神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

再会願望

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「本当に行くのか?」
「あぁ。ここでやることは終えたからな」
「そうか…」

2人はコーチンの外れに来ている。香織との決闘からひと月経った今、咲良はこれから南の国に向かうので陸はその見送りだ。

「けど国境を越えればそう簡単には会えなくなるからな」
「俺たちは自由な冒険者だ。依頼で色んな所に出向くなら、また会えるさ」
「そう…だな。頑張れよ」
「お互いにな」

陸は本当は咲良に着いて行きたかった。しかし咲良に着いていけば足手纏いになりかねない。それに咲良にも「俺と来るのではなく〈イマジナリー〉を頼む」と言われた。ならば陸は咲良の言葉通り、誰1人欠けることのない様に皆を守ろうと決めた。

「色々世話になったな。咲良のおかげで俺はさらに強くなれた」
「鍛錬は怠るなよ」
「もちろん。いつか咲良に追いついてやるよ」
「そりゃ楽しみだな」

このひと月の間、咲良は様々な事に取り組んだ。
まずは陸の修行だ。正式に暁流の弟子となった陸に魔力と氣の両方を操作できる様に鍛えた。しかし、氣は魔力と違って裏技など無いのでかなり時間が掛かってしまった。
何とか氣を感じることは出来るようになったが魔力と混ぜ合わせる事は全く出来なかった。
暁流の奥義である魔装は魔力と氣を完璧に混ぜ合わせなければならないが、これはとてつもない技術が要求される。いくら咲良が付きっ切りで教えているとはいえ、この短期間では全く進歩しなかった。
なので陸には次会うまでに魔力と氣を同時に使える様になれという課題を出した。

次に鍛治師としての仕事も幾つかこなした。ルーグが流桜の名を広めてくれていたおかげで武器の精製依頼が数十件も舞い込んだ。その中で咲良が面接をして認めたのは数名だけであったが皆満足して帰って行った。
また、王都アムルにいるカゼルからも念話水晶で仕事の依頼を頼まれることがあり、転移風呂敷をフル稼働させることとなった。

カゼルとルーグのお陰で想定した以上に流桜の名は各地に広まっているので、いずれ神器と鉢合う機会も得られるだろう。そう期待せずにはいられなかった。





「これをお前に渡しておく」

咲良は小さな結晶を陸に手渡す。

「これは?」
「名前はまだない。そうだな…危伝結晶とでも名付けるか。それを砕けば陸の居場所が俺に伝わる様になっている」
「俺の居場所が?」
「そうだ。危険が及んだ時に砕けばすぐに駆けつけてやる」
「駆けつけるって……咲良は違う大陸にも行くんだろ?」
「それでもだ。転移結晶の様に便利ではないが無いよりはマシだろ」
「そうか。ならありがたく貰っとくよ」

本来なら念話水晶を陸に渡しておきたいところだが、生憎素材となる水晶が手元になく仕入れる事も出来なかった。念話水晶に使われる水晶は特別な素材なのでそう簡単には手に入らない様だが、今までの経験からかなり重宝される魔道具マジックアイテムなので、手に入れられる時は採算度外視で大量に持っておこうと心に決めていた。
転移結晶はそもそも素材となる魔紅晶を手に入れることが出来ないので作ることは出来ない。


「秀樹達にもよろしく言っておいてくれ」
「分かってるよ」

咲良は〈イマジナリー〉のメンバーには今日コーチンを発つことを伝えていない。理由はただ面倒臭かっただけなのだが。
咲良が発つことを知っているのは陸とフィリス、ルーグの3人だけだ。すでにフィリスとルーグには挨拶を済ませている。

「じゃあそろそろ行くわ」
「おう!またな!」

陸はまるで彼女の様に咲良の姿が見えなくなるまで見守っていた。





「今回はゆっくりと旅を楽しむか」

南の国までは徒歩で3ヶ月の道のりだ。黒竜化で一気に短縮するのが一番速いが今回は敢えて徒歩で行く事にした。
理由は南の国までの道中には小さな村と街があり、経路も幾つか存在する。その村々に寄りながら向かうのも悪くないと思ったからだ。

「アーラン経由でトラスだったな」

トラスは北の国と南の国の国境付近にある街で、アーランはコーチンとトラスの中間地点にある小さな村だ。

咲良はアーランに向けて悠々と歩く。




それからひと月程で咲良はアーランに到着した。その道中あまり語れる様な出来事は起こらなかった。魔物に襲われる事は多々あったが、咲良にとってはどれも記憶に残らないほど弱かった。
数日だけ商人と共に行動し、何度も盗賊を討伐するという出来事もあったが態々語る必要はないだろう。

咲良はアーランで宿を取ると疲れを取るために部屋のベッドに寝転ぶ。
アーランまでは野宿ばかりだったので、フカフカのベッドで眠るのは久しぶりだった咲良は直ぐに夢の中へと旅立った。



ドクンッ


ドクンッ


ドクンッ



寝ているはずの咲良から心臓が鼓動する様な音が聞こえてくる。だが咲良は目を覚まさなかった。
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