神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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過去章 恐怖と成長

雪辱ノ狼

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「秀樹!そっちに行ったぞ!やれ!」
「はい!」

秀樹は得物の大剣を振りかざし目の前のゴブリンを一刀する。

「よーし。片付いたな」
「秀樹も祐介も慣れて来たわね」

コロナが2人を褒める。


一同が旅をして1週間が経過した。
その道中で遭遇する魔物の内G級とF級、たまにE級を秀樹と祐介は戦闘に慣れるために相手をしていた。
志保は常にユニが守っている。

「とはいえまだまだだな。2人とも単独だとE級がギリギリだからな」
「そうね、せめてD級を相手にできないと」

実際のところ、秀樹と祐介はこの半年の訓練でD級を相手にできる実力は身につけていた。だが、命をかけた戦いはまだ慣れておらず、身体が強張って本来の実力が出せずにいた。

「やっぱり魔物とはいえまだ抵抗が…」
「ですよね…地球じゃこんなのありえないし」

秀樹と祐介はゴブリンを討伐したばかりなので表情が少し強張っている。

「それでも慣れろ。じゃなきゃこの世界じゃ生きて行けねぇぞ」

マッドが喝を入れる。

「わかってます。コーチンに着くまでにはなんとかしてみせます」
「次からはお前らに任せる魔物を増やすからな」
「「はい!」」

2人は揃って気合いを入れる。

「その意気よ!」

ユニが微笑みながら答え、チラリと後ろを見る。

(はぁ…この子はまるで変わらないわね。いい刺激になると思ったのだけど…)

ユニの後ろで常に守られながら未だに現実から目をそらす志保に呆れ、溜息をつき、ユニの表情に気付いたマッドが苦笑いを浮かべる。




そしてコーチンまで残り僅かとなった時、秀樹たちはある魔物と遭遇した。
狼の姿をした魔物、死骨狼だ。

「あ、あいつは…」
「そ、そんな…」

秀樹と祐介はあの時の恐怖が甦ったのか、無意識のうちにジリジリと後退する。

「逃げるな!」

ビクッ!

マッドの怒鳴り声で2人は我にかえる。

「乗り越えろ!今は俺たちがいる!」
「そうよ!しっかりしなさい!」
「今のあなた達はあの頃とは違うのよ!」

マッドとコロナ、ユニが励ましの声を掛ける。
それが効いたのか2人の表情は引き締まった。
どうやら覚悟を決めたようだ。

「そうだ!それでいい!」
「奴らは3体。あなた達2人で1体を相手しなさい」
「やるぞ祐介!」
「もちろんです!俺たちは強くなったんだって所を見せてやる!」

2人は死骨狼に向かって突っ込んでいく。
残りの2体はマッドとコロナが引き付けてくれており、ユニは今までと変わらず志保の前に立っている。
その志保はというと、死骨狼を見た時から放心状態で、その場に泣き崩れている。

「志保!しっかりなさい!仲間が恐怖を乗り越えようとしているのよ!ちゃんと見ておきなさい!」

ユニが志保を怒鳴りつけるが志保は俯いたままだ。

「ほんとにこの子は…」

今まで志保の面倒を見てきたユニでさえ流石に腹が立ったようだ。

「祐介!お前は援護を頼む!」
「はい!」

秀樹は死骨狼に突っ込み大剣で切り込む。

死骨狼は後ろに飛んで大剣を避けるが、避けた場所に火の玉が飛んできて死骨狼に命中する。

「ナイスだ!」
「どんどん行きましょう!」

今の火の玉は援護をしていた祐介が放ったものだ。
実は祐介は魔法に覚醒していたのだ。
祐介の魔法は操炎。火を生み出し操る力だ。
なんでも修行の途中、近くで小規模な山火事があったそうだ。原因は恐らく落雷だろう。
将来の夢が植物学者の祐介は木々が燃えているを黙って見て居られず、消そうとして森に入っていった。すると突然、燃えている炎が祐介の手元に集まり山火事は収まった。つまり祐介は覚醒者となった。
植物を愛する者が植物の天敵とも言える炎を操る能力とはなんとも不本意と言えるが…
なので、魔法に覚醒した祐介は魔法を主体とした特訓をしていたのである。


「はぁぁ!」

火の玉を受け、怯んだ死骨郎に此処ぞとばかりに攻め立てる。

ブンッブンッ

大剣を振り回し死骨狼に傷を負わしていく。
祐介の魔法で怯んでいたとはいえ流石D級の魔物だけあってその防御は高く、秀樹の大剣でも骨を少し削り取ることしかできなかった。

「固いな…」
「ですね。でも今のを繰り返していけば!」
「あぁ!俺たちでも勝てる!」

2人はまた死骨狼を倒すために動き出す。

秀樹と祐介が死骨狼と対峙しているのをマッド達は離れた場所で見ていた。
すでに他の死骨狼は討伐し終えている。

「いい動きじゃねぇか」
「そうね。実力も完全じゃないけど出せてるし」
「コンビネーションもバッチリね」

因縁の死骨狼との戦闘なので、少し心配していたマッド達だが、良い動きをしている2人に自然と笑みが漏れる。

「祐介!」
「はい!」

秀樹の合図と同時に火の玉を放つ。

ドガァーン

またも死骨狼に命中する。

「いけたか?」
「かなり魔力込めたんで効いてるはずです」

しかし死骨狼は燃えながらも生きていた。

「しぶといな」
「でも後少しですよ!」
「だな…油断せずに行こう」
「はい!」

祐介が前に手をかざすと死骨狼の目の前に火が壁のように燃え上がった。

「秀樹先輩!そのまま行ってください!」

秀樹は大剣を構え、火に突っ込んでいく。
そして火に当たる瞬間、まるで火が生きているかのように秀樹を避けて死骨狼までの道ができた。

火の壁で視界を塞がれていた死骨狼は突然火が割れて奇襲を受けたため避けられない。

「これで終わりだ!」

秀樹は技能の剛力で力を上げて目一杯大剣を死骨狼に叩きつける。

ドゴッ

かなりの傷を負っていた死骨狼は流石に耐えきれず真っ二つになり息絶えた。秀樹と祐介の勝利だ。

「よくやった!」
「今までで一番良い動きだったわ!」
「ほんとに!お疲れ様!」

上から順にマッド、コロナ、ユニが2人を褒める。

「はい!」
「やりましたね!」

秀樹と祐介も因縁の魔物に勝ててホッとする。

「やっと恐怖を乗り越えたか」

マッドが嬉しそうに呟いた。

「志保!見たか?俺たちはこんなに強くなったんだぜ!」
「……………」

祐介が志保に声をかけるが返事は返ってこなかった。

「放心状態だな…こりゃお手上げだわ」

やれやれとマッドが言う。

「志保のことは任せてください。なんとかしてみせます」
「おぅおぅ、言うようになったじゃねぇか」

死骨狼を倒して舞い上がってんのかと言わんばかりにマッドが挑発する。

「これ以上迷惑かけるわけにはいきませんから」
「そうか…」
「でも厳しいこと言うとまだまだよ?1人でも死骨狼を倒せるようにならないと一人前とは言えないわ」

ユニが2人に喝を入れる。

「そうね、思いの外連携がうまく行ったから良かったけど、今後の課題も見つかった戦いだったわ」

ユニの言葉にコロナが付け加える。

その後、今回の戦闘においての課題を教えてもらいながら旅を続け、ついにコーチンに到着した。
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