体に問題があるんだよ! 既成事実なんだよ!」
「既成事実って……確かにその通りなんだろうが、お前が言うと、変な意味で使ってそうだな」
「そうだよ、既成事実! もう私とたっくんは愛を誓い合った仲なんだから!」
「破棄で」
「そんな!」
「とにかく、家の中に入りたいんだ、どいてくれ」
「あ、そういえばまだここ、玄関だったね。たっくんといるとどこでも楽しく感じるから忘れてたよ。もう、そういうことなら早くいってくれればよかったのに」
最初からそう言っていた。
やっとのことで、玄関から場所を移す。俺はまず、着替えるために部屋に戻ることにした。
「…………」
「…………」
「……なんでついてくる?」
階段を上る途中で、俺は振り返って、唯愛を睨みつける。でも、唯愛それに動じる様子もなく、さも平然と答える。
「だって、服を着替えるんでしょ? だったら、見ないと!」
「……何故?」
聞いても、返答は大体、この顔で想像がつく。それでも質問したは、単にそれをしっかりと言語化した形で知りたいだけ。
「たっくんの裸がみたいからです!」
(おー……俺が思っていたよりも直球できやがったぜ……)
「見られたくないです」
「見せてください!」
「嫌です」
不毛な言い争いを、なぜかお互いに敬語でする。
別に、見られることはどうでもいい。それなら日常茶飯事だ。ただ、部屋に入れるととてつもなく面倒なことになるから、嫌なんだ。
「む~……じゃあ、お姉ちゃんが着替えを手伝うから!」
「一人でできるから」
「で、でも何があるか分からないよ? ほら、高校生だし!」
もう、理論がわからないな。そんなにみたいのか? どうせ、今日も風呂を覗いて来るくせに。
「とにかく、一人だと何かあったときに助けが呼べなくなっちゃうし。私もいたほうがいいと思うよ!」
……駄目だな。今日はいつも以上に面倒くさいことになってる。なんていうか、浮かれている。
うん。たぶん、それも『高校生』になったからだろうな。この制服を着たのを見せたのは、今が初めてだし。朝は唯愛が、生徒会の仕事がどうこうで、俺が家をでるよりもずいぶん前に出たからな。
そうするとたぶん、今日の唯愛を追い払うのは不可能だな。仕方ないか。
俺はため息を吐いて――何だか今日はずいぶんため息を吐いてる気がするが――再び歩き出して、唯愛に言う。
「もう、いいや。部屋に入ってきていいよ」
「……!?」
その言葉を聞いた唯愛は、キラキラとしたまるで欲しいものを見るような目をした。
「たっくん、いいの?」
「いいも何も、お前から言い出したことだろ? 諦めたから。それに……」
そこで一旦言葉を区切り、部屋の前のドアに手をかけたところで、唯愛に目を向けて、笑いかける。
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