神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

護衛報酬

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ハワード家における継承争いが終わった次の日、咲良はギルド本部のグランドマスター、レオの元に訪れていた。

「良くやったの。お主は臨機応変に行動し見事解決してみせた」
「まぁレオの助けもあったがな。それにしても、独自に動いていたという事はやっぱり初めからイレギュラーが起こると分かっていたな」
「はて、それはどうかのぅ」
「食えない爺さんだ。それで…俺はこれで特級になれたのか?」
「もちろんじゃ。13人目の特級冒険者がここに誕生という訳じゃな」

するとレオは咲良に銀色のごつごつとした記号の様な文字が一つ刻まれた指輪を手渡してきた。その文字はアスガルドでは13の意味を持つ。

「これは?」
「それは特級冒険者の証での、そこに刻まれておるのは特級内での今のお主の序列じゃ」
「特級には序列があったのか」
「特級冒険者とは人類の最高戦力じゃが、上には上がいるという事を知ってもらう為に敢えて特級内で序列を決めておる。冒険者とは誰もが高みを目指すものじゃからな」
「特級になっても精進しろという事か。それで、この序列はどうすれば上がるんだ?」
「熟した依頼数や高難度の依頼達成。他にもギルドへの貢献など様々な項目を総じて決めておる」
「なるほど。それは面白そうだな」

何事にも目標というのはあった方が良い。咲良は序列一位になりたいとはそこまで思っていないが上がれば嬉しい事に変わりはない。

「そうじゃ。さっきハワード家の使いが来ておったぞ。報酬を渡したいから来て欲しいとの事じゃ」
「分かった。今から向かう」
「そうするとよい。所でお主はまだアルカナにおるつもりかの?」
「いや、長居をするつもりはない」
「そうか。ならば1つだけ忠告しておこうかの」

レオは何時になく真剣な表情で咲良を見つめる。話し方は古臭いが見た目は30代のエルフなので女性がこの場にいたなら確実に心を奪われていた事だろう。

「特級冒険者とは咲良が思っておる以上に権威がある。特級が与した組織は必ず勝つとまで言われておるからの。だから咲良…これからの判断は今まで以上に気を付けるのじゃ。自身の発言の影響力を甘く見てはいかんぞ」
「そうか…確かに。気を付けよう…ん?ならあいつはどうなる?」

咲良は何か引っかかった様で考え事を始める。

「お主の言うあいつとは椿の事じゃな?今回椿は一時的とはいえ軽はずみな行動で悪党に与した。その罰則は受けなければならぬ」
「ま、それは仕方ないな。そんなに重い罰則なのか?」
「それはいずれお主が罰則を受ければ分かる事じゃ」

レオはにやにやしながら咲良の問いに答えた。

「本当に嫌味な爺さんだ。じゃあ俺はもう行く」
「うむ。おっと重要な事を忘れておった。その指輪を見せればどのギルドからでも儂と連絡が取れるからの」
「覚えておく」

咲良はレオと別れ、受付でステータスプレートを更新し、職業に特級冒険者が加わった事を確認するとハワード邸に向かった。


「咲良さん!お待ちしてました!」
「ちゃんとお礼言ってなかったわね。色々本当にありがとう」

ハワード邸に着くと直ぐにユイルとルーナが出迎えてくれた。ルーナはかなり体調が良くなった様で何とか歩けるまでに回復していた。

「事は片付いたのか?」
「まだですね。やはり第二夫人が悪事に手を染めた事は周りでもかなり問題視されていまして…これからの対応に追われていますよ」
「そうか…という事はユイル、お前はもしかして」
「はい!正式にハワード家の次期当主になりました。全て咲良さんのお陰です!」

事件を解決したのはつい昨日の事であるのに、ユイルは次期当主になっていた。恐らく今回の騒動で現当主クレイダルは責任を取る事になるだろう。なのでその代わりとしてユイルを指名したのだろうが、体調の良くなっているルーナを差し置いて次期当主になるとはユイルも中々の者だ。

「……咲良さんって」

ルーナが咲良に何か違和感を覚えたのか首を傾げる。

「あ、ルーナお嬢様は知りませんでしたね。これが普段の咲良さんなのですよ」
「あら、そっちの方が良いわね。私にもそう接してくれるかしら?」

ルーナの疑問は咲良の話し方にあった。初めてルーナが咲良と会った時は冒険者にも関わらずとても礼儀正しい人だと思っていた。ユイルに友の様に話している所を目の当たりにしてルーナは少し疎外感を感じていた。

「そうか。俺も堅いのは苦手だからな。それにしてもずいぶん回復したな。歩くにはもう少し掛かると思っていたんだが」
「家がこんな状況なのに休んでいられないわ。ユイルのサポートをしてあげないと」
「…ルーナお嬢様…」
「ユイル?これからはお姉さまと呼ぶように言ったはずよ?」
「あ、すみません…ルーナお姉さま」
「よろしい」
「ふっ…仲が良くて何よりだ」

ユイルとルーナを見ていた咲良は地球にいる妹の沙耶の事を思い出した。沙耶は亮太を見限った両親とは違い、いつも後ろを着いてきていた。咲良となった今でも妹に会いたい気持ちは失っていない。

「それで…報酬の件で呼んだんだろう?」
「そうでした!では着いて来てください」

ユイルとルーナに連れられてやってきたのは大きな鉄の扉の前だ。

「ここは宝物庫です。当主様から1つだけ好きな物を持って行って良いと伺っています」
「それは随分太っ腹だな」
「一つと言わず好きなだけ持って行って欲しい所だわ」
「そうですね。咲良さんにはそれだけの恩がありますから」
「1つ貰えるだけでもありがたいさ」

宝物庫はかなり広く、中に入るとあちこちに金色に輝く宝飾が見受けれられた。その他にも歴史的な価値のありそうな品が多数展示されている。

咲良はキョロキョロと見渡しながら何かめぼしい物が無いか探す。咲良にとって宝飾は殆ど価値が無いに等しい。寧ろ実用的な物の方が咲良にとってはありがたい物だ。

奥に進んでいくと咲良はとある場所に意識を奪われた。

「咲良さん?そこは価値があるのかどうか分からない物ばかりですよ?」

咲良がじっと見つめている場所は一見ガラクタ置き場の様だ。そこを見つめる咲良を不思議に思ったユイルは声を掛けるが咲良には届いていないように思える。

肝心の咲良は一直線にそのガラクタ置き場に足を運ぶと大きな木箱に手を突っ込むとガチャガチャと何かを探す。

「あの…」
「何かあるのかしら?」

ユイルとルーナは咲良の奇行に目を丸くして見つめている。

「…あった」

咲良は木箱から何か長い物を引っ張り抜いた。

「あ、それは…」
「懐かしいわねユイル」
「これを知っているのか?」

咲良は引っこ抜いたそれを2人に見せる。それは布に包まれた大剣だった。

「子供の頃ユイルとお父様と釣りに行ったときにその剣を拾ったのよ。正確には釣ったと言うべきかしら」
「懐かしいですね。切れない糸と呼ばれる王糸を使っていたから引き上げられましたが、それでも当時の使用人が総動員したと記憶してます」
「咲良さんはそれが何か知っているのかしら?」
「あぁ…これは俺が今一番欲しい物だ」

咲良が手にした大剣、それはカルバインというクロノス作の神器であった。

「咲良さんが一番欲しいとは…そんな貴重な物なのですか?」
「価値を知る者からすればな。これを貰っても良いか?」
「構いませんが…その剣は何なのですか?」
「私も気になるわ!」

咲良は少し考えてから2人に話すことにした。神器の事を無闇に話す訳には行かないが、譲り受けるのだから2人が知る権利はあるはずだ。

「誰にも話さないなら教えてやる」

咲良の真剣な表情にゴクリと唾を飲み込んだ2人は小さく頷く。

「これは神器と呼ばれる武器だ。魔武器マジックウェポンに近いが性能は天と地ほどの差がある代物でな。扱い方を間違えると町どころか国が滅ぶ危険性もある」

咲良の発言に2人は顔を真っ青に染める。想像以上の危険物に恐ろしくなったのだろう。

「そ…そんな…そんな物が家にあったなんて…」
「俺の旅の目的の一つは神器を集める事だ。間違った使い方をされない為にな」

咲良は敢えて詳しく説明した。2人を信頼しているのも理由の一つだが神器の恐ろしさを分からせる事で口が堅くなるはずだ。その予想は的中しており、脅しが効いたのか「絶対に話すな」という咲良の言葉に2人は人生で最も大きく頷いた。
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