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1章 村編
第4話 カルルと出会った
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それはどこからともなく表れた。
私が開けた祠の中には何もなく、そして閉めようとしたとき。それはすでに私たちの目の前にいた。
前というほど近くではないのだけれども、でもそのモンスターの巨体さからするとすぐ近くみたいなものだろう。
それは巨大なミミズのような姿をしたモンスター。ミミズと違い、口はあるし目もある。皮膚を除けば蛇に近いのだけれども、そのぬめぬめとした皮膚はミミズに近い。
そうミミズ。
大蛇ならまだよかった。
ギャー!
口には出さないけども、私は悲鳴をあげる。
なんでこんなモンスターがこんなところに! なんて気持ち悪い! 私は神様だからすべての生物に等しく平等に接するべきなんだけども、残念ながら虫は無理です!
神殿にいた頃は虫なんていなかったからこそ、この世界で出会った虫は何とも言えない恐怖があった。
思わず虫なんて全滅すれば良いのになんて思ってしまう。
「ひー」
ノア君がモンスターを前に腰を抜かす。
そんなノア君に気づいた私は咄嗟にノア君の前に出て、その巨大なモンスターと向かい合う。
虫は気持ち悪い。でもそれ以上にノア君を危険に晒すわけにはいかないし、傷つけるわけにもいかない。私が悪いのだから。
というよりも、嘘じゃなかったんだ。
よく聞かされた人食いのモンスターはこいつみたいだ。
大人をも呑み込めそうな巨大な口。体長だけで十数メートルはありそうだ。魔法が世間一般的なものでないならば、大人たちでも苦戦しそうな相手。
いや、というよりも勝てなさそう。
まあ、私なら勝てるけどね。
気持ち悪いからむしろ早く殺したい。
「でも」
殺生は良くないし、何よりノア君の前で力を使って良いのかどうか。
出来ることならノア君だけ返して、このモンスターを追い返せたら。
なんて考えていると、目の前のモンスターが動き出した。
ノソノソとこちらとの距離を縮めるが、まだ捕食するには遠い距離だ。頭を上げて、こちらを警戒しているのか眺めてくる。
警戒?
どうして警戒するのだろうか。目の前にいるのは子供二人だというのに。
は! もしや私の溢れんばかりの女神パワーに気づいたとか。そんなわけないか。そんなことあるわけがないか。このモンスターが女神の力を感じ取ったならそれはもはや私でも警戒するべき相手になってしまう。
もっとまじめに考えないと。
でも分かるわけがない。虫が何を考えているかなんか、人間以上に分からない。
「それに、チャンスだ」
私は腰を抜かしているノア君の手を引っ張り、そのまま走り出す。
無駄な殺生はしない。そして逃げれるなら逃げるが勝ち。
警戒しているならば追いかけてこないだろう、なんて安直な考えで私は逃げ出す。
しかし。
モンスターはそんな私たちを追いかけてきた。
「何で!」
何故に警戒していた。
モンスターの考えていることは本当に分からない。
ただ動きは遅いらしく、いやというよりも合わせているのだろうか。そのモンスターと私たちの距離は一向に変わらない。
楽しんでいるのか、それともまだ警戒しているのか。とにかく、私は見慣れた森の場所まで走ると、ノア君を前へ放り投げた。
「ノアは走って逃げて」
「でも」
「良いから!」
私の言葉でノア君は一人で逃げていく。立ち止まった私に合わせて、モンスターは動きを止める。そんなモンスターと私は向き合う。
これで良い。これで。私の興味本位でノア君を危険にさらすわけにはいかない。
それに、ノア君がいなくなることで私は力を使うことができる。
そう力が使える。
聖地というわりに祠しかなく、危険じゃないと思ったら危険なモンスターはいるわ。
全部私が悪いのだけれども、私はモンスターに八つ当たりをしたいと思った。
「それで」
私は言葉が分かるのか分からない相手に聞いてみる。
「祠を開けたからあなたは出たの? それとも何か別の要因? そんだけでかいのだから、少しぐらい知能はないの?」
モンスターはそれに超音波のような甲高い声で何か答えた。
いや、答えた気がするだけなのかもしれない。
モンスターと言えど、言葉が話せるわけではないのか。まあ人間となんら違う口の構造だろうから無理はないのだけれども。
「良いや、とにかくそれよりも」
ノア君が無事なら後は力を使って、モンスターを驚かせて逃げ帰らせたら良いのだから。
それで今回の事件はお終い。
そう思って、私は力を使おうとする。
その瞬間。
私を助けるかのように一人の男性が私とモンスターの間に入って来た。
一瞬何が起きたのか分からなかった。
まさか女神である私が人間に助けられるなど想像もできなかった。
その男性は旅人のような恰好をしていた。大きな杖と鞄を持っている。村では見たことがない。だから村以外から来た人だとは分かる。
「ふせろ!」
その大声と共に男性は何かを展開する。
そう何か。でもそれが何か分かる。魔法だ。
魔方陣らしきものを展開したと思ったら、それは巨大な炎となり、男性の手から放たれた。それはモンスターの体を焼き尽くし、モンスターは悲鳴と共に聖地の奥へと逃げていく。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
どうしてこんなところに大人がいるのか、とか。
それが魔法なのか、とか。
いろいろと思うことはあったけども。
私はとりあえず、男性のもとへかけより。
頭を叩く。
「私の相手を奪うな!」
「え? え?」
それが私と戸惑う男性との出会いだった。
「私が追い返すつもりだったのに」
「そうか。そうか。邪魔してしまったか。でも、大丈夫そうで安心したよ」
男性はカルルと名乗った。
カルルはどうも私の言葉を信じていない様子。そう言って笑う。
子供がモンスターを撃退するなんて、あり得ないだろうから、子供がただ強がっているだけと思っているみたいだ。
なんだろう、この敗北感。
「さてと、あまりこの辺りにはいない方が良いな。手短に、聞きたいのだが。君はこの近くにある村の子か?」
「そうだけども。君は止めて。私にはセレネという名前が」
「それはすまなかった。セレネ。一つ聞きたい。セレネが住む村に何か違和感はないか?」
「違和感?」
「私はそれを調査している」
違和感、違和感。そう言われても、平凡で平和な村としか思わないけども。
なんだろう。隠された秘密でもあるのだろうか。
「そうだ。今回のことは内緒にしてほしい。まあ薄々村の者たちから感づかれているのだが」
「分かったわ。その代わりに私からも良い?」
「どうぞ」
「あなたは、じゃなくてカルルは魔導士なのかしら? つまりは魔導士団の一員ということ?」
「そうだ。それが何か?」
私はカルルに聞いてみる。
「いくつか魔法を使ってみてはくれないかしら?」
「魔法に興味があるのか? でも残念ながら教えることはできないぞ。こんな森の中、ばれる可能性は少ないだろうが、それでも用心に越したことはない」
「別に教わるつもりはないわ。ただ見せてほしいだけ。見せるだけは良いでしょう? さっき私の前で使って見せたのだから」
カルルは私の言葉にふむと考え込む。
「君は歳の割にしっかりしているな。それで、聞きたいのだが、見てどうする? 見るだけで魔法が使えるとでもいうのか?」
「そのつもりだけども」
私の言葉にカルルは笑う。
何だろう。ムカつく。
「はっはっはっ。面白い冗談だな」
「嘘じゃない」
「なら証明してくれないか? さっき見せた炎の魔法を」
「分かった」
カルルが証明しろと言うなら、私は証明してみせよう。
そう思って、後先考えずに、見せることでどうなるのかなどお構いなしに、私はカルルが使っていた魔法と全く同じ魔法を再現させる。
魔方陣の生成、そしてそれは炎に変わり、私の前方の植物を燃やして見せる。真っ黒な黒煙が上がり、植物は消えてなくなり、その後辺りに火が回る。
そう火が回る。
ってギャー!
火事だ! 大変だ!
急いで火のもとへ行き、足で火を消す。危なかった。山火事にでもなれば一大事になる。
そんな中、カルルはずっと目を見開き、私の方を凝視していた。
威力はカルルのに比べてだいぶ弱いが、それでもカルルは驚きの表情が隠せないでいた。
「魔法が使える子供がこんな村にいたなんて」
「驚いた?」
「ああ、驚いた。驚いたとも。それも、見ただけで魔法が使えるなんて、相当な知能がないと不可能だ」
「あなたのことを秘密にする代わりに、私のことも秘密にしてよね。私は平凡にそして平和に村で過ごしたいのだから。魔導士団に入団とかいやよ?」
「ああ、約束しよう」
口約束ではあるが、私はカルルを信用してみたいと思った。
カルルも自身の存在が村にバレることよりも、私を助けることを優先するような男だ。根は相当優しいのだろう。
「そうか、この子が…………」
カルルが聞き取れないほど小さな声で呟く。
私はそれに耳を傾けるも、いまいちよく聞こえなかった。
私が開けた祠の中には何もなく、そして閉めようとしたとき。それはすでに私たちの目の前にいた。
前というほど近くではないのだけれども、でもそのモンスターの巨体さからするとすぐ近くみたいなものだろう。
それは巨大なミミズのような姿をしたモンスター。ミミズと違い、口はあるし目もある。皮膚を除けば蛇に近いのだけれども、そのぬめぬめとした皮膚はミミズに近い。
そうミミズ。
大蛇ならまだよかった。
ギャー!
口には出さないけども、私は悲鳴をあげる。
なんでこんなモンスターがこんなところに! なんて気持ち悪い! 私は神様だからすべての生物に等しく平等に接するべきなんだけども、残念ながら虫は無理です!
神殿にいた頃は虫なんていなかったからこそ、この世界で出会った虫は何とも言えない恐怖があった。
思わず虫なんて全滅すれば良いのになんて思ってしまう。
「ひー」
ノア君がモンスターを前に腰を抜かす。
そんなノア君に気づいた私は咄嗟にノア君の前に出て、その巨大なモンスターと向かい合う。
虫は気持ち悪い。でもそれ以上にノア君を危険に晒すわけにはいかないし、傷つけるわけにもいかない。私が悪いのだから。
というよりも、嘘じゃなかったんだ。
よく聞かされた人食いのモンスターはこいつみたいだ。
大人をも呑み込めそうな巨大な口。体長だけで十数メートルはありそうだ。魔法が世間一般的なものでないならば、大人たちでも苦戦しそうな相手。
いや、というよりも勝てなさそう。
まあ、私なら勝てるけどね。
気持ち悪いからむしろ早く殺したい。
「でも」
殺生は良くないし、何よりノア君の前で力を使って良いのかどうか。
出来ることならノア君だけ返して、このモンスターを追い返せたら。
なんて考えていると、目の前のモンスターが動き出した。
ノソノソとこちらとの距離を縮めるが、まだ捕食するには遠い距離だ。頭を上げて、こちらを警戒しているのか眺めてくる。
警戒?
どうして警戒するのだろうか。目の前にいるのは子供二人だというのに。
は! もしや私の溢れんばかりの女神パワーに気づいたとか。そんなわけないか。そんなことあるわけがないか。このモンスターが女神の力を感じ取ったならそれはもはや私でも警戒するべき相手になってしまう。
もっとまじめに考えないと。
でも分かるわけがない。虫が何を考えているかなんか、人間以上に分からない。
「それに、チャンスだ」
私は腰を抜かしているノア君の手を引っ張り、そのまま走り出す。
無駄な殺生はしない。そして逃げれるなら逃げるが勝ち。
警戒しているならば追いかけてこないだろう、なんて安直な考えで私は逃げ出す。
しかし。
モンスターはそんな私たちを追いかけてきた。
「何で!」
何故に警戒していた。
モンスターの考えていることは本当に分からない。
ただ動きは遅いらしく、いやというよりも合わせているのだろうか。そのモンスターと私たちの距離は一向に変わらない。
楽しんでいるのか、それともまだ警戒しているのか。とにかく、私は見慣れた森の場所まで走ると、ノア君を前へ放り投げた。
「ノアは走って逃げて」
「でも」
「良いから!」
私の言葉でノア君は一人で逃げていく。立ち止まった私に合わせて、モンスターは動きを止める。そんなモンスターと私は向き合う。
これで良い。これで。私の興味本位でノア君を危険にさらすわけにはいかない。
それに、ノア君がいなくなることで私は力を使うことができる。
そう力が使える。
聖地というわりに祠しかなく、危険じゃないと思ったら危険なモンスターはいるわ。
全部私が悪いのだけれども、私はモンスターに八つ当たりをしたいと思った。
「それで」
私は言葉が分かるのか分からない相手に聞いてみる。
「祠を開けたからあなたは出たの? それとも何か別の要因? そんだけでかいのだから、少しぐらい知能はないの?」
モンスターはそれに超音波のような甲高い声で何か答えた。
いや、答えた気がするだけなのかもしれない。
モンスターと言えど、言葉が話せるわけではないのか。まあ人間となんら違う口の構造だろうから無理はないのだけれども。
「良いや、とにかくそれよりも」
ノア君が無事なら後は力を使って、モンスターを驚かせて逃げ帰らせたら良いのだから。
それで今回の事件はお終い。
そう思って、私は力を使おうとする。
その瞬間。
私を助けるかのように一人の男性が私とモンスターの間に入って来た。
一瞬何が起きたのか分からなかった。
まさか女神である私が人間に助けられるなど想像もできなかった。
その男性は旅人のような恰好をしていた。大きな杖と鞄を持っている。村では見たことがない。だから村以外から来た人だとは分かる。
「ふせろ!」
その大声と共に男性は何かを展開する。
そう何か。でもそれが何か分かる。魔法だ。
魔方陣らしきものを展開したと思ったら、それは巨大な炎となり、男性の手から放たれた。それはモンスターの体を焼き尽くし、モンスターは悲鳴と共に聖地の奥へと逃げていく。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
どうしてこんなところに大人がいるのか、とか。
それが魔法なのか、とか。
いろいろと思うことはあったけども。
私はとりあえず、男性のもとへかけより。
頭を叩く。
「私の相手を奪うな!」
「え? え?」
それが私と戸惑う男性との出会いだった。
「私が追い返すつもりだったのに」
「そうか。そうか。邪魔してしまったか。でも、大丈夫そうで安心したよ」
男性はカルルと名乗った。
カルルはどうも私の言葉を信じていない様子。そう言って笑う。
子供がモンスターを撃退するなんて、あり得ないだろうから、子供がただ強がっているだけと思っているみたいだ。
なんだろう、この敗北感。
「さてと、あまりこの辺りにはいない方が良いな。手短に、聞きたいのだが。君はこの近くにある村の子か?」
「そうだけども。君は止めて。私にはセレネという名前が」
「それはすまなかった。セレネ。一つ聞きたい。セレネが住む村に何か違和感はないか?」
「違和感?」
「私はそれを調査している」
違和感、違和感。そう言われても、平凡で平和な村としか思わないけども。
なんだろう。隠された秘密でもあるのだろうか。
「そうだ。今回のことは内緒にしてほしい。まあ薄々村の者たちから感づかれているのだが」
「分かったわ。その代わりに私からも良い?」
「どうぞ」
「あなたは、じゃなくてカルルは魔導士なのかしら? つまりは魔導士団の一員ということ?」
「そうだ。それが何か?」
私はカルルに聞いてみる。
「いくつか魔法を使ってみてはくれないかしら?」
「魔法に興味があるのか? でも残念ながら教えることはできないぞ。こんな森の中、ばれる可能性は少ないだろうが、それでも用心に越したことはない」
「別に教わるつもりはないわ。ただ見せてほしいだけ。見せるだけは良いでしょう? さっき私の前で使って見せたのだから」
カルルは私の言葉にふむと考え込む。
「君は歳の割にしっかりしているな。それで、聞きたいのだが、見てどうする? 見るだけで魔法が使えるとでもいうのか?」
「そのつもりだけども」
私の言葉にカルルは笑う。
何だろう。ムカつく。
「はっはっはっ。面白い冗談だな」
「嘘じゃない」
「なら証明してくれないか? さっき見せた炎の魔法を」
「分かった」
カルルが証明しろと言うなら、私は証明してみせよう。
そう思って、後先考えずに、見せることでどうなるのかなどお構いなしに、私はカルルが使っていた魔法と全く同じ魔法を再現させる。
魔方陣の生成、そしてそれは炎に変わり、私の前方の植物を燃やして見せる。真っ黒な黒煙が上がり、植物は消えてなくなり、その後辺りに火が回る。
そう火が回る。
ってギャー!
火事だ! 大変だ!
急いで火のもとへ行き、足で火を消す。危なかった。山火事にでもなれば一大事になる。
そんな中、カルルはずっと目を見開き、私の方を凝視していた。
威力はカルルのに比べてだいぶ弱いが、それでもカルルは驚きの表情が隠せないでいた。
「魔法が使える子供がこんな村にいたなんて」
「驚いた?」
「ああ、驚いた。驚いたとも。それも、見ただけで魔法が使えるなんて、相当な知能がないと不可能だ」
「あなたのことを秘密にする代わりに、私のことも秘密にしてよね。私は平凡にそして平和に村で過ごしたいのだから。魔導士団に入団とかいやよ?」
「ああ、約束しよう」
口約束ではあるが、私はカルルを信用してみたいと思った。
カルルも自身の存在が村にバレることよりも、私を助けることを優先するような男だ。根は相当優しいのだろう。
「そうか、この子が…………」
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