【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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番外編⑦:近衛騎士団長は王族の青年に愛される【怒り】

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 お茶会が終了し、リナルド様、シャルロット様ととともに王宮へと戻る。
リナルド様は、シャルロット様との会話を楽しまれているようだった。

 その途中、フィルベルト殿下が現れ、そっと私の隣に立たれた。
 そして、リナルド様に聞こえないように低く囁かれる。

「ガルディア、顔が怖いよ?」

「っ……し、失礼いたしました」

「まさかだけど……リナルドを取られたと思ってる?」

「そんなはずが!」

 私がそのようなことを思うなど、不敬にもほどがある。
 私は、近衛騎士だ。
 そんな感情、抱いていいわけがない。

「わたくしは、ただ……
 幼い頃から見守ってきたリナルド様が、独り立ちされることが少し寂しいだけです」

「ああ、なるほど」

 殿下は小さく、優しく笑われた。

「ふふ。まあ、自覚がないなら仕方ないね。
 君は忠誠心が強いし、大事なものほど遠ざけようとする」

「……大事、なもの……?」

 殿下のお話は、私を混乱に招き入れる。

「ガルディア。
 本当に大切なものを、誤魔化してはいけないよ。
 君の大切なものはなんだい?
 それさえ間違えなければ、何も問題は起こらないんだ」

 殿下はそう言いながら、去って行かれた。
 私は、歩みを止め、殿下の背中を見送ってしまった。

 大切なもの……?

 それは、リナルド様だ。
 幼い頃から見守ってきた、大切な……

 けれど、それ以上の言葉が、喉の奥でつかえて出てこなかった。
 その理由を考えてしまえば。
 今のままではいられなくなる。
 そんな不安が、それ以上考えることを拒ませた。

 殿下の背中に、未来のリナルド様を重ねてしまう。
 いつか、リナルド様の背中を遠くから見送る立場に変わるのだろうか。
 そう思うと、いつまでも殿下の背中から視線を外せなかった。

 気づくと、シャルロット様と別れたリナルド様がこちらを見ていた。
 鋭い、怒りとも戸惑いともつかない、そんな瞳で。
 
 私は息を呑む。

 私は何かしてしまっただろうか。
 リナルド様にこのような瞳で見られることなどなかった私は、ひどく動揺した。
 指先が少しだけ震える。

「ガルディア、その顔……やめろ」

 低く、震える声だった。

「父上を……あんな目で見るな」

 リナルド様の声には、明らかな怒気が含まれていた。

「父上には母上がいる。
 あなたは王族に忠誠を誓った身。
 私の……父上の護衛騎士だ。
 それ以上でもそれ以下でもない」
 
 リナルド様は一歩、私に近づいた。
 その瞳には、私が見たこともない激しい感情が渦巻いていた。

「父上に、それ以上の思いを抱くことは許さない。
 その立場を、絶対に忘れるな」

 刃のように鋭い言葉だった。
 だがその奥には、なぜか焦燥の色があった。

 しまった。

 私の寂しさが、リナルド様に伝わってしまったのだ。
 リナルド様が離れていくことの寂しさ。
 シャルロット様が隣に並ぶことの寂しさ。

 本来近衛騎士としてあってはならない感情だ。

 そしてリナルド様は、その寂しげな表情を、殿下へ向けられたものだと誤解されたのだ。
 とんでもない。
 殿下は私の主君であり、尊敬すべきお方。
 それ以上の感情など、一度たりとも抱いたことはない。

 では、なぜリナルド様のこととなると、こんなにも寂しいのか。
 なぜ、シャルロット様を見て胸が痛むのか。

 きっと、親が子離れできないのと同じなのだ。
 そう思うことで、私はそれ以上考えないことにした。

 だが、寂しいなど、近衞騎士として主君の家族に抱えてはいけない感情であった。
 不敬にも程がある。
 私はその感情を顔に出してしまい、リナルド様に不快に思われてしまうという、最悪の事態となった。

 何という失態。
 だからこのようにお叱りを受けることになったのだ。
 普段は私に笑顔を崩さないリナルド様が叱るなど、余程のことだ。

 私は、近衛騎士。それ以上でもそれ以下でもない。
 立場をわきまえなければ。

 リナルド様は、もう大人になられたのだ。

 毎日「ガルディア」と呼んでくれた日々。
 小さな手で抱きついてきた日々。
 週に一度のお茶会で、笑顔を見せてくれた日々。

 それらは、もう終わったのだ。

 リナルド様には、シャルロット様のような、対等に語り合える伴侶がふさわしい。

 私は、陰から見守る騎士に戻るだけ。
 それが、本来あるべき姿なのだから。

 ここまで怒りをあらわにされたのだ。
 リナルド様はもう、個人的に私とお茶を飲んではくれないだろう。

 そう思うと、胸がずしりと重く、息が苦しくなった。

 それから、私の予想通り、忙しさを理由に私とリナルド様とのお茶会は開催されなくなったのだった。


◇◇◇

 そして半年後、リナルド様は隣国へと留学のために旅立って行かれた。

 見送りの場に、私の姿はなかった。
 リナルド様がそれを望まれたのか。
 私が自ら遠ざかったのか。

 もう、分らなかった。

 ただ一つ、確かなことがあった。
 初めて会った日から十年間、離れたことのなかった心の距離が、今、どこまでも遠くなっている。
 そして、リナルド様の隣にシャルロット様が立つ。

 それが、正しいことなのだと。
 頭ではそう理解していた。

 けれど胸の奥には、名前のつけられない痛みだけが残っていた。

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