神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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過去章 恐怖と成長

強行作戦

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「お久しぶりです秀樹先輩!」

コーチンに向かうことが決まり、マッドと今後の方針を話してから祐介のいる集落に向かうと、向こうから声をかけてきたので探す手間が省けた。

「そうだな。修行ばかりでほとんど会う機会がなかったからな」
「志保は来ますかね?」
「来てもらわないと困る」

当然というべきか、祐介も志保の現状は聞かされているので、やはり心配なようだ。

その後、志保がいる集落へと足を運び、志保が籠っている部屋の扉をノックする。

「志保?秀樹だ」
「…なんですか?」

返事は返ってきたが、その声は生気の感じられないとても弱々しいものだった。

「俺たちは冒険者登録の為にコーチンって街に行く」
「…そうですか」
「もしかするともうこの集落には戻らないかもしれない」
「どうして!?」

急に大声を出し取り乱す様から、志保の精神は当初よりもさらに壊れている様に思える。

志保の集落に向かう間、秀樹達はマッドと祐介を鍛えたコロナと言う女性とコーチンに着いて冒険者登録をし終えた後の事を話していた。
その結果、秀樹たちは集落を出てコーチンに留まることになった。いつまでもマッドたちの世話になるわけにも行かない。異世界で生きる為の最低限の力はこの半年で手に入れたが生活力は皆無に等しい。なのでコーチンで自分達だけで生活することを決めた。

「この世界で生きて行く為に、地球に帰るために、俺たちは先に進む」
「ここにいればいいじゃないですか!きっと誰かが助けてくれますよ!」
「甘えるな!」

秀樹は声を荒げる。

「いつまでもユニさんが面倒を見てくれるとでも思っているのか?」

ユニとはこの半年間、志保の面倒を見てくれたマッドの仲間の1人だ。

「マッドさんやユニさん、コロナさんだって俺たちの為に態々この集落に留まってくれてるだけだ」

マッド達3人の本業は冒険者だ。いつまでもここに留まることはない。

「俺も正直怖い。自分達だけで生きて行けるのか不安だ。でも気付いたんだ。このままじゃ何も変わらない」
「……………」

志保からの返事はない。

「俺はこの半年で強くなった」
「そうだぜ志保!俺と秀樹先輩は結構強くなったんだぜ!」
「…そう…なんだ…」
「なぁ志保、お前がそこから出ないならそれでいい。俺たちだけでコーチンに行く」

秀樹は志保に突き放す様な言葉を投げかける。

「え?…そんな…私を置いて行くの?」

志保はかなり衝撃的だったのか扉を通しても分かるほど取り乱してる。

「俺たちと来るか、ここに残るか、どっちか選べ」
「そ、そんな…」
「ちなみにだが、俺たちがコーチンに着いたらマッドさん達もこの集落を出るそうだ。と言うことは、世話をしてくれる人もいなくなるってことだ」

もちろん集落にも人はいるが、その人達が志保の面倒を見る道理はない。

「なんでそんな急に…」
「異世界に来てもう半年だ。急なんかじゃない」
「一緒にコーチンに行こうぜ志保!」
「いやだ、いやだいやだいやだ!」

志保はまるで子供に戻ったかの様に駄々を捏ねる。いや、ショックから本当に子供の精神になってしまったのかもしれない。

「……そうか…分かった。ならここにいろ。誰も居ないがな…いくぞ祐介」
「え?あ、はい」

秀樹と祐介はその場を後にする。
扉の奥から志保のすすり泣く声が聞こえて来た。

「これでよかったんですかね?」

家を出ると、少しキツく言いすぎたのではと祐介は少し心配なようだ。

「けどあれくらいじゃなきゃ志保も考えを変えてくれねぇだろ」
「そっすね…裏目に出ない限りは」
「ま、信じるしかないさ」
「ですね」
「さ、一先ず出発の準備だ」



その日の午後、志保がいる集落の入り口に秀樹、祐介、マッド、コロナ、ユニが集まっている。

「志保は結局出てこなかったわ」

ユニが残念そうに言う。

「しゃーねー。お前らをコーチンに送った後にまたしばらく面倒見てやるよ。といってもずっとは無理だけどな」
「その時はまたコーチンから戻って来てなんとかしますよ」
「そうするしかなさそうね」
「ほんとすみません」

秀樹と祐介は頭を下げる。

「いいのよ、気にしないで」
「そうよ、秀樹と祐介がしっかり自立できるようになれば解決する話じゃない」

コロナとユニがフォローしてくれる。

「ですね。頑張りましょう秀樹先輩!」
「そうだな!」

そしてコーチンに向けて出発しようとした時…

「まってぇー!」

後ろから声が聞こえて来た。

「志保!」

祐介が叫ぶ。

「ハァハァハァハァ…私も…連れていって…」

志保が息を切らしながら走って来た。

「やっと決心がついたか」
「私を置いていかないで!1人になったらどうやって生きていけばいいのか分からない!」

(((((そっちか!!)))))

全員の意見が一致した瞬間だった。

「ま、まぁ何はともあれ部屋を出て来たのに変わりはないからな」

この世界で生きていく決心ではなく、単に世話をして欲しいという理由に呆れるマッドだったが、結果オーライだと割り切った。

「さて、全員揃ったわけだしコーチンに行くとしますか」
「コーチンってどれくらいで着くんですか?」

祐介が今更だが最もな質問を投げかける。

「生憎徒歩だからな。ここからだと2週間ってとこだな」
「そ!そんなにこんな危ない世界を歩くんですか!?」

志保が世界の終わりの様な表情を浮かべる。

「まぁまぁそう悲観にならないの!私たちがついてるじゃない。それに秀樹や祐介もいるしね」

ユニが志保を慰める。

「でも2週間も歩くなんて…」

仕方ないとはいえ、志保はこの半年で中々面倒臭い性格に変わってしまった様だ。

「なら1人で残るか?」
「それはいやっ!」

志保は必死で拒否する。

「そうか。よし出発だ」

こうして一同はコーチンに向けて旅立った。



はずなのだが…


出発早々志保がしんどいだの、帰りたいだの駄々をこねた。

(本当に子供だな…)

そう思う一同であった。
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