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第29話 外に出しておこう
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元々レタスには、眠りを促す成分が入っていると言われている。
ルイスはそれに独自の品種改良を施し、非常に強力な睡眠効果を持つレタスを作り上げたのだった。
「少なくとも朝までは起きないはずだ。邪魔だし、外に出しておこう」
ルイスは巨漢を軽々と持ち上げると、酒場の外の路上にぽいっと捨ててきた。
「ボーマンの身体を、あんなに簡単に……」
「間違いなく百五十キロ以上あるぞ……?」
「あいつ、なんて腕力だよ……」
客たちが息を呑む中、ルイスはまだ動けない様子のビビアンのところへ。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、なんとかね……」
そんな返事がかえってくるが、立ち上がることができないようだ。
ボーマンに投げられたとき、かなり身体を強く打ったのだろう。
骨が折れていてもおかしくない。
戦士の腕力は一般人を遥かに凌ぐ。
しかもただでさえ体格のいいボーマンが、怒りに任せて投げ飛ばしたのだから、打ち所が悪かったら死んでいたかもしれない。
「これを食べるといい」
「……? ブドウ……?」
「ああ。騙されたと思って食べてみてくれ」
周囲からは「こんなときに果物?」「それより早くヒーラーに見せないと」という声が聞こえてくるが、ビビアンは言われた通りそのブドウの粒を口に入れた。
「うまああああああああああああああああああああっ!? 何なんだい、このブドウは!? こんなに美味しいの、今まで食べたことないよ!?」
思わず絶叫するビビアン。
身体は大丈夫なのかと誰もが心配する中、気づけば彼女は立ち上がっていた。
「しかも、身体が痛くなくなった!」
「そのブドウには怪我を治癒する効果があるんだ。名付けてヒールブドウ」
「「「ヒールブドウ」」」
聞き慣れない言葉に誰もが首を傾げる。
「あいつ、本当に何者なんだ……? 謎のカボチャやレタスに、今のブドウ……」
「あの怪力、戦士以外にはあり得ないが……」
「戦士だとしても、何の天職なのかまったく分からん……」
すっかり回復したビビアンが、パンパンと手を叩いて、
「悪いけど、今日はもう店じまいだよ! アンタたち、とっとと帰りな!」
客の退店を促す。
仕方ないか、という顔で客はそれに応じ、残った料理や酒を慌てて胃に流し込んでから店を出ていった。
ルイスもまた彼らと一緒に店を出ようとしたところで、なぜか後ろから服を引っ張られる。
振り返ると、ビビアンがルイスの服を掴んでいた。
「……アンタはいいよ、帰らなくて」
「?」
「助けてくれたお礼もしたいしね。ほら、座りな!」
ビビアンに促され、他の客がいなくなった店内でカウンター席に腰を下ろすルイス。
そして頼んでもいないのに新しいエールが出てくる。
「さっきのお礼! 今日は飲み放題サービスだよ! 好きなだけ飲んでって! もちろん、料理も全部サービスだ!」
「いいのか?」
「いいんだよ! アタシにはこんなことくらいしかできないからね!」
せっかくなので、ルイスはお言葉に甘えることにした。
ビビアンは料理の腕もいいようで、酒に合うような美味い料理がどんどん出てくる。
普段はあまり酒を飲まないルイスなのだが、お陰でかなりお酒が進んだ。
何よりビビアン自身も酒を飲みながら、煽ってくるのだ。
「ははっ、まだまだそんなもんじゃないだろう? アタシはもっといけるよ! さあさあ、遠慮なくじゃんじゃん飲んでおくれ!(この強さ、間違いなく騎士からの鞍替え組の冒険者だよ! 最近増えてるからね、とりわけ優秀な騎士が、自由を求めて冒険者になるってケースがさ! 将来超有望な上に、女と遊びまくってる冒険者連中と違って明らかに真面目そうときた! こんな男、逃すわけにはいかないよ! ここで飲ませまくって酔い潰したら、うちにお持ち帰りして……ふふふっ)」
そんな相手の他意には気づかず、ルイスは促されるままに酒を飲みまくった。
やがて、
「うっぷ……も、もう飲めない……酒豪で知られたこのアタシが……飲み負けるなんて……アンタ、強過ぎるだろ……」
先に酔い潰れたのはビビアンの方だった。
ルイスはそれに独自の品種改良を施し、非常に強力な睡眠効果を持つレタスを作り上げたのだった。
「少なくとも朝までは起きないはずだ。邪魔だし、外に出しておこう」
ルイスは巨漢を軽々と持ち上げると、酒場の外の路上にぽいっと捨ててきた。
「ボーマンの身体を、あんなに簡単に……」
「間違いなく百五十キロ以上あるぞ……?」
「あいつ、なんて腕力だよ……」
客たちが息を呑む中、ルイスはまだ動けない様子のビビアンのところへ。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、なんとかね……」
そんな返事がかえってくるが、立ち上がることができないようだ。
ボーマンに投げられたとき、かなり身体を強く打ったのだろう。
骨が折れていてもおかしくない。
戦士の腕力は一般人を遥かに凌ぐ。
しかもただでさえ体格のいいボーマンが、怒りに任せて投げ飛ばしたのだから、打ち所が悪かったら死んでいたかもしれない。
「これを食べるといい」
「……? ブドウ……?」
「ああ。騙されたと思って食べてみてくれ」
周囲からは「こんなときに果物?」「それより早くヒーラーに見せないと」という声が聞こえてくるが、ビビアンは言われた通りそのブドウの粒を口に入れた。
「うまああああああああああああああああああああっ!? 何なんだい、このブドウは!? こんなに美味しいの、今まで食べたことないよ!?」
思わず絶叫するビビアン。
身体は大丈夫なのかと誰もが心配する中、気づけば彼女は立ち上がっていた。
「しかも、身体が痛くなくなった!」
「そのブドウには怪我を治癒する効果があるんだ。名付けてヒールブドウ」
「「「ヒールブドウ」」」
聞き慣れない言葉に誰もが首を傾げる。
「あいつ、本当に何者なんだ……? 謎のカボチャやレタスに、今のブドウ……」
「あの怪力、戦士以外にはあり得ないが……」
「戦士だとしても、何の天職なのかまったく分からん……」
すっかり回復したビビアンが、パンパンと手を叩いて、
「悪いけど、今日はもう店じまいだよ! アンタたち、とっとと帰りな!」
客の退店を促す。
仕方ないか、という顔で客はそれに応じ、残った料理や酒を慌てて胃に流し込んでから店を出ていった。
ルイスもまた彼らと一緒に店を出ようとしたところで、なぜか後ろから服を引っ張られる。
振り返ると、ビビアンがルイスの服を掴んでいた。
「……アンタはいいよ、帰らなくて」
「?」
「助けてくれたお礼もしたいしね。ほら、座りな!」
ビビアンに促され、他の客がいなくなった店内でカウンター席に腰を下ろすルイス。
そして頼んでもいないのに新しいエールが出てくる。
「さっきのお礼! 今日は飲み放題サービスだよ! 好きなだけ飲んでって! もちろん、料理も全部サービスだ!」
「いいのか?」
「いいんだよ! アタシにはこんなことくらいしかできないからね!」
せっかくなので、ルイスはお言葉に甘えることにした。
ビビアンは料理の腕もいいようで、酒に合うような美味い料理がどんどん出てくる。
普段はあまり酒を飲まないルイスなのだが、お陰でかなりお酒が進んだ。
何よりビビアン自身も酒を飲みながら、煽ってくるのだ。
「ははっ、まだまだそんなもんじゃないだろう? アタシはもっといけるよ! さあさあ、遠慮なくじゃんじゃん飲んでおくれ!(この強さ、間違いなく騎士からの鞍替え組の冒険者だよ! 最近増えてるからね、とりわけ優秀な騎士が、自由を求めて冒険者になるってケースがさ! 将来超有望な上に、女と遊びまくってる冒険者連中と違って明らかに真面目そうときた! こんな男、逃すわけにはいかないよ! ここで飲ませまくって酔い潰したら、うちにお持ち帰りして……ふふふっ)」
そんな相手の他意には気づかず、ルイスは促されるままに酒を飲みまくった。
やがて、
「うっぷ……も、もう飲めない……酒豪で知られたこのアタシが……飲み負けるなんて……アンタ、強過ぎるだろ……」
先に酔い潰れたのはビビアンの方だった。
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