145 / 163
第10章 異世界人と隠された秘密
使用不能
しおりを挟む
「ここか王城…そう言えば来た事なかったな」
咲良は目の前の巨大な建造物を見上げながら呟く。
王都アムルは王城を中心として円形状に広がっている。その王城は王都で一番高く巨大で、中世ヨーロッパ風の造りをしている。
「行きますよ。話は通っているので直接地下へ入ります」
一同はマリアに連れられて王城へと入っていく。門番は2人いたが、マリアの姿を見るとそのまま通してくれた。
中に入って暫く進むと大きな扉が見えてきた。その扉の前には場違いなほど武装した衛兵が数名立っていた。まるで何かを警戒するかのように彼らの目は警戒心で満たされていた。
「ご苦労様です。こちらになります」
1人の衛兵が扉を開けて中に入れてくれた。
「ここは宝物庫か」
「そうです。床の一部が老朽化で崩れたのですが、その奥に巨大な空間が広がっていたのです」
「その入り口がこれか」
「真っ暗で底が見えないね」
宝物庫の中心には直径2m程の穴が開いていた。その穴を覗くも真っ暗で深さは分からないが縄の梯子が下に降りているのでそこまで深くは無いだろう。
「何か異常はありましたか?」
「いえ、理由は定かではありませんが魔物が出てくる気配はありません」
マリアが問うと衛兵が現状を答えてくれた。魔物が穴から出てこなくともその理由が分からない内は警戒を緩められない。
「そうですか。皆さん、覚悟は出来ていますか?」
「分かり切った事を聞くな。さっさと行くぞ」
咲良の言う通り、ソフィ達の目には覚悟が見て取れる。
「心配は無用でしたね。では行きましょう」
「皆さま、お気をつけて!」
周りの衛兵が一斉に敬礼をして咲良達を送り出す。
「ソフィ、ちょっと来い」
「あ…うん」
咲良はソフィを呼び寄せ、横抱きすると穴へと近づいていく。
「え?咲良…」
「俺達は先に行く」
咲良はそう言い残すと穴へと飛び降りた。するとクロも咲良の跡を追っていく。
「きゃあぁー!」
「な、何してんだ坊主ー!」
「ソフィアさん…大丈夫ですかね…」
「全く、本当に非常識な人ですね」
一同は呆れながらも縄の梯子で地下へと入っていく。
ドンッ
ソフィを抱えた咲良は勘で地面に着地した。穴の深さは体感で50m程あり、上を見上げると穴が一番星の様に小さく輝いている。
「はぁ…はぁ…咲良!何するの!」
「梯子で降りている時に狙われる可能性もあるし、何より手っ取り早かっただろ」
「確かに…じゃなくて!先に言ってよ!」
「そう怒るな。それより…真っ暗だと思っていたが案外明るいな」
穴の下には咲良を中心に3本の通路があり、壁は薄緑に輝いている。上までは届かない程度の光なので真っ暗に見えたがこれなら戦闘に支障は無さそうだ。
「そうだね。なんか幻想的…」
「幻想的…か。俺には不気味な場所に見えるね」
(何だ此処は…魔力感知が出来ない。というより魔力が一定の場所より先に行かない)
咲良は魔力感知をして魔物の場所を特定しようとしたが出来なかった。何となく魔物がいる事は分かるのだが魔力による感知は一切出来なかった。
魔力感知は魔力を薄く広げる事によって感知するのだが、この地下では一定距離を超えると魔力操作が一切出来なくなるのだ。恐らくそこから先が帰還者の言っていた魔法が使い得ないエリアなのかもしれない。だが魔力操作まで出来なくなるとは思ってもいなかった。
「お、来たな」
「あなたがあんな無茶するからですよ」
咲良が地下の異様さに気付いた時、マリア達が梯子を使って下に降りてきた。
「それにしても、ここ明るいですね」
サイモンが辺りを見渡しながら呟く。
「そうだな。にしてもどっちに行きゃいいんだ?」
「こっちだな」
ハロルドの問いに咲良は1つの通路を指差して答える。
「なんで分かるんだ?」
「勘ですよ。それに僅かですが痕跡も残っています」
咲良の言う通り1つの通路にだけ微かだが足跡が残っていた。長い間誰も踏み込まなかった為、積もった埃で足跡が残ったのだろう。
「なるほどな。所で坊主、俺にだけ敬語を使われると背中がムズムズするんだが」
「なら遠慮なく。ずっと敬語だったから何となくな」
「あと旦那って呼ぶのも無しで頼むぞ」
「まだ呼んだ事ないだろう。カゼルじゃあるまいし」
「そうだが、坊主は畏まらない方が性に合ってるだろ」
「なんだそれ…俺だって敬う気持ちくらいある」
「雑談はそこまでにしましょう。進みますよ」
マリアの一言で一同は咲良が指差した通路を進みだした。
暫く通路を進んでいると咲良が突然足を止めた。
「どうかしましたか?」
「全員用心しろ…ここから先は魔法が使えなくなる」
咲良が止まったのは魔力操作が出来なくなる一歩手前の場所だ。あと一歩でも踏み出せば魔力は使えなくなるだろう。
「よく分かりますね」
「俺には何も感じないんだが」
「私もです。咲良くんには何か見えているようですね」
マリア達は咲良の事を感心するが、ソフィは咲良ならそれくらい当然だと分かっているので驚く事は無い。クロに関しては咲良の力を熟知しているのでそれ以前の問題だ。
「ではまず私が確認します」
マリアが率先して魔法が使えるかどうか確認しに行く。
「……これは…」
「どうだ?」
「咲良さんの言う通りの様です。魔法が発動しない…というより魔法を発動するための魔力が動かせない感覚です」
「やはりな…」
「なぜここから使えないと分かったのです?」
「それは俺も気になるな」
一同は一斉に咲良を見て説明を求める。
「俺は魔力を体外でも自由に操作出来る。だがここから先に魔力を送る事は出来なかった」
「魔力直接操作ですか!なるほど…そんな高度な技術を使えたとは驚きです」
「それって凄いのか?」
「うーん。確かに私も聞いた事ない技術ですね」
ハロルドとサイモンは魔力直接操作を知らない様だがそれは不思議な事ではない。一般的に魔力とは魔法や魔道具を使う為だけの力だという認識がある。したがって魔力そのものを体外で操作するなど考え付く事も無ければその凄さも理解出来ない。寧ろ魔力直接操作を知っているマリアが珍しいと言える。
「説明はしない。どうせこの先使えないからな」
咲良はそう言いながら一歩踏み出すと体が何かをすり抜けた様な感覚を覚えた。
試しに氷剋を発動してみるも魔力が外に出た瞬間に霧散してしまった。
(奇妙な感覚だな…だが体内の魔力が消えた訳では無さそうだ)
咲良が実験の為に歩きながら色々試した結果、この空間には魔力を霧散させる何かが発生している様に思える。体内の魔力まで霧散させる訳ではないが、内側にも影響はある様で咲良でも体内で操作するのは至難の業だった。
(何とか魔力による身体強化は出来るが霧散してしまうから魔装は出来ないだろう。これは思った以上に厄介だ)
魔装は表面に魔力と氣を纏う技なので、魔力が霧散してしまう今は使う事が出来ない。それはつまり魔力を放出する暁流や神器開放も使えないという事になる。
(今頼れるのは魔力の体内操作による身体強化、そして氣だけという事か)
この先強敵が現れる可能性を考えるとあまりにも心もとない手持ちである。この現状に咲良は眉間に皺を寄せて警戒心を最大に高めた。
咲良は目の前の巨大な建造物を見上げながら呟く。
王都アムルは王城を中心として円形状に広がっている。その王城は王都で一番高く巨大で、中世ヨーロッパ風の造りをしている。
「行きますよ。話は通っているので直接地下へ入ります」
一同はマリアに連れられて王城へと入っていく。門番は2人いたが、マリアの姿を見るとそのまま通してくれた。
中に入って暫く進むと大きな扉が見えてきた。その扉の前には場違いなほど武装した衛兵が数名立っていた。まるで何かを警戒するかのように彼らの目は警戒心で満たされていた。
「ご苦労様です。こちらになります」
1人の衛兵が扉を開けて中に入れてくれた。
「ここは宝物庫か」
「そうです。床の一部が老朽化で崩れたのですが、その奥に巨大な空間が広がっていたのです」
「その入り口がこれか」
「真っ暗で底が見えないね」
宝物庫の中心には直径2m程の穴が開いていた。その穴を覗くも真っ暗で深さは分からないが縄の梯子が下に降りているのでそこまで深くは無いだろう。
「何か異常はありましたか?」
「いえ、理由は定かではありませんが魔物が出てくる気配はありません」
マリアが問うと衛兵が現状を答えてくれた。魔物が穴から出てこなくともその理由が分からない内は警戒を緩められない。
「そうですか。皆さん、覚悟は出来ていますか?」
「分かり切った事を聞くな。さっさと行くぞ」
咲良の言う通り、ソフィ達の目には覚悟が見て取れる。
「心配は無用でしたね。では行きましょう」
「皆さま、お気をつけて!」
周りの衛兵が一斉に敬礼をして咲良達を送り出す。
「ソフィ、ちょっと来い」
「あ…うん」
咲良はソフィを呼び寄せ、横抱きすると穴へと近づいていく。
「え?咲良…」
「俺達は先に行く」
咲良はそう言い残すと穴へと飛び降りた。するとクロも咲良の跡を追っていく。
「きゃあぁー!」
「な、何してんだ坊主ー!」
「ソフィアさん…大丈夫ですかね…」
「全く、本当に非常識な人ですね」
一同は呆れながらも縄の梯子で地下へと入っていく。
ドンッ
ソフィを抱えた咲良は勘で地面に着地した。穴の深さは体感で50m程あり、上を見上げると穴が一番星の様に小さく輝いている。
「はぁ…はぁ…咲良!何するの!」
「梯子で降りている時に狙われる可能性もあるし、何より手っ取り早かっただろ」
「確かに…じゃなくて!先に言ってよ!」
「そう怒るな。それより…真っ暗だと思っていたが案外明るいな」
穴の下には咲良を中心に3本の通路があり、壁は薄緑に輝いている。上までは届かない程度の光なので真っ暗に見えたがこれなら戦闘に支障は無さそうだ。
「そうだね。なんか幻想的…」
「幻想的…か。俺には不気味な場所に見えるね」
(何だ此処は…魔力感知が出来ない。というより魔力が一定の場所より先に行かない)
咲良は魔力感知をして魔物の場所を特定しようとしたが出来なかった。何となく魔物がいる事は分かるのだが魔力による感知は一切出来なかった。
魔力感知は魔力を薄く広げる事によって感知するのだが、この地下では一定距離を超えると魔力操作が一切出来なくなるのだ。恐らくそこから先が帰還者の言っていた魔法が使い得ないエリアなのかもしれない。だが魔力操作まで出来なくなるとは思ってもいなかった。
「お、来たな」
「あなたがあんな無茶するからですよ」
咲良が地下の異様さに気付いた時、マリア達が梯子を使って下に降りてきた。
「それにしても、ここ明るいですね」
サイモンが辺りを見渡しながら呟く。
「そうだな。にしてもどっちに行きゃいいんだ?」
「こっちだな」
ハロルドの問いに咲良は1つの通路を指差して答える。
「なんで分かるんだ?」
「勘ですよ。それに僅かですが痕跡も残っています」
咲良の言う通り1つの通路にだけ微かだが足跡が残っていた。長い間誰も踏み込まなかった為、積もった埃で足跡が残ったのだろう。
「なるほどな。所で坊主、俺にだけ敬語を使われると背中がムズムズするんだが」
「なら遠慮なく。ずっと敬語だったから何となくな」
「あと旦那って呼ぶのも無しで頼むぞ」
「まだ呼んだ事ないだろう。カゼルじゃあるまいし」
「そうだが、坊主は畏まらない方が性に合ってるだろ」
「なんだそれ…俺だって敬う気持ちくらいある」
「雑談はそこまでにしましょう。進みますよ」
マリアの一言で一同は咲良が指差した通路を進みだした。
暫く通路を進んでいると咲良が突然足を止めた。
「どうかしましたか?」
「全員用心しろ…ここから先は魔法が使えなくなる」
咲良が止まったのは魔力操作が出来なくなる一歩手前の場所だ。あと一歩でも踏み出せば魔力は使えなくなるだろう。
「よく分かりますね」
「俺には何も感じないんだが」
「私もです。咲良くんには何か見えているようですね」
マリア達は咲良の事を感心するが、ソフィは咲良ならそれくらい当然だと分かっているので驚く事は無い。クロに関しては咲良の力を熟知しているのでそれ以前の問題だ。
「ではまず私が確認します」
マリアが率先して魔法が使えるかどうか確認しに行く。
「……これは…」
「どうだ?」
「咲良さんの言う通りの様です。魔法が発動しない…というより魔法を発動するための魔力が動かせない感覚です」
「やはりな…」
「なぜここから使えないと分かったのです?」
「それは俺も気になるな」
一同は一斉に咲良を見て説明を求める。
「俺は魔力を体外でも自由に操作出来る。だがここから先に魔力を送る事は出来なかった」
「魔力直接操作ですか!なるほど…そんな高度な技術を使えたとは驚きです」
「それって凄いのか?」
「うーん。確かに私も聞いた事ない技術ですね」
ハロルドとサイモンは魔力直接操作を知らない様だがそれは不思議な事ではない。一般的に魔力とは魔法や魔道具を使う為だけの力だという認識がある。したがって魔力そのものを体外で操作するなど考え付く事も無ければその凄さも理解出来ない。寧ろ魔力直接操作を知っているマリアが珍しいと言える。
「説明はしない。どうせこの先使えないからな」
咲良はそう言いながら一歩踏み出すと体が何かをすり抜けた様な感覚を覚えた。
試しに氷剋を発動してみるも魔力が外に出た瞬間に霧散してしまった。
(奇妙な感覚だな…だが体内の魔力が消えた訳では無さそうだ)
咲良が実験の為に歩きながら色々試した結果、この空間には魔力を霧散させる何かが発生している様に思える。体内の魔力まで霧散させる訳ではないが、内側にも影響はある様で咲良でも体内で操作するのは至難の業だった。
(何とか魔力による身体強化は出来るが霧散してしまうから魔装は出来ないだろう。これは思った以上に厄介だ)
魔装は表面に魔力と氣を纏う技なので、魔力が霧散してしまう今は使う事が出来ない。それはつまり魔力を放出する暁流や神器開放も使えないという事になる。
(今頼れるのは魔力の体内操作による身体強化、そして氣だけという事か)
この先強敵が現れる可能性を考えるとあまりにも心もとない手持ちである。この現状に咲良は眉間に皺を寄せて警戒心を最大に高めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,555
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる