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みんなと相談しましょう

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「・・・つまり、女王は勇者に倒されると?」

話を聞き終わり困惑した表情のまま最初に口を開いたのはネロウだ。

「ううん、もっとひどいの。
私が倒されるだけならまだマシ。魔界は人間界に制圧される。
みんな大変な目に合うのよ」
「にわかには信じがたいですな」
ゴリーヌも腕を組みながら唸るように言った。

「もう一度確認しますが、それは女王様が見た単なる夢ではないのですか?」
いつだって冷静で優秀な鬼の侍女、ノアが聞く。

「いいえ、夢じゃない。現実に起こるの」

いつになく真剣な剣幕のミカエラにノアはまた考え込むように黙った。

「でも、あの弱っちい勇者だよ?
女王どころか俺らともまともに戦えないってのにどうやって倒すのさ」

イルが大きな尻尾をふらふらとさまよわせながら言った。

「さっきネロウも言ってたでしょ?
勇者たちは徐々に仲間を増やしてるって。次に来るときはもう一人増えているの」
「人間が何人増えたって一緒だよ」
アルの言葉にミカエラは首を振る。

「次の仲間は魔法使いなのよ」
「「「魔法使い?」」」

みんなの声が重なる。

「じゃあ、女王と同じ力を持った人間ってことか?」
イルが身を乗り出した聞いてきた。

「私と同じ力ではないわ」
ミカエラは前世の記憶を思い出したながら説明を始めた。

「自分以外の誰かを強くする力って言った方がいいかしら。
魔法で勇者の剣だったり、弓使いの弓を強化するのよ。
その力のおかげで、勇者たちは今までの比にならないくらい強くなるの」

「でも、魔法使いは人間界では生まれてもすぐに殺されるんだろう?」

ゼータの問いに首を振る。

「私のときはそうだったけど、今は違う。
前の魔王が禁忌を破って人間界にちょっかいを出したでしょう?
そのせいで人間たちには共通の敵『魔王』が生まれた。
その魔王を倒すために、魔法使いが必要になったのよ」

ゼータは足を机の上に投げ出し、舌打ちを打つ。
「クソ魔王だった時代のつけが俺らに回ってきてるってことか。
さっさと殺せばよかった」

普段は温厚なネロウも肩をすくめながら言う。
「人間というのは自分勝手な人たちですね。
恐れ迫害していた存在を、次は利用するとは…」

「では、次に勇者が来るときは魔法使いも一緒だと?」
話を戻すようにノアが聞いた。

「そうよ。それで・・・」

その後の展開を思い出し言い淀む。
ううん、こんなとこで怖がってちゃダメ。
これは言わなきゃいけないことだわ。

ミカエラは前を向きなおり、みなに言った。

「アルとイル、あなたたちは大きな怪我をするわ」

その場面を思い出して、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。

魔法使いによって力を伸ばした勇者の剣が、アルの脚を。
弓使いの弓がイルの背中を傷つける。

その傷そのものは重症ではないものの、魔法による効果のせいで2人の治癒能力が損なわれた。
それにより、傷口からばい菌がはいり体調は悪化。最終的には・・・。

ゲーム上は描かれていないが、小説で語られた双子のオオカミの悲惨なその後。
ううん、この2人だけじゃない。
ミカエラは目の前にいる従者たちを見た。

ゲーム上にも『5強』は出てくる。
ラスボスである女王にたどり着く前に倒さないといけない敵。
みな勇者に倒され、悲惨な結末を迎えるのだ。

前世でゲームをプレイしていたときは自分が5強を女王を倒す勇者だった。
でも今は・・・。

ミカエラはいつの間にか拳を強く握っていた。


「怪我しても女王を守ることはできるんでしょ?」

アルとイルはミカエラの言葉に驚くことなく、平気な顔でそう言った。
自分が傷つくことを何とも思わないその姿は魔物らしいものだ。

「女王を守れるならそれでいい」
「俺らは女王様を守るためにいるんだ」

アルとイルの頼もしい言葉にいつものミカエラなら笑っていただろう。
でも、それは以前のミカエラ。
怪我はすることはあれど失うことはないと信じていた頃の彼女だ。

まだみなもそう思っているだろう。
いくら勇者が強くなったって、魔族には勝てない。負けるはずがないって。
でも、それは違う。


「私も最終的には倒される」
「本気で言ってんのか?魔界で誰よりも強い女王が勇者ごときに倒されるって?」
「ええ。逃れられないわ」
「どうして!」
「魔法使いの次は聖女が仲間に入るのよ」
「聖女?」

ミカエラはみなに説明した。
聖女は、治療魔法に特化した魔女のこと。
しかしその能力が治療であることから、昔から人間界でも重宝され保護されてきた存在だ。

その中でも、勇者たちに仲間入りする聖女の治療魔法は別格。
あらゆる傷を治し、体力も回復させる。
そんな彼女が加わったことによって、勇者たちは倒れても何度でも戦えるようになる。

「それが分かっているなら、聖女を狙えばいいのではないですか?」

ネロウが言った。

「ううん、それもできないのよ。
聖女は特別な力に守られて、魔族の攻撃を受けない。
私は元々人間界にいたから私の攻撃だけは効くんだけど、勇者が聖女のそばにいる。
私だけで倒せるか、分からないわ」
「それでも、やっぱり勝算は我らの方にあるのではないですか?」

ゴリーヌの言葉にミカエラはかぶりを振る。

「そうかもしれないわ。でもダメなの。
それでもし私が倒されなくてもみんなが傷つく」
「そんなの当たり前だよ。今までだってオレたちが戦って怪我するくらいあっただろう」
「それとは違うの!今までとくらべものにならないくらいひどい目にあうのよ!」

みんなの『最後の結末』を知っているミカエラは声を荒げた。
初めて見るミカエラの姿に、みな驚く。
いつも笑顔で能天気。そんな彼女が初めて見せる悲痛な表情はその場の全員を黙らせた。

「私はあなたたちを失いたくない。
この場所もあなたたちも、みんな私の宝物なの」

ミカエラの目には涙が溜まって、視界がぼやける。
私は女王。私がみんなを守るの。
そう奮い立たせてみるものの口から出てきたのは女王らしくもない震える声だ。

「あなたたちは私の家族。誰も傷ついてほしくない」

産みの親はいる。でも、それは家族と呼べるものじゃない。
強い魔力を恐れ私を殺そうとした人たちだ。
そんな私にとって目の前のみんなこそが、家族で兄妹で親友だ。

涙は見せたくなくて、うつむいたミカエラにみんなの表情は見えない。
やがて、ノアがため息をつく音だけが広い会議室に響いた。

「女王様は本当に相変わらずのおバカですね。
私たちが傷つかず、勇者から魔界を守る方法なんてないでしょう。
相手は戦いを挑んできているのですよ」

ノアのきつい言葉にミカエラは言い返すこともできない。
誰も傷つかずこの魔界を守る。
そんなことができたらとっくにやっているのだ。

「しかし、そんな女王のわがままを聞くのが私たちの役目。
どうすればいいのか一緒に考えましょう」
「ノア・・・!」

顔を上げると、優しい笑みを浮かべたノアがすぐそばに立っていた。

「女王さまは、俺らと同じ戦闘狂のおバカだと思ってたのになー」
「俺らが傷ついたらって考えるだけでそんなに泣きそうな顔するなんてなー」

アルとイルが私の顔をのぞき込みながら、頬をつついてくる。

「泣いてなんかないわよ」

なけなしの強がりを見せるミカエラに今度はネロウがそっと頭を撫でた。

「綺麗な顔が台無しですよ、女王様。
あなたはあなたらしく笑っていてくれないと」

「考えるのは我らの仕事。
女王さまは能天気にバカなままでいてくださらないと我らも困ってしまいます」

ゴリーヌが大きな身体をかがめて、手の甲に軽いキスを送る。

「仮にも元人間のあんたが俺らのこと家族というなんて、ほんっとあんたは馬鹿だな」

ゼータが私の目に溜まっていた涙を親指でそっと拭った。

「みんなバカバカうるさいわね!
バカな女王に使えるあなたたちは大バカものよ!」

全員を指さしながらそう言うと、みなは魔族らしくにやりと笑い「光栄です女王様」と首を垂れた。


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