【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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番外編⑤:近衛騎士団長は王族の青年に愛される【初めての外交】

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 それから更に二年が経ち、リナルド様は十三歳になられた。

 十一歳のあの夜以来、私は意識して距離を保つようにしていた。
 あの時、リナルド様に言われた言葉。
「一人の男として見てほしい」
 その言葉を、自分なりに考えた結果だった。

 リナルド様を子ども扱いしないように。
 そしてこれ以上、心を乱されないように。

 最初の頃は、うまくいっているように思えた。
 私からは話しかけない。
 頭を撫でることもしない。
 必要以上に近づかない。

 けれど。

 年を重ねるごとに、リナルド様は聡明さを増し、背も伸び、声も少しずつ低くなっていった。
 白金の髪はより艶やかに、アメジストの瞳はより深い輝きをたたえ、その美しさは宮廷の令嬢たちの話題に上ることも増えていた。

 そして、十三歳になった今。
 リナルド様は、私の「距離を保つ」試みなど、まるで意に介さなくなっていた。


「ガルディア、おはよう」

「……おはようございます。リナルド様」

 リナルド様の声変わりした低い声で名を呼ばれるたび、私は返事をするタイミングを、ほんの一拍、失うようになってしまっていた。

「その手の傷、どうしたの?」

 気づけば、リナルド様がすぐ隣に立っている。

「……こちらは訓練でちょっと。けれどたいしことはないので――」

「無理は駄目だ。おいで、薬を塗ってあげるよ」
 
 私が一歩引いても、リナルド様は容赦なく踏み込んでくる。
 昔のように、いや、昔以上に。
 ただし、その距離の詰め方は、幼子の時とは何かが違う気がした。

 そして、あの五歳の時に初めてお茶をして以来、週に一度のバラ園のガゼボでの二人だけのお茶会も、変わらず続いていた。

 それだけは、私も拒めなかった。
 リナルド様が「来てほしい」と真っ直ぐな目で言うと、私は頷く以外の選択肢を失ってしまうのだ。

 あるお茶会の日。
 いつものようにガゼボに向かと、リナルド様はすでにティーカップを並べて待っていた。

「ガルディア、お疲れ様。今日の訓練はどうだった?
 昨日は夜警だったんだから、訓練の前にちゃんと身体は休めた?」

 私が席に着くなり、リナルド様は矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
 十三歳になられてから、私を気遣う言葉が増えた。

「ご心配なく。このとおり、何も問題ございません」

「そう言って、また無理してるんでしょう?」

 疑うような目で見つめられ、私は思わず視線を逸らしてしまう。
 昔は私の疲れになんか気づかなかったはずなのに、いつの間にかリナルド様は、私のわずかな変化にも気づくようになっていた。

「……ねえ、ガルディア。
 今度ひと月、ストラウスに行ってくるね」

 リナルド様が突然、話題を変えた。

「少し、隣国について実際に見てきたいものがあるんだ。
 魔力を可視化したり、移動させたりできる魔道具の開発が始まってるらしい。
 この魔道具が開発されたら、王家の魔力の秘密も解明できるかもしれない」

 リナルド様の瞳に、真剣さが宿る。

 「これは、自分にも関わることだから、実際の目で見ていきたいんだ。
 それに」

 リナルド様は、少しだけ視線を落とされる。
 それから、真っ直ぐに私を見据えた。 

「……将来のために、必要なことなんだ」

 何だかやけにその声は切実に聞こえた。

 まだ十三歳の身で、そのように長い期間のご公務は初めてのことだ。
 国を離れることもほとんどなかったリナルド様が、そのような長期のご公務に出るなんてと驚きを隠せない。
 リナルド様の世界は、日に日に広がっていく。
 学問、外交、社交界——そのすべてで、リナルド様は注目を集めておられる。

 殿下と政治の話をする姿を見ていると、もう私の知らない世界へ進んでおられるのだと実感する。

 それに比べ、私の方は、何も変わらない。
 剣を振り、殿下の背を守り、同じ廊下を巡回する。
 それしかできずにいた。

 リナルド様の成長を喜びつつも、リナルド様が私を置いて世界に羽ばたく日は近い気がした。
 私は思わず、手を強く握りこんでしまう。

 そんな私に気付かず、リナルド様は少しだけ口を尖らせて話し出した。

「父上に頼んで、無理に行かせてもらうから仕方ないんだけど。ほんとはガルディアも連れていきたかったな」

 拗ねてみせるリナルド様のお姿は、お小さい頃と変わりない姿で、私は少しだけほっとしたのだ。


◇◇◇

 それから一週間後。

「ガルディア、行ってくるね」

 笑顔で出立されたリナルド様は、私が送った木彫りの熊を小脇に抱えていた。
 その姿に、私は胸が温かくなる。

 ひと月などあっという間。
 そう考えていたが、実際にリナルド様がいない日々は、驚くほど長く感じられた。
 朝、殿下とともに朝食の場へ向かっても、リナルド様の席は空席のままで、挨拶とともに、「よく休めた?」と尋ねる声が聞こえない。
 訓練場に向かう廊下で、「ガルディア!」と呼ぶ声もない。
 バラ園のガゼボは、誰もいないまま静かに佇んでいる。

 気づくとため息をついていたようで、職務明けに殿下から苦笑される。

「ガルディア、職務から離れたとたんに寂しそうな顔をするな。
 それと、その目の下の隈。どうにかしないと、リナルドが帰ってきたときに心配されるぞ」

 まさか。
 私はいつも通りの生活を送っている。
 何も変わらない。
 殿下の思い過ごしではないかと鏡を見ると、くっきりと隈ができていた。

 確かに、リナルド様がご無事に帰られるか心配して何度か目が覚めたことがある。
 けれど、睡眠はいつも通りにとっていたはずだ。

 ただ一つ確かなこと。
 それは、リナルド様がいない日々は、こんなにも色あせて見えるということだった。

 そうして長かったひと月をやり過ごし、ついにリナルド様がお戻りになる日が来た。

 私は殿下の護衛として正門に立っていた。
 馬車が到着し、扉が開く。

 降り立ったリナルド様は、わずかひと月でさらに背が伸びたように見えた。
 旅の疲れか、少しやつれた顔をしておられる。

 リナルド様の視線が私を捉えた。

「ガルディア!」

 私の名を呼びながら、リナルド様は走り出した。
 護衛としての立場も忘れ、私も思わず一歩前に踏み出す。

「お帰りなさいませ、リナルド様」

「ただいま、ガルディア。会いたかったよ」

 その満面の笑みを見た瞬間、まるで色あせていた世界に、一気に光が戻ってきたようだった。
 その姿は、八年前に初めて会った日と変わらない、温かさに満ちていた。

 ああ、このひと月、欠けていると感じていたものは、この笑顔だったのだ。
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