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第二十五話 ミッドランド騎士団
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五十余名からなるミッドランドの精鋭騎士たちが、整備された街道を進んでいた。
煌めく蒼の鎧に身を包む彼らが目指すのは、王都に次ぐ規模を誇る商業都市、フールヤード。
そして都市東部に広がる森の中に発見された、大規模なダンジョンだった。
ダンジョン攻略。
それが今回の遠征の目的だ。
そのために、ミッドランドが誇る騎士団の中でも選りすぐりが集められていた。
そんな精強な戦士たちの中に、一人の小柄な騎士がいた。
端正な唇を引き締め、緊張の面持ちで馬の手綱を握っている。
他の騎士たちに比べると明らかに頼りない様子だが、その身に纏う甲冑には特別優美な装飾が成されていた。
その騎士こそが、ミッドランドの次期国王候補――エルメス=ウィンダム第一皇子であり、この一団を率いる指揮官だった。
「エルメス殿下。もう少々の辛抱です。あと半刻ほどもすれば、フールヤードに到着できるかと思います」
皇子の傍に颯爽と馬を寄せながら、そう恭しく告げてくる青年がいた。
ミッドランド王国でも随一の武功を誇るアルフレイド公爵家。
若くしてその当主の座に就いた、テイール=アルフレイド公爵だ。
そして、エルメスの姉の婚約者でもあった。
騎士団でも並ぶ者のいない実力者で、その幾つもの武勇伝は王都でも有名だ。
ダンジョン攻略の経験も豊富で、さすがに堂々としている。
「それと、あまり緊張なされますな、エルメス殿下。此度の初陣は、確かに我がミッドランドにとって重大な作戦でございます。ですが、このわたくしを初めとする優秀な騎士が数多く参戦しております。まず間違いなく、勝利を収めることができるでしょう」
「……うむ。もちろん、私はそなたらを信頼している。大丈夫だ」
エルメスはテイールの目を見返し、精一杯の力強さでそう頷いた。
ミッドランド王国は現在、国王が不在だった。
エルメスの父親に当たるハルレオス王がつい先日、急死してしまったのだ。
当然、皇位継承権第一位であったエルメスが次の玉座に就くことになる。
だがミッドランドには、「武功」を打ち立てて自らの力を証明した者でなければ、王になることはできないという伝統があった。
そこで急遽、まだ十四歳であった長子のエルメスが、予定を早めて初陣を――それも指揮官という立場で――経験することになったのである。
ただし、現在ミッドランド王国は周辺国と良好な関係を築いている。
いきなり戦争を仕掛ける訳にはいかない。
かと言って、東の大帝国との戦は避けたい。
そのため魔物の討伐など様々な案が検討されていたところへ、フールヤード付近に現れた新しいダンジョンについての情報が入ってきたのである。
ダンジョン攻略に挑んだ冒険者たちの話によれば、その難度はA以上。
それを攻略できれば「武功」としては十分な戦果だ。
「……私は必ずダンジョンを攻略し、亡き父上に誇れるような武功を立ててみせる」
エルメスは自分に言い聞かせるように呟き、手綱を握る拳にぐっと力を入れた。
◇ ◇ ◇
ミッドランドの攻略隊がフールヤードに到着したという情報は、ダンジョン攻略にきた冒険者たちから得ることができた。
せっかく美味しい狩場が見つかったってのに、冗談じゃねぇ。
そんな声が大多数。
まぁ確かに、冒険者たちにとっては迷惑な話だろう。
ダンジョンは一度誰かが攻略すると、自然崩壊してしまう。つまり、死んでしまう。
だから冒険者たちの間では、できる限り長い時間をかけて攻略していくというのが暗黙の了解になっているらしい。
もっとも明確に禁止されているわけでないため、あっさり「核」を奪ってしまっても誰も文句は言えないそうだが。
直前までは駆け込みセールとばかりに毎日大量の冒険者がやってきていたが、攻略隊がフールヤードに到着すると、ばったりと人気が途絶えた。
恐らく、立ち入り禁止などの命令が成されたのだろう。
そして――ついに騎士団がダンジョンへとやってきた。
「向こうはガチで核を奪いにくる。当然、こっちも本気で戦うぞ」
俺はこの数日の間に、魔物やトラップの配置を変更させるなど、冒険者用のダンジョンから、対騎士団用のダンジョンへと改装を終えていた。
当然、宝箱なんていう相手に塩を送るようなまねはしない。
全力で撃退するつもりだった。
先頭の騎士たちがダンジョンの第一層に入ってきた。
どうやら五、六人ほどで一つの隊を成しているようで、幾つかの塊ごとに順次、侵入してきている。
「さて、まずは相手の戦力分析からだ」
こっちの強みは幾つもあるが、その一つは鑑定ができることだ。
下層での全面戦闘までに、相手の戦力を丸裸にするつもりだった。
……さすが、騎士団の精鋭といったところだな。
俺は何人かのステータスを〈鑑定+5〉で調べ、改めて気を引き締める。
そのほとんどが十の後半。
さらに数人に一人は、レベルが二十に達している。
装備している武器や防具の性能も侮れない。
万一あの数で最下層までやってこられると、こちらは一溜りもないだろう。
「確実に戦力を削っていくぞ」
俺は〈念話+6〉を使い、魔物たちへの指示を開始した。
煌めく蒼の鎧に身を包む彼らが目指すのは、王都に次ぐ規模を誇る商業都市、フールヤード。
そして都市東部に広がる森の中に発見された、大規模なダンジョンだった。
ダンジョン攻略。
それが今回の遠征の目的だ。
そのために、ミッドランドが誇る騎士団の中でも選りすぐりが集められていた。
そんな精強な戦士たちの中に、一人の小柄な騎士がいた。
端正な唇を引き締め、緊張の面持ちで馬の手綱を握っている。
他の騎士たちに比べると明らかに頼りない様子だが、その身に纏う甲冑には特別優美な装飾が成されていた。
その騎士こそが、ミッドランドの次期国王候補――エルメス=ウィンダム第一皇子であり、この一団を率いる指揮官だった。
「エルメス殿下。もう少々の辛抱です。あと半刻ほどもすれば、フールヤードに到着できるかと思います」
皇子の傍に颯爽と馬を寄せながら、そう恭しく告げてくる青年がいた。
ミッドランド王国でも随一の武功を誇るアルフレイド公爵家。
若くしてその当主の座に就いた、テイール=アルフレイド公爵だ。
そして、エルメスの姉の婚約者でもあった。
騎士団でも並ぶ者のいない実力者で、その幾つもの武勇伝は王都でも有名だ。
ダンジョン攻略の経験も豊富で、さすがに堂々としている。
「それと、あまり緊張なされますな、エルメス殿下。此度の初陣は、確かに我がミッドランドにとって重大な作戦でございます。ですが、このわたくしを初めとする優秀な騎士が数多く参戦しております。まず間違いなく、勝利を収めることができるでしょう」
「……うむ。もちろん、私はそなたらを信頼している。大丈夫だ」
エルメスはテイールの目を見返し、精一杯の力強さでそう頷いた。
ミッドランド王国は現在、国王が不在だった。
エルメスの父親に当たるハルレオス王がつい先日、急死してしまったのだ。
当然、皇位継承権第一位であったエルメスが次の玉座に就くことになる。
だがミッドランドには、「武功」を打ち立てて自らの力を証明した者でなければ、王になることはできないという伝統があった。
そこで急遽、まだ十四歳であった長子のエルメスが、予定を早めて初陣を――それも指揮官という立場で――経験することになったのである。
ただし、現在ミッドランド王国は周辺国と良好な関係を築いている。
いきなり戦争を仕掛ける訳にはいかない。
かと言って、東の大帝国との戦は避けたい。
そのため魔物の討伐など様々な案が検討されていたところへ、フールヤード付近に現れた新しいダンジョンについての情報が入ってきたのである。
ダンジョン攻略に挑んだ冒険者たちの話によれば、その難度はA以上。
それを攻略できれば「武功」としては十分な戦果だ。
「……私は必ずダンジョンを攻略し、亡き父上に誇れるような武功を立ててみせる」
エルメスは自分に言い聞かせるように呟き、手綱を握る拳にぐっと力を入れた。
◇ ◇ ◇
ミッドランドの攻略隊がフールヤードに到着したという情報は、ダンジョン攻略にきた冒険者たちから得ることができた。
せっかく美味しい狩場が見つかったってのに、冗談じゃねぇ。
そんな声が大多数。
まぁ確かに、冒険者たちにとっては迷惑な話だろう。
ダンジョンは一度誰かが攻略すると、自然崩壊してしまう。つまり、死んでしまう。
だから冒険者たちの間では、できる限り長い時間をかけて攻略していくというのが暗黙の了解になっているらしい。
もっとも明確に禁止されているわけでないため、あっさり「核」を奪ってしまっても誰も文句は言えないそうだが。
直前までは駆け込みセールとばかりに毎日大量の冒険者がやってきていたが、攻略隊がフールヤードに到着すると、ばったりと人気が途絶えた。
恐らく、立ち入り禁止などの命令が成されたのだろう。
そして――ついに騎士団がダンジョンへとやってきた。
「向こうはガチで核を奪いにくる。当然、こっちも本気で戦うぞ」
俺はこの数日の間に、魔物やトラップの配置を変更させるなど、冒険者用のダンジョンから、対騎士団用のダンジョンへと改装を終えていた。
当然、宝箱なんていう相手に塩を送るようなまねはしない。
全力で撃退するつもりだった。
先頭の騎士たちがダンジョンの第一層に入ってきた。
どうやら五、六人ほどで一つの隊を成しているようで、幾つかの塊ごとに順次、侵入してきている。
「さて、まずは相手の戦力分析からだ」
こっちの強みは幾つもあるが、その一つは鑑定ができることだ。
下層での全面戦闘までに、相手の戦力を丸裸にするつもりだった。
……さすが、騎士団の精鋭といったところだな。
俺は何人かのステータスを〈鑑定+5〉で調べ、改めて気を引き締める。
そのほとんどが十の後半。
さらに数人に一人は、レベルが二十に達している。
装備している武器や防具の性能も侮れない。
万一あの数で最下層までやってこられると、こちらは一溜りもないだろう。
「確実に戦力を削っていくぞ」
俺は〈念話+6〉を使い、魔物たちへの指示を開始した。
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