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第9話「神津島合宿 前編 夜行フェリー」
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(前回までのあらすじ)
みおと琴子は、陸軍情報センターでの攻防戦の上、怪異である銀髪の少女に機密ファイルのパスワードを奪取されてしまう。
なぜかみおと琴子の個人情報を把握している怪異に対し、五十嵐少将は危機感を感じ、みおと琴子に休暇の上、東京から離れるように命令する。
気が晴れないまま、みおと琴子の大学のゼミ合宿が始まる。
夕方にもかかわらず強烈な日差しが照りつける中を、僕と琴子を乗せたタクシーは走っていく。
二人とも終始無言だった。機嫌が悪いわけではない。
多少落ち込んではいるが、それよりも慣れない千葉のビジネスホテル生活(しかもエアコン無し)で消耗しているのが原因だった。
あの日、銀髪の少女と陸軍情報センターでやりあって以来、高田馬場のアパートには帰っていない。
五十嵐少将の命令もあるが、実際に安全が確認できない以上帰れない。
あのアパートは僕と琴子が、大学生活を送る為にどうしても必要な場所だ。
一時の軽率な行動で、その拠点を失う訳にはいかなかった。
というわけで、今夜からのゼミ合宿はこうして千葉から向かっている。
行き先は竹芝桟橋、そして神津島だ。
しかし・・。
「・・ねえ。みお。何のしおりも無い合宿って、合宿と呼ぶのかしら?」
「・・・さあ。」
「私たち、ちゃんと神津島で泊まる所あるよね?浜辺でテントなんてイヤよ?」
僕は答えようが無かった。合宿を企画した幹事の斎藤氏に昨日も電話したが、
「あー、大丈夫、大丈夫、明日竹芝桟橋夜7時集合ね。水着だけよろしく、シクヨロ~」
という返事で電話が切れてしまったからだ。
もちろんそんな戯言を信じるわけにいかないので、こうして旅行鞄に着替えやら何やら(拳銃も含め)詰め込んで持ってきている。
琴子も長い筒に彼女の刀、「丙午千手院長吉」を入れている。
港の保安要員に根回し済みだが、船内や島内ではそうはいかない。
所持品の管理は厳重に行う必要があった。
本当はこんな物を持って合宿には行きたくないのだが、いつ、どこで怪異が現れるか分からない以上仕方がない。
「お二人とも神津島ですか。いいですねえ。海が綺麗なんでしょうなあ。」
いつものタクシーの運転手が珍しく運転中に僕たちに声をかける。
「まあ、伊豆諸島で怪異が確認された例は無いので、きっと大丈夫ですよ。せっかくだから楽しんできてください。」
「・・だと、いいのですが。」
僕と琴子は溜息をつきながら竹下桟橋へ向かった。
竹芝桟橋は、まだ出港まで時間があるものの大勢の人でごった返していた。
夏休みだからだろう。学生に釣り客、家族連れでいっぱいである。
訓練以外で、プライベートで船に乗るのはいつ以来だろう?
「ふえ~、すっごい人だねえ~。これみんな同じ船に乗るの?」
琴子がびっくりして竹下桟橋の人混みを眺めている。
僕たちが以前いた伊美島では、そもそも観光客はまずいなかったし、フェリー自体も貨物中心なので、こうして港が人でごった返す経験は無かった。
そしてあの港にいた人たちはもう誰もいない。
僕と琴子の二人だけが生き残った。
琴子は僕のそんな内心に気が付いたのか、優しく声をかけてくれた。
「大丈夫。みお、これから行く島の海は赤くない。怪異もいない。何があっても私がついてる。」
「……ありがとう。琴子。」
僕は琴子の手をそっと握った。琴子も黙って握り返してくる。
しかしその感傷的な時間は一瞬で終了した。
「おおーーっ、君島さん達キタアアッツ!」
「イイイイイイヤッホオ!」
下品な男たちの歓声が僕たちに向けられる。
なんだ、この下品な酔っぱらいの集団は!?
ウチのゼミじゃないか!!
僕の表情が絶望に歪む。皆の様子が明らかにおかしい。
まず皆、持ち物がほとんど無い。
皆、両手にビニール袋いっぱいのビールかおつまみを持っている。
神津島は食糧が不足しているのだろうか?
「やあ!君島さん達お疲れ!今日から合宿張り切っていこう!」
僕は教授に声をかけられた。そして愕然とする。
教授は両手にそれぞれ一升瓶「だけ」を持っていた。
馬鹿な。レジュメは?レポート用紙は?筆記用具は??
琴子も最初茫然としていたが、すぐに缶ビールを渡され、その場で飲み始めた。
「プハー!効く~!」
いや、ここはまだ桟橋だよ!?
僕も考えるのに疲れたので、ビールを飲むことにした。
保安検査はどうやって通過しよう。そもそも乗船拒否されるのではないだろうか。
いつの間にか乗船が始まっていた。
琴子は保安検査で笑顔で「銃と日本刀が入っています」と申告し、皆がゲラゲラ笑いながら通過するという最悪のスタートを切った。
必ず五十嵐少佐の耳に入るだろう。
船内は、無数の乗客がひしめき合い、人々の話し声と笑い声、そして潮風と船のディーゼルの匂いが混ざり合って、むっとした熱気に満ちていた。
よくわからないのは、誰もが慣れた様子で貸毛布を2枚ずつ借りて、廊下や階段の踊り場に敷き始めたことだ。
どういうことなのだろうか?
我々も斎藤氏を先頭に船の先、甲板へ向かった。
肌を撫でる夜の潮風はひんやりと心地よく、耳には波が船体を打つ規則正しい音が届く。
ゼミの面々は、慣れた手つきで甲板にブルーシートを敷き始める。
見ると、他のグループも同じことをしている。
まるで花見だ。
その理由はすぐに判明した。
皆、ブルーシートに座って夜景を見ながら乾杯を始めたのである。
なるほど、そういうことか。
「わあっ、すごい!東京が一望できるね!」
隣で琴子が、プシュッという小気味よい音を立ててチューハイの缶を開ける。
その弾んだ声が夜の風に乗って聞こえた。
光り輝く東京タワー、まるで宝石を散りばめたような街の灯りがきらめいていた。
船はいつの間にか動き始めたらしい。
東京の夜景がゆっくりと動いていく。
東京の大半は今や、ホームレスとジャンキーだらけだが、この湾岸エリアだけは高層ビルやタワーマンションが光り輝いていた。
この辺だけきっと大厄災前と変わらないだろう。
ゼミの面々は酔いが回った表情で、目の前の光り輝く街並みを見つめる。
年収1000年分の値段がするマンションが僕たちを見下ろしていた。
「けっ、ブルジョア共め~!革命だ~!」「革命だ~!」
ゼミの面々は叫びながらコップの日本酒をあおっていく。
そんなんだから彼女が出来ないんだぞ、君達。
僕は心の中でつっこんだが、その僕にしてもこの光景は異常だと思う。
一体なぜ街路樹までライトアップする必要があるのだろう。
日本中で慢性的に電力不足による停電が頻発しているのに一体どうなっているのだろう?
その時だった。
「見て!みお、レインボーブリッジ!」
船はちょうどレインボーブリッジの下を通過する所だった。
伊美島にいたころでも瀬戸大橋は見たことがあるが、レインボーブリッジの真っ白な橋は電飾で光り輝き、甲板の大勢の乗客が歓声を上げていた。
大厄災前のかつての東京の象徴は今も変わらず、その輝きを放っていた。
レインボーブリッジを通り過ぎると東京の街並みはどんどん暗くなっていく。
沿岸のかつての工場地帯も廃墟ばかりだ。
まるで真っ黒な卒塔婆の群れのような風景が広がる。
この辺は警察はおろか憲兵隊でも近づけないエリアである。
途中羽田空港だけが、光が点いているが、駐機している航空機はほとんどなく、プライベートのセスナが数機いるだけだった。
ゼミの面々もそんな光景に興味を失ったのか、学内のよもやま話を肴に、飲みのペースが上がっていった。
自治会の分派同士の揉め事、教授の不倫話、マージャン店での武勇伝・・。
僕もこのゼミでしか聞けない話に興味津々でいつしか、船は横須賀の沖合まで来ていた。
「おい見ろ!連合艦隊だ!」
甲板の誰かが叫び声をあげた。
僕と琴子も含めて、ゼミの面々から「おおっ~!」と歓声が上げる。
遠くの光り輝く横須賀の海軍基地の前に戦艦、空母、巡洋艦が何十隻も整然と海上に整列し、その威容を放っていた。
「大和だ!電磁砲を積んでる!」
ゼミの一人が興奮した様子で遠くに見える大和の砲塔を指さす。
そこには通常の大砲だけではなく、独特の形状をした巨大な電磁砲が3門、上方を向いていた。
通常の砲身にあるような滑らかな曲線はなく、鋭角的な金属の板が組み合わされており、まるで巨大な定規を並べたかのようだ。
砲身の側面に、無数の冷却フィンがむき出しになっているのが遠くからでもわかる。
その冷たい金属の質感が、大和の武骨な艦体とは異質な、異様な威圧感を放っていた。
僕は数日前の陸軍情報センターでのゴミ仕事を思い出していた。
大和の主砲がシステムの不具合で撃てないと申請があったが、結局は説明書の転記ミスだったあのしょうもない仕事だ。
まあ、あれでセンターのみんなが感状を貰えたからよかった訳ではあるが…。
しかしあんなデカブツが機能しなかったら、たまったものではないだろう。
あの船1隻で国家予算の5%が消えてなくなっているのである。
それにしても…。
「ねえ、みお。変じゃない?大和って無線封鎖の上、作戦行動中って話じゃなかった?
なんで東京湾なんかにいるの?」
琴子が小声で話してくる。
全くその通りだった。
まさかあの戦艦は大和ではないのか?
もしそうなら国家予算の5%分の船がもう一隻いることになるが・・。
いや、流石にそれはないだろう。
金額がいくらなんでも巨額すぎる。
国の生活保護費より多いのだ。
フェリーは横須賀も通り過ぎ、東京湾を出ようとしていた。
外はもう、光一つない漆黒の闇に包まれている。
船の揺れは、外洋に出るにあたり一段と大きくなり、波が船体を叩くゴォンという重く低い音が響き始めた。
潮風が容赦なく甲板を濡らし、塩辛い匂いが鼻をついた。
僕は故郷の伊美島にいた頃をふと思い出した。
あの頃は自分がこんな外洋に出ることなんて考えもしなかった。
人生は数奇なものだ。しかも愛する琴子と、そして仲間たちが横にいる。
僕は酔いの回った頭でそんな事を考えながら、ハイボールの缶を開けた。
(以上)
みおと琴子は、陸軍情報センターでの攻防戦の上、怪異である銀髪の少女に機密ファイルのパスワードを奪取されてしまう。
なぜかみおと琴子の個人情報を把握している怪異に対し、五十嵐少将は危機感を感じ、みおと琴子に休暇の上、東京から離れるように命令する。
気が晴れないまま、みおと琴子の大学のゼミ合宿が始まる。
夕方にもかかわらず強烈な日差しが照りつける中を、僕と琴子を乗せたタクシーは走っていく。
二人とも終始無言だった。機嫌が悪いわけではない。
多少落ち込んではいるが、それよりも慣れない千葉のビジネスホテル生活(しかもエアコン無し)で消耗しているのが原因だった。
あの日、銀髪の少女と陸軍情報センターでやりあって以来、高田馬場のアパートには帰っていない。
五十嵐少将の命令もあるが、実際に安全が確認できない以上帰れない。
あのアパートは僕と琴子が、大学生活を送る為にどうしても必要な場所だ。
一時の軽率な行動で、その拠点を失う訳にはいかなかった。
というわけで、今夜からのゼミ合宿はこうして千葉から向かっている。
行き先は竹芝桟橋、そして神津島だ。
しかし・・。
「・・ねえ。みお。何のしおりも無い合宿って、合宿と呼ぶのかしら?」
「・・・さあ。」
「私たち、ちゃんと神津島で泊まる所あるよね?浜辺でテントなんてイヤよ?」
僕は答えようが無かった。合宿を企画した幹事の斎藤氏に昨日も電話したが、
「あー、大丈夫、大丈夫、明日竹芝桟橋夜7時集合ね。水着だけよろしく、シクヨロ~」
という返事で電話が切れてしまったからだ。
もちろんそんな戯言を信じるわけにいかないので、こうして旅行鞄に着替えやら何やら(拳銃も含め)詰め込んで持ってきている。
琴子も長い筒に彼女の刀、「丙午千手院長吉」を入れている。
港の保安要員に根回し済みだが、船内や島内ではそうはいかない。
所持品の管理は厳重に行う必要があった。
本当はこんな物を持って合宿には行きたくないのだが、いつ、どこで怪異が現れるか分からない以上仕方がない。
「お二人とも神津島ですか。いいですねえ。海が綺麗なんでしょうなあ。」
いつものタクシーの運転手が珍しく運転中に僕たちに声をかける。
「まあ、伊豆諸島で怪異が確認された例は無いので、きっと大丈夫ですよ。せっかくだから楽しんできてください。」
「・・だと、いいのですが。」
僕と琴子は溜息をつきながら竹下桟橋へ向かった。
竹芝桟橋は、まだ出港まで時間があるものの大勢の人でごった返していた。
夏休みだからだろう。学生に釣り客、家族連れでいっぱいである。
訓練以外で、プライベートで船に乗るのはいつ以来だろう?
「ふえ~、すっごい人だねえ~。これみんな同じ船に乗るの?」
琴子がびっくりして竹下桟橋の人混みを眺めている。
僕たちが以前いた伊美島では、そもそも観光客はまずいなかったし、フェリー自体も貨物中心なので、こうして港が人でごった返す経験は無かった。
そしてあの港にいた人たちはもう誰もいない。
僕と琴子の二人だけが生き残った。
琴子は僕のそんな内心に気が付いたのか、優しく声をかけてくれた。
「大丈夫。みお、これから行く島の海は赤くない。怪異もいない。何があっても私がついてる。」
「……ありがとう。琴子。」
僕は琴子の手をそっと握った。琴子も黙って握り返してくる。
しかしその感傷的な時間は一瞬で終了した。
「おおーーっ、君島さん達キタアアッツ!」
「イイイイイイヤッホオ!」
下品な男たちの歓声が僕たちに向けられる。
なんだ、この下品な酔っぱらいの集団は!?
ウチのゼミじゃないか!!
僕の表情が絶望に歪む。皆の様子が明らかにおかしい。
まず皆、持ち物がほとんど無い。
皆、両手にビニール袋いっぱいのビールかおつまみを持っている。
神津島は食糧が不足しているのだろうか?
「やあ!君島さん達お疲れ!今日から合宿張り切っていこう!」
僕は教授に声をかけられた。そして愕然とする。
教授は両手にそれぞれ一升瓶「だけ」を持っていた。
馬鹿な。レジュメは?レポート用紙は?筆記用具は??
琴子も最初茫然としていたが、すぐに缶ビールを渡され、その場で飲み始めた。
「プハー!効く~!」
いや、ここはまだ桟橋だよ!?
僕も考えるのに疲れたので、ビールを飲むことにした。
保安検査はどうやって通過しよう。そもそも乗船拒否されるのではないだろうか。
いつの間にか乗船が始まっていた。
琴子は保安検査で笑顔で「銃と日本刀が入っています」と申告し、皆がゲラゲラ笑いながら通過するという最悪のスタートを切った。
必ず五十嵐少佐の耳に入るだろう。
船内は、無数の乗客がひしめき合い、人々の話し声と笑い声、そして潮風と船のディーゼルの匂いが混ざり合って、むっとした熱気に満ちていた。
よくわからないのは、誰もが慣れた様子で貸毛布を2枚ずつ借りて、廊下や階段の踊り場に敷き始めたことだ。
どういうことなのだろうか?
我々も斎藤氏を先頭に船の先、甲板へ向かった。
肌を撫でる夜の潮風はひんやりと心地よく、耳には波が船体を打つ規則正しい音が届く。
ゼミの面々は、慣れた手つきで甲板にブルーシートを敷き始める。
見ると、他のグループも同じことをしている。
まるで花見だ。
その理由はすぐに判明した。
皆、ブルーシートに座って夜景を見ながら乾杯を始めたのである。
なるほど、そういうことか。
「わあっ、すごい!東京が一望できるね!」
隣で琴子が、プシュッという小気味よい音を立ててチューハイの缶を開ける。
その弾んだ声が夜の風に乗って聞こえた。
光り輝く東京タワー、まるで宝石を散りばめたような街の灯りがきらめいていた。
船はいつの間にか動き始めたらしい。
東京の夜景がゆっくりと動いていく。
東京の大半は今や、ホームレスとジャンキーだらけだが、この湾岸エリアだけは高層ビルやタワーマンションが光り輝いていた。
この辺だけきっと大厄災前と変わらないだろう。
ゼミの面々は酔いが回った表情で、目の前の光り輝く街並みを見つめる。
年収1000年分の値段がするマンションが僕たちを見下ろしていた。
「けっ、ブルジョア共め~!革命だ~!」「革命だ~!」
ゼミの面々は叫びながらコップの日本酒をあおっていく。
そんなんだから彼女が出来ないんだぞ、君達。
僕は心の中でつっこんだが、その僕にしてもこの光景は異常だと思う。
一体なぜ街路樹までライトアップする必要があるのだろう。
日本中で慢性的に電力不足による停電が頻発しているのに一体どうなっているのだろう?
その時だった。
「見て!みお、レインボーブリッジ!」
船はちょうどレインボーブリッジの下を通過する所だった。
伊美島にいたころでも瀬戸大橋は見たことがあるが、レインボーブリッジの真っ白な橋は電飾で光り輝き、甲板の大勢の乗客が歓声を上げていた。
大厄災前のかつての東京の象徴は今も変わらず、その輝きを放っていた。
レインボーブリッジを通り過ぎると東京の街並みはどんどん暗くなっていく。
沿岸のかつての工場地帯も廃墟ばかりだ。
まるで真っ黒な卒塔婆の群れのような風景が広がる。
この辺は警察はおろか憲兵隊でも近づけないエリアである。
途中羽田空港だけが、光が点いているが、駐機している航空機はほとんどなく、プライベートのセスナが数機いるだけだった。
ゼミの面々もそんな光景に興味を失ったのか、学内のよもやま話を肴に、飲みのペースが上がっていった。
自治会の分派同士の揉め事、教授の不倫話、マージャン店での武勇伝・・。
僕もこのゼミでしか聞けない話に興味津々でいつしか、船は横須賀の沖合まで来ていた。
「おい見ろ!連合艦隊だ!」
甲板の誰かが叫び声をあげた。
僕と琴子も含めて、ゼミの面々から「おおっ~!」と歓声が上げる。
遠くの光り輝く横須賀の海軍基地の前に戦艦、空母、巡洋艦が何十隻も整然と海上に整列し、その威容を放っていた。
「大和だ!電磁砲を積んでる!」
ゼミの一人が興奮した様子で遠くに見える大和の砲塔を指さす。
そこには通常の大砲だけではなく、独特の形状をした巨大な電磁砲が3門、上方を向いていた。
通常の砲身にあるような滑らかな曲線はなく、鋭角的な金属の板が組み合わされており、まるで巨大な定規を並べたかのようだ。
砲身の側面に、無数の冷却フィンがむき出しになっているのが遠くからでもわかる。
その冷たい金属の質感が、大和の武骨な艦体とは異質な、異様な威圧感を放っていた。
僕は数日前の陸軍情報センターでのゴミ仕事を思い出していた。
大和の主砲がシステムの不具合で撃てないと申請があったが、結局は説明書の転記ミスだったあのしょうもない仕事だ。
まあ、あれでセンターのみんなが感状を貰えたからよかった訳ではあるが…。
しかしあんなデカブツが機能しなかったら、たまったものではないだろう。
あの船1隻で国家予算の5%が消えてなくなっているのである。
それにしても…。
「ねえ、みお。変じゃない?大和って無線封鎖の上、作戦行動中って話じゃなかった?
なんで東京湾なんかにいるの?」
琴子が小声で話してくる。
全くその通りだった。
まさかあの戦艦は大和ではないのか?
もしそうなら国家予算の5%分の船がもう一隻いることになるが・・。
いや、流石にそれはないだろう。
金額がいくらなんでも巨額すぎる。
国の生活保護費より多いのだ。
フェリーは横須賀も通り過ぎ、東京湾を出ようとしていた。
外はもう、光一つない漆黒の闇に包まれている。
船の揺れは、外洋に出るにあたり一段と大きくなり、波が船体を叩くゴォンという重く低い音が響き始めた。
潮風が容赦なく甲板を濡らし、塩辛い匂いが鼻をついた。
僕は故郷の伊美島にいた頃をふと思い出した。
あの頃は自分がこんな外洋に出ることなんて考えもしなかった。
人生は数奇なものだ。しかも愛する琴子と、そして仲間たちが横にいる。
僕は酔いの回った頭でそんな事を考えながら、ハイボールの缶を開けた。
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