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第24話「四国山中編⑦ 敵本拠地突入」
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(前回のあらすじ)僕「みお」と琴子は四国山中で敵の本拠地に潜入した。本隊が陽動で敵の砲撃を受ける中、僕たちの突撃が始まる。何としてでも人を容易に怪異に変異させる元凶を潰さなくてはいけない。今、血風が吹く。
僕と琴子は崖をよじ登ると、かつてのケーブルカー乗り場の中に入り込んだ。
正直息が上がって倒れそうになる。
しかし作戦はこれからなのだ。休むわけにはいかない。
「さっ、みお。ようやく中に入れたわ。まずはどうする?いきなり地下に入る?」
「いや、この混乱の中で真っ先にやっておきたい事がある。通信室の確保だ。まずは敵の耳を潰す。」
「わかったわ。さっき外から全体を見た時に、大きなアンテナが見えたわね。
そっちの方向へ行ってみよう。」
僕はサイレンサー付きのベレッタM84FS、琴子は妖刀「丙午千手院長吉」を構える。
琴子の瞳が瞬く間に真紅に変化する。
僕と琴子は音もなく、廊下を進んでいく。
途中、スピーカーから「人民兵士よ、今こそ立ち上がれ!権力の犬、陸軍を倒せ!」など同じセリフが何度も流れる。
恐らく録音だろう。
不思議なのは敵の本拠地なのにもかかわらず、見張りにも誰にも会わない事だった。
途中事務室や会議室らしい部屋も通り過ぎたが、どの部屋も誰もおらず、床には書類が乱雑に散らばっていた。
みんな逃亡したのだろうか?
その時だった。
「みお!静かに・・・!誰かいる!」
琴子がさっとドアの横に張り付く。
部屋のドアの横には「会計室」と表札が出ていた。
僕は懐からハンディタイプのサーモスコープを取り出して中を覗いた。
大厄災前に製造された超貴重品のサーモスコープには体温を失った人間が倒れているのが見えた。
「琴子、中に人がいるぞ。倒れているようだが人間じゃない可能性がある。気をつけろ。」
「了解、みお。1,2,3で入るわよ。」
「よし、1,2,3、GO!」
僕が勢いよくドアを蹴破ると、琴子は刀を抜いて瞬時に室内に突入した。
琴子は迷わず倒れている人間に向かい、その首を刎ねる。
相手が生きていようが死んでいようが容赦はしない。それが琴子だ。
僕は首を刎ねられた人物の周囲を確認する。
宗教関係だろうか?何かの白い制服を着た男性が、、開いた金庫の中に手を突っ込んで絶命している。
その周囲には驚くことに大量の一万円札が散らばっていた。
「何だ、コイツ…。これ持って逃げようとしたのか?」
「残念ながら三途の川は手ぶらで渡ったみたいけどね。それよりもみお。コイツの首見て。」
琴子が今刎ねたばかりの男の首を足で転がす。
「これは・・・!」
この男は見覚えがあった。
ドローンで上空から偵察した時に、異様に手が長いフードの男と話していた禿げの腹が突き出た男ではないか?
しかも口元だけが異様に変異している。
「大方自分だけ逃げようとして怪異に変異させられたんだろうけど・・・。金庫を開けて持ち出そうとする脳みそは残っていたみたいね。でもこれじゃ先が思いやられるわ。中の人間はみんな怪異になっていると思った方がいいわね。」
「しかし変だな。怪異に変異しているのならばなぜ倒れたままで僕たちを襲わなかったんだ?」
「怪異に変異した後で誰かに処分されたんだわ。見て、コイツの胴体、後ろから何かで貫かれている。」
「なんだコレ・・。何で貫かれているんだ?どういうことだ?」
「どっちみち、一筋縄ではいきそうもないわね。さ、みお。通信室に行くわよ」
その時だった。
琴子が何かに気が付いて、丙午千手院長吉を即座に振りかざしてドアに突進した。
そこにいたのは・・・。
「琴子!待て!」
琴子が慌てて後ろに飛びのく。ドアの所にいたのは・・何と子供だった。
身長は160cmくらいの怯えた表情の男の子がドアの所で震えている。
まだ中学生くらいか?彼はさきほどの倒れた男と同じ白の制服を着ていた。
「ひ、ひいっ、お、お姉さん達・・誰?」
僕は混乱した。何でこんな所に子供が!?
「黙れ。声を立てるな。騒ぐと斬る。」
琴子が普段では全く想像もできないドスの利いた低い声で男の子の首に刀を突きつける。
男の子は泣きそうな顔でその場で固まった。
「琴子、落ち着け。相手は子供だ。強迫は逆効果だ」
琴子は一瞬迷った様子を見せたが、刀を鞘に戻す。
但しその手は柄にかけられていた。
「落ち着いて聞いて欲しい。僕たちは陸軍憲兵隊だ。残念ながら君たちの組織には内乱罪の容疑がかかっている。死にたくなければ僕たちの質問に答えてほしい。
僕の言っていることは理解できるね?」
男の子は目に涙を浮かべながら必死にうなずいた。
「よし、わかった。まず、君は未成年だ。大人しく僕たちに協力してくれれば司法取引次第で無罪にできる。いいね?」
「うん・・。わ、わかったよ。で、でも僕も無理やりお母さんに連れてこられただけで何もわからないよ。」
「落ち着いて、君のわかる範囲でいい。他の人たちはどこへ行った?」
「わ、わからない・・。でも法主様がアナウンスで「豊穣の間」に皆を呼び寄せたんだ。
僕もエレベーターに乗り込もうとしたら、大人たちに追い出されて・・・お前は徳が足らないと言われて・・・」
男の子はそう言うとシクシク泣き出した。
「豊穣の間?どこかな。それは?」
「ここの地下の一番深いところだよ。修業を積んだ徳の高い人しか行けないんだ。」
「そこにはエレベーターで行けるんだね?僕たちを案内してくれるかな?」
「う、うん、わかったよ。こっちだよお姉さん。」
僕と琴子は男の子を前に歩かせて、その後を付いていく。
もちろん銃と刀は構えたままだ。
「君、中学生みたいだけど学校はどうしたんだい?」
「僕、学校には行ってないんです。いじめで不登校になって・・・。」
「そうなんだ、それは苦労したね。」
「でも、僕、代わりに法主様に大切なこと一杯教わってるんだ。法主様はいつだって世の平等を追求される。頭だっていいんだ。T大生や色々な大学の人たちが法主様に教えを乞いにやってくるんだ!」
どうやらここの宗教団体にセクトの連中が合流しているらしい。
もっともこの男の子の言う事が本当だったらという前提であるが。
「あれだよ!あのエレベーターから地下に行ける!」
男の子が灯りのついているエレベーターを指さす。
「下は天国みたいな所なんだ!さあ早く行こう!先に乗って!」
僕は琴子にハンドサインを出すと、エレベーターに向かう。
そして・・エレベーターに乗り込む寸前に僕と琴子は後ろに飛び跳ねた。
僕たちの後ろから突っ込んできた男の子が勢い余って、エレベーターに転がり込む。
琴子がニヤアッと笑って言った。
「そんな見え透いた罠にかかるかと思ったか?ガキ。」
振り返った男の子の表情はまさに餓鬼そのものであった。
「残念だったね。この時代、不登校というものは存在しない。
軍事教練と勤労動員はね・・強制なんだ。」
僕はそう言うと迷わずエレベーターの「閉」のボタンを押す。
その瞬間、エレベーターはボンッという音と共にフリーフォールの様に凄い勢いで落下していった。
「お土産だよ」
真っ暗なエレベーターシャフトの中に琴子がピンを抜いた手榴弾を放り込む。
しばらくしてからズドンと鈍い衝撃がやってきた。
僕は懐から野村隊長から渡されたメモを取り出して広げた。
そこには手書きの見取り図と共にこう書いてあった。
エレベーターの横に「崩落済み」と書かれていた。
「みお、どこから怪しいと思った?」
「最初からだ。大人が怪異に変異しているのに子供が無事なわけがない。
そして何も知らないと言ってるのに、地下空間について具体的な情報を持っている。
どう見ても子供じゃない。擬態型の怪異だろう。」
「なかなか楽しそうね。ここの地下は。」
「まあ、おかげで下の情報が少し取れた。おおかた罠を張って待ち構えているのだろう。
さあ、通信室へ向かおう」
僕と琴子は来た道を引き返した。
僕と琴子は廊下の突き当たりの通信室の前まで到着した。
ご丁寧に「無線室」と表札まで掲げられている。
もっとも外からでも内部が徹底的に破壊されているのがわかるのだが。
「わからないわね。何で自分の所の通信施設を破壊するのかしら?」
僕は内部の様子を確認する。壁にはご丁寧に連中が使う周波数が表示されていた。
ピエン砲、僕たちがいたスキー場跡の車両基地、連中の各部隊の連絡先……。
僕はそれをカメラに収める。
中には白い制服を着た男が3人、明らかに死体になって倒れていた。
しかし僕は違和感を感じた。
「琴子、見ろ。コイツら怪異にやられたんじゃない。口元が変異していない。
「頭部の傷は全部銃創だ。」
琴子が真剣な表情で死体をチェックする。
「後ろから撃たれているわね。抵抗の跡がないからほぼ同時に全員撃たれたんだわ。」
「通信装置も主電源のスイッチのところを集中的に破壊している。闇雲な破壊じゃない。訓練を受けた者の破壊工作だ。」
「私たちの他に誰か来ているってこと?」
「その可能性が高い。心当たりがあるとすると・・。」
「あのアルファとかいう銀髪の女の子?銃はみおに渡したままじゃないの?」
「彼女は明らかに作戦行動中だった。食料とお茶も持っていたし、補給ポイントを確保して行動しているんだろう。」
「やれやれ、にぎやかになりそうね。」
僕は嘆息した。
怪異の団体だけでも荷が重いのに、最悪あのアルファの相手もしないといけないとは。
しかし彼女が味方ではなく敵の場合はどうしたらいいのだろう。
本当に僕と琴子で立ち向かえる相手なんだろうか?
そもそも僕はあの少女と戦うことができるのだろうか?
一方その頃……。
第十一師団戦車中隊はスキー場跡ではなく、そこから後方の剣山へのリフト乗り場のあたりに後退していた。
戦力は60式自走106mm無反動砲が4台、装甲車4台、ツングースカ1台。トラックとオートバイ、クラスハは武装がないため、戦力としてはカウントせず。
人員は野村隊長以下約100名。以上。
中隊は少し離れたスキー場跡がピオン砲の砲撃で、きれいさっぱり吹っ飛ぶのを眺めていた。
「う~ん、こうして見ているととんでもない威力たい。敵の後続部隊はまだ来んね?」
「まだ来ないですね~」井田伍長が双眼鏡を見ながらのんびり言う。
しかし困った事態ではある。敵の後続が来ないと次の作戦に進めないのであるが……何かあったのだろうか?
しかし、間もなく1800時の定時連絡の時間だ。井田は無線機を使うため、クラスハのECMのスイッチを切る。
「あ~。こちら井田伍長、お嬢ちゃん、状況どうぞ。」
「作戦中は君島中尉でお願いします。こちら君島中尉、現在両名とも敵地下施設の入口付近。敵通信施設は機能停止、敵勢力は地下深くで我々を待ち構えている模様。構成員は全て怪異に変異した可能性大。どうぞ。」
「あ~井田、了解。こっちは砲撃以外に敵勢力変化なし。敵周波数は分かりましたか、どうぞ。」
「君島中尉より井田伍長へ。敵周波数を入手、相手ごとの周波数は以下の通り・・」
井田は敵の周波数の一覧をメモした。
これで敵勢力の後続が現れたら無線機で割り込んで好き放題に撹乱できる。
ピオン砲の射撃位置を、敵勢力の場所にずらして連絡しても効果抜群だ。
しかし今、君島中尉は不穏な事を言っていなかったか?そう、彼女はこう言っていた。
「構成員は全て怪異に変異した可能性大」と。
その時だった。
「敵後続勢力、現出!」見張り員の緊張した報告が上がる。
井田伍長と野村隊長は双眼鏡を覗き込む。
敵の本拠地からスキー場跡までは両側を崖に挟まれた九十九折の狭い一本道だ。
つまり60式自走106mm無反動砲で狙い撃ちをするには格好の的である。
元々60式自走106mm無反動砲は低い茂みに身を隠し、待ち伏せ攻撃するための兵器なのだ。
敵勢力が無反動砲で足止めをされている内に、井田が無線機で敵のピオン砲に射撃位置を、九十九折の一本道の場所に変更を連絡。
敵ピオン砲に敵勢力を残らず吹き飛ばさせる計画である。
しかし・・一本道に敵勢力は見当たらない。
どこだ?すると・・・。
「井田君!山の斜面だ!」
井田は信じられない気持ちで山の斜面を確認した。
とても人が降りてこられない深い森林の急斜面を、何百という人影が駆け下りてくる。
なんだ?あの人間離れした動きは。まさか・・!?
井田は駆け下りてくる人影の顔をアップする。そして絶叫した。
「あかん!アレみんな怪異だあっ!!」
中隊全員が騒然となる。
人間離れした動きの群れ・・・その顔はみな無表情で口元だけ鋭い針の山が突き出していた。
井田は無線機を掴むと「おい、砲兵部隊!陸軍が山の中腹で待ち伏せ攻撃をしているぞ、砲撃位置変えろ!座標は××!遅れると人民裁判だぞ!」と怒鳴って、すぐにECMのスイッチをONにした。
理由は簡単。あの敵の群れに一人でも無線を使用できる奴がいて、「陸軍はリフト乗り場にいる」と報告されたら一巻の終わりである。
「おい、みんな慌てたらいかんばい!道の両側に60式と装甲車展開!後方の真ん中にツングースカ移動!火力を集中するたい!」
野村隊長の指示で、即座に車両の配置が変更される。
装甲車の機銃程度でも無いよりマシである。
しかしクラスハの車内で井田は思った。
君島中尉の二人がいないのに、こんな兵力で数倍の怪異に対処できるのだろうか?
彼は緊張した手つきで愛用のショットガンにセルを詰め始めた。
(以上)
僕と琴子は崖をよじ登ると、かつてのケーブルカー乗り場の中に入り込んだ。
正直息が上がって倒れそうになる。
しかし作戦はこれからなのだ。休むわけにはいかない。
「さっ、みお。ようやく中に入れたわ。まずはどうする?いきなり地下に入る?」
「いや、この混乱の中で真っ先にやっておきたい事がある。通信室の確保だ。まずは敵の耳を潰す。」
「わかったわ。さっき外から全体を見た時に、大きなアンテナが見えたわね。
そっちの方向へ行ってみよう。」
僕はサイレンサー付きのベレッタM84FS、琴子は妖刀「丙午千手院長吉」を構える。
琴子の瞳が瞬く間に真紅に変化する。
僕と琴子は音もなく、廊下を進んでいく。
途中、スピーカーから「人民兵士よ、今こそ立ち上がれ!権力の犬、陸軍を倒せ!」など同じセリフが何度も流れる。
恐らく録音だろう。
不思議なのは敵の本拠地なのにもかかわらず、見張りにも誰にも会わない事だった。
途中事務室や会議室らしい部屋も通り過ぎたが、どの部屋も誰もおらず、床には書類が乱雑に散らばっていた。
みんな逃亡したのだろうか?
その時だった。
「みお!静かに・・・!誰かいる!」
琴子がさっとドアの横に張り付く。
部屋のドアの横には「会計室」と表札が出ていた。
僕は懐からハンディタイプのサーモスコープを取り出して中を覗いた。
大厄災前に製造された超貴重品のサーモスコープには体温を失った人間が倒れているのが見えた。
「琴子、中に人がいるぞ。倒れているようだが人間じゃない可能性がある。気をつけろ。」
「了解、みお。1,2,3で入るわよ。」
「よし、1,2,3、GO!」
僕が勢いよくドアを蹴破ると、琴子は刀を抜いて瞬時に室内に突入した。
琴子は迷わず倒れている人間に向かい、その首を刎ねる。
相手が生きていようが死んでいようが容赦はしない。それが琴子だ。
僕は首を刎ねられた人物の周囲を確認する。
宗教関係だろうか?何かの白い制服を着た男性が、、開いた金庫の中に手を突っ込んで絶命している。
その周囲には驚くことに大量の一万円札が散らばっていた。
「何だ、コイツ…。これ持って逃げようとしたのか?」
「残念ながら三途の川は手ぶらで渡ったみたいけどね。それよりもみお。コイツの首見て。」
琴子が今刎ねたばかりの男の首を足で転がす。
「これは・・・!」
この男は見覚えがあった。
ドローンで上空から偵察した時に、異様に手が長いフードの男と話していた禿げの腹が突き出た男ではないか?
しかも口元だけが異様に変異している。
「大方自分だけ逃げようとして怪異に変異させられたんだろうけど・・・。金庫を開けて持ち出そうとする脳みそは残っていたみたいね。でもこれじゃ先が思いやられるわ。中の人間はみんな怪異になっていると思った方がいいわね。」
「しかし変だな。怪異に変異しているのならばなぜ倒れたままで僕たちを襲わなかったんだ?」
「怪異に変異した後で誰かに処分されたんだわ。見て、コイツの胴体、後ろから何かで貫かれている。」
「なんだコレ・・。何で貫かれているんだ?どういうことだ?」
「どっちみち、一筋縄ではいきそうもないわね。さ、みお。通信室に行くわよ」
その時だった。
琴子が何かに気が付いて、丙午千手院長吉を即座に振りかざしてドアに突進した。
そこにいたのは・・・。
「琴子!待て!」
琴子が慌てて後ろに飛びのく。ドアの所にいたのは・・何と子供だった。
身長は160cmくらいの怯えた表情の男の子がドアの所で震えている。
まだ中学生くらいか?彼はさきほどの倒れた男と同じ白の制服を着ていた。
「ひ、ひいっ、お、お姉さん達・・誰?」
僕は混乱した。何でこんな所に子供が!?
「黙れ。声を立てるな。騒ぐと斬る。」
琴子が普段では全く想像もできないドスの利いた低い声で男の子の首に刀を突きつける。
男の子は泣きそうな顔でその場で固まった。
「琴子、落ち着け。相手は子供だ。強迫は逆効果だ」
琴子は一瞬迷った様子を見せたが、刀を鞘に戻す。
但しその手は柄にかけられていた。
「落ち着いて聞いて欲しい。僕たちは陸軍憲兵隊だ。残念ながら君たちの組織には内乱罪の容疑がかかっている。死にたくなければ僕たちの質問に答えてほしい。
僕の言っていることは理解できるね?」
男の子は目に涙を浮かべながら必死にうなずいた。
「よし、わかった。まず、君は未成年だ。大人しく僕たちに協力してくれれば司法取引次第で無罪にできる。いいね?」
「うん・・。わ、わかったよ。で、でも僕も無理やりお母さんに連れてこられただけで何もわからないよ。」
「落ち着いて、君のわかる範囲でいい。他の人たちはどこへ行った?」
「わ、わからない・・。でも法主様がアナウンスで「豊穣の間」に皆を呼び寄せたんだ。
僕もエレベーターに乗り込もうとしたら、大人たちに追い出されて・・・お前は徳が足らないと言われて・・・」
男の子はそう言うとシクシク泣き出した。
「豊穣の間?どこかな。それは?」
「ここの地下の一番深いところだよ。修業を積んだ徳の高い人しか行けないんだ。」
「そこにはエレベーターで行けるんだね?僕たちを案内してくれるかな?」
「う、うん、わかったよ。こっちだよお姉さん。」
僕と琴子は男の子を前に歩かせて、その後を付いていく。
もちろん銃と刀は構えたままだ。
「君、中学生みたいだけど学校はどうしたんだい?」
「僕、学校には行ってないんです。いじめで不登校になって・・・。」
「そうなんだ、それは苦労したね。」
「でも、僕、代わりに法主様に大切なこと一杯教わってるんだ。法主様はいつだって世の平等を追求される。頭だっていいんだ。T大生や色々な大学の人たちが法主様に教えを乞いにやってくるんだ!」
どうやらここの宗教団体にセクトの連中が合流しているらしい。
もっともこの男の子の言う事が本当だったらという前提であるが。
「あれだよ!あのエレベーターから地下に行ける!」
男の子が灯りのついているエレベーターを指さす。
「下は天国みたいな所なんだ!さあ早く行こう!先に乗って!」
僕は琴子にハンドサインを出すと、エレベーターに向かう。
そして・・エレベーターに乗り込む寸前に僕と琴子は後ろに飛び跳ねた。
僕たちの後ろから突っ込んできた男の子が勢い余って、エレベーターに転がり込む。
琴子がニヤアッと笑って言った。
「そんな見え透いた罠にかかるかと思ったか?ガキ。」
振り返った男の子の表情はまさに餓鬼そのものであった。
「残念だったね。この時代、不登校というものは存在しない。
軍事教練と勤労動員はね・・強制なんだ。」
僕はそう言うと迷わずエレベーターの「閉」のボタンを押す。
その瞬間、エレベーターはボンッという音と共にフリーフォールの様に凄い勢いで落下していった。
「お土産だよ」
真っ暗なエレベーターシャフトの中に琴子がピンを抜いた手榴弾を放り込む。
しばらくしてからズドンと鈍い衝撃がやってきた。
僕は懐から野村隊長から渡されたメモを取り出して広げた。
そこには手書きの見取り図と共にこう書いてあった。
エレベーターの横に「崩落済み」と書かれていた。
「みお、どこから怪しいと思った?」
「最初からだ。大人が怪異に変異しているのに子供が無事なわけがない。
そして何も知らないと言ってるのに、地下空間について具体的な情報を持っている。
どう見ても子供じゃない。擬態型の怪異だろう。」
「なかなか楽しそうね。ここの地下は。」
「まあ、おかげで下の情報が少し取れた。おおかた罠を張って待ち構えているのだろう。
さあ、通信室へ向かおう」
僕と琴子は来た道を引き返した。
僕と琴子は廊下の突き当たりの通信室の前まで到着した。
ご丁寧に「無線室」と表札まで掲げられている。
もっとも外からでも内部が徹底的に破壊されているのがわかるのだが。
「わからないわね。何で自分の所の通信施設を破壊するのかしら?」
僕は内部の様子を確認する。壁にはご丁寧に連中が使う周波数が表示されていた。
ピエン砲、僕たちがいたスキー場跡の車両基地、連中の各部隊の連絡先……。
僕はそれをカメラに収める。
中には白い制服を着た男が3人、明らかに死体になって倒れていた。
しかし僕は違和感を感じた。
「琴子、見ろ。コイツら怪異にやられたんじゃない。口元が変異していない。
「頭部の傷は全部銃創だ。」
琴子が真剣な表情で死体をチェックする。
「後ろから撃たれているわね。抵抗の跡がないからほぼ同時に全員撃たれたんだわ。」
「通信装置も主電源のスイッチのところを集中的に破壊している。闇雲な破壊じゃない。訓練を受けた者の破壊工作だ。」
「私たちの他に誰か来ているってこと?」
「その可能性が高い。心当たりがあるとすると・・。」
「あのアルファとかいう銀髪の女の子?銃はみおに渡したままじゃないの?」
「彼女は明らかに作戦行動中だった。食料とお茶も持っていたし、補給ポイントを確保して行動しているんだろう。」
「やれやれ、にぎやかになりそうね。」
僕は嘆息した。
怪異の団体だけでも荷が重いのに、最悪あのアルファの相手もしないといけないとは。
しかし彼女が味方ではなく敵の場合はどうしたらいいのだろう。
本当に僕と琴子で立ち向かえる相手なんだろうか?
そもそも僕はあの少女と戦うことができるのだろうか?
一方その頃……。
第十一師団戦車中隊はスキー場跡ではなく、そこから後方の剣山へのリフト乗り場のあたりに後退していた。
戦力は60式自走106mm無反動砲が4台、装甲車4台、ツングースカ1台。トラックとオートバイ、クラスハは武装がないため、戦力としてはカウントせず。
人員は野村隊長以下約100名。以上。
中隊は少し離れたスキー場跡がピオン砲の砲撃で、きれいさっぱり吹っ飛ぶのを眺めていた。
「う~ん、こうして見ているととんでもない威力たい。敵の後続部隊はまだ来んね?」
「まだ来ないですね~」井田伍長が双眼鏡を見ながらのんびり言う。
しかし困った事態ではある。敵の後続が来ないと次の作戦に進めないのであるが……何かあったのだろうか?
しかし、間もなく1800時の定時連絡の時間だ。井田は無線機を使うため、クラスハのECMのスイッチを切る。
「あ~。こちら井田伍長、お嬢ちゃん、状況どうぞ。」
「作戦中は君島中尉でお願いします。こちら君島中尉、現在両名とも敵地下施設の入口付近。敵通信施設は機能停止、敵勢力は地下深くで我々を待ち構えている模様。構成員は全て怪異に変異した可能性大。どうぞ。」
「あ~井田、了解。こっちは砲撃以外に敵勢力変化なし。敵周波数は分かりましたか、どうぞ。」
「君島中尉より井田伍長へ。敵周波数を入手、相手ごとの周波数は以下の通り・・」
井田は敵の周波数の一覧をメモした。
これで敵勢力の後続が現れたら無線機で割り込んで好き放題に撹乱できる。
ピオン砲の射撃位置を、敵勢力の場所にずらして連絡しても効果抜群だ。
しかし今、君島中尉は不穏な事を言っていなかったか?そう、彼女はこう言っていた。
「構成員は全て怪異に変異した可能性大」と。
その時だった。
「敵後続勢力、現出!」見張り員の緊張した報告が上がる。
井田伍長と野村隊長は双眼鏡を覗き込む。
敵の本拠地からスキー場跡までは両側を崖に挟まれた九十九折の狭い一本道だ。
つまり60式自走106mm無反動砲で狙い撃ちをするには格好の的である。
元々60式自走106mm無反動砲は低い茂みに身を隠し、待ち伏せ攻撃するための兵器なのだ。
敵勢力が無反動砲で足止めをされている内に、井田が無線機で敵のピオン砲に射撃位置を、九十九折の一本道の場所に変更を連絡。
敵ピオン砲に敵勢力を残らず吹き飛ばさせる計画である。
しかし・・一本道に敵勢力は見当たらない。
どこだ?すると・・・。
「井田君!山の斜面だ!」
井田は信じられない気持ちで山の斜面を確認した。
とても人が降りてこられない深い森林の急斜面を、何百という人影が駆け下りてくる。
なんだ?あの人間離れした動きは。まさか・・!?
井田は駆け下りてくる人影の顔をアップする。そして絶叫した。
「あかん!アレみんな怪異だあっ!!」
中隊全員が騒然となる。
人間離れした動きの群れ・・・その顔はみな無表情で口元だけ鋭い針の山が突き出していた。
井田は無線機を掴むと「おい、砲兵部隊!陸軍が山の中腹で待ち伏せ攻撃をしているぞ、砲撃位置変えろ!座標は××!遅れると人民裁判だぞ!」と怒鳴って、すぐにECMのスイッチをONにした。
理由は簡単。あの敵の群れに一人でも無線を使用できる奴がいて、「陸軍はリフト乗り場にいる」と報告されたら一巻の終わりである。
「おい、みんな慌てたらいかんばい!道の両側に60式と装甲車展開!後方の真ん中にツングースカ移動!火力を集中するたい!」
野村隊長の指示で、即座に車両の配置が変更される。
装甲車の機銃程度でも無いよりマシである。
しかしクラスハの車内で井田は思った。
君島中尉の二人がいないのに、こんな兵力で数倍の怪異に対処できるのだろうか?
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