百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

文字の大きさ
11 / 30

第11話「神津島合宿 後編 楽園の残骸」

しおりを挟む
(前回のあらすじ)
僕「みお」と琴子は神津島へゼミ合宿へ向っていた。
まさかの甲板でのエンドレス酒盛り、逃げ場なしという恐ろしい環境で、僕と琴子は船酔いに苦しむ有栖(ありす)という少女を介抱する。
そしてフェリーは神津島の桟橋に到着する。


「うっひょおお!気持ちいい~」「ヒャッハー!水だア~~~!」
ゼミの面々が叫び声を上げながら真っ青な水面に吸い込まれていく。

ここは神津島の北にある赤崎遊歩道。
遊歩道のあちこちには、それぞれ高さが違う飛び込み台があり、皆が次々と飛び込んでいく。

我々W大リバースエンジニアリング概論ゼミは、全員二日酔いでフェリーから下船するとなぜかバスで島の北に向かった。
もちろん行先には観光地しかない。
同行してきた有栖は我々の行動を不思議がっていたが、目の前の余りにも綺麗な水面を見ると、
満面の笑みを浮かべて「キャ~!」と水面に飛び込んでいった(もちろん水着着用)

僕は水面でプカプカ平泳ぎをしながら、皆の様子を見ていた。

「教授、いきなり朝から遊んでいますが、こんなんでいいんですか。」
僕は隣で死んだように仰向けで、ただ浮いている教授に尋ねた。

「良い研究の為には、まず心身の健康が必要だ。綺麗な海で身を清める必要がある。」
それよりも飲酒量を控えれば良いのではないかと思ったが、そういう発想は無さそうだ。

「次、琴子行っきま~す!」
一番高い飛び込み台の上で琴子が水着姿でポーズを決める。

「いよっ、琴子ちゃ~ん!」「待ってましたあ~っ」
ゼミの面々が歓声を上げる中、琴子が思いっきり助走をつけて空高く跳躍する。

「うりゃあああ!」

「ちょっ!琴子お姉さん!高!」

水面の有栖が仰天する中、琴子はなんと10m以上高く飛ぶと、そのまま
「えいやあああ~!」
と回転しながら水面に飛び込んできた。

「うわー!」「退避!退避―!」

落下地点の周囲にいる人々が身の危険を感じ、慌てて退避する。

琴子は凄まじい大きさの水柱を上げながら海面に飛び込んだ。
ドボオオンッという豪快な水しぶきと共に、日光が七色に輝く。

「太陽が・・・一杯だ・・。」
教授は渋い声を上げながら、手に持っていたウイスキーの小瓶を口に運ぶ。
お前、今日研究する気無いだろ。
僕は心の中で突っ込んだ。

僕たちは午前中、赤崎で力いっぱい遊ぶとまたバスで港のあたりに戻り、何故かカレー屋に入った。
フルーティなカレーを食べながら、島のお昼はのんびりと過ぎていく。
気が付いたら皆のコップにはビールが注がれていた。

「あの・・・みおさん、根本的な質問をしてもよろしいですか?」
「何だい有栖?」
「どうして皆さん昨夜からずっとお酒を飲み続けているのですか?」

「有栖、難しいことを考えてはいけないよ。」
僕はそう言ってビールのコップを傾ける。
「有栖ちゃん!大学生はね、お酒を飲むのが仕事なのよ!」
「えっ」
有栖はどうして良いかわからない様子で琴子を見ていた。
まあ、そうだろう。それが普通の反応である。

その時だった。
「よ~し、そろそろバスが来るから次向うぞ~」
教授の言葉に皆ぞろぞろと席を立つ。次はどこだろうか。
この合宿は始終全く何の説明も無い。
ひょっとして教授の気分次第では無いだろうか。

皆が乗り込んだバスは神津島を東に横断していく。
青々と茂った畑が広がる。
道の途中で見る家も廃墟ではなく、屋根が新しかったり、玄関に花が生けてあったりする。
「伊豆諸島は大厄災の時もミサイルが落ちてないし、怪異も出現しなかったからね。大厄災前の生活基盤が殆どそのまま残っているんだ。」
斎藤氏が有栖に解説する。

「電気も水道も普通にあるのが驚きますわ。電話まで通じるなんて・・。」
「本土までの海底ケーブルは今も現役だからね。今回中継基地を見に行く予定なんだ」

なんだ、ちゃんと予定組んでいたのか?
それなら事前に説明しておけばいいのに・・。そういうところだぞ。斎藤氏。

バスは終点の多幸湾についた。再び真っ青な海が目の前に広がる。

海岸は海水浴場になっており、若者や家族連れで賑わっていた。
午前中、赤崎で泳いだのにまた海水浴?

「よ~し、これより研究の時間であ~る。諸君今回の対象は・・あれであ~る!」
教授は、海水浴場の向こうにある丘を指さした。

多幸湾の裏に聳え立っている天上山は、元は噴火によってできた火砕丘であり、非常に浸食されやすい地質となっている。
その為、長年の風雨で山の頂上から麓までがほぼ崩落しており、巨大な砂の斜面を形成していた。

その斜面の手前側に特徴的な姿をしている巨大な飛行機が砂に埋もれていた。

Tu-160。
通称「ブラックジャック」。
かつて「ロシア」と呼ばれた国が運用していた可変翼超音速戦略爆撃機である。

「こりゃあ、凄い。殆ど原型のまま残ってるじゃないか。」
「不時着した時に炎上しなかったのか?」
ゼミの面々は興味津々という感じで、丘に埋もれているTu-160への斜面を上がっていく。

「有栖、足元に気を付けるんだよ。この砂は極めて粒子が細かい。非常に崩れやすいから。」
「あ、ありがとうございます。みおさん。」
「この細かい砂の成分が幸いして不時着した時に機体は爆発しなかったのね。積んでいた兵装も爆発しなかったってこと?」
琴子が不思議そうに言う。
「この機体が墜落した時はロシア、ウクライナ戦争の末期で、ロシア機に積めるような爆弾はありませんでしたから。そのせいだと思います。」
「へえ、有栖ちゃん、歴史詳しいのね~?」
琴子が感心した様子で有栖を見つめる。僕も驚いた。

ゼミの面々はTu-160の機体に取りつく。
「この可変後退翼はどの角度まで後退するんだ?えらい空力効率になるだろうが・・油圧アクチュエータ(作動装置)はどこにあるんだ?」
「翼の付け根やピボットの真横ではなく、胴体中心部に配置されているみたいだな。堅牢性を重視したんだろう。」
機体の周りでわいわい議論が始まる。

有栖はびっくりしている様だった。
「凄いですね、さすが皆さん大学生ですね。」
「まあみんな機械は詳しいから・・。それにしても何で旧ロシアの爆撃機がこんな所に不時着しているんだ?大厄災の時にそんな運用をする余裕は無かっただろうに・・。」
「この機体が墜落したのは正確には大厄災の半年前です。当時大変な騒ぎになりましたから。ロシアの爆撃機はその当時。ウクライナのドローン攻撃で片っ端から地上で爆破されてましたので、何もしてこない極東の日本相手なら威嚇に使えると思われてたんでしょう。」
「凄いね、有栖ちゃん。よく知ってるね?」
僕も驚いた。詳しいなんて物じゃない。
大厄災前後の歴史資料は当時の大混乱の中で殆ど残っていないはずなのに、なんでこの娘はそんな事を知ってるんだ?

斎藤氏がTu-160の巨大なエンジンナセルの一つを指さす。
「見なよ、エンジンの一番外側、ファンブレードの先端部が、まるで巨大な岩石で殴りつけられたように、不規則に粉砕されている。
吸い込み口(インテイク)全体は原型留めてるけど、ブレードの根本、ディスクとの接合部分に致命的な亀裂が入っているな。墜落の原因はこれか?何かを吸い込んだのか。」
「ブレードの損傷パターンが異常だなあ。通常のバードストライクなら、高速で貫通した跡が残るはずだ。だが、これは……」と、他のゼミ仲間も眉をひそめる。
「まるで、叩きつけられた後、内部で暴れたような痕跡だ。これチタン合金だろう?一体どんな鳥を吸い込んだんだ?」

「・・・鳥じゃないです。」

ゼミの面々から離れたところで有栖が静かに呟いた。

「・・・有栖?」
「高度12,000で威嚇飛行をしていたTu-160は、警戒する自衛隊機の目の前でエンジンが爆発。高度を上げようと機首を上げすぎた同機は揚力を失い神津島に不時着。吸い込んでしまったんですよ。有翼型の「怪異」をね・・。」

有栖は僕をまっすぐ見る。

「人類が遭遇した最初の「怪異」です」

気のせいか?今、一瞬瞳の色が赤く見えたが・・。

「・・・そんな話は初めて聞いた。どこで知った?」
僕は自分の喉が渇くのを感じた。

有栖は慌てて苦笑した。
「いえいえ、私も本で見ただけです。『大厄災!真相はこうだ!』みたいなね。」
「ああ・・・なるほど。」
僕の疑問は氷解した。
書店では未だにこの手のオカルト物が一定の人気を誇っており、大抵店の奥の似たような場所に陳列されている。
ただそれにしても具体的な話だったが・・。

「有栖ちゃん。読んでいる本が偏ってるのは良くないぞ~」
琴子が有栖の髪の毛を掴んでわっしわっしと撫でまわす。
琴子、それはワンちゃんを可愛がるやり方だ。
「ひゃあ~」有栖は嬉しそうに琴子に抱き着いていた。

「・・・でも、ここが分岐点だったんです。この時もっと事態を真剣に考えていたら・・。
半年後、北米中の旅客機が有翼型の怪異に襲われ墜落。
北米の大統領は「中国の仕業だ。核攻撃で力強く反撃だ」と勇ましくSNSに書き込み。
独断専行で威嚇の為に人民解放軍が発射した原潜のミサイルは、なぜか核弾頭が搭載され、北米の東海岸の各大都市が消滅。
NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)の自動報復装置がオートで作動し・・。」

有栖は呟くように言葉を紡ぎ続ける。

「・・で、この有様です。フッフッフ。」

有栖は自嘲したように微笑みながら肩をすくめた。

「みんな死んじゃいました。」

有栖は泣きそうな顔をしていた。

「有栖・・・。君は・・・・。」

その時、琴子が有栖を後ろから思いっきりガバッと抱きしめた。

「大丈夫だよ、有栖ちゃん!琴子お姉ーさんと、みおお姉さんがついているからね!」
「有栖、大丈夫だよ。そんなことはもう起きない。だから安心してくれていいよ。ここにいる僕たちと有栖がいればきっと世界は何度だって蘇る。約束するよ。」

有栖の目に一瞬涙が光った。

「はい!そうですね。私も頑張ります!」
「うん」

太陽はすっかり傾いていた。
空が真っ赤な色に染まっていく。
ゼミの面々は未だTu-160の構造に興味津々だったが、そろそろ風も強くなってきた。
斜面を降りて、島の湧き水。多幸湧水をみんなで飲み干す。

「有栖ちゃん、もう帰っちゃうんだ。」
琴子が残念そうな顔で有栖をだっこしてうりうりしている。

「ハイ、今夜は宿を予約していますので・・。明日は朝、島を出て別の所に行くつもりです。
今日はご一緒できて、大変ありがとうございました。」

「W大に興味あるなら是非秋のオープンキャンパスも来てよ、僕たちも体験授業やってるからさ!S女学院なら推薦もバッチリあるし。」
教授が早速勧誘にかかっている。

「有栖ちゃんまたね~!」「キャンパスで待ってるよ~!」
居並ぶゼミの面々の一人一人に有栖は丁寧に挨拶をしていく。

「有栖、よかったのかい?明日も我々は研究に出ると思うけど。」
「いえ、大丈夫です!目的は達成しましたから。」
「ん?目的?」
「あっ、そうだ、琴子さんとみおさんの宛先を教えていただいていいですか?
絵ハガキ出します!」

「うん、いいよ。」
僕はメモに郵便の送付先を書いて有栖に渡した。

「あれ?局留め何ですか?」
「うちのアパート、郵便受けに鍵がかからなくてね。大丈夫、きちんと転送される仕組みになってるから大丈夫だよ」
「はい!ありがとうございました!」

「また会おう、有栖。」
「有栖ちゃん、待たね~!」
「こちらこそ!それでは失礼いたします!」

有栖は礼儀正しくお辞儀をすると、そのままバス乗り場の方へ去っていった。
その背中を、僕はじっと見つめていた。
去り際に彼女の髪が風に舞い、キラリと光った。

それから夜・・・。

僕と琴子はぶんむくれて多幸湾の側にあるキャンプ場のバンガローにひっくり返っていた。

他のゼミの面々は冗談抜きで浜辺でキャンプだ。

「信じらんない、まさか本当に浜辺でキャンプなんて・・。」
「あれだな、斎藤氏は帰り、泳いで帰ってもらおう。」

僕と琴子だけはバンガロー(但し板張りの超オンボロ)だが、まさかテントは無いだろう。

浜辺の方からゼミの面々が騒いでいる音が聞こえる。
嫌な予感がするが今夜も朝まで飲むつもりなのか?

「それにしても有栖ちゃん、可愛かったねえ~。はう~☆」
「不思議な娘だったね。本当に高校生だったんだろうか。」
「S女学院なんだから凄いよね。うちの学校来てくれるかな~?」
「どうだろうね、随分頭が良さそうだったからT大とかじゃないか?」

しかし僕は何かひっかかる物を感じた。この違和感は何だろう?

その時だった。
僕たちの鼻孔をある匂いがくすぐった。
なんと貝が焼ける匂いだった。
まさか今夜は海鮮バーベキューなのか!?
それなら話は違う。
僕と琴子は手にグラスを持つと、バンガローのドアを開けた。

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...