心はニンゲン体はワンワン、その名も名警察犬ヨシオ

まずい棒

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 間宮工場の入り口は黄色いテープが張られ、関係者以外進入禁止となっていた。
 営業が止まっているせいか、あの独特な甘い匂いはしなくなっている。
 既に立ち入り検査は行われ、社長の私物など色々調査はされているらしい。

 奈々枝は自転車を門の所で駐輪すると、スマホで電話をかけ始めた。

 「もしもし、鉄っちゃん? いま工場の中にいるんでしょ、私も入れてよ」

 『まぁた首突っ込んできやがったな大上。そういうところはほんとに親父さんそっくりだ。ったく、今回だけだぞ』

 「ありがと! 今度、ご飯おごったげるからね!」

 そう言って奈々枝は通話を切る。
 電話の相手は山ノ井鉄郎やまのいてつろう、捜査一課の係長である。スキンヘッドで強面でパッとみヤクザの風貌をしている男だ。
 体格もどこの軍隊出身ですかと聞きたくなるほどだ。
 奈々枝とは子供の頃からの付き合いで、こうして時々無理を聞いてもらえるのだ。

 許可を貰った奈々枝は堂々と侵入していく。山ノ井を見つけると大きく手を振った。

 「久しぶり! 一か月ぶりくらいかな?」

 「おう、まあそんくらいだな。おふくろさんは元気か?」

 「うーん、まあいつも通りかな」

 そう言って笑う奈々枝は、苦々しい。

 「んで、今回はこの事件に首突っ込んできやがったのか」

 「一応、私も関係者なんだからね! ちゃんと所内で取り調べ受けたし」

 「そういやホシとは知り合いだったらしいな」

 「少しだけど人となりを知っているわ。私の考えとしては、間宮社長をホシだと思わない」

 山ノ井は髭を掻く。そして大きな溜息を吐く。

 「あのなあ、ホシは狂言でしたと自白しているんだぞ。疑う余地なんてないだろ」

 「パパ譲りの勘がそう言ってるの! ね、ヨシオ!」

 「ワオン!(同意見だ!)」

 「奈々枝はこの白い犬っころに出会ってから変わったなぁ。まあいい。聞きたいことがあるなら何でも聞いてくれ」

 周囲は鑑識や他の警官がいるなか、聞き取り調査は始まった。

 「まず誘拐犯への身代金受け渡し。犯人は現れなかったんでしょ?」

 「そりゃ犯人が金持ってんだから渡せるわけないわな。そっからは誘拐犯と音信不通。数時間後道を歩いている孫の間宮優奈を警察が保護。金も無くならずめでたしめでたしってわけだ」

 「警察が間宮銀次郎の狂言だって気がついたきっかけは?」

 「誘拐犯が連絡したとみられるスマホを逆探知したらホシの自宅を引き当ててな。そっからはトントンと証拠物品が出るわ出るわ。で、調べてみたら会社の経営が落ち目。今回の身代金事件中継で宣伝効果は抜群ときたもんだ。これで黒と疑わないわけがない」

 「……まぬけ過ぎる。小学生だってもう少し考えて実行するわ」

 「それには俺も同意だな」

 間宮社長には沖野と奈々枝に遭遇した時から疑問な点が多かった。
 あの不自然さはどっちを意味していたのだろうか。事件解決の糸口はそこからなのかもしれない。

 我輩は道端に落ちていた、原材料の入っていた袋が目に入る。この原材料は国内のものか。
 視線が袋にいってたのを気づいた奈々枝は質問する。

 「間宮製菓は一か月前に原材料の契約を変更しているんですよね? そこに不審な点はないんですか」

 「海外のメーカーは人件費の安さで価格を抑えてるだけの、よくある話だからな。それに契約を切られた方は倒産してる。この不景気だ。大手の契約一つで経営は変わるんだろうな」

 他にも質問したが事件の手がかりとなるモノはなかった。
 これ以上の手がかりは他で見つけるしかない。
 我輩は奈々枝のズボンを甘噛みして引っ張る。

 「そうだね、これ以上は得られるモノはなさそう。鉄っちゃん貴重な時間割いてくれてありがと!」

 「いいってことよ。お前さんの信じる道を行ってきな。親父さんのようにな」

 「うん。あ、最後にお願い。間宮社長に会わしてくれないかな」

 「バカ野郎。流石にそんなことしたら俺の首が飛ぶっての」

 「だよねー。あ、じゃあさ間宮優奈ちゃんの方の居場所教えてよ。そっちならいいでしょ」

 「ったく、しょうがねえな。今回だけだぞ」

 そう言ってこっそり教えてくれる山ノ井。なんだかんだで奈々枝には甘いのだ。
 間宮優奈は現在、祖母と一緒にいるようだ。マスメディアが家の周囲にいるだろうがなんとか突破するしかないだろう。
 我輩たちは間宮家へと急いだ。







 間宮家は予想に反して質素な一軒家だった。製菓メーカーの社長でも豪邸に住むというわけではないようだ。
 門や塀の周りには報道関係者であふれている。一般人ならこの中を突破するのは無理だろう。
 だが、今の奈々枝は女性警官の制服を着ている。
 ちなみにタイトスカートである。喜べ男性諸君。

 奈々枝は堂々と扉の前に行き、インターホンを鳴らす。
 無反応。メディアの人間だと警戒されているのだろう。

 「間宮さん、私は警察の者です! 少しだけ話を聞いてくれませんか!」

 やはり無反応。だが、人の気配は感じる。
 奈々枝は折れない。何度もノックを重ねる。

 「間宮銀次郎さんは犯人ではない、私はそう考えています! 無実を証明するために情報が欲しいんです、どうか少しだけでも話を!」

 数秒経過。やはりダメか。
 そう思った瞬間、扉が少しだけ開かれる。
 そこに居たのは間宮優奈まみやゆな。幼い顔立ちを残した黒髪の少女だった。

 「ほんとうにおじいちゃんが犯人じゃないんですか?」

 無垢な瞳は問いかける。
 奈々枝はしっかりと見つめ自信満々に笑う。

 「勿論だよ、お姉ちゃんが証明してあげる!」

 少女は最初、キョトンとした後。嬉し気に微笑んだ。


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