優しい死神

未希かずは(Miki)

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1.死神マナトスと闘神ニケル

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 私は神と呼ばれる存在である。だが、人間に忌み嫌われる神だ。
 -ーなぜなら私は死神だから。
 
 いつ自分が生まれたのか分からない。気づいたら「死神」と呼ばれていた。そして、同じく「神」と呼ばれる仲間からは、「辛気臭い」と言われて煙たがられていた。だから私は、誰とも会わないように森の奥深くに住んでいる。
 
 だが、私は人間が愛しいのだ。無力で儚い存在でありながら、懸命に生き、命を燃やす存在が。
 
 だからこそ、そんな愛しいはずの人の命を摘み取らねばならぬ自分は、神ではなく本当は「悪魔」なのかもしれない。



 
 
*****
 
 北の外れの森深く。
 冬は雪が積もり、葉を落とした枝にも雪が重なる。そのような厳しい環境に人の気配はなく、野生動物が厳しい寒さに耐えながら棲息するのみだった。
 死神マナトスはそこにただ一人、ボロボロの黒のローブを目深に被り、自身の体よりも大きな鎌を持ち、何をするでもなくゆるりと歩いていた。
 
 周囲の動物には、マナトスの姿は見えない。勘の鋭い動物や死に瀕した動物だけが存在に気付き、マナトスに向かって威嚇するのだった。
 マナトスはもうずっとこの森で孤独に過ごしていた。
 
「やあ。ここにいたのか。探したよ。君は気配を消すのがうますぎる。森の中にいるのは分かっていてもこう森が広いと探すのも一苦労だ」
 
 突如突風と共に現れて、死神に朗らかに話しかけてきたのは闘神ニケルだ。
 赤い瞳には光が宿り、隆起した筋肉や軽快な動きは躍動感溢れていた。どれ一つとっても全てが生命力の塊の様な神であり、誰の目にも留まらぬようひっそりと過ごしていた死神のマナトスとは対極にいる神であった。
 
 薄暗い森の中で静かに棲息していた動物たちは、まるで太陽のようにまばゆい闘神ニケルのことを畏怖し、ニケルの側から散り散りに去って行く。
 死神と違い、ニケルは全ての生物に姿が見えるのだ。ニケルが見えるという事こそが生きている証でもあった。
 
「おや、君が愛でていた動物たちが俺に驚いて逃げてしまったな」
 
 ニケルは額に手を当て、去って行った動物達を見ながら悪びれもなくすまんすまんと謝る。
 それに対して死神はニケルを一瞥しただけだった。
 
「別に愛でてなどいない……それより、何の用だ」
「相変わらずつれないねえ。創造神ザウラス様からの言付けだ。また人間の世界で戦が始まる。戦場へ行って仕事をしてこいだと」
 
 それを聞いてマナトスは肩を落として背中を丸め、下唇を噛んで俯く。薄ぼんやりした自身の灰色の髪が頬にかかって、マナトスの表情を隠した。
 
「……どこの国が争ってるんだ?」
 
 ポツリと小さく呟いたマナトスの言葉も、闘神ニケルは聞き逃すことは無かった。
 
「カティーナ帝国とサンドル王国の全面戦争だ。最近、サンドル王国が無茶な戦をそこら中で引き起こしてて、自国の民が疲弊しているらしい。俺はカティーナ帝国の英雄として戦って、短期間で戦を終わらせ、被害を最小限にしろと言われたよ」
 
 簡単に説明をした闘神ニケルは肩をすくめてやれやれといった表情だった。
 
「では私は、死なずにもがく兵の命を刈り取れば、良いんだな」
「なんでそんな露悪的に言うんだ。君は死にきれずに苦しむ人々の魂を救い、天国へと送る大切な役割の存在じゃないか」
 
 ニケルは、マナトスの言葉に眉をひそめる。マナトスはそんなニケルを見て小さく息を吐いた。
 
「そんな事を言うのは君くらいだよ。無駄話をしている暇はない。さっさと行って片付けてこようじゃないか」
「……オーケー、じゃあ戦場に送るから俺に捕まれよ」
 
 闘神ニケルは死神マナトスを横抱きに抱えて、戦場に向かって風と共に飛び立った。
 マナトスはニケルの体温を感じ、生きているというのはこんなに暖かいものなのかと思う。
 そして、更にその暖かさを得ようとニケルのくびに腕を回し、自身の身体をニケルに近付けた。
 
 ニケルはマナトスが空の移動に恐怖を感じているとでも思ったのだろうか。
 マナトスの背中を宥めるように軽く叩き、強く抱きしめ返してくれた。
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