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1巻
1-2
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大叔母さんは重い病気となり、入院することになってしまった。
私はひとりになったってここにいたかったけれど、十歳の私にそんなことをさせるわけにはいかなかったらしい。
大人たちが私の今後を話し合っている時に、何度も「ここに残らせてください」ってお願いしたけれど、「わがまま言うんじゃない!」と怒られてしまった。
私はまた、従兄弟の家で厄介になることが決まった。従兄弟は面倒くさそうに私を見て、叔父さんと叔母さんは作り笑いを浮かべて「またよろしくね」と言った。
行きたくなかった。この人たちは私を邪魔者だと思っている。それなのにどうして私を預かったりするのだろう。
大叔母さんは私に掃除だって料理だって、洗濯だって教えてくれた。だから、ひとりでだってこの家で暮らしていけるのに。
「みーくん、離れたくないよ……」
私の膝に乗ってゴロゴロと喉を鳴らすみーくんに、私は泣きながらそう言った。
みーくんも一緒に連れていっちゃダメかな。そう思ったけれど、ただでさえ邪魔者と思われている私が、そんなことを言えるはずなんてなかった。
私の家族は、大叔母さんとみーくんだけなのに、どうして離れなければならないのだろう。
「にゃーん」
拭うたびに溢れてくる涙を、みーくんがペロリと舐めた。猫の舌はざらざらとしているけれど、とても温かい。
みーくんが私を心配しているのがわかる。前々から思っていたけれど、みーくんは不思議と私の言っていることがわかっているみたいだった。
みーくんや他の猫、大叔母さんと一緒に、おままごとをした時もそうだった。
大叔母さんがおばあちゃんで、私がお母さん。そして、みーくんがお父さんで、他の猫たちは娘だったり息子だったりおじいちゃんだったりと、設定はその都度違っていた。
でも私とみーくんはいつも夫婦だった。他の猫たちと違って、みーくんだけが私の言葉にちゃんと返事をしてくれるし、お願いをきいてくれるから。
お願いといっても、隣に座ってとか、お箸に使う木の棒を取ってきてとかだけど。でも猫なのに、私の言葉をわかってくれるのは、きっと本当の家族だからなんだって思っていた。
――いやだ。また家族がいなくなってしまうのは。
「みーくん、これあげる」
私はポケットの中から、この前大叔母さんと作ったビーズの指輪を出した。みーくんの毛の色に合わせた、オレンジっぽい茶色と黒、白の丸ビーズを紐で繋げた色鮮やかな指輪だ。
「にゃーん?」
みーくんはそれに鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅いだ。そしてそれに頬をこすりつけてくる。どうやら、気に入ってくれたらしい。
私はみーくんがしている黒い首輪の金具に、その指輪を付けた。
「これは家族の証です。これがある限り、私とみーくんはずーっとずっと、一生死ぬまで家族です」
ありったけの願いを込めて言う。みーくんは目を細めて「にゃーん」と長い声を上げた。まるで返事をしてくれているような鳴き声に、私は顔を綻ばせた。
――みーくんと私は、離れていても家族だ。
頑張ろう。私にはみーくんがいるんだ。お父さんもお母さんもいなくたって、大叔母さんと一緒に暮らせなくなったって、私にはずっとみーくんという家族がいる。
次の日、叔父さんが迎えに来た。みーくんは家の敷地から出ていく私を、中庭の真ん中からずっと見つめていた。
――僕はずっとここにいるよ。
みーくんのガラス球のような緑色の瞳が、確かに私にそう言っていた。
けれど、その時を最後に、私はみーくんと再会することはなかった。
* * *
目が覚めたら、見慣れない天井が目に入った。
覚束ない頭で、眠る前の記憶を思い出す。あまりにいろいろなことがありすぎて、寝室に行く気力もなく作業部屋でそのまま眠ってしまったんだっけ。
――それにしても、懐かしい夢だったな。
親友だった三毛猫のみーくん。
そういえば三毛猫の雄って、めったに生まれない希少種だと聞いたことがある。まるで私の言葉がわかっているような素振りをしていて、頭がいいなあなんて思っていたけれど、やっぱり特別な猫だったんだな。
大学入学と同時にこの家に戻ってきた時、庭にみーくんの姿はなかった。たくさんいた他の猫たちも。
近所の人に尋ねたら、最近は猫が外をうろついているのを嫌う人が増えたため、今は完全室内飼いにするようになったんだと言っていた。
時代の流れだ。
みーくんも、近所のどこかのお家の中にいるかもしれない。あれから十年くらい経っているけれど、まだ元気でいるといいな。
そう、私がみーくんとの思い出を懐かしんでいる時だった。
「にゃーん」
窓の外から聞こえてきたのは、猫の鳴き声。
思い出の中のみーくんと同じ声だった気がする。
まさか、と思って私は障子とガラス戸を開けた。
――そこにいたのは。
「みー……くん⁉」
白地に黒と茶色がまだらに浮かんでいる三毛猫模様。グリーンのまん丸で大きな瞳。猫の中ではかなりの美形と思われるその容姿は、先ほど見た夢の中の、私の家族と完全に一致する。
間違いない。見間違えるはずがない。
だって、大好きだったから。大好きな家族なのだから。
庭にちょこんと座ったその猫は、正真正銘、私の家族のみーくんだった。
しかし、あれから十年以上経っている。
あの当時、まだ若い猫だったみーくんは、今は少なく見積もっても十一歳は超えているはずだ。確か猫の十歳は人間でいう六十歳くらいだって、どこかで聞いたことがある。
猫は人間ほど老化が顕著に表れないそうだけど、十年経ったのに昔と全く変わらず若々しいなんてことが、あり得るのだろうか。
どうして昔と変わらない姿なのだろう? 疑問に思う私の前で、みーくんは身軽な動作で私の立つ縁側の上に飛び乗る。
――そして。
「なんだ、僕のことをちゃんと覚えているじゃないか」
猫のみーくんがそう言った――そう言ったのだ。確かに、人間の言葉で。若い男性のような声音で。
「……⁉」
驚きのあまり言葉を失い、足元にすり寄るみーくんを凝視する私。みーくんはまるで人間がするように目を細めて笑った。そして、次の瞬間――ボンッ、という軽い爆発音と共に、みーくんが白い煙に包まれた。
突然のことに、私は反射的に目を閉じてしまう。
「昨夜の反応は照れ隠しだったのかな?」
また若い男の声が聞こえてきたので、私は瞼を開いた。そして、視界に飛びこんできた人物を目にして死ぬほど驚愕する。
「あんた……! 昨日の夜の⁉」
そう、突如眼前に現れたのは、昨日不法侵入してきた和風イケメンだったのである。
「あんた、じゃないよ。みーくんさ。まあ、本当の名は常盤っていうんだけどね」
「とき……わ……?」
あまりにも理解不能なことが目の前で起こったためか、脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる。
えーと。さっきまでここにいたのは、私が昔よく一緒に遊んだ三毛猫のみーくん。うん、昔と少しも変わらない姿だったのは不思議だが、ここまではかろうじてOKだ。問題はない。
だがその後、みーくんがいきなり人間の言葉を話し、白煙と共に昨晩のやばい和風イケメンに変身した。
いや、もう意味がわからない。何もOKじゃない。問題しかない。
「私、まだ夢でも見てるのかな」
呆然としながら、橙色のメッシュが入った黒髪の男性を眺める。
そんな私の呟きに、彼は首を横に振った。
「もう夢は終わったよ。夢の中で昔の僕と会ってくれたよね。あの頃は楽しかったよね」
「え……⁉ あんた、猫から人間に変身するだけじゃなくて、人の夢まで見れるの⁉」
彼――みーくんから変身した常盤と名乗る男は、得意げに微笑む。
「そりゃあ、化け猫の総大将だもん。人間の夢を覗くくらいわけのないことさ」
「化け猫、の総大将……」
普段の生活で縁がないような単語ばっかり常盤の口から出てきて、なんだか頭痛がしてきた。思わず私は頭を押さえて俯く。
「きっと疲れてるんだ……これが夢じゃないなら幻覚と幻聴……」
「だからー、そういうんじゃないってば。僕は正真正銘ここに存在するあやかしだよ。ちゃんと現実を受け止めてよ、茜」
「ちょっとキャパオーバーですね……」
もう耐えきれなくなり、私は縁側に腰を下ろす。そして膝の上に肘をついて、手のひらの上に額を乗せた。
「それもそっか。茜は普通の人間だもんね。あやかしのことなんて全く知らないから、驚いても仕方ないか。じゃあ、僕がゆっくり説明してあげるよ」
「はあ……」
これ以上、私の常識から外れたことを言われたら頭がパンクしてしまうんじゃないかと心配になった。しかし、反論する元気も逃げる気力もない私は、否応なく常盤の話を聞くことになってしまった。
要約すると、常盤の話はこんな内容だった。
十年ほど前。猫好きな大叔母の家の庭は、化け猫の常盤にとって非常に居心地がよく、毎日のように遊びに来ていたそうだ。
そこで常盤に懐いたのが(私は彼の方が懐いてきたと思うのだけど)、当時ここで暮らしていた十歳の私だったという。
そして私がここを離れる前日、互いに家族になる誓いを交わした。私が「みーくんと私は一生死ぬまで家族です」と宣言したあれのことだ。
それが、化け猫界の決まりにおいて、正しい婚姻の誓約とみなされたのだとか。だが、私がまだ結婚可能な年齢に達していなかったため、その時は仮の婚姻として成立したらしい。
だが昨日、二十歳を迎えた私は、あやかしの法令で結婚可能な年齢となった。
そのため、満を持して常盤が私を迎えに来たのだという。
「僕もちょうど最近、化け猫の総大将になることができたんだよ。茜を迎えるに相応しい男になっただろう?」
ふふんと、微笑みながら常盤が言う。
化け猫の総大将って、すごく偉い奴っぽくない? もしかしてみーくん……じゃなかった、常盤ってすごいあやかしなのかも……って、何、納得しそうになっているんだ私は!
「いやいやいや! 確かに、私はみーくんと家族になろうって約束したけれど、それは家族であって夫婦じゃないから!」
「男女が家族になる、という約束を交わしたとしたら、それは夫婦になるという意味ではないかい?」
「だ、男女って……あの時の私に、そんなつもりあるわけないじゃない! だいたい、みーくんのことはただの猫だと思ってたもの!」
「え? でも、よく夫婦生活を予行演習してたじゃないか。僕はいつも茜の夫役だっただろう」
「あれは、ただのおままごとでしょ!」
確かにみーくんのことは大切に思っていたし、ずっと一緒にいたいと願ったのも鮮明に覚えている。
でも夫役を任せていたのは、猫の中で一番賢かったのがみーくんで、遊んでいて楽しかったからだ。他意はない。
家族に対する間違った認識とおままごとの配役で、結婚を決められては困る。
「と、とにかく! 私はそういうつもりじゃなかったの! それに証拠もない口約束なんて、無効にしてください!」
「それは無理だよ。第一、証拠ならあるしね」
「え⁉」
常盤はその細い首に巻かれている、黒い革のチョーカーを指で触って回し始めた。すると、今までは背中側に回っていたらしいそれが現れる。
「化け猫の婚礼の儀式でもっとも大切なのはね、花嫁が自らの手で花婿に誓いの装身具を装着すること。茜はあの日、僕に確かにその儀式をしたんだよ」
あの日、家族の証としてみーくんの首輪にくくりつけた、ちゃちな手作りのビーズの指輪。常盤はそれを、あの日のまま首輪の留め具に引っかけていた。
「そ、そんなこと知らなかったんですけど!」
私は叫ぶように言う。
花嫁が花婿に誓いの装身具をつける、だって⁉ そんな化け猫の儀式、人間の私が知るわけないじゃない!
「知らなかったにもかかわらず、結婚の契りとなる行動をしてしまうなんて……。もはやこれは運命だね」
「違います!」
しみじみと言う常盤に、私は早口で強く否定する。この人、なんだかすごくマイペースだし人の意見を聞こうとしない。話しているととても疲れる。
「それに、茜にもちゃんと婚礼の刻印があるじゃないか」
「え⁉」
「その右肩にある痣だよ。それは化け猫と人間が結婚した時のみ、花嫁の体のどこかに現れる婚礼の刻印さ」
「婚礼の刻印⁉ この痣ってそうだったのっ?」
いつもは服で隠れているけれど、自宅ではよくデコルテが開いた楽な服を着ていたから、今日は痣が露わになっていたのだった。
生まれた時にはなかったこの痣の成り立ちが、まさかこんな形で発覚するなんて。
つまり、今までの常盤の話をまとめると。
私と常盤は、十年前のあの日、図らずも結婚の誓いをしてしまった。そして私があやかしの世界の法令で結婚できる年齢となり、誓約に従い彼が迎えに来たということらしい。
常盤の主張が、意味不明、支離滅裂というわけではないことは、とりあえず理解した。頭のおかしい人ではないということも。
ただ、あやかしという、一日前の私にとっては信じられない存在ではあるけれど。
――だけど、だからって。
「いや、無理だから。そんなの。結婚とか本当に。いきなりだし。本気で無理」
頭の中で状況を整理して幾分か冷静になった私だったけれど、もちろんそんな話、受け入れられるわけがない。私は常盤を見ながら、はっきりと言う。
「そっか。誓約を忘れていた茜にとっては、唐突な話だったかもしれないな。ごめんよ、急に押しかける形になってしまって」
「え……?」
今まで私の言い分をのらりくらりとかわしていた常盤が、急にしおらしい態度になったので、拍子抜けしてしまう。
な、なんだ。意外と話が通じるんじゃない? よし、それじゃあこの結婚話はなかったことにしてもらって、さっさとお帰りいただこう。
と、思ったのは束の間だった。
「それなら、今日からここで一緒に暮らすことにしよう」
にこりと美しい笑みを浮かべて、常盤が言った。
「は……?」
なんで、どうしてそうなるのか。全く理解できず、唖然としてしまった私は、思わず間の抜けた声を出す。
「化け猫の総大将は、妻とひとつ屋根の下で暮らさないと、いろいろと厄介でね。最初はぎこちなくても、一緒に暮らしていくうちに夫婦らしくなっていくんじゃないかな? ね、そうしようよ、茜」
名案だ、と言わんばかりに弾んだ声で常盤が言った。彼の超絶理論に私はしばしの間言葉を失い、まるで別の生き物(実際そうだけど)を見ているような気分になる。
「なななな、何言ってんのっ! 『そうしようよ』じゃ、な……」
なんとか気を取り直し、常盤の提案を全力で拒絶しようとした……その時。
玄関でインターホンの鳴る音が聞こえた。今はまだ朝の七時頃。こんな早朝の来客に思うあてはなく、私は眉をひそめた。
しかし、このおかしな状況からの逃走を図るべく、私は常盤に何も言わず、バタバタと走って玄関に向かう。
「はーい! どちら様ですか?」
そう言いながら、玄関の引き戸を開ける。この古い家にモニター付きのインターホンなんてあるはずもないから、来客はこうして直接対面しなければならない。
防犯上あまりよろしくないが、こんなド田舎に危険人物が出没することなんてまずないから、特に問題はない。いや……なかった。昨日までは。
だけど、常盤のような珍客が、この短期間に再び現れるわけがない。大方、朝の早いご近所さんが回覧板でも回しに来たのだろう。
いつものように戸を開けた私だったが、玄関先に立っていた意外な人物に虚を突かれた。
「充……」
呆然としながら彼の名を呼ぶ。
彼――充は、私の恋人……いや、元恋人だった男だ。昨日のあの出来事より前は。
こんな最低な浮気男のことは、きれいさっぱり忘れようと思っていたが、さすがにいきなり眼前に現れたら、戸惑ってしまう。
「茜……昨日は、本当にごめん。本当に……あれは、その、一時の気の迷いだったんだよ」
「…………」
彼は目の下に色濃く隈を刻み、血色の悪い顔で言った。昨日の件を、そんなに後悔しているのだろうか。なんだか少し、様子がおかしいように見える。
「本当に申し訳なかったと思ってるよ。あの女に家にいきなり来られて迫られて……。ごめん、俺には茜だけなんだ! 茜しかいないんだ!」
血走った目でそう訴える彼からは、必死そうな印象を受けた。
――まあっ! そんなにも私のことを愛しているのね。やっぱり、私の方がいいのね。こんなにも愛されているのなら、浮気のひとつやふたつくらい、許してあげないとね。
「……そんなお花畑みたいなこと、誰が考えるかっつーの。なめてんのか……」
俯いた私は、殺意を込めつつそう言った。頭上からは「茜……?」という、私の態度を不審に思ったらしい充の声が聞こえてくる。
私は顔を上げて、充をキッと睨みつけた。彼はその迫力に怯んだようで、一歩後ずさった。
「そういうの、もういいから! 私とあんたは終わったの! あの色っぽい彼女とよろしくやってなよっ。私はあんたのことなんて、大大大大大っ嫌いっ!」
「茜⁉」
「二度と私に顔を見せないで!」
そう言い捨てて、私は玄関の戸を勢いよく閉めた。
――しかし。
「茜……待てよ」
「……!」
戸は完全には閉められなかった。隙間に充が足を挟み込んだことによって。
戸を閉める手に力を込めたけれど、彼は挟んだ足をうまく使って家の中に体をねじ込んできた。そして、私の手首を掴んで、にやあと邪悪な笑みを浮かべる。
「俺から離れるなんて許さねえよ、茜」
「えっ、ちょ……離してよっ!」
手に力を込めて彼の拘束から逃れようとするも、相当強い力で握られているためか、びくともしなかった。
――なんだろう、様子がおかしい。
充はどちらかというと草食系男子である。いつも「茜の好きな方にしていいよ」とか「茜が決めていいよ」とか言って、あまり主張してくるタイプではなかった。だから昨日の、あの女性に迫られて流されたというのも、本当だろう。
私はひとりになったってここにいたかったけれど、十歳の私にそんなことをさせるわけにはいかなかったらしい。
大人たちが私の今後を話し合っている時に、何度も「ここに残らせてください」ってお願いしたけれど、「わがまま言うんじゃない!」と怒られてしまった。
私はまた、従兄弟の家で厄介になることが決まった。従兄弟は面倒くさそうに私を見て、叔父さんと叔母さんは作り笑いを浮かべて「またよろしくね」と言った。
行きたくなかった。この人たちは私を邪魔者だと思っている。それなのにどうして私を預かったりするのだろう。
大叔母さんは私に掃除だって料理だって、洗濯だって教えてくれた。だから、ひとりでだってこの家で暮らしていけるのに。
「みーくん、離れたくないよ……」
私の膝に乗ってゴロゴロと喉を鳴らすみーくんに、私は泣きながらそう言った。
みーくんも一緒に連れていっちゃダメかな。そう思ったけれど、ただでさえ邪魔者と思われている私が、そんなことを言えるはずなんてなかった。
私の家族は、大叔母さんとみーくんだけなのに、どうして離れなければならないのだろう。
「にゃーん」
拭うたびに溢れてくる涙を、みーくんがペロリと舐めた。猫の舌はざらざらとしているけれど、とても温かい。
みーくんが私を心配しているのがわかる。前々から思っていたけれど、みーくんは不思議と私の言っていることがわかっているみたいだった。
みーくんや他の猫、大叔母さんと一緒に、おままごとをした時もそうだった。
大叔母さんがおばあちゃんで、私がお母さん。そして、みーくんがお父さんで、他の猫たちは娘だったり息子だったりおじいちゃんだったりと、設定はその都度違っていた。
でも私とみーくんはいつも夫婦だった。他の猫たちと違って、みーくんだけが私の言葉にちゃんと返事をしてくれるし、お願いをきいてくれるから。
お願いといっても、隣に座ってとか、お箸に使う木の棒を取ってきてとかだけど。でも猫なのに、私の言葉をわかってくれるのは、きっと本当の家族だからなんだって思っていた。
――いやだ。また家族がいなくなってしまうのは。
「みーくん、これあげる」
私はポケットの中から、この前大叔母さんと作ったビーズの指輪を出した。みーくんの毛の色に合わせた、オレンジっぽい茶色と黒、白の丸ビーズを紐で繋げた色鮮やかな指輪だ。
「にゃーん?」
みーくんはそれに鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅いだ。そしてそれに頬をこすりつけてくる。どうやら、気に入ってくれたらしい。
私はみーくんがしている黒い首輪の金具に、その指輪を付けた。
「これは家族の証です。これがある限り、私とみーくんはずーっとずっと、一生死ぬまで家族です」
ありったけの願いを込めて言う。みーくんは目を細めて「にゃーん」と長い声を上げた。まるで返事をしてくれているような鳴き声に、私は顔を綻ばせた。
――みーくんと私は、離れていても家族だ。
頑張ろう。私にはみーくんがいるんだ。お父さんもお母さんもいなくたって、大叔母さんと一緒に暮らせなくなったって、私にはずっとみーくんという家族がいる。
次の日、叔父さんが迎えに来た。みーくんは家の敷地から出ていく私を、中庭の真ん中からずっと見つめていた。
――僕はずっとここにいるよ。
みーくんのガラス球のような緑色の瞳が、確かに私にそう言っていた。
けれど、その時を最後に、私はみーくんと再会することはなかった。
* * *
目が覚めたら、見慣れない天井が目に入った。
覚束ない頭で、眠る前の記憶を思い出す。あまりにいろいろなことがありすぎて、寝室に行く気力もなく作業部屋でそのまま眠ってしまったんだっけ。
――それにしても、懐かしい夢だったな。
親友だった三毛猫のみーくん。
そういえば三毛猫の雄って、めったに生まれない希少種だと聞いたことがある。まるで私の言葉がわかっているような素振りをしていて、頭がいいなあなんて思っていたけれど、やっぱり特別な猫だったんだな。
大学入学と同時にこの家に戻ってきた時、庭にみーくんの姿はなかった。たくさんいた他の猫たちも。
近所の人に尋ねたら、最近は猫が外をうろついているのを嫌う人が増えたため、今は完全室内飼いにするようになったんだと言っていた。
時代の流れだ。
みーくんも、近所のどこかのお家の中にいるかもしれない。あれから十年くらい経っているけれど、まだ元気でいるといいな。
そう、私がみーくんとの思い出を懐かしんでいる時だった。
「にゃーん」
窓の外から聞こえてきたのは、猫の鳴き声。
思い出の中のみーくんと同じ声だった気がする。
まさか、と思って私は障子とガラス戸を開けた。
――そこにいたのは。
「みー……くん⁉」
白地に黒と茶色がまだらに浮かんでいる三毛猫模様。グリーンのまん丸で大きな瞳。猫の中ではかなりの美形と思われるその容姿は、先ほど見た夢の中の、私の家族と完全に一致する。
間違いない。見間違えるはずがない。
だって、大好きだったから。大好きな家族なのだから。
庭にちょこんと座ったその猫は、正真正銘、私の家族のみーくんだった。
しかし、あれから十年以上経っている。
あの当時、まだ若い猫だったみーくんは、今は少なく見積もっても十一歳は超えているはずだ。確か猫の十歳は人間でいう六十歳くらいだって、どこかで聞いたことがある。
猫は人間ほど老化が顕著に表れないそうだけど、十年経ったのに昔と全く変わらず若々しいなんてことが、あり得るのだろうか。
どうして昔と変わらない姿なのだろう? 疑問に思う私の前で、みーくんは身軽な動作で私の立つ縁側の上に飛び乗る。
――そして。
「なんだ、僕のことをちゃんと覚えているじゃないか」
猫のみーくんがそう言った――そう言ったのだ。確かに、人間の言葉で。若い男性のような声音で。
「……⁉」
驚きのあまり言葉を失い、足元にすり寄るみーくんを凝視する私。みーくんはまるで人間がするように目を細めて笑った。そして、次の瞬間――ボンッ、という軽い爆発音と共に、みーくんが白い煙に包まれた。
突然のことに、私は反射的に目を閉じてしまう。
「昨夜の反応は照れ隠しだったのかな?」
また若い男の声が聞こえてきたので、私は瞼を開いた。そして、視界に飛びこんできた人物を目にして死ぬほど驚愕する。
「あんた……! 昨日の夜の⁉」
そう、突如眼前に現れたのは、昨日不法侵入してきた和風イケメンだったのである。
「あんた、じゃないよ。みーくんさ。まあ、本当の名は常盤っていうんだけどね」
「とき……わ……?」
あまりにも理解不能なことが目の前で起こったためか、脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる。
えーと。さっきまでここにいたのは、私が昔よく一緒に遊んだ三毛猫のみーくん。うん、昔と少しも変わらない姿だったのは不思議だが、ここまではかろうじてOKだ。問題はない。
だがその後、みーくんがいきなり人間の言葉を話し、白煙と共に昨晩のやばい和風イケメンに変身した。
いや、もう意味がわからない。何もOKじゃない。問題しかない。
「私、まだ夢でも見てるのかな」
呆然としながら、橙色のメッシュが入った黒髪の男性を眺める。
そんな私の呟きに、彼は首を横に振った。
「もう夢は終わったよ。夢の中で昔の僕と会ってくれたよね。あの頃は楽しかったよね」
「え……⁉ あんた、猫から人間に変身するだけじゃなくて、人の夢まで見れるの⁉」
彼――みーくんから変身した常盤と名乗る男は、得意げに微笑む。
「そりゃあ、化け猫の総大将だもん。人間の夢を覗くくらいわけのないことさ」
「化け猫、の総大将……」
普段の生活で縁がないような単語ばっかり常盤の口から出てきて、なんだか頭痛がしてきた。思わず私は頭を押さえて俯く。
「きっと疲れてるんだ……これが夢じゃないなら幻覚と幻聴……」
「だからー、そういうんじゃないってば。僕は正真正銘ここに存在するあやかしだよ。ちゃんと現実を受け止めてよ、茜」
「ちょっとキャパオーバーですね……」
もう耐えきれなくなり、私は縁側に腰を下ろす。そして膝の上に肘をついて、手のひらの上に額を乗せた。
「それもそっか。茜は普通の人間だもんね。あやかしのことなんて全く知らないから、驚いても仕方ないか。じゃあ、僕がゆっくり説明してあげるよ」
「はあ……」
これ以上、私の常識から外れたことを言われたら頭がパンクしてしまうんじゃないかと心配になった。しかし、反論する元気も逃げる気力もない私は、否応なく常盤の話を聞くことになってしまった。
要約すると、常盤の話はこんな内容だった。
十年ほど前。猫好きな大叔母の家の庭は、化け猫の常盤にとって非常に居心地がよく、毎日のように遊びに来ていたそうだ。
そこで常盤に懐いたのが(私は彼の方が懐いてきたと思うのだけど)、当時ここで暮らしていた十歳の私だったという。
そして私がここを離れる前日、互いに家族になる誓いを交わした。私が「みーくんと私は一生死ぬまで家族です」と宣言したあれのことだ。
それが、化け猫界の決まりにおいて、正しい婚姻の誓約とみなされたのだとか。だが、私がまだ結婚可能な年齢に達していなかったため、その時は仮の婚姻として成立したらしい。
だが昨日、二十歳を迎えた私は、あやかしの法令で結婚可能な年齢となった。
そのため、満を持して常盤が私を迎えに来たのだという。
「僕もちょうど最近、化け猫の総大将になることができたんだよ。茜を迎えるに相応しい男になっただろう?」
ふふんと、微笑みながら常盤が言う。
化け猫の総大将って、すごく偉い奴っぽくない? もしかしてみーくん……じゃなかった、常盤ってすごいあやかしなのかも……って、何、納得しそうになっているんだ私は!
「いやいやいや! 確かに、私はみーくんと家族になろうって約束したけれど、それは家族であって夫婦じゃないから!」
「男女が家族になる、という約束を交わしたとしたら、それは夫婦になるという意味ではないかい?」
「だ、男女って……あの時の私に、そんなつもりあるわけないじゃない! だいたい、みーくんのことはただの猫だと思ってたもの!」
「え? でも、よく夫婦生活を予行演習してたじゃないか。僕はいつも茜の夫役だっただろう」
「あれは、ただのおままごとでしょ!」
確かにみーくんのことは大切に思っていたし、ずっと一緒にいたいと願ったのも鮮明に覚えている。
でも夫役を任せていたのは、猫の中で一番賢かったのがみーくんで、遊んでいて楽しかったからだ。他意はない。
家族に対する間違った認識とおままごとの配役で、結婚を決められては困る。
「と、とにかく! 私はそういうつもりじゃなかったの! それに証拠もない口約束なんて、無効にしてください!」
「それは無理だよ。第一、証拠ならあるしね」
「え⁉」
常盤はその細い首に巻かれている、黒い革のチョーカーを指で触って回し始めた。すると、今までは背中側に回っていたらしいそれが現れる。
「化け猫の婚礼の儀式でもっとも大切なのはね、花嫁が自らの手で花婿に誓いの装身具を装着すること。茜はあの日、僕に確かにその儀式をしたんだよ」
あの日、家族の証としてみーくんの首輪にくくりつけた、ちゃちな手作りのビーズの指輪。常盤はそれを、あの日のまま首輪の留め具に引っかけていた。
「そ、そんなこと知らなかったんですけど!」
私は叫ぶように言う。
花嫁が花婿に誓いの装身具をつける、だって⁉ そんな化け猫の儀式、人間の私が知るわけないじゃない!
「知らなかったにもかかわらず、結婚の契りとなる行動をしてしまうなんて……。もはやこれは運命だね」
「違います!」
しみじみと言う常盤に、私は早口で強く否定する。この人、なんだかすごくマイペースだし人の意見を聞こうとしない。話しているととても疲れる。
「それに、茜にもちゃんと婚礼の刻印があるじゃないか」
「え⁉」
「その右肩にある痣だよ。それは化け猫と人間が結婚した時のみ、花嫁の体のどこかに現れる婚礼の刻印さ」
「婚礼の刻印⁉ この痣ってそうだったのっ?」
いつもは服で隠れているけれど、自宅ではよくデコルテが開いた楽な服を着ていたから、今日は痣が露わになっていたのだった。
生まれた時にはなかったこの痣の成り立ちが、まさかこんな形で発覚するなんて。
つまり、今までの常盤の話をまとめると。
私と常盤は、十年前のあの日、図らずも結婚の誓いをしてしまった。そして私があやかしの世界の法令で結婚できる年齢となり、誓約に従い彼が迎えに来たということらしい。
常盤の主張が、意味不明、支離滅裂というわけではないことは、とりあえず理解した。頭のおかしい人ではないということも。
ただ、あやかしという、一日前の私にとっては信じられない存在ではあるけれど。
――だけど、だからって。
「いや、無理だから。そんなの。結婚とか本当に。いきなりだし。本気で無理」
頭の中で状況を整理して幾分か冷静になった私だったけれど、もちろんそんな話、受け入れられるわけがない。私は常盤を見ながら、はっきりと言う。
「そっか。誓約を忘れていた茜にとっては、唐突な話だったかもしれないな。ごめんよ、急に押しかける形になってしまって」
「え……?」
今まで私の言い分をのらりくらりとかわしていた常盤が、急にしおらしい態度になったので、拍子抜けしてしまう。
な、なんだ。意外と話が通じるんじゃない? よし、それじゃあこの結婚話はなかったことにしてもらって、さっさとお帰りいただこう。
と、思ったのは束の間だった。
「それなら、今日からここで一緒に暮らすことにしよう」
にこりと美しい笑みを浮かべて、常盤が言った。
「は……?」
なんで、どうしてそうなるのか。全く理解できず、唖然としてしまった私は、思わず間の抜けた声を出す。
「化け猫の総大将は、妻とひとつ屋根の下で暮らさないと、いろいろと厄介でね。最初はぎこちなくても、一緒に暮らしていくうちに夫婦らしくなっていくんじゃないかな? ね、そうしようよ、茜」
名案だ、と言わんばかりに弾んだ声で常盤が言った。彼の超絶理論に私はしばしの間言葉を失い、まるで別の生き物(実際そうだけど)を見ているような気分になる。
「なななな、何言ってんのっ! 『そうしようよ』じゃ、な……」
なんとか気を取り直し、常盤の提案を全力で拒絶しようとした……その時。
玄関でインターホンの鳴る音が聞こえた。今はまだ朝の七時頃。こんな早朝の来客に思うあてはなく、私は眉をひそめた。
しかし、このおかしな状況からの逃走を図るべく、私は常盤に何も言わず、バタバタと走って玄関に向かう。
「はーい! どちら様ですか?」
そう言いながら、玄関の引き戸を開ける。この古い家にモニター付きのインターホンなんてあるはずもないから、来客はこうして直接対面しなければならない。
防犯上あまりよろしくないが、こんなド田舎に危険人物が出没することなんてまずないから、特に問題はない。いや……なかった。昨日までは。
だけど、常盤のような珍客が、この短期間に再び現れるわけがない。大方、朝の早いご近所さんが回覧板でも回しに来たのだろう。
いつものように戸を開けた私だったが、玄関先に立っていた意外な人物に虚を突かれた。
「充……」
呆然としながら彼の名を呼ぶ。
彼――充は、私の恋人……いや、元恋人だった男だ。昨日のあの出来事より前は。
こんな最低な浮気男のことは、きれいさっぱり忘れようと思っていたが、さすがにいきなり眼前に現れたら、戸惑ってしまう。
「茜……昨日は、本当にごめん。本当に……あれは、その、一時の気の迷いだったんだよ」
「…………」
彼は目の下に色濃く隈を刻み、血色の悪い顔で言った。昨日の件を、そんなに後悔しているのだろうか。なんだか少し、様子がおかしいように見える。
「本当に申し訳なかったと思ってるよ。あの女に家にいきなり来られて迫られて……。ごめん、俺には茜だけなんだ! 茜しかいないんだ!」
血走った目でそう訴える彼からは、必死そうな印象を受けた。
――まあっ! そんなにも私のことを愛しているのね。やっぱり、私の方がいいのね。こんなにも愛されているのなら、浮気のひとつやふたつくらい、許してあげないとね。
「……そんなお花畑みたいなこと、誰が考えるかっつーの。なめてんのか……」
俯いた私は、殺意を込めつつそう言った。頭上からは「茜……?」という、私の態度を不審に思ったらしい充の声が聞こえてくる。
私は顔を上げて、充をキッと睨みつけた。彼はその迫力に怯んだようで、一歩後ずさった。
「そういうの、もういいから! 私とあんたは終わったの! あの色っぽい彼女とよろしくやってなよっ。私はあんたのことなんて、大大大大大っ嫌いっ!」
「茜⁉」
「二度と私に顔を見せないで!」
そう言い捨てて、私は玄関の戸を勢いよく閉めた。
――しかし。
「茜……待てよ」
「……!」
戸は完全には閉められなかった。隙間に充が足を挟み込んだことによって。
戸を閉める手に力を込めたけれど、彼は挟んだ足をうまく使って家の中に体をねじ込んできた。そして、私の手首を掴んで、にやあと邪悪な笑みを浮かべる。
「俺から離れるなんて許さねえよ、茜」
「えっ、ちょ……離してよっ!」
手に力を込めて彼の拘束から逃れようとするも、相当強い力で握られているためか、びくともしなかった。
――なんだろう、様子がおかしい。
充はどちらかというと草食系男子である。いつも「茜の好きな方にしていいよ」とか「茜が決めていいよ」とか言って、あまり主張してくるタイプではなかった。だから昨日の、あの女性に迫られて流されたというのも、本当だろう。
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