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「で、あんたはどこまで理解してんのよ」
時刻は午前5時。朝日がようやく昇り始めた時間である。
交番に戻った我輩たちは沖野の尋問を始めた。
「大上先輩顔が怖いっすよ~。ほら笑顔笑顔」
ガン、とデスクを叩いた奈々枝の顔は般若が如く。
それを見た沖野の顔はチワワ如くなり。
背は無駄に高いのに気が弱いやつだ。
これでは話が進まんと思った我輩は沖野の膝の上に飛び乗ってやる。
とりあえず流れを壊してやらねば。
男は嫌いだが特別サービスだ。
「ああ、ヨシオの白い毛並み最高だよぉ。癒されるううう」
「……はあ、もういいわ。間宮社長が犯人の新しい命令でいない今、事情を少しでも知ってるのはあなたなの。説明お願いできる?」
そうなのだ。
あの後すぐ社長のスマホに連絡が来て、我輩たちを置いてすぐさま行ってしまった。
事情を聞こうにもいないのではしょうがない。
我輩の毛並みに顔を擦り付けてる沖野は、なんともいえない顔になる。
「俺が知ってる情報なんてたかが知れてると思うんすけど」
「情報が少ない今、なんでもいいのよ。聞き取りは警察の基本でしょ」
「交番勤務の俺らが捜査一課の真似事すか。ま、それも面白いですね。事の発端は先輩に電話する前でした―――」
♢
深夜の交番勤務は気楽なもの。
そう思ってた5分前の自分を殴りたい。
目の前にゴリラーマンのきぐるみを着たやつがいるなんて……変態が湧きやすい春はとっくに終わってるんすけどね!
「え、ええとゴリラさん何かごようっすか?」
「ゴリラチョコの新作、ゴリラきな粉チョコが108円で新発売! 君も最寄りのスーパーに行って買おう! シールを10個集めたらゴリラーマンのプロマイドが付いてくるぞ!」
シーン。
痛い沈黙だけがただ流れる。
「え、えと。最近放映中のCMっすよね。一語一句間違えないなんて凄いっすね」
とりあえず褒めとくか精神。この時、俺は適当にあしらって帰ってもらおうとしか思ってなかった。
ピローン、とメールの到着を知らせる音が鳴る。
ゴリラーマンは携帯を開き、固まる。
だがそれも一瞬でゴリラーマン音頭を急に踊り出す。
「えええ、なんすかこの状況!? とりあえず先輩に電話しよ」
あーだこーだと問答は続き。
『あー、もうめんどい! 今から行くから待ってなさい!』
「え、本当すか! せんぱ~い助かりま―――」
ガチャリ。気が短い大上先輩らしい、いつものことだ。
よし、これで先輩が来てくれる。
一安心したところでピローンとまた、音が鳴る。
携帯を見たゴリラーマンは急に走り出す。
脱兎の如く公園の方へ。
流石に変質者をこのままにしておけないと思った俺は追いかけることにした。
10分ほど追いかけ回しただろうか。
ゴリラーマンは流石に疲れたのか、走るのをやめてしまった。
肩で息をしているゴリラーマンを捕まえようと俺は背後から摑みかかる。
「観念するっすよゴリラーマン! お菓子は大好きだけどそれとこれとは別っすからね!」
「は、離してくれ! 私にはやらねばならないことがあるんだ!」
「そんな格好してまでやらないといけないことってなんすか?!」
「孫を助けるんだ!」
予想外の返答に俺の動きは一瞬止まる。
「犯人の言うことを聞かないと娘は殺される、だから次の命令を実行しないといけない! ここで捕まるわけには行かないんだ!」
「なんすかこの急展開……ちなみにお孫さんはいつから誘拐されたんすか?」
「今日だ! いいから離してくれ!」
あまりの必死さ加減に俺は、つい手を離してしまう。
ゴリラーマンは疲れたのか地面に座り込んでしまった。
「……お願いだ。犯人からは他言無用と言われている。警察にバレたらなんと言われるか」
「わ、わかりました。あの、俺でよかったらいくらでも協力しますから」
俺の返答に感激したのか。ゴリラーマンは立ち上がって俺の肩を掴む。
「ありがとう! 君のような理解ある青年で助かっ―――」
「―――うちの可愛い後輩になにしてんのよこの、クソゴリラァ!」
先輩の見事な飛び膝蹴りがゴリラーマンを一撃で倒した。
ここからは先輩もご存知の通りである。
♢
「全然、新しい情報ないじゃない」
「だから言ったじゃないすか! 先輩が飛び膝蹴りしなきゃもっと話しを聞けたんすからね」
「あ?」
「申し訳ございません」
なんと弱い男だろうか。我輩の時代の男では考えられんほどの軟弱さである。
ふむ。話としては一応辻褄はあっている。だが間宮社長という男の行動に引っかかるものがあった。
この不自然さ嘘か真か。
しかし、奈々枝はまだ気づいていないみたいだ。情報をもう少し集める必要があるな。
「とりあえず間宮社長の名刺から連絡はとれるわ。メールは送っといたから詳しい話はその時に聞きましょ」
「はい、それはいいんすけど。俺たち以外の警察に通報しなくていいんすかね?」
「お孫さんの命がかかってる今、不用意な動きはできない。このことは2人の秘密よ」
「ワン! (2人と1匹だ!)」
「はいはい、ヨシオもね」
我輩が文句を言ってもどこ吹く風である。
「んじゃ、仕事の時間になるまで休憩しますか。吉武、パンと飲み物買ってきて」
「ひどい! 俺、夜勤明けで疲れてんすよ?」
「私は非番なのにこんな時間まで駆り出されてもっと疲れてるわよ!」
「あいあいさー!」
ひよった沖野は敬礼のポーズをとってダッシュでコンビニへ。
上下関係とはこういうものである。
我輩も寝ていないのでいささか疲れた。
まぶたを閉じ休息に努めた。
時刻は午前5時。朝日がようやく昇り始めた時間である。
交番に戻った我輩たちは沖野の尋問を始めた。
「大上先輩顔が怖いっすよ~。ほら笑顔笑顔」
ガン、とデスクを叩いた奈々枝の顔は般若が如く。
それを見た沖野の顔はチワワ如くなり。
背は無駄に高いのに気が弱いやつだ。
これでは話が進まんと思った我輩は沖野の膝の上に飛び乗ってやる。
とりあえず流れを壊してやらねば。
男は嫌いだが特別サービスだ。
「ああ、ヨシオの白い毛並み最高だよぉ。癒されるううう」
「……はあ、もういいわ。間宮社長が犯人の新しい命令でいない今、事情を少しでも知ってるのはあなたなの。説明お願いできる?」
そうなのだ。
あの後すぐ社長のスマホに連絡が来て、我輩たちを置いてすぐさま行ってしまった。
事情を聞こうにもいないのではしょうがない。
我輩の毛並みに顔を擦り付けてる沖野は、なんともいえない顔になる。
「俺が知ってる情報なんてたかが知れてると思うんすけど」
「情報が少ない今、なんでもいいのよ。聞き取りは警察の基本でしょ」
「交番勤務の俺らが捜査一課の真似事すか。ま、それも面白いですね。事の発端は先輩に電話する前でした―――」
♢
深夜の交番勤務は気楽なもの。
そう思ってた5分前の自分を殴りたい。
目の前にゴリラーマンのきぐるみを着たやつがいるなんて……変態が湧きやすい春はとっくに終わってるんすけどね!
「え、ええとゴリラさん何かごようっすか?」
「ゴリラチョコの新作、ゴリラきな粉チョコが108円で新発売! 君も最寄りのスーパーに行って買おう! シールを10個集めたらゴリラーマンのプロマイドが付いてくるぞ!」
シーン。
痛い沈黙だけがただ流れる。
「え、えと。最近放映中のCMっすよね。一語一句間違えないなんて凄いっすね」
とりあえず褒めとくか精神。この時、俺は適当にあしらって帰ってもらおうとしか思ってなかった。
ピローン、とメールの到着を知らせる音が鳴る。
ゴリラーマンは携帯を開き、固まる。
だがそれも一瞬でゴリラーマン音頭を急に踊り出す。
「えええ、なんすかこの状況!? とりあえず先輩に電話しよ」
あーだこーだと問答は続き。
『あー、もうめんどい! 今から行くから待ってなさい!』
「え、本当すか! せんぱ~い助かりま―――」
ガチャリ。気が短い大上先輩らしい、いつものことだ。
よし、これで先輩が来てくれる。
一安心したところでピローンとまた、音が鳴る。
携帯を見たゴリラーマンは急に走り出す。
脱兎の如く公園の方へ。
流石に変質者をこのままにしておけないと思った俺は追いかけることにした。
10分ほど追いかけ回しただろうか。
ゴリラーマンは流石に疲れたのか、走るのをやめてしまった。
肩で息をしているゴリラーマンを捕まえようと俺は背後から摑みかかる。
「観念するっすよゴリラーマン! お菓子は大好きだけどそれとこれとは別っすからね!」
「は、離してくれ! 私にはやらねばならないことがあるんだ!」
「そんな格好してまでやらないといけないことってなんすか?!」
「孫を助けるんだ!」
予想外の返答に俺の動きは一瞬止まる。
「犯人の言うことを聞かないと娘は殺される、だから次の命令を実行しないといけない! ここで捕まるわけには行かないんだ!」
「なんすかこの急展開……ちなみにお孫さんはいつから誘拐されたんすか?」
「今日だ! いいから離してくれ!」
あまりの必死さ加減に俺は、つい手を離してしまう。
ゴリラーマンは疲れたのか地面に座り込んでしまった。
「……お願いだ。犯人からは他言無用と言われている。警察にバレたらなんと言われるか」
「わ、わかりました。あの、俺でよかったらいくらでも協力しますから」
俺の返答に感激したのか。ゴリラーマンは立ち上がって俺の肩を掴む。
「ありがとう! 君のような理解ある青年で助かっ―――」
「―――うちの可愛い後輩になにしてんのよこの、クソゴリラァ!」
先輩の見事な飛び膝蹴りがゴリラーマンを一撃で倒した。
ここからは先輩もご存知の通りである。
♢
「全然、新しい情報ないじゃない」
「だから言ったじゃないすか! 先輩が飛び膝蹴りしなきゃもっと話しを聞けたんすからね」
「あ?」
「申し訳ございません」
なんと弱い男だろうか。我輩の時代の男では考えられんほどの軟弱さである。
ふむ。話としては一応辻褄はあっている。だが間宮社長という男の行動に引っかかるものがあった。
この不自然さ嘘か真か。
しかし、奈々枝はまだ気づいていないみたいだ。情報をもう少し集める必要があるな。
「とりあえず間宮社長の名刺から連絡はとれるわ。メールは送っといたから詳しい話はその時に聞きましょ」
「はい、それはいいんすけど。俺たち以外の警察に通報しなくていいんすかね?」
「お孫さんの命がかかってる今、不用意な動きはできない。このことは2人の秘密よ」
「ワン! (2人と1匹だ!)」
「はいはい、ヨシオもね」
我輩が文句を言ってもどこ吹く風である。
「んじゃ、仕事の時間になるまで休憩しますか。吉武、パンと飲み物買ってきて」
「ひどい! 俺、夜勤明けで疲れてんすよ?」
「私は非番なのにこんな時間まで駆り出されてもっと疲れてるわよ!」
「あいあいさー!」
ひよった沖野は敬礼のポーズをとってダッシュでコンビニへ。
上下関係とはこういうものである。
我輩も寝ていないのでいささか疲れた。
まぶたを閉じ休息に努めた。
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