百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

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第12話「君島姉妹ファンクラブ」

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(前回のあらすじ) 僕「みお」と琴子は神津島のゼミ合宿で「有栖」という不思議な少女に出会う。少女は去り、悦楽の夏休みの日々は続く。しかし不穏な事態はもう目の前に迫っていた。


「キャー!みお様かわいい~!」「かーわーいーいー!」
僕は辱めを受けていた。フリルが一杯ついたスカート、フリルが一杯ついたドレス、フリルが一杯ついた帽子。

僕は恥じらうように笑う。本当に恥ずかしいからだ。

「やっぱりこのコーデかわいい~!」「みお様、こっち向いて!ハイ、ポーズ!」
「こっちのコーデもどうかしら?」「キャー!かわいいい~~!」

ここは箱根の強羅にある別荘街。閑静な森林の奥の屋敷の中で、僕は悪夢の様な合宿に強制的に参加させられていた。

合宿の名前は「君島姉妹ファンクラブ夏季集中大合宿IN2070、それは愛」

僕と琴子はファンクラブ会長の屋敷で辱めを受けていた。
いや正確に言うと違う。
辱めを受けているのは僕一人で、琴子はノリノリでフリルだらけの服を着てポーズを取っている。

「琴子様素敵~~~!」「琴子様か~わ~い~い~!」
満面の笑みを浮かべてファンクラブ会員の女の子たちからのスポットライトを浴びる琴子。

まさに悪夢だった。

事の発端はゼミ合宿でオンボロバンガローでの2泊3日を過ごし、行きも帰りもフェリーの中で強制飲酒となった僕が、千葉のビジネスホテル(エアコン無し)への移動を拒否したせいだ。
もう限界だ、高田馬場のアパートに帰りたいと駄々をこねる僕を見て、琴子は何を思ったのか君島姉妹ファンクラブ会長の自宅に電話したのだ。
瞬時に目の前に大厄災前から現役のロールスロイス(執事付き)が横づけされ、僕と琴子はこの会長の強羅の別荘で24時間のファンミーティングを行うことになったのだ。
夏休みで帰省していた会員達も全員が強羅に集合し、それはもう大賑わい。

僕は判断を誤った。

僕はその日午後、たっぷり時間をかけてタワー状にデコレートされたお菓子を延々と食べ続ける「アフタヌーンティー」という謎の行事を終えてボロボロだった。
これで後数時間経つと今度は、こってりしたコース料理を延々と食べ続ける晩餐会と、晩餐会後の「君島姉妹リサイタルIN強羅、素敵なジャズの世界へようこそ」が開催される。
楽しいのは就寝前の強羅の温泉(白濁。硫黄泉)だけだった。

僕は琴子が会員と一緒に真っ白なドレスに着替え始める時に、そっと抜け出した。
飯島准尉への定時連絡の時間だった。
僕が唯一、一人になれる時間である。
(後は外出時も会員全員がついてくる)
僕は溜息をつくと全身フリルだらけの服を着ながら公衆電話がある強羅駅に向かった。

夕方の強羅駅は、賑わっていた。
夏休みということもあり、大涌谷見物帰りの観光客が多いのだろう。
土産物屋はどこも混んでいた。
もちろん観光客全員の視線が僕に集まる。恥ずかしい。

でもこういう服しかあの屋敷にはないんですよ、皆さまご理解ください。
僕は心の中で精一杯の言い訳をしながら電話ボックスに入った。

「もしもし、君島です。そう、みおの方。飯島准尉をお願いします」

僕は勝手知ったる陸軍情報センターに電話をする。
すぐに隊員が電話回線を飯島准尉専用の回線につないでくれた。

「は~い、飯島で~す。中尉、今日のアフタヌーンティーはいかがでございます?
羨ましいな~、こ~のブ~ルジョ~アめええええ」
「ごめんなさいすいません僕が悪かったです。任務についた方がマシなのであの屋敷から僕を出してください。」
「残念ながら怪異が出ないので中尉の出番はありませ~ん。陸軍情報センターも交代で半分はお休み中で~す。来週まで実質稼働しませ~ん。」
「そ、そんな!殺生な!」
「あ、そうだ。中尉の所に絵葉書来てますよ。この有栖って人誰?」
「その娘はゼミ合宿行くときに琴子がゲットしてきた高校生です」
「まあ~!?未成年に手を出したの?は、犯罪者!大変だわ、服役先はどこがいいかしら?択捉の核廃棄物処理施設?それとも東シナ海の海底炭鉱?」
「ち、違います、落ち着いてください、ゼミのフィールドワークに参加してもらっただけです。犯罪じゃないです。本当です。」
「みおお姉さん、琴子お姉さん、海楽しかったですって書いてございますよ。ま~あ、どんな『フィールドワーク』をしたのやら。おお怖い怖い。」
「違いますううう。ちなみにその絵葉書どこから来てます?」
「軽井沢からよ。消印は一昨日。特に不審な点は無いわね。こっちで預かっておくわ。
じゃあ、定時連絡は特に報告事項無しという事で。また明日~」
「あっ、飯島准尉、もうちょっとお話を…」
「私、誰かと違って予備役じゃないんで、セクトの対応で忙しいで~す。さよ~なら~」

そう言って飯島准尉の電話は切れてしまった。

はあ、またあの屋敷に戻るしかないのか…。

僕は嘆息した。
重い足取りで電話ボックスを出る。
その時だった。
僕は見知らぬニット帽を被った男に声を掛けられた。

「姉さん、姉さんじゃないですか?」
誰だコイツ?私はあなたのお姉さんじゃなくってよ?

「あ、いや、ほら、自分ですよ、この前の池袋の。」
その男はそっと自分のニット帽を外した。
そこには真っ赤なニワトリみたいなモヒカンが…。

えっ!?コイツあのニワトリ頭!?何でこんな所に!?
僕はこの前(といっても、もう遠い昔に思えるが)池袋のジャンキーのたまり場、クラブEDENで銃を突き付けて脅したばかりの相手に遭遇し思わず固まってしまった。

まずいことに今は拳銃を持ってきてない。

「あ、あ~、あの時の…。まあ、あなたがこんな所に何の用でいらっしゃるのかしら?」
「え?自分ですか?あ、ここの別荘のお客さんに納品です。池袋からバイクで。」
何の納品かは聞かないことにした。

「ま、まあ~。それはご苦労なことでございますわね。それでは私、失礼いたしますわ
オホホ…」
「大丈夫ですか?姉さん、しっかりして下さい」
「う、うるさいわね!察しなさいよ。変な口調が移っちゃって困ってるのよ」
まずい。とりあえずこの場を離れなくては。駅前の人間が全員こっちに注目している。

「と、とりあえず、お茶でもいかがでございます?アップルパイの美味しいところがございますわ、ホラ、早くこっちにおいでなさい!」
「えっ?ま、まあ配達終わったんでいいですけど…。じゃあお言葉に甘えて」
僕はその場を逃げるようにフリルだらけの服を着たまま、池袋のモヒカン男をアップルパイの美味しい喫茶店に連れて行った。

強羅の駅前から少し離れた所にある喫茶「強羅山荘」は別荘街の山荘の2階にある看板も無い、地元の人しか知らない店だった。
この店は個室があるのでそこなら、誰かと話していても外に漏れることは基本無い。
店内では別荘の住人たちが、今日の美術館の絵の入れ替えや、画商の情報について話し合っていた。
僕はニワトリ頭を奥の個室に連れて行った。
ニット帽を被っているのでとりあえず観光客にしか見えないのが幸いする。

「すごいっすね。こんな世界があるんですね…。」
ニワトリ頭が店の中をキョロキョロ見渡す。

「僕が池袋行った時もそう思ったぞ。あー、それで店の方は大丈夫か?」
「大丈夫も何も…翌日から普通に営業再開っす。姉さんがいいブツのルート紹介してくれたんで店も大繁盛です」
「あれだけの人数が怪異に変異して死人になったのに?懲りない連中だな。おかしいぞ。」
「姉さんの格好の方がおかしいっす。」
「う、うるさいでございますことよ!と、ところで何か用だったんじゃないのか?」
「あ、いや、逮捕しないでくれたんで助かったというか、お礼を言いたかったというか…。
お陰で死なずに済みそうです」
「ん?クスリは管轄じゃないからな。余計な仕事したくないし…。それで死なずにすむって何だ?何かやらかして、刑務所で報復されるって感じか?いかんぞ、揉め事は。」
「そんな事してないっす。あ、自分逃げてきてるんすよ。「サーヴィス農場」から…」
「あー、アレか…。」
僕は嘆息した。
サーヴィス農場。
正式名称はもちろん違うが一般的にこの名前で通っている。

事の発端は食糧不足に業を煮やした政府が、耕作可能地域と労働人口を拡大するために、従来生産活動ができない、怪異が出現したり、インフラが崩壊した地域の使用権を民間企業に「私有権」として売却したことによる。
つまり政府の力が及ばないところで経済活動ができる制度ができてしまったのだ、
たちまちこの「私有権」に対しヘッジファンドや闇資金が殺到し、一部海外も含めた全国中に「サーヴィス農場」が設立された。
なぜサーヴィスという名前かというと、要は事業主は従業員に対し1年365日、24時間のサーヴィスを要求することができるという訳だ。
本来は当然違法であるが、対象地域は政府の力が及ばないので監査も監視も無い。
当然、そんな所で働く奴はいないのだが、そこで失業者や難民を拉致同然に連れていくケースが急増したという訳だ。
24時間働いても水も食糧も寝床も無く、いつ怪異に殺されるかわからない。
古代の奴隷制度の方がまだ寝床と食事があるだけマシである。

「捕まっちゃうと自動的に農場に送り返されてゲームオーバーなんすよ。
それで何とか新しい戸籍買おうとしてまして…。1,000万程いるんで今の仕事やめられないっす。」
「あー、そういうことね。大変だね、君も…。」
「そこで姉さんに物は相談なんすけど…。これ、買ってもらえないです?」
そう言ってニワトリ頭はカバンから何かの書類をゴソゴソと取り出した。
何だ?何かのリストの様だが…?

「これ、セクトの戦闘員の名簿だと思います。」
僕は内容にざっと目を通してみた。どうも色々なセクトの分派から数名ずつ名前があるようで僕も知っている名前が何人かいる。集合先の場所、経路、武器の受取場所…その様な名簿だ。ごく最近作られた資料に見える。
「何だ、君、これどこで手に入れたんだ?」
「ウチのトイレでこの前客が死んでまして…。ソイツのカバンの中です。ソイツ、青い顔してウチでモルヒネ買ってたんで、多分痛み止めですね。銃で撃たれてました。」
「物騒だね、君の店。それでソイツどうなった?」
「え?いつもどおりですよ。翌朝ゴミ清掃車が回収していきました。池袋なんで普通っす」

僕は溜息をついた。
この国で行方不明者を捜索するのは至難の業だが、今のニワトリ頭との会話だけで十分説明できてしまう。

「あー、わかった。ウチにセクト担当いるからその子に渡すわ。これでいいか?」
そう言うと僕は財布から小切手を取り出し、20万円と書いてニワトリ頭に渡した。
「えっ!?い、いいんですか!?」
「いいよ。ウチで同じリスト作ろうとしたらいくらかかると思う?」
「あ、ありがとうございます!ちゃ、ちゃんと取引でお金払う人初めて見た…。」
「何だ、そんなに珍しいのか?」
「いや、めちゃくちゃ珍しいっすよ。普通脅して金を払わずに奪い取るか、後払いにするって言ってブツを受け取った後逮捕させちゃうとか…。
知り合いでセクトの情報売りに行ったら、相手が実は首都警で、その情報のありかを拷問で喋らされて死んじゃった奴いますんで。」
「ちょっと待った…。首都警?そんなことしてるのか?」
「姉さんも知ってるでしょ?首都警は捜査なんてしないんで。殺戮するだけっす。」

僕は思った。最近の首都警ならやりかねない。
特に長官が今の人物になってから、ますますそのやり方は激しくなっているらしい。

どっちみち、裏情報を取り扱うにあたり、このニワトリ頭はその辺の危機判断はできる人間だという事だ。味方にしておいて損はないだろう。

「しかし、あれだな。思ったよりまともそうだな、君。なんでサーヴィス農場なんかに?」
「中学出て集団就職で上京したら騙されて…。最近みんな警戒するからスレてないのを狙うんですよね、アイツら。でも姉さんすごいっすね。その年で中尉でしょう?スーパーエリートじゃないっすか。」
「僕はただの予備役だよ。全部琴子のお陰だ。」
「ああ、あのスーパー怖いお姉さん…。マジ怖かったっす。元気ですか?」
「今、満面の笑みでドレスをお着換え中だ。会っていくか?」
「絶対イヤッす。怖いっす。姉さんどうやってあんな怖い人と知り合いになったんです?」
「琴子は岡山で高校が一緒だったんだよ。それで仲良くなったんだ。」
「え?岡山?自分もです。どこの高校だったんです?」

「伊美島高校。」

「いっ……!?」
ニワトリ頭の顔が一瞬で真っ青になる。

「…すいませんでした。」
「君が謝ることじゃない。」

僕と琴子の出身の話をすると、全く知らないで聞き流されるパターンと、少しでも知っていて真っ青になるパターンに別れる。
この場合後者のようだ。

「えっ、でもどうやって…。あの島、怪異に飲み込まれて全滅したんじゃ…。」
「琴子に助けてもらった。彼女がいなかったら100%死んでたよ」
僕はそう言いながらあの島での日々を思い出していた。
目の前には素敵な紅茶とお菓子。上品な音楽。
しかし僕の鼻孔には腐臭と血の臭い・・あの「伊美島」の臭いが漂っていた。

(続く)
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