百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

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第10話「神津島合宿 中編 有栖」

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(前回のあらすじ)
僕と琴子はW大のゼミ合宿に参加していた。行き先は神津島。
ところが参加メンバーの持ち物は酒とおつまみのみ。
夜行フェリーの甲板でエンドレスの宴会が続き僕はもうヘロヘロだ。
僕と琴子の明日はどっちだ。

神津島行きのフェリーは浦賀水道を出ようとしていた。
満員の船が外洋の波で大きく揺れる。

酒のピッチは早くなる一方だった。
空になった一升瓶が、船の傾斜で甲板を転がり、カランカランと虚しい音を立てる。
最初に教授が大の字になって倒れ、ゼミの面々も一人、また一人ブルーシートの上に転がっていく。

時刻は0時をとっくに回っていた。
僕も流石につらくなってきた。(琴子は元気いっぱいである)

「斎藤氏、流石にそろそろお開きにして船室に移動した方が良いのでは?」
「んあ~?全然でしょう。到着はまだまだ先ですよお~」
「いやいや、到着まで飲む気ですか。もう真っ暗ですよ。外洋に出たからここも潮を被りますよ~。」
「大丈夫ですよ。貸毛布を被ればいいんですよ。」
「いや、ほら、シャワーも浴びたいんで。先に琴子と船室に行くから場所だけ教えてください」
「?」
斎藤氏は回路が切れたロボットの様な反応を見せる。
僕は嫌な予感がした。
「すいません、ちょっと乗船券見せてもらっていいです?」
「?」
僕は無理やり斎藤氏から乗船券を奪うことにした。
斎藤氏が「あ~れ~」といってブルーシートの上を転がる。

斎藤氏から乗船券(団体用、学割付き)を奪った僕の表情は驚愕に変わった。

「なんじゃこりゃああああ!」

そこには「席無し券」という理解不能な表示があった。

席無し券!?何だそれは!?僕は慌てて周囲を見る。
耳に入るのは、けたたましいエンジンの振動音と、潮風に乗って響く遠くの波の音。
その時、僕はなぜ他の乗客が貸毛布を2枚手に入れて、早急に廊下や階段に場所取りをしていたのか、瞬時に理解した。
あれは、潮を被らない場所に自分の居場所を確保していたのだ。
一枚を床に敷き、もう一枚を体に被る。見ると、釣りのクーラーボックスを利用して、簡易テントみたいな構造にして寝ている玄人までいる。

鼻腔をくすぐる塩気を含んだ生暖かい風が、僕の顔を撫でた。
しまった・・・・!どうすれば!?まさか神津島到着までこの甲板なのか!?

いやーーーーっ!

「アハハハ、席無し券だって!全員神津島まで泳いでいけ~!アハハハ!」
琴子が腹を抱えてその場で爆笑する。僕の表情は絶望に歪んだ。

僕はゼミの愚か者たちを見捨てると、琴子と共に船内に入った。
どこだ、どこかにまともに寝れる場所は無いのか!?

答えは「ある訳ない」だった。船内は平らな部分には全て他の乗客が確保済みで、しかももうみんな寝ていた。
起きているものは我々の様な酔っ払いだけである。
僕はしょうがないので琴子と洗面所に行くことにした。
せめて顔だけでも洗わなくては・・・!

しかしそれも不可能であった。
洗面所に少女が突っ伏していた。

「おえー」

無理も無いだろう。
外洋に出た瞬間、フェリーは木の葉のように揺れているのだから。

「お嬢ちゃ~ん?大丈夫~?」

琴子が泥酔して半分呂律が回っていない状態で少女に声をかける。

少女は身長は150cmぐらいで綺麗なロングヘアをしている。
一瞬、先日陸軍情報センターで遭遇したあの銀髪の少女を思い出しドキッとしたが、顔は日本人だし、格好も普通のワンピースだった。

「うふふふ、お嬢ちゃん、かわいい、かわいい、かわいい~~」
「ひいいいっつ!お、お酒臭い!気持ち悪い!うぷっ!」
抱き着こうとする琴子を僕は引きはがした。

「こらこら琴子、犯罪はよくないぞお~。お嬢さん、大丈夫かい?」
「ひいいいい!こっちのお姉さんもお酒くさっ!うっぷーー!」

僕の心は深く傷ついた。

「お嬢ちゃ~ん、大丈夫?二日酔い~?」
「ちちちちち違います!お姉さんたちと一緒にしないでください!大体何でそんなに酒臭いんです!?何リットル飲んでるんですか?」

琴子が首を傾げて考え事をする。
「う~ん・・・。いっぱい?」
「ひえええっ、数も数えられないいいっ!うぷっ!また気持ち悪くなってきた!」
「大丈夫、船の先っちょまで行って本を読む。これで治る!」
「殺す気ですかあなたはああっ、まともそうな方のお姉さん!すいません酔い止めありませんか!?売店も閉まっててどうにもならないい~っ 死んじゃうううう~!」

あまりにも可哀そうなので、僕は甲板まで戻って旅行鞄の中から酔い止めと、水を取ってきた。(水は焼酎の水割り用の水)
少女は酔い止めを飲むとようやく一息ついて座り込んだ。

「あ、ありがとうございます・・・。わ、私、船なんて滅多に乗らなくて・・。この船こんなに揺れるんですか?」
「浦賀水道を出ればもう太平洋の沖合と変わらないから。大丈夫かい?船室まで送ろうか?」
「あ、いや、それが・・・」
少女は困った様子で船室を指さす。
船室を見た僕は仰天した。

彼女の船室は二等船室だったが、そこは単に大部屋をテープで格子状に区切っているだけで、まるで奴隷船だった。
人のいびきや寝息、そして船体の軋む音がごちゃ混ぜになって聞こえてくる。
しかも各区切りに、釣り客たちのクーラーボックスが並べられ、皆、そこの上に貸毛布を敷き、ベッドの様にして寝ているのである。
彼女の席番号の所だけが棺桶みたいに、クーラーボックスの隙間に開いていた。
あの場所で横になれるのはプロだけだろう。

「大丈夫だよ、お嬢ちゃん!お姉さん達の所に来よう!おつまみもあるよ!」
「いや。食べ物とか無理!でも、すいません・・・、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
その時、僕は不思議に思った。
ずいぶんときちんとした女の子のようだが親御さんはどこにいるのだろうか?

少女はまるで僕の心を読んだかのように自己紹介をする。
「あ、私、一人旅行をしていまして・・。有栖(アリス)と申します。失礼ですがお名前を伺っても・・?」
「W大2年、君島みおだ。こっちの酔っ払いは同じく2年、君島琴子。有栖さん、よろしくね」
「W大・・・!?あ、頭いいんですね。君島みお・・琴子・・・。あの、お二人はお姉さんと妹さんですか?」
「いや、二人とも同じ年の家族だ。まあちょっと説明に時間を要する関係ではある。おいで、君の就寝スペースを確保しよう」
「は、はい!ありがとうございます!」

有栖はペコリと礼儀正しくお辞儀をしてついてくる。
年齢は高校生くらいか?
しかしこの物騒なご時世に女の子の一人旅行とは極めて珍しい。
しかも泊まりがけで行き先が玄人向けの神津島とか。
どういう事情で旅行をしているのだろう?
見た感じかなりまともそうな娘に見えるが・・・。

しかし有栖と呼ばれた少女は、僕と琴子が連れて行った先が、甲板のブルーシートで、あたり一面にマグロの様に泥酔したW大生が倒れているのに仰天していた。

「何ですかこれはあああ!」

まあそれが普通の反応だろう。

僕は壁沿いに倒れているゼミのメンバーを、他の所に粗大ごみのように転がすと、空いたスペースに貸毛布をロープで吊り、僕と琴子の旅行鞄をウエイト代わりにして簡易テントを作成した。

「あ、あの、ありがとうございます!随分手馴れてますね!」
「あ、いや、訓・・・じゃなくて、昔、高校の部活でね。」

危ない、もう少しで正体をバラす所だった。

「さ、ほら、中に入って」「はい!」

有栖は簡易テントの中に潜り込もうとする。すると琴子が有栖に抱き着いて中に入ってきた。

「うへへへへ、お持ち帰り~、ほ~ら、琴子クッションだよおお」

「ひいいいいいっ」

「琴子、犯罪はよくないぞお」

しかし琴子はそのまま有栖に抱き着いて離れない。
仕方なく僕も簡易テントの中に潜り込んで寝ることにした。

中は流石に三人だと息苦しい熱気がこもっていた。
すぐ外からは、泥酔したゼミ生たちのいびきや寝言、そして波が船体を叩くゴォンという重い音が聞こえてくる。
横になると、船が波の谷間で大きく上下に揺れているのがよくわかる。
潮風が吹き込むわずかな隙間から、塩辛い匂いがする。

僕の瞼はすぐに閉じていった。




慌ただしい雰囲気で起きる。
気が付いたら既に太陽は高く昇っておりカモメの鳴き声が聞こえてきた。
腕時計を見るともう9時を過ぎている。

目の前に色鮮やかな緑の島が見えていた。式根島だ。
ちょうど出港した所らしい。
ここから最終目的地の神津島まで後1時間もかからない。

「おはよおおございまーす」

有栖が死にそうな顔で挨拶する。
見ると琴子がいまだにしっかり有栖の身体を抱きしめながら爆睡していた。
さぞかし暑苦しかっただろう。

「みずううう」
「はい、どうぞ、有栖。」

僕は有栖に水(焼酎の水割り用の水)をコップで渡す。

「ぐびぐび、ぷはーっ、染みわたるうう~」
「さっ、神津島まで後僅かだ。一緒に歯を磨きに行こう。」
「はい!」
僕は有栖と船内の洗面所で歯磨きと洗顔をする。
途中新島あたりでかなり乗客が降りたのだろう。
船内には三分の一程の客しかいなかった。

「有栖、今日はどうするつもりなんだい?何か予定はあるの?」
「あ、いや、特に予定は決めてなかったんで・・。よろしかったらご一緒させて頂いてよろしいでしょうか?」
「一緒に?まあみんなは歓迎するだろうが・・。でも僕たちはゼミ合宿だからね。多分フィールドワークとかすると思うけど・・あまり面白くないかもしれないよ?」
「そんな事ありません!本物の大学生がどんなことをするのか私、興味があります!」

目を輝かせる有栖。
しかし・・・。君の言う「大学生」はあの甲板に倒れているマグロ達だよ?
まあ、未来ある青少年の夢を壊すのも良くないので僕はあえて了承することにした。

甲板に戻ると流石にゼミの面々がブルーシートを片付け撤収の準備に入っていた。

「おはよおおお、有栖ちゃああん!」
「ひいいいい!お酒くさあああい!」
琴子が満面の笑みで有栖を抱きしめる。

僕は教授に有栖の同行の許可を求める。
「あの教授、よろしいでしょうか。あの高校生が我々に同行を希望しているのですが。
良い学校見学になると思います。」
「あ、うん!いいよ、いいよ!大歓迎!有栖さんと行ったっけ?
W大リバースエンジニアリング概論ゼミにようこそ!」

周りのゼミの面々からも歓迎の声が上がる。

「よろしくね~有栖さん!」
「高校はどこ?えっ、S女学院!?すごいじゃない!」

よかった、問題なさそうだ。
僕と琴子も下船準備を進める。
旅行鞄の中身(拳銃も含め)を確認し、いざ準備完了。
僕たちの目の前に真っ青な海と神津島が見えてきた。

(続く)
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