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番外編10:近衛騎士団長は王族の青年に愛される【離れる】
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あれから二週間。
リナルド様は意識を取り戻し、今はベッド上ではあるものの、元気に過ごされているそうだ。
私は、その報告を聞いて、やっとほっと安心することができた。
リナルド様が崖崩れに巻き込まれたあの日、私は、リナルド様への愛を自覚した。
もう殿下の近衛兵として働くことはできない。
主の家族を愛してしまったなど、近衛騎士団長としてあるまじきことだからだ。
そう考え、リナルド様が回復なされた今、殿下に私は近衛騎士を引退することを決意した。
その決意が揺らぐことのないよう、すぐに殿下にお伝えする。
「ガルディア、本気?」
「ええ。私ももう、三十六歳です。そろそろ現役を引退し、後世の育成に励もうかと」
「——それが本音か?」
「……ええ。今の私が殿下のおそばで働くことは難しいと思います。
後任もきちんと育っておりますゆえ、安心して引退できます」
ガルディアの言葉に、殿下はため息をつかれた。
「分かった」
殿下はそれからその後のことを私と打ち合わせて、三日後には私は実家の公爵領にある別荘へと来ていた。
そこで何をするでもなく過ごそうとしたが、それは難しかった。
することが無いと、すぐにリナルド様のことを考えてしまう。
だから、がむしゃらに身体を動かしていた。
一週間もすると、庭で私が剣を素振りしているのを塀の外から見ていることに気付いた。
どうやら、この辺りの子ども達らしい。
「剣が珍しいかい? 気になるならこちらへおいで」
私が声をかけると、わらわらと子ども達が現れた。
どうやら、村の子ども達の間では、騎士はヒーローらしい。
私が元近衞騎士だったことを知り、どうしても私の訓練姿が見たかったそうだ。
「すげぇー!」
「格好いいな!」
私が剣を振るたびに、子供たちの歓声が上がる。
子ども達のキラキラした瞳は、私の塞ぎ込みそうになる気持ちを明るくしてくれた。
「少し、触ってみるか?」
そう言って、小さめの木刀を子供たちに差し出したのも、久しぶりの高揚感からだろう。
それから、子供たちに剣を教える時間を作るようになった。
子供たちは、家の手伝いを終え、夕方になると私のところへやってくる。
それから、日没までが子供たちの訓練時間だった。
「せんせー、これでいいですか?」
普段家の手伝いをしている子供たちは、体力も力もあった。
少し剣の扱い方を教えれば、上手に使いこなせるようになった。
子ども達を見ていると、幼き頃のリナルド様を思い出す。
リナルド様は、自分の腕よりも大きな剣を巧みに扱い、果敢に私に向かっていた。
私が軽くいなしていると、「もっと本気で相手しろ!」と叱られてしまったことも、良い思い出だった。
今は、背も高くなり、私の身長を追い越していた。体つきも引き締まっていた。
きっと、隣国ストラウスでも、鍛錬は欠かさなかったに違いない。
リナルド様がストラウスへ行かれる前は、私の方が少しだけ実力は上だった。あれだけ身体が大きくなったのだ。
もしかしたら、魔法と組み合わせた実践になれば、私でも敵わないかもしれないと思った。
「ガルディア」
月明りの中、私の名を呼ぶリナルド様の声も、記憶よりも低くなっていた。
リナルド様の事を思うと、胸の奥が鈍く痛む。
それを誤魔化すように、子供たちの指導に集中した。
完全に日が沈むころには、子供たちはみな帰宅していた。
私は一人、月を眺める。
最後に見たリナルド様は、月明りの中であった。
リナルド様は怪我をされて顔色が悪かったものの、それでも美しさは損なわれることなく、私のことを気遣ってくださっていた。
その優しさは、私の知る以前のリナルド様と一つも変わらなかった。
そのことが、うれしかった。けれど、それが苦しくもあった。
「リナルド様……今でも、お慕いしています」
そうぽつりと声に出す。
それは、誰も聞いていないはずだった。
「ガルディア」
突然、聞き覚えのある声がして、身体が硬直する。
まさか。そんな。
ここにいるはずのない方の声がする。
幻聴だろうか。
あまりにも求めすぎたせいで、とうとう幻聴まで聞こえてしまったのかもしれない。
「ねえ、無視しないでよ。私を見て」
先ほどより近い距離で、声が聞こえる。
私がずっと求めてやまなかった声。
ゆっくりと振り向くと、そこには。
「リナ、ル、ド、様……」
「うん、ガルディア。迎えに来たよ」
リナルド様は、何をおっしゃっているのだろう。
「わ、私はもう、近衛騎士ではございません。もう、王宮へ行くことは——」
「近衛騎士じゃなくていいんだよ。これからは、私の隣に立って欲しいんだ」
隣に立つ?
だって、リナルド様の隣にはシャルロット様がいらっしゃる。
リナルド様は戸惑う私の手を取って、指先に口づけてきた。
「私はやっと貴方の隣に立てるくらいの大人になれた筈だ。やっと貴方に私の気持ちが伝えられる。
ガルディア、私はあなたのことがずっと好きだった。
小さい頃、真っ直ぐ私を見つめる瞳に惹かれた。
いつも私を優しく見守り、包み込んでくれる愛情が大好きだった。
いつか、その愛情を返せるくらい大人になりたいとずっと思っていた。
あなたが父上を見つめているだけで、嫉妬をするくらい好きだった。
私は、あなたの隣に立てるほど、成長できただろうか?
ガルディア、君が私を慕ってくれているなら、私の気持ちに応えて欲しいんだ」
私は、震えながらリナルド様の顔を見つめる。
リナルド様は、堂々とした物言いとはうらはらに、不安げに眉を寄せていた。
そんな……まさか……。
私がリナルド様に思われるなど、恐れ多いことだ。
「わ、私は近衛騎士であり、あなたの隣になど恐れ多い——」
「またそれか。もう騎士を辞めたのではないか。
私では、あなたに釣り合わないだろうか。
あなたが好いていてくれていると思ったのは、私の勘違いなのか?」
リナルド様が私に強く言い募る。
「そ、そのようなことはっ!
私は、リナルド様を尊敬しております。けれど、それ以上の気持ちはっ」
「ガルディア。お願いだ。ここには、私と二人だけだ。
立場など気にせず、本当の気持ちを伝えてくれ」
リナルド様が私を抱きしめる。
温かな腕は、いつのまにか私を包み込むことができるほどに成長していたのだ。
リナルド様は意識を取り戻し、今はベッド上ではあるものの、元気に過ごされているそうだ。
私は、その報告を聞いて、やっとほっと安心することができた。
リナルド様が崖崩れに巻き込まれたあの日、私は、リナルド様への愛を自覚した。
もう殿下の近衛兵として働くことはできない。
主の家族を愛してしまったなど、近衛騎士団長としてあるまじきことだからだ。
そう考え、リナルド様が回復なされた今、殿下に私は近衛騎士を引退することを決意した。
その決意が揺らぐことのないよう、すぐに殿下にお伝えする。
「ガルディア、本気?」
「ええ。私ももう、三十六歳です。そろそろ現役を引退し、後世の育成に励もうかと」
「——それが本音か?」
「……ええ。今の私が殿下のおそばで働くことは難しいと思います。
後任もきちんと育っておりますゆえ、安心して引退できます」
ガルディアの言葉に、殿下はため息をつかれた。
「分かった」
殿下はそれからその後のことを私と打ち合わせて、三日後には私は実家の公爵領にある別荘へと来ていた。
そこで何をするでもなく過ごそうとしたが、それは難しかった。
することが無いと、すぐにリナルド様のことを考えてしまう。
だから、がむしゃらに身体を動かしていた。
一週間もすると、庭で私が剣を素振りしているのを塀の外から見ていることに気付いた。
どうやら、この辺りの子ども達らしい。
「剣が珍しいかい? 気になるならこちらへおいで」
私が声をかけると、わらわらと子ども達が現れた。
どうやら、村の子ども達の間では、騎士はヒーローらしい。
私が元近衞騎士だったことを知り、どうしても私の訓練姿が見たかったそうだ。
「すげぇー!」
「格好いいな!」
私が剣を振るたびに、子供たちの歓声が上がる。
子ども達のキラキラした瞳は、私の塞ぎ込みそうになる気持ちを明るくしてくれた。
「少し、触ってみるか?」
そう言って、小さめの木刀を子供たちに差し出したのも、久しぶりの高揚感からだろう。
それから、子供たちに剣を教える時間を作るようになった。
子供たちは、家の手伝いを終え、夕方になると私のところへやってくる。
それから、日没までが子供たちの訓練時間だった。
「せんせー、これでいいですか?」
普段家の手伝いをしている子供たちは、体力も力もあった。
少し剣の扱い方を教えれば、上手に使いこなせるようになった。
子ども達を見ていると、幼き頃のリナルド様を思い出す。
リナルド様は、自分の腕よりも大きな剣を巧みに扱い、果敢に私に向かっていた。
私が軽くいなしていると、「もっと本気で相手しろ!」と叱られてしまったことも、良い思い出だった。
今は、背も高くなり、私の身長を追い越していた。体つきも引き締まっていた。
きっと、隣国ストラウスでも、鍛錬は欠かさなかったに違いない。
リナルド様がストラウスへ行かれる前は、私の方が少しだけ実力は上だった。あれだけ身体が大きくなったのだ。
もしかしたら、魔法と組み合わせた実践になれば、私でも敵わないかもしれないと思った。
「ガルディア」
月明りの中、私の名を呼ぶリナルド様の声も、記憶よりも低くなっていた。
リナルド様の事を思うと、胸の奥が鈍く痛む。
それを誤魔化すように、子供たちの指導に集中した。
完全に日が沈むころには、子供たちはみな帰宅していた。
私は一人、月を眺める。
最後に見たリナルド様は、月明りの中であった。
リナルド様は怪我をされて顔色が悪かったものの、それでも美しさは損なわれることなく、私のことを気遣ってくださっていた。
その優しさは、私の知る以前のリナルド様と一つも変わらなかった。
そのことが、うれしかった。けれど、それが苦しくもあった。
「リナルド様……今でも、お慕いしています」
そうぽつりと声に出す。
それは、誰も聞いていないはずだった。
「ガルディア」
突然、聞き覚えのある声がして、身体が硬直する。
まさか。そんな。
ここにいるはずのない方の声がする。
幻聴だろうか。
あまりにも求めすぎたせいで、とうとう幻聴まで聞こえてしまったのかもしれない。
「ねえ、無視しないでよ。私を見て」
先ほどより近い距離で、声が聞こえる。
私がずっと求めてやまなかった声。
ゆっくりと振り向くと、そこには。
「リナ、ル、ド、様……」
「うん、ガルディア。迎えに来たよ」
リナルド様は、何をおっしゃっているのだろう。
「わ、私はもう、近衛騎士ではございません。もう、王宮へ行くことは——」
「近衛騎士じゃなくていいんだよ。これからは、私の隣に立って欲しいんだ」
隣に立つ?
だって、リナルド様の隣にはシャルロット様がいらっしゃる。
リナルド様は戸惑う私の手を取って、指先に口づけてきた。
「私はやっと貴方の隣に立てるくらいの大人になれた筈だ。やっと貴方に私の気持ちが伝えられる。
ガルディア、私はあなたのことがずっと好きだった。
小さい頃、真っ直ぐ私を見つめる瞳に惹かれた。
いつも私を優しく見守り、包み込んでくれる愛情が大好きだった。
いつか、その愛情を返せるくらい大人になりたいとずっと思っていた。
あなたが父上を見つめているだけで、嫉妬をするくらい好きだった。
私は、あなたの隣に立てるほど、成長できただろうか?
ガルディア、君が私を慕ってくれているなら、私の気持ちに応えて欲しいんだ」
私は、震えながらリナルド様の顔を見つめる。
リナルド様は、堂々とした物言いとはうらはらに、不安げに眉を寄せていた。
そんな……まさか……。
私がリナルド様に思われるなど、恐れ多いことだ。
「わ、私は近衛騎士であり、あなたの隣になど恐れ多い——」
「またそれか。もう騎士を辞めたのではないか。
私では、あなたに釣り合わないだろうか。
あなたが好いていてくれていると思ったのは、私の勘違いなのか?」
リナルド様が私に強く言い募る。
「そ、そのようなことはっ!
私は、リナルド様を尊敬しております。けれど、それ以上の気持ちはっ」
「ガルディア。お願いだ。ここには、私と二人だけだ。
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リナルド様が私を抱きしめる。
温かな腕は、いつのまにか私を包み込むことができるほどに成長していたのだ。
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