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夜になって月が出ても
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「女王、ここに来るなんて珍しいな」
「お!女王元気か?また一戦交えようぜ」
「女王さまー!ぼくもおおきくなったら女王さまみたいになりたーい!」
久しぶりに街へおりたミカエラは、声をかけてくる魔物たちに笑いかけながら挨拶をする。
今ではほとんどの魔物たちはミカエラに好意的で、変に絡んでくれるものはいない。
魔物は血気盛んなものが多いものの、もちろんそうではない者もいる。
そういう者たちは、日常的だった争いごとが減ったことでミカエラに感謝しており、こうして街へ出るとそれを伝えてくる者も多々いる。
アルとイルも女王ほどではないが、魔界ではその名を知らぬものはいないほどの存在である。
いつもは話しかけにくい雰囲気を持っている2人だが、今日はミカエラが隣にいるからか幾分か柔らかい印象だ。
そのせいか、いつもより2人にも話しかける者が多かった。
適当にあしらっていたアルとイルだが、小さいころから知っている顔を見かける。
小太りなおじさんにしか見えないクマの魔物は、アルとイルと目が合うと嬉しそうに話しかけてきた。
「よおアルとイル!見ないうちにまたでかくなったな」
「いつの頃と比べてんのさ」「もう成長期はとっくに終わったよ」
「お前がまだ子犬だった頃から知ってんだぞ」
「犬じゃなくてオオカミだってば」
「今では女王の片腕と言われるまでに大きくなってなー」
「子守の間違いでしょ?」「女王はボクらが守る必要もないよ」
近くで話していたはずのミカエラが、少し先の果物やに入って行った。
それを横目で確認した2人は合図をすることもなく、
「じゃあね」「バイバイ」
とそれぞれ挨拶をしてミカエラが入っていたお店へと向かった。
それを見ていたおやじはふっと笑う。
「ほんとにあいつらは女王様が大好きなんだな」
その声は、店にいた2人の耳には届かなかった。
「女王、勝手に行かないでよ」
「あら。楽しそうに話していたから邪魔しちゃ悪いと思ったの」
もうよかったの?と確認するミカエラに2人は頷いた。
「女王と遊びに来てんだから、他のやつらはいいんだよ」
「そうね、私も他の人たちと長話してしまってごめんね。
今からは私も2人を優先するわ」
ミカエラは売っていた真っ赤な果物を手に取った。
それを人数分買うと「あっちで食べましょう」と2人の腕を取った。
それから3人は日が暮れて月が上っても街を遊び回った。
魔界は、夜になっても人が途切れることはない。
それは昼に活動する魔物と夜に活発になる魔物の両方がいるからだ。
だから魔界は、夜でも街が賑やかだ。
「そろそろ帰る?」
「えーもう?」「まだ遊べるよ」
「もうねむくなってきちゃったの」
ミカエラは他の人間よりもはるかに多くの体力がある。
もしなくなっても自分の魔法で回復させることもできるから、底なしとも言えるのだ。
が、睡眠は別。
普通の人間と同じく、いやもしかしたら普通の人間以上にある程度活動すると眠くなってしまう。
目をこすり始めたミカエラは今にも瞼が重そうだ。
「今日はみんなで森でねむらない?」
アルが提案した。
こんなに楽しい日は久しぶりで、今日という日を終わらせたくなかったのだ。
人狼である2人は野宿にも慣れている。
落ち葉をかきあつめ、そこに身体を沈めて眠るのも気持ちがいい。
「いいわよ」
眠そうな顔をしながらミカエラもアルの提案に頷いた。
そうして3人は今にも眠そうなミカエラを背におぶって森の中に入って行った。
夜の森は静かで、落ち葉を踏みしめる音だけが響いていた。
いい場所を見つけて3人で横になる。
目を開ければ木々の隙間から月の光がきらきらと輝いている。
きっと月が出ていなければ、森の中はお互いの姿も見えないほど真っ暗になっていただろう。
「キレイ」「だね」
真っ先に月を見て感動しそうなミカエラが何も言わないのに不思議に思って横を見た。
さっきまでうとうとしていた瞼は今では閉じられ、スースー寝息を立ている。
「こうしてみるとただの人間の女の子だね」
アルが言った。
「ほっぺなんてつまんだら取れちゃいそうなほど柔らかいのに」
イルがミカエラの頬の柔らかさを確かめるようにつまむ。
ミカエラを見るイルの優しい目に、アルはずっと聞きたかったことを聞いた。
「イルは女王が好き?」
「もちろん。アルの次にだけどね」
「そういう意味じゃなくて…」
「ん?」
「『嫁』にしたい?」
アルの声に答えるように風に揺れた木々がざわざわと鳴った。
「…アルまでそんなこと言うわけ?」
イルは攻めるような口調でそう言う。
でも、アルは答えず質問への答えを待つようにイルの目をじっと見る。
アルはみんなといるときはイルと一緒になって騒いだりわがままを言うことも多いが、イルと2人になるとお兄ちゃんらしい顔に変わる。
イルのことをいつも黙って見守っているけれどアルも、今日ばかりはどう思っているのか確かめたかった。
「はあ」
イルはわざとらしくため息をついて、こう言った。
「…わかんない。でもあの勇者はムカつく」
「そっか」
「でも、女王があいつのこと受け入れるならそれが女王の幸せなら…オレも受け入れたいって思うんだ」
ミカエラを見ながら、小さな声でそう言ったイルに目を見開いたアル。
目を細めると、手を伸ばしてわしゃわしゃとイルの頭を撫でた。
「な、なんだよっ!」
「弟が優しい男に成長して嬉しいんだ」
にこにこ笑いながら頭をなで続けるアルにイルは照れくさそうにしている。
「弟って数分しか変わらないだろ!」
「はは」
一通り笑ったあと、アルは言った。
「まだまだ勇者にはムカつくから、すぐには受け入れられそうにはないけどね」
自嘲気味に言うイルにアルは言った。
「でも、後悔しそうなら言ってよ」
「わかってる。それはアルもね」
「うん…」
2人はまた自分たちの間で寝息を立てるミカエラの顔を見た。
気持ちよさそうに眠っている姿にこちらまで眠くなってくる。
「おやすみ、イル」
「おやすみ、アル」
その寝息に耳をすませながら2人も眠りについた。
「お!女王元気か?また一戦交えようぜ」
「女王さまー!ぼくもおおきくなったら女王さまみたいになりたーい!」
久しぶりに街へおりたミカエラは、声をかけてくる魔物たちに笑いかけながら挨拶をする。
今ではほとんどの魔物たちはミカエラに好意的で、変に絡んでくれるものはいない。
魔物は血気盛んなものが多いものの、もちろんそうではない者もいる。
そういう者たちは、日常的だった争いごとが減ったことでミカエラに感謝しており、こうして街へ出るとそれを伝えてくる者も多々いる。
アルとイルも女王ほどではないが、魔界ではその名を知らぬものはいないほどの存在である。
いつもは話しかけにくい雰囲気を持っている2人だが、今日はミカエラが隣にいるからか幾分か柔らかい印象だ。
そのせいか、いつもより2人にも話しかける者が多かった。
適当にあしらっていたアルとイルだが、小さいころから知っている顔を見かける。
小太りなおじさんにしか見えないクマの魔物は、アルとイルと目が合うと嬉しそうに話しかけてきた。
「よおアルとイル!見ないうちにまたでかくなったな」
「いつの頃と比べてんのさ」「もう成長期はとっくに終わったよ」
「お前がまだ子犬だった頃から知ってんだぞ」
「犬じゃなくてオオカミだってば」
「今では女王の片腕と言われるまでに大きくなってなー」
「子守の間違いでしょ?」「女王はボクらが守る必要もないよ」
近くで話していたはずのミカエラが、少し先の果物やに入って行った。
それを横目で確認した2人は合図をすることもなく、
「じゃあね」「バイバイ」
とそれぞれ挨拶をしてミカエラが入っていたお店へと向かった。
それを見ていたおやじはふっと笑う。
「ほんとにあいつらは女王様が大好きなんだな」
その声は、店にいた2人の耳には届かなかった。
「女王、勝手に行かないでよ」
「あら。楽しそうに話していたから邪魔しちゃ悪いと思ったの」
もうよかったの?と確認するミカエラに2人は頷いた。
「女王と遊びに来てんだから、他のやつらはいいんだよ」
「そうね、私も他の人たちと長話してしまってごめんね。
今からは私も2人を優先するわ」
ミカエラは売っていた真っ赤な果物を手に取った。
それを人数分買うと「あっちで食べましょう」と2人の腕を取った。
それから3人は日が暮れて月が上っても街を遊び回った。
魔界は、夜になっても人が途切れることはない。
それは昼に活動する魔物と夜に活発になる魔物の両方がいるからだ。
だから魔界は、夜でも街が賑やかだ。
「そろそろ帰る?」
「えーもう?」「まだ遊べるよ」
「もうねむくなってきちゃったの」
ミカエラは他の人間よりもはるかに多くの体力がある。
もしなくなっても自分の魔法で回復させることもできるから、底なしとも言えるのだ。
が、睡眠は別。
普通の人間と同じく、いやもしかしたら普通の人間以上にある程度活動すると眠くなってしまう。
目をこすり始めたミカエラは今にも瞼が重そうだ。
「今日はみんなで森でねむらない?」
アルが提案した。
こんなに楽しい日は久しぶりで、今日という日を終わらせたくなかったのだ。
人狼である2人は野宿にも慣れている。
落ち葉をかきあつめ、そこに身体を沈めて眠るのも気持ちがいい。
「いいわよ」
眠そうな顔をしながらミカエラもアルの提案に頷いた。
そうして3人は今にも眠そうなミカエラを背におぶって森の中に入って行った。
夜の森は静かで、落ち葉を踏みしめる音だけが響いていた。
いい場所を見つけて3人で横になる。
目を開ければ木々の隙間から月の光がきらきらと輝いている。
きっと月が出ていなければ、森の中はお互いの姿も見えないほど真っ暗になっていただろう。
「キレイ」「だね」
真っ先に月を見て感動しそうなミカエラが何も言わないのに不思議に思って横を見た。
さっきまでうとうとしていた瞼は今では閉じられ、スースー寝息を立ている。
「こうしてみるとただの人間の女の子だね」
アルが言った。
「ほっぺなんてつまんだら取れちゃいそうなほど柔らかいのに」
イルがミカエラの頬の柔らかさを確かめるようにつまむ。
ミカエラを見るイルの優しい目に、アルはずっと聞きたかったことを聞いた。
「イルは女王が好き?」
「もちろん。アルの次にだけどね」
「そういう意味じゃなくて…」
「ん?」
「『嫁』にしたい?」
アルの声に答えるように風に揺れた木々がざわざわと鳴った。
「…アルまでそんなこと言うわけ?」
イルは攻めるような口調でそう言う。
でも、アルは答えず質問への答えを待つようにイルの目をじっと見る。
アルはみんなといるときはイルと一緒になって騒いだりわがままを言うことも多いが、イルと2人になるとお兄ちゃんらしい顔に変わる。
イルのことをいつも黙って見守っているけれどアルも、今日ばかりはどう思っているのか確かめたかった。
「はあ」
イルはわざとらしくため息をついて、こう言った。
「…わかんない。でもあの勇者はムカつく」
「そっか」
「でも、女王があいつのこと受け入れるならそれが女王の幸せなら…オレも受け入れたいって思うんだ」
ミカエラを見ながら、小さな声でそう言ったイルに目を見開いたアル。
目を細めると、手を伸ばしてわしゃわしゃとイルの頭を撫でた。
「な、なんだよっ!」
「弟が優しい男に成長して嬉しいんだ」
にこにこ笑いながら頭をなで続けるアルにイルは照れくさそうにしている。
「弟って数分しか変わらないだろ!」
「はは」
一通り笑ったあと、アルは言った。
「まだまだ勇者にはムカつくから、すぐには受け入れられそうにはないけどね」
自嘲気味に言うイルにアルは言った。
「でも、後悔しそうなら言ってよ」
「わかってる。それはアルもね」
「うん…」
2人はまた自分たちの間で寝息を立てるミカエラの顔を見た。
気持ちよさそうに眠っている姿にこちらまで眠くなってくる。
「おやすみ、イル」
「おやすみ、アル」
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