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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第3幕 第27話 戦闘開始

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「入って来たな」
「暴走飢餓状態ーま、問題なし。こんだけいればねー」
シャチの様な姿から人型へ、白い肌に黒に蒼を含ませた長い髪に濁った薄い碧い瞳の長身の傷だらけの男だった。
「さてガーランバラーダどんなもんだ」
「強いですよ、北海の剣闘士です油断せずに」
「了解!」
ガーランバラーダが右手に大剣、左手には槍…いともたやすくその2つを操る様…余程の怪力を持っているのが伺えるが、口は大きく開き牙をむき出しに涎をボタボタと垂らし、目の前の全てを捕食しようとしていた。


北海の支配者の覇権争いに敗北した現ガーランバラーダの王の第3子、カトゥーシュカ…彼は別に王になりたくは無かった…だがこの争いに立たなければ王の子として恥とされ処刑、王になればガーランバラーダの全ての頂点そして揺ぎ無い地位が約束され、敗北すれば一族を追放される容赦のない種族。
その争いに敗北した…それ自体は仕方のない事…力がない自分の不甲斐無さ、弱さが招いた結果だ。
それに自分のような何の後ろ盾もない側室の子が王位に就いても誰も喜ばないだろう、母を遠い日に亡くし、兄弟は耽々と玉座を狙い、父たる王は酒と肉欲に溺れ権力を振りかざし、陸と空の覇王たるドラゴン達を妬み、病み、最早正気でも無く子らが同士が玉座を求め争う様を見て嗤い、玉座にしがみ付く為に子らに暗殺者を送り込む、そんな暴君たる王を排斥させたい一族の老獪共、うんざりしていたドロドロと淀んだ一族の群れから抜け出し大海原を泳ぐ何者でもない只の個とした在りたい…たが嵌められた兄弟か父か、毒を盛られ卑劣な手を用いられた結果、長兄との王位争いで負けた…。
敗北したカトゥーシュカは自分の全魔力を総動員して転移した場所で暴走飢餓を起こし、渇きと飢えを満たす衝動に駆られて今此処にいた。

「重いな」
ジラが聖剣と魔剣を使い槍と剣を交わし間合いを詰めるが、間合いを詰めた瞬間に蹴りが飛ぶのを間一髪でジラが飛びのき間合いがまた離れてしまう。
「ん~魔法は魔力が無くて使えないって感じかー」
「なら、トラングさん挟み打ちでジラさんに、足は私が」
「おっけ、ジラ行くわ」
「おー頼む、なるべく傷は負わせたくないからな」
『きゅ!』
「来た…」
「グリ君、きゅう来てくれたね。今、3人が彼を止めてくれるから。拘束を頼むよ、なるべく怪我をさせたくないからね」
「うん…」
『きゅ』『ぱしゃ』
グローリーときゅうとふーが結界を破壊され転移魔法で船に到着し、ガーランバラーダを弱らせた後拘束を2名に頼んだ。
ラジカが低い姿勢で足を狙いに行く、トラングが反対側から武器の無力化を狙いジラが正面で剣を振りかざす。
「みんな…ダメ」
グローリーが魔法の気配を感じ声を上げ、3人が一斉に距離を取った。
「雷撃か…」
「それはこちらでその隙に」
ガーランバラーダの周囲に雷撃が奔る、千眼と千華がそれを封じ再度3人で挑む。
「ま、悪いね3対1で」
「なるべく傷を負わせずとの事ですから」
「さっさと終わらせて俺は寝るよ~グリ後は頼むから~」
「いつでも…」
グリが背後で鳥籠の準備をしている、その瞬間大きくガーランバラーダが大きく口を開きトラングの剣を牙で砕き、ラジカを槍で薙ぎ払い槍を捨てジラを風撃で吹き飛ばし、髪を掴みトラングの肩に牙を突き立てた。
「いっつ!あ~最悪!俺喰う側なんだけどー!」
「仕方ない、グリ君トラング君ごと檻の中に…」
「はあ~いた」
「この風撃やばいな、風刃が入っていた」
顔や体に切り傷を受けたジラがすぐに戻り、トラングとガーランバラーダとの間に剣を挟み引き離そうとするが持っていて剣で躱される、トラングの髪を掴んでいる方から頭から血を流すラジカが一撃入れるが蹴りで距離が離れるがすかさずもう一撃入れる。
「グリ!俺達ごと檻に入れろ!」
「ええ!それで動き止めます!」
「あぁ~痛いーうぇ~」
「耐えろ暴君!」
「肩喰われてるーのに~」
「分かった…」
檻の鳥を放ちそのまま4人を呑み込み檻を形成していく、ラジカとジラでトラングを引き離そうとするが飢餓状態で新鮮な血肉…更に牙が食い込んだ。
「いって!あーもう~檻まで入れられて最悪」
「ウ…ガ…コロセ…ス…マナイ…」
「ちょっと牙で俺の肉食いながらそんな事言う~?」
「本能と理性が鬩ぎ合っていますね」
「ケガは治るし喰わせておくか?」
「他人事だと思ってさーあ~もう喰えば」
「ラジカ、ケガ治せよ」
「湶骨いってますね、ジラさんもいまのうちに」
トラングの血肉を啜り涙を流すガーランバラーダ、トラングが受け入れラジカとジラは札で傷を癒しておく。
「あー血足りない、寝ていい?」
「そうですね、そのうち離れるでしょうね」
「こいつの傷も治しておくか…」
「それが良いですね」
「俺のも治しといて~」
「了解」
トラングが貧血でそのまま眠ってしまう、傷を癒しトラングの血肉をすすり飢餓状態を脱したガーランバラーダが正気を取り戻した。
「あ…す、すまない!俺はなんてことを!」
「その話は後で、グリもういいぞー」
「うん」
檻を解いてヒヨコが転がりグリが拾う、千歳が駆け寄よった。
「お疲れ様」
「被害も少なく済みましたね、戻りましょうか」
「そうだね、君も来てもらうよ」
「申し訳ない…」
「それは後でね、トラング君はこちらで…」
「しかし…俺のせいで…運ばせて貰おう…償いも如何様にもする」
「傷は治したし、仕事明けで眠いから寝てるだけだし」
「たまには暴君も痛い目を見てもいいと思いますよ」
「暴君懐記のお酒飲みまくって困らせたからいい…」
ジラとラジカは辛辣に伝えグローリーも頷く、ガーランバルーダは顔を曇らせトラングを抱きかかえた。
「話しをしたいから来てもらえるかな」
「構わないが…良いのか?今の今までこの海…タータイルクッガ殿もいる海で好き勝手な行いをしたが…」
「どう?きゅう?」
『きゅ!』『ぱしゃ』
「……赦して頂けると…感謝する…」
「さ、中に入ろう」
千歳に促され中に入る、飢餓と渇きは収まり傷も癒えたが罪悪感がガーランバルーダの心をどんよりとさせた…。
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