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9.嫉妬と不安(要side)
しおりを挟む俺は、はると恋人になれた。これからは、はるを繋ぎ止めるためにアプローチし続けないといけない。
告白から翌日、今も目の前ではると夏目が楽しそうにじゃれ合っている。夏目がはるの肩を抱き、耳元で何か囁く。
はるの顔が赤い。
何故顔を赤らめるんだ?今まで平気だった距離感なのに。俺と付き合ったからって、夏目のことも意識し始めたのか?
俺の胸に黒い墨が一滴垂れるような感覚がした。
「夏目にだけは言わないで!」
はるが何度も繰り返すその言葉が頭から離れない。
――本当は夏目が好きだから隠したいんじゃないのか?
不安を拭いたくて、俺は隙を見つけては手を握り、髪に触れた。
はるは顔を赤らめる。俺はそれで安心しようとしたのだ。でも、心のどこかで疑問が消えなかった。
初めてのキスは失敗だった。強引すぎた俺のせいで、はるは泣き出してしまった。
「キスしたの初めてだったんだ……」
掠れた声が耳に残る。
俺じゃなくて夏目が良かったのか?
「はるを自分のものにしたい」――そんな欲望が不安とともに膨らむ。
そんなこと、できるわけがない。
翌日から、二人きりを避けた。俺が我慢できなくなるのが怖かった。はるはそんな俺の変化に気付いているみたいだ。物言いたげに俺をチラ見しては、ため息をついていた。
俺はどうすれば良いんだ?
このままでははるを失う気がしてならなかった。
ある日、偶然はるが落とした手紙を見つけた。
「高校に入る前から好き」
――俺とは生徒会で出会ったばかりだ。
じゃあ、誰宛なんだ?
はるに手紙を返すと夏目が割り込んできた。
「お前、俺に何か渡したいって言ってたよな?」
何だと?!
その言葉に衝撃を受け、俺は手紙をはるに無理やり押しつけてその場を離れた。廊下に佇んでいると、はるがやって来た。その後ろから夏目がはるに向かって話しかける。
「俺はお前のこと大事に思ってるんだから」
夏目ははるから告白されたのだろうか。
だけど。夏目。
お前には咲月という彼女がいるだろう? 俺は夏目に掴みかかりたくなるのをぐっと我慢するしかできなかった。
その数日後、はると夏目が教室で話しているのが見えた。気になって、廊下で盗み聞いてしまう。
夏目が彼女と別れ、はるが話を聞いているようだった。はるは夏目を泊まりに誘い、「慰めてあげる」と言っていた。
その後途切れ途切れに聞こえるのは、「今夜は寝かさない」「怖くないから」「優しくする」と言う夏目の声だった。俺は、はるの笑顔が見られなかった。
夏目となら、キス以上のことでもはるは平気なんだな……。
次の日、はるは寝坊し、声も掠れていた。二人はとうとうくっついたんだと悟った。
俺はやっぱりただの当て馬だったのだろうか?
俺は拳が震えて仕方なかった。
それからのはるは、俺と執拗に会いたがる。俺と別れ話をしたいのだろう。嫌でたまらず、俺は逃げ回っていた。
落ち込む俺をよそに、はるは元気だった。笑顔を振りまき、仕事にも精力的だった。俺はそんなはるを見るのが辛くてたまらなかった。
そんな中、夏目の元彼女、咲月と演奏会の打ち合わせをした。最後に彼女は言った。
「会長、陽汰くんのこと好きですよね。分かります。私も秋良くんのこと好きでずっと見ていたから」
「君達は別れたんじゃないのか?」
驚く俺の言葉に、彼女は俯いて自分のスカートを両手で握りしめた。
「別れました。だって、陽汰くんには敵わないから」
彼女の言葉に俺の胸も締め付けられた。そうか、彼女は俺と同じなんだな。
連帯感を彼女に抱き、久々に口元が緩んだ。
それから、彼女とは仕事の合間に話をすることが増える。大体は彼女の夏目に対する愚痴ではあった。だが、最後には必ず「でも好きなんですよね」と言っていた。俺はそんな彼女を慰めるように頭に手を乗せたのだった。
そして、定期演奏会が終わって数日後、彼女がやって来た。その顔は晴れ晴れとした顔であった。
「会長、私もう一度秋良くんと話をしてみます! 上手くいかないかもしれないけど、陽汰くんにやきもちを焼くんじゃなくて、きちんと自分の気持ちを伝えることにしました。それで駄目だったら前に進もうと思います。会長には色々お世話になりました。ありがとうございました」
そう言って、彼女は頭を下げた。
俺と彼女が同じだなんて思い違いだった。
――彼女は強いな。
俺は一人取り残されたような気持ちになった。
俺は彼女のように勇気を出すこともできず、結局はると向き合うこともなく、別れてしまった。
次の日に見たはるは、今までと変わらない態度だった。その事に俺は胸がズキリと痛む。だが、俺が悲しんでいるのを見たら、はるは優しいから苦しむだろう。俺は必死で何でもないふりをしていた。
そこへ、夏目がやって来て「彼女とよりを戻した」と言う。
はるは、みるみるうちに涙をこぼしていた。
彼女はよく頑張ったとは思う。だが、はるのことを考えると、夏目のフラフラとした態度に腹が立った。結局夏目が彼女と別れていなければ、はるは傷付くことは無かったのだと思うと、俺も辛かった。
そこにあのノートの文字だ。はるにしては珍しく乱雑な文字で「夏目のばか」と書いてあった。
こんなにも、はるを傷つけた夏目が許せなかった。
自分に、こんな激情が生まれるとは知らなかったが、夏目が生徒会室に現れた途端殴ってしまう。
そこに、はるがやって来る。はるは、夏目を殴った俺を怒っていた。
「僕たちのことに先輩は関係ないでしょ。口を挟まないで!」
俺がしたことははるにとって余計なことだったようだ。
もう、俺に笑顔を見せてくれないはるに俺はどうしょうもない気持ちが生まれ、ノートを握り込むしか無かった。
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