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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第5話 異世界流夜の過ごし方10

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『ゆき!ほらこっち!』
『兄ちゃん!』
『ほら、大きい貝殻!耳をあててみな』
『……波の音!』
『面白いだろ』
景色が変わる…海の小波と小さい頃の崇幸から離れ、次は10代の崇幸になる。
『ゆき、お前が卒業したら一緒に暮らそうな!沢山稼いでさ家買おう!』
『おう!後3年待っててよ!』
『ああ、お前と酒飲めるまで酒は飲まずに待っとくから!』
また景色が変わる…今度は高校卒業を控えた寒い冬の日、就職が決まって後は引っ越しするだけになったあの日…。

「っつ…!」
崇幸がはっと目覚める、もう30年も前の話し…今でも魘されては嫌な汗をかいて身を起こした。
「はあ、兄ちゃん俺は今でも貴方に囚われている…異世界に来ても貴方が恋しい…」
見慣れぬ家、顔に手を当て涙を溢す、夜は好きじゃない。
何度か死のうとも思った、何故自分が…自分だけが生きているのかと、でも死ねない、虚しい…。
「不老不死ね…あーはは…貴方の記憶、想い出を抱えて生きていく…飽きたら眠れば良いか…舵もいるからな。まだ終われないか」
乾いた笑い、眠いのに眠れない…深いため息が零れ夜はまだ続く…。

「中々いんじゃないかな」
「ん、ゲーム大好き子供部屋じゃん」
「まだまだ色々置こうかな」
図書スペースの隣に薄型テレビとブラウン管テレビを長テーブルに並べ、片落ちデスクトップPCを懐記の家の勉強の上部分を取り外して置く。
引き出しにゲームを並べてしまう、千眼に声が寝ている皆に聞こえないように結果を張って貰いあーでもないこーでもないと配置を変えたりと納得出来る迄やって完成を見届けた懐記も布団に入っていった。
「むふ、よし、いいね!今夜は何のゲームをしようかな。2人もやる?」
「面白そうですね、是非」
「そうだな…」 
「早速ゲーム散らかしているのか?舵」
「散らかしてないよー俺のゲームスペースだよ、どう?」
「俺には分からん」
「えーいいと思うけど。やっぱり寝れなかった?睡眠導入剤ってこの世界ないのかな」
「いいさ、そのうち眠くなるからな」
「なら…座るか?茶でも用意しよう…」
「どうも」
結果を抜け図書スペースに崇幸が入る、満足げにゲームスペースを自慢する舵に呆れ、千眼が自分のソファの隣を指して崇幸が座る、座り心地の良いソファに身を預け千眼が用意する様をぼんやり眺めた。
千華もそうだが地球で存在しない人の形をした美しい生物眼は美しい夜、千華は豪奢な白い花を連想させる、千眼が優雅に茶器を使い魔法で石に火を灯しゆっくりとお湯を沸かしていく。
「眠れないのですか?」
「ああ、元々不眠症気味なんだ」
「人は眠らないと身体に不調が出ると聞いています、神々に頼みましょうか?救世主である主人様なら神々も動きますよ」
「いや、いいんだ。ありがとう、それと主人様って柄ではないんだが…」
「我々は真名の無い主達の名を呼ぶのは難しい…」
「魔王である千歳や舵、主人様たち以外の世界生まれの綴さんなら呼べますが…もしくは仮名ならば…」
「俺や千歳くんは元から真名の無い世界にいたから問題無いみたいだけど」
「そうか、なら仮名…要はあだ名なら良いのかな?」
「ああ…」
「ならゆきと呼んでくれたかゆきだからゆき、主や主人様よりかは良い」
「主人様…ゆきさんが望むなら」
千華が薄く微笑む、千眼が茶葉を茶器に入れ暫く待つ収納からティーカップを4客出して蜂蜜とミルクも置いた。
「さっき飲んだけど千眼さんのお茶美味しいよ」
「緑茶や紅茶も淹れられる…ゆき…どうぞ」
「どうも」
1番最初にミルクと蜂蜜を入れたお茶を崇幸の前に置いてくれる、ミルクティーの様な色合いのお茶を少し猫舌気味の崇幸が冷ましながら1口飲むと程好い温度で飲みやすく一気に飲んでしまった。
「うまいな!」
「お代わりは?」
「ああ、頼む」
「ああ…」
千華と舵にもお茶を渡しまたお湯を湧かしてくれる、蜂蜜の程好い甘さに花の香りと酷のあるミルククセになりそうだった。
「んーミルクと蜂蜜美味しいね」
「ミルクはモギという生き物の物だ…花の香りのするモギのミルクは最上級品とされている…」
「このミルクはここ《不毛の地》に住む少年が飼っているモギのミルクですよ、モギは飼育がとても難しい上に与えられる僅かな負荷でも味を劣化させてしまうのですよ」
「へー明日挨拶に行こう」
「可愛らしい少年ですよ」
「楽しみー」
「ゆき…どうぞ」
「どうも、頂きます」
千眼からお代わりを貰う、やはり崇幸に丁度良い温度だ、ミルクが冷たいのだろうか今度はゆっくりとお茶を飲む。
「ご馳走様」
「ああ…」
茶器を片付け千眼は読書、千華と舵は古いハードでレーシングゲームをしている、それをぼんやりと崇幸は眺めていると何時の間にか眠りに就いていた。
美味しい落ちのお陰か…何か良い香りのする、花…いやもっと清涼感のある香りの何かに寄り掛かって眠る、するすると絹のようなさわり心地の良い感触、いつまでもこうしていたい気分にさせる、その後は夢は見ずに深い眠りへと誘われた…。
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