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番外編④:近衛騎士団長は王族の青年に愛される【成長】
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あの誕生日から、いつの間にか五年が過ぎていた。
それは振り返れば一瞬で、気づけば取り戻せない大切な時間だった。
そして、リナルド様は、十一歳になられていた。
ある夜、王宮の見回りを終えた私は、自室へ戻ろうとしていた。
シンと静まり返った廊下を、音を立てずに歩く。
窓から月明かりが差し込み、石床を淡く照らしていた。
後ろから小さな足音が聞こえ、私は振り向いた。
それは、足音から想像していた人物であったが、その姿に驚く。
「リナルド様、そのようなお姿で廊下を歩くなど、お風邪を召してしまいます。
さあ、私と部屋へ戻りましょう」
リナルド様は、寝着に羽織を羽織っただけの姿であったからだ。
昼間はあたたかかったが、夜になると冷え込んでくる。
そんな季節に、そのような格好で廊下を歩いては、身体を冷やしてしまうと私は慌てた。
「そろそろガルディアが護衛を終えて帰る頃かなと思って、部屋を出てきたんだ。
大丈夫、すぐに部屋に戻るよ。
ガルディア、少しだけ話をしたいんだけど、駄目かな?」
「もちろん、構いません。では、リナルド様のお部屋にお伺いしてもよろしいですか?」
リナルド様がその姿のまま外を歩かせることが忍びなく、私はそう声をかけた。
「もちろんだよ! ガルディアが私の部屋に来るのは久しぶりだな」
そういって弾む声は、初めて出会った頃のお小さいリナルド様を思い起こされ、つい頭を撫でようとしてしまった。
その手はリナルド様にその手首をつかまれ、止められた。
「ねえ、ガルディア。私はいつまで、幼い子どもなのかな?
私は、あなたに守られたいわけじゃない。あなたと対等に、横に並びたいと思っているんだ」
はっきりとした口調で異を唱えるリナルド様に、私は息を呑んだ。
「……ご無礼を」
「違う、そうじゃない」
リナルド様は、そっと私の手を離した。
「私は、ガルディアに一人の男としてみてほしいんだ。
いつか、父上のように、愛する人を守れるような人間になる。
だから、私のことをきちんと見ていて。いつかあなたに追いつくから。
あなたが認める大人になるから。だから……」
リナルド様の真剣な瞳に、私は、目が離せなかった。
胸の奥で、今までにない感情が生まれるような気がした。
それだけは、駄目だ。
何故か、私はそう思う。
だから私は、慌ててリナルド様から視線を外した。
そんな私の戸惑いなど知らず、リナルド様は言葉を続ける。
「この先の言葉は、あなたが私を一人の大人として見てくれるようになったら、話すよ。
今はまだ何を伝えても、あなたに子どもだからと誤魔化される気がするから」
リナルド様は、少しだけ目を伏せ、それから再び私をまっすぐ見つめ、ほほ笑んだ。
「やっぱり、今日はもう寝ることにする。ガルディア、疲れてるのに声をかけてごめん。
あなたも部屋で休んで」
「送ります」
「いいよ。すぐそこだ。ここを曲がれば護衛が立っている。じゃあ、また明日。
……おやすみなさい」
「……お休みなさいませ」
私は、つかえた喉を無理矢理振り絞り、挨拶をして見送るのが精一杯だった。
ずっとリナルド様は、庇護すべき存在であった。
けれど、目の前を歩くリナルド様の背中は、とても大きく感じた。
リナルド様は、驚くほどの成長を遂げているのだ。
心も、身体も。
幼い頃は、何でも話してくださったリナルド様は、最近では今日のように言葉を濁すことも、増えてきた。
私の知らないリナルド様がいるような気がした。
あと少しで、私とリナルド様の関係が変化するかもしれない。
その時、私たちの距離は、遠くなってしまうのではないか。
そんなことを予感して、胸の奥がざわついた。
ほんの少し前までは、こんな気持ちは知らなかったはずなのに。
寂しい。
それだけではない。
名前のつかない違和感が、胸の奥に、ゆっくりと灯をともしていた。
それが、いずれ私を苦しめる感情に育っていくことなど、この時の私は、まだ知らなかったのだ。
それは振り返れば一瞬で、気づけば取り戻せない大切な時間だった。
そして、リナルド様は、十一歳になられていた。
ある夜、王宮の見回りを終えた私は、自室へ戻ろうとしていた。
シンと静まり返った廊下を、音を立てずに歩く。
窓から月明かりが差し込み、石床を淡く照らしていた。
後ろから小さな足音が聞こえ、私は振り向いた。
それは、足音から想像していた人物であったが、その姿に驚く。
「リナルド様、そのようなお姿で廊下を歩くなど、お風邪を召してしまいます。
さあ、私と部屋へ戻りましょう」
リナルド様は、寝着に羽織を羽織っただけの姿であったからだ。
昼間はあたたかかったが、夜になると冷え込んでくる。
そんな季節に、そのような格好で廊下を歩いては、身体を冷やしてしまうと私は慌てた。
「そろそろガルディアが護衛を終えて帰る頃かなと思って、部屋を出てきたんだ。
大丈夫、すぐに部屋に戻るよ。
ガルディア、少しだけ話をしたいんだけど、駄目かな?」
「もちろん、構いません。では、リナルド様のお部屋にお伺いしてもよろしいですか?」
リナルド様がその姿のまま外を歩かせることが忍びなく、私はそう声をかけた。
「もちろんだよ! ガルディアが私の部屋に来るのは久しぶりだな」
そういって弾む声は、初めて出会った頃のお小さいリナルド様を思い起こされ、つい頭を撫でようとしてしまった。
その手はリナルド様にその手首をつかまれ、止められた。
「ねえ、ガルディア。私はいつまで、幼い子どもなのかな?
私は、あなたに守られたいわけじゃない。あなたと対等に、横に並びたいと思っているんだ」
はっきりとした口調で異を唱えるリナルド様に、私は息を呑んだ。
「……ご無礼を」
「違う、そうじゃない」
リナルド様は、そっと私の手を離した。
「私は、ガルディアに一人の男としてみてほしいんだ。
いつか、父上のように、愛する人を守れるような人間になる。
だから、私のことをきちんと見ていて。いつかあなたに追いつくから。
あなたが認める大人になるから。だから……」
リナルド様の真剣な瞳に、私は、目が離せなかった。
胸の奥で、今までにない感情が生まれるような気がした。
それだけは、駄目だ。
何故か、私はそう思う。
だから私は、慌ててリナルド様から視線を外した。
そんな私の戸惑いなど知らず、リナルド様は言葉を続ける。
「この先の言葉は、あなたが私を一人の大人として見てくれるようになったら、話すよ。
今はまだ何を伝えても、あなたに子どもだからと誤魔化される気がするから」
リナルド様は、少しだけ目を伏せ、それから再び私をまっすぐ見つめ、ほほ笑んだ。
「やっぱり、今日はもう寝ることにする。ガルディア、疲れてるのに声をかけてごめん。
あなたも部屋で休んで」
「送ります」
「いいよ。すぐそこだ。ここを曲がれば護衛が立っている。じゃあ、また明日。
……おやすみなさい」
「……お休みなさいませ」
私は、つかえた喉を無理矢理振り絞り、挨拶をして見送るのが精一杯だった。
ずっとリナルド様は、庇護すべき存在であった。
けれど、目の前を歩くリナルド様の背中は、とても大きく感じた。
リナルド様は、驚くほどの成長を遂げているのだ。
心も、身体も。
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私の知らないリナルド様がいるような気がした。
あと少しで、私とリナルド様の関係が変化するかもしれない。
その時、私たちの距離は、遠くなってしまうのではないか。
そんなことを予感して、胸の奥がざわついた。
ほんの少し前までは、こんな気持ちは知らなかったはずなのに。
寂しい。
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