金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫

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短編

獅子身中の虫(3)

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 グランデルは以前から優秀であったが、ランディールが処刑されてから、憑りつかれたかのように鍛錬に打ち込み、与えられた任務を卒なくこなして功績をあげていった。
 国を裏切った父を斬った男、と意味を込めて裏切りの血と裏で囁かれる事もあったが、それを霞ませるくらいグランデルは圧倒的存在感を放った。
 そして父の処刑から三年後にグランデルは騎士隊長となる。イムはその一年後に弓兵隊長に抜擢された。
 仇であるマイクルはグランデルが騎士隊長になったと同時に騎士を引退した。だが、そのまま隠居するわけもなく、アリソンに剣を教えるという理由を付けて城へと度々現れる。

 グランデルはイムを含め、信頼のおける兵達と共にマイクルの監視をしていた。グランデルはランディールの遺した文書を読み解き、彼が探れなかったカリバンの闇について調べている。
 グランデルが騎士隊長となった直後にとある事件が起こった。リグルトの乗る場所が黒いフードの男達によって襲撃されたのである。
 何名かの死傷者が出てしまったが、リグルトは護り切る事が出来た。カリバンの兵かもしれない、と捕虜として捕らえようとしたが毒を飲まれて死んでしまった。

「……拷問されて吐く前に自害するとは、随分と教え込まれているな」
「まさかリグルト様を殺そうとするなんてー……。マイクルの差し金でしょうかー?」

 リグルト襲撃の後、城に戻ったグランデルとイムは書庫室で密談をしていた。

「いや、その可能性は薄い。ずっとあの男を見ていたが――何故かリグルト王への忠誠は本物のようだ。おぞましい事だがな。恐らくだが、奴がリグルト王やアメルシア王女達に危害を加える可能性は限りなく低い。だが、決して警戒は解かないでくれ」
「この警戒は奴が死ぬまで続くでしょうねー」
「……このまま奴が尻尾を出すかもしれないな」

 しかし、グランデルの思惑は外れて二年ほど何も起こらなかった。マイクルは未だに気の良い元騎士を演じている。
 そしてカリバンへの探りも行き詰っていた。というのも、ナツメ第一王子が失踪してからイヴァン王も全く姿を現さなくなり、入国の規制が強くなったのだ。
 このままでは真実が闇の中に隠されてしまう。そんな焦りが現れた時だ。――金眼を持つ青年に出会ったのは。

 リィが城にやって来てから、マイクルの動きは明らかに変わった。内密に出国したり、リィの金眼の事情を知る兵達と陰で話をしている姿を見かける事が多くなった。――これは奴の尻尾を掴むチャンスだ、とグランデルは確信した。

 そしてあまりにもタイミングが良くカリバン王国第二王子のオトギがグルト王国へ来る事となった。グランデルは行き先を偽り、グルト城の留守をイムに任せた。
 グランデルは一人の兵士をつけていた。マイクルの息がかかり、リィの金眼の存在を知る男だ。彼は恐らくカリバンとの伝達係だ。オトギが来るとなるとマイクルは出迎えるだろうと踏んだグランデルは、一人の兵に狙いを定めていたのだ。


 オトギが帰国する日。その兵士は王都を出た先のオトギの乗る馬車が通る道で待機をしていた。何か情報を共有するつもりなのだろう。グランデルは馬車がまだ来ない事を確認すると、兵士の前に姿を現した。

「ぐ、グランデル騎士隊長!? どうしてここへ――!?」
「それはこちらのセリフだ。どうしてお前はここにいる?」
「そ、それは――」

 グランデルが突然登場した事により、兵士は動揺が隠せないようだった。口元は弧を描いているが、グランデルの目は全く笑っていない。

「今日はオトギ第二王子がグルト王国を出国する日だ。そのタイミングを見計らってここにいるのだろう?」
「そ、そんな事はありません! わ、私は決して国を裏切ってなど――」
「私は国を裏切った話などしていないが?」

 グランデルの圧に、兵士はうっかり失言をしてしまった。兵士は冷や汗をダラダラと流しながら目をせわしなく動かす。そして――

「う、うわあああああ!!」

 言い逃れが出来ないと判断した兵士は、剣を手に取りグランデルに襲い掛かった。グランデルは眉を少しも動かさず、冷静に攻撃を避けると剣を抜いて流れるような動作で兵士の心臓を貫いた。

「ぐっ……」

 兵士はくぐもった声を漏らすと、その場に倒れた。グランデルは紙で剣に付着した血液を拭うと、兵士の死体を冷たく見下ろした。

(話を聞こうと思ったが――核心を突き過ぎたか)

 あまり後悔した様子はないグランデルはそう思いながら兵士の死体を木陰に隠した。そしてここへ来るオトギの馬車を待つ。
 数刻が過ぎた後、オトギが乗っている馬車が通ろうとしたのでグランデルは道を塞ぐように立った。
 カリバン兵が戸惑う中、オトギが笑みを浮かべながら現れた。

「これはこれはグランデル騎士隊長ではありませんか。こんな所でどうされたのです? お一人なのですか?」

 グランデルは無言でオトギを見つめる。オトギの事は何度か見た事があった。あの時は青だった髪が、今は色が抜けてしまった白になってしまっている。そして微笑んでいるように見える表情は感情が見えない。五年前はこんな顔をする男ではなかった記憶がある。まるで今の自分のようだ。心が壊れている、とグランデルは密かに思った。

「……おや? その鎧に付着しているのは血液ですか? 何処か怪我でも? ……それとも、誰かの返り血ですか?」

 オトギの視線がグランデルの鎧に向く。先程の返り血が付着したままだったようだ。しかし、グランデルは少しも動揺せず口を開く。

「……私を雇ってくださいませんか? グルト王国の情報を流します。その代わり――私をカリバン王国の騎士にして頂きたい」

 それを聞きオトギは目を見開いたが、直ぐに口元を歪ませて笑う。

「フフフ……。貴方、それ本気で言っていますか?」
「ええ。私の父の事はご存知でしょう。あれから私はグルト王国を深く憎んでいるのです」
「ああ、五年前の事件ですね。あれは辛いものでしたね」

 オトギは少しも感情を乗せずに言葉を紡ぐ。

「前向きに考えてくださらないでしょうか? ……それとも、既に情報源がおありで?」
「フフ、そんなものはありませんよ。私はグルト王国と友好を築きたいのですよ。それなのに騎士隊長の貴方を引き抜いてしまっては元も子もないでしょう?」
「では私はグルト王国の騎士隊長として勤めますが、その裏で貴方に情報を流すというのはどうです?」
「私は貴方の復讐の為に力を貸す気はありませんよ。一人でやってくれます?」
「リィの金眼」

 グランデルがそう呟くとオトギの白い眉がひくりと動いた。既に彼の情報は行っていると思っていたがその通りのようだ。カリバンの狙いはリィの金眼。理由はまだ定かではないが、恐らく金眼の不死の力だろう。

「先程ここにいた兵士がベラベラと喋ってくれましてね。貴方達の狙いはリィの金眼だと分かりました。リィは私の部下になりました。私ならば彼の情報を渡す事が出来ます」
「成程。その兵士は――?」
「殺しました。情報を漏らす兵などいりませんので。これはその兵士の返り血です。」

 これが証拠です、とグランデルは木陰に隠していた兵士の死体を見せた。オトギは顎に手を添えて少し考える素振りを見せてから薄く笑う。

「フフフ……。自国の兵士を殺すとは、グランデル騎士隊長は随分と恐ろしい人ですね」
「それぐらいの覚悟はある、とお思いください。それともまだ私が信頼出来ないようでしたらもっと誰かを殺しましょうか?」
「結構です。そう言われましても、簡単に貴方を信じられないのです。そうですね……貴方がカリバンに来る機会があれば、その時に考えましょう」

 やはりオトギは簡単にグランデルを信用しない。――それがグランデルの狙いだった。オトギに自分に対して疑念を持ってもらい、マイクルを動かせる。

「分かりました。良い返事がもらえる事を期待しております」

 グランデルはニコリと微笑んだ。
 これでようやく時が動き出す。マイクルの尻尾を掴む事が出来る。グランデルの最終目的であるマイクルの罪を白日に晒し、命を奪う。
 グランデルの笑顔に影が落ちた。


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