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第3部 歩く路は笑顔で 余裕を持って進んでいこう

10 ブルラド商会のクソ

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「明日店、見せてくれるのか?」
「ああ、明日はここにきてくれ」
「楽しみ!」
パティ屋のナット達に店の場所を伝えて、パティを30個ほど購入して、率も挨拶をしパン屋に向かった。
「皆さん優しくて気の良い方達ですね」
「そうそう、だからお店続けられて良かった」
「大河さんのお陰ですね」
「大河…パティ…」
「ほら、薄利多売で家族経営…店の危機にたまたま俺がいただけだろ、なら詠斗くんが彼らと最初に会ったんだから詠斗くんのお陰だろう」
「詠斗さんも大河さんもカッコいいです!素敵です、僕も頑張ります」
「えー照れる」
「ん…大河も照れてる…」
「……」
チグリスから言われ大河は無言、どうやら図星を突かれ気まずいようだった。
「あれ?何か揉めてるみたいですね」
キッキの家族やその近隣の人々が細々経営している店先で、キッキの母親や兄と同じ仕事仲間と見知らぬ身なりが少し良い男達とで何やら言い争いをしているようだった…。

「だからこの小麦粉や砂糖や油は、これから私達を雇ってくれる店のオーナーの好意で仕入れた物だから!この辺りの他の商会で買った物じゃないわ!」
「それは無理があるだろう、どうやって仕入れてきたんだ?ここから我々ブルラド商会以外の商店に卸す事が出来るのは1番近い場所で馬車で7日は掛かる筈…」
「それは企業秘密というやつだな」
「あ、た…オーナー!」
ブルラド商会の男達の背後から大河が声を掛ける、キッキや皆はその姿を見てホっとしてブルラド商会に大河達の情報えお渡したくないので、オーナーに切り替えた。
「君が彼らの新しい店のオーナーか…」
「ああ」
ジロジロと上から下まで大河達を眺めフフンと嫌な笑みを浮かべる、大河達からのブルラド商会の印象はここで地に落ちた。
「君、どこの商会の者か分からんがこの《トタラナ村》では、ルールがあるんだよ」
「知ってる、《トタラナ村》で商売をしている店の小麦粉、砂糖、油などは必ずブルラド商会から仕入れなければならない…」
「そうだ、それを破れば罰金が発生する!1,000,000ログを支払ってもうらおうかぁ」
「但し、決められた範囲外の商会からならば仕入れて店でも使える。俺達が仕入れたのは《クイナト》のズィーガー商会からだ」
「はぁ!?馬車で7日かかるんだぞ!馬車で運ぶ手間賃でこちらで購入するよりも高くつく!それを値上げもせずにこの値段で売れる訳ないだろう!?冗談を言うならさらに賠償金を吊り上げるぞ!」
「なら、確認すればいいだろう?どうぞ?」
「ぐ、それは後ほど確認する!それとまだこの店を使うなら今日から60,000ログから80,000ログに引き上げる!払えないならいますぐ出て行って貰う!但し今すぐ借りた当初の状態に戻してからだ!」
「な、そんな!!」
「横暴だ!そんな契約していないぞ!」
「ならば、値上げした分払うんだな!」
ブルラド商会の男達の目が血走りながら唾が飛ばす、キッキ達や他の店の店主たちも次の店があるとは言え家賃の値上げにいますぐの現状復帰をしろという滅茶苦茶な要求に怒り心頭だがそこで静かに大河が動く。
「分かった、いますぐここを引き払う。この建物の中の物は全てキッキ達で用意したものか?」
「うん、皆でお金出して全部買ったの」
「全てパンや焼き菓子を作るのに必要なものだ」
「全部大切な道具だ!」 
「分かった、皆少し待っていていくれ。3人とも行こう、中に入る」
「はい!」
「分かりました!」
「ん…」
「フン、悪あがきか…良いだろう10分待ってやる」
これ見よがしに懐から出した懐中時計の蓋を開き時間を確認する、キッキ達は大河達なら何とかしてくれると希望を託して待つ。

「異世界の洗礼みたいな…こうラノベとかでありそうな…そんなのを見せられて嫌でした…」
「ライトノベルみたいな現実だな…貸し主が借り手の足元を見て脅して値上げしている、こうして目の前で見ていると、胸糞は悪くなる」
「いかに守られた世界で生きていたか…差を見せ付けられた感じがして…なんとも言えない嫌な気分になるなあ」
「ん…」
中に入り手分けして片端から収納していく、きちんと手入れされ丁寧に使われていた物達、それを1つも溢さず全部収納していった。
「道具とか見ていると皆さん大事にしているのが伝わります」
「そうだな、新しい店も大事にしてくれる。自動清掃と浄化魔法を掛ければ…」
「はい、これでいいと思います!」
「戻るか…どんな顔をするかな」

「もうじき10分経つな、フンこの短い時間なんぞで何も出来まい。無駄に時間を取らせおって!更に値上げしてやろうか!」
「終わった。綺麗になってるぞ確認しろ、10分やる」
大河達が店から出てくる手には何もない、おそらく最近評判になっているショルダーバッグの中にでも収納袋があるのだろう、一瞬ブルラド商会の男達は狼狽えるが短い時間では荷物は運べても清掃は出来まいとずかずかずか入っていった。
「大河さん。大丈夫なんですか?」
「ああ、明日新しい店で荷物を渡す。ついでに仮営業でもしてみるか」
「すごく良い店になってますよ!」
「始まるの楽しみですね!僕は率といいます。大河さん詠斗さんと同じ故郷の者です。宜しくお願いします」
率が最後に挨拶すると、キッキが不思議そうな顔をして率の前に立って爪を見ている。
「お姉ちゃん?それともお兄ちゃん?爪素敵!詠斗お兄さんも大河お兄さんも!いいなあー」
「僕はお兄ちゃんだよ、えと…」
「キッキだよ!率お兄ちゃん!」
「キッキちゃんもやってみる?」
「いいの!?やりたい!」
「じゃあ、明日してあげる。あ、せっかくだから制服とかどうですか?」
「いいんじゃないか?」
「なら、ゴーテンさんに…」
「死ぬかもな」
「ですよねー」
率とキッキが嬉しいに笑う、制服もいいかもしれないがこれ以上頼むとゴーテンが本当に過労で倒れてしまうかもと大河と詠斗は思った。
「服…アイツがいるな…詠斗、大河、率…服作れるヤツ知ってる…あと肉…」
「はい、干し肉。チグリス知ってるの?なら頼んでみようか、なら洗濯機とか干したりする物も…」
「後で千眼に聞いて…」
「なんなんだ!何をした!お前達!」
扉が壊れそうな勢いでブルラド商会の男達が出てくる、せっかくの楽しい時間に水を差され、大河達も腹が立った。
『そうじ』
「綺麗になってるだろう、もういいな。契約終了だ」
「信じられん!どんな手を使った!?」
「企業秘密だ、教える必要はない。お引き取り願…いや、こっちが行こう」
「では、みんな明日来てくれ、今日はもうゆっくり休んでく…」
「待った!前回の支払いからの家賃がまだだ!」
「幾らだ?」
「80,000ログだ!」
「おい!まだ支払いから30日経ってないぞ!」
「そうだ!40,000ログが妥当だ!」
「そっちの勝手な都合で払えないで出て行く場合は満額払って貰う決まりだ!」
もう言っている事は滅茶苦茶だが、後には引けないのだろう、とにかく金を頂いていくという執念が伝わってきた。
「そうか、ならこれで」
「あ、な」
大河がコインを投げる、受け取った男の手中には100,000ログコインが輝いていた。
「釣りはいらん、もう2度と彼らに関わるな」
「ふ、フンよかろう!こちらは貸した分の金が回収出来ればよい!行くぞ!」
コインを懐にしまい部下達を引き連れ去っていく、後々彼らはこの時の事を後悔する破目になるの少し先の話し…。
「では、明日」
「待ってます」
「宜しくお願いします」
3人と別れそれぞれの家路に着く前に、皆口々に大河達を称賛し明日からもっと頑張るぞーと気合いを入れた。
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