百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

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第26話「四国山中編⑨ 血戦」

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 (前回のあらすじ)
 僕「みお」と琴子は四国山中で敵アジトの潜入に成功する。しかし大昔の地獄をモチーフにした洞窟は怪異の巣であった。なんとか自爆型怪異の襲撃を謎の銀髪の少女、アルファに助けてもらったが、依然状況は厳しい。すると琴子がエレベーターシャフトにメガトン爆弾を放り込んで地下を吹き飛ばしてしまった。琴子、何でも破壊しようとするのは良くないぞ。

 洞窟の中は奥に行けば行くほど目茶苦茶であった。通路の両側にあった地獄のオブジェは琴子のメガトン爆弾の威力でみんなひっくり返るか、破壊されており恐ろしさよりもユーモアが先に立ってしまう。
 そして電源もみんなダウンしたらしい。
 それなら赤外線センサーも何も関係ない。
 アルファに確認したところ、無線室も彼女が制圧したとの事なので、あとはこの先にいる首謀者を制圧するだけだ。

 洞窟は完全に真っ暗であった。
 僕たちの照らす懐中電灯だけが灯りである。
 怪異には一匹も会わない。
 それがかえって不気味であった。

「みお中尉、琴子中尉。この中でございます。」
 アルファが僕たちを案内してくれる。
 僕たちはいつの間にか最奥部「豊穣の間」まで来たらしい。
 一番奥は開けた空間になっている様だが、焦げ臭い異臭が立ち込め、真っ暗であった。

 床に黒焦げになって倒れているのはここにいた怪異たちか?
 ここが「豊穣の間」なのか?このただの残骸の山が?

 その時であった。
 真っ暗な洞窟の奥に異様な灯りが光っていた。
 いや、灯りではない。何か真っ赤な物が暗闇で光っている。

「琴子、アレは・・・!?」

 そこには何かぶよぶよした真っ赤な物体が、床の上で光りながら脈動していた。
 あれは何だ!?まさか心臓か!?

 しかし、心臓にしてはあまりにも大きすぎる。3mはある。
 そしてその真っ赤な物体から、これまた真っ赤に光る赤い液体が時々、音を立てて飛び散っていた。
 なんだ、これは?何かの血液なのか!?

 僕たちはそのおぞましい物体を遠巻きに見ていた。泣き声が聞こえる。
 誰かがそのおぞましい床の物体にすがりついて泣いている。
「うえええ~、オカアさああああん」
 それは・・・あのエレベーターホールで僕たちを突き落とそうとした男の子のフリをした怪異であった。
 姿かたちだけは子供なのに表情だけが餓鬼そのものなのがおぞましい。

「くだらない演技はやめろ。クソガキ。」
 暗闇の中に琴子のドスの利いた低い声が響く。

「演技じゃないよおおお。オカアサンが死んじゃうよおお。何でこんなことするんだよお」
「良く言うわ。お前だな?コレを使って人間を怪異にするクスリ作ってたクズは。」

 僕は琴子の言う事に驚いた。
 確かに周辺には何か白い錠剤の様なものが大量に飛び散っている。
 まさかコイツら、ここでクスリにあの赤い光る血液を…!?

「違うよおお。僕たちは導いたんだよおお。何の取り柄もない馬鹿な人間たちを神のしもべにしてあげたんだよおお。オカアさあんの力でねええ。感謝してほしいいい」
 

「黙れ」

 琴子は一瞬で丙午千手院長吉を抜刀すると、上段から一気に怪異に斬りかかった。
 琴子が踏み込んだ瞬間、怪異はまるで液体のように体を変形させ、床を滑るように左右に逃げた。

 その敏捷さは、普通の怪異とは一線を画している。

 琴子の初撃は空を切り、その隙を突くように、怪異は口元に醜い針の山をむき出しにすると、小型のダーツのように弾幕を発射した。

「チィッ!」

 琴子は刀でそれを弾くが、その針の弾幕の一部が洞窟の壁に当たると、壁がジュッと音を立てて溶けた。

「酸か!?」 僕の叫びが響く。

 僕は即座に反応し、懐からサイレンサー付きのベレッタを取り出すと、怪異の足元に向けてバスバスッと点射した。
 怪異は横っ飛びで回避するが、地面に散らばっていた白い錠剤を巻き込んで無様に転倒した。

「ぎゃあああ。痛ああああい!」
 怪異のおぞましい叫び声が響き渡る。

「やるわね、みお!」
 琴子は体勢を立て直す。

 怪異は怒りに満ちた目で振り返る。
 しかし怪異が僕たちを睨む余裕はなかった。
 瞬時に怪異の背後に移動したアルファが思い切り怪異の頭をハイヒールで蹴り飛ばす。

「ぶぎゃああああ!」

 怪異は豚のような悲鳴を上げながら、壁の方まですっ飛んでいき、叩きつけられた。

 琴子がニヤアッと笑いながら、叩きつけられた怪異に刀を振りかざして突進する。

 そのまま怪異の首に刀を叩きつけようとした時……。

「危ない!琴子中尉!」

 アルファが突進する琴子の襟首を掴んで力任せに無理やり引き戻す。
 次の瞬間、怪異の顔からハリセンボンのような針の山が飛び出した。
 ついさっき琴子の立っていた場所まで鋭い針が突き出る。

「ゲホゲホッ!」
 アルファの力任せの掴みに、苦しそうに喉元を抑える琴子。

 しかし琴子はすぐさま、刀を構えなおすと、アルファとゆっくりと怪異の周りに展開する。
 僕もベレッタの狙いを怪異につけると間合いを取った。

「今からお前の処刑だ。せいぜい苦しめ」
 琴子が怪異に死刑を宣告する。

 怪異は琴子を憎々しく見つめた後、アルファの方を見た。
 しかしその途端、怪異の表情が変わった。

「貴様わあああ!ア・・・馬鹿な!何でお前がこっちの世界にいるううう!!?」

 怪異がまさに親の敵のようにアルファに憎しみをぶつける。
 何だ?コイツ、アルファに面識があるのか!?

「汚いぞおおおお!ニンゲンと一緒に来るなんてえええ!この恥さらしめええ!」
 怪異が絶叫する。

 そんな怪異に、アルファは爪を、琴子は刀、丙午千手院長吉を振りかぶった。
 次の瞬間だった。

「ぐりとぐらカマンんんん!!」

 瞬時に怪異の前にフードの男が両手を広げながら立ちはだかる。
 アルファの爪がフードの男の心臓を。
 琴子の刀が首を突き刺す。

 しかし・・。
 次の瞬間。フードの男の異様に長い腕が、同時にアルファと琴子を跳ね飛ばした。
 だがアルファと琴子は驚くことに空中で体勢を立て直すと、その場で地面に火花を上げながら着地する。

 僕は驚いた。
 アルファと琴子の身体能力もそうだが、何よりもこのフードの男が、首と心臓を貫かれたのに生きていることだ。
 しかしその疑問の答えはすぐに判明した。

 琴子が貫いたフードがハラリと外れたのだ。そこに見えたのは・・・。

 なんだ、この異様な怪異は!?

 フードの男は、一人では無かった。
 気味の悪いことに片腕が異様に発達した二匹の怪異が胴体部分だけ「一つ」につながっていたのだ。

 片方の頭は琴子により明らかに死亡しているが、もう片方の頭が怒りに満ちた表情で琴子を睨む。恐らく心臓も二つあるのだろう。

「おのれ!よくもぐらを殺したな!許さない!」

 ソイツは驚くことにさっきの子供型の怪異よりも、もっとクリアな日本語を喋っていた。
 そのまま怒りに任せて琴子に掴みかかる。

 琴子はそんな男(以後、ぐりと呼称する)の腕をさっと掴み上げると、鮮やかに一本背負いで投げ飛ばした。

 しかしぐりは発達した腕で地面に着地すると、素早く後ろに飛びのき、琴子との間合いを取る。

 一方、子供型の怪異は・・・気が付くと僕の背後に迫っていた。

「まずはお前からだああああ」

 しかし僕は慌てなかった。その怪異の後ろにもうアルファが立っていたからだ。
 

 アルファは怪異の首を掴むと、そのまま無理やり後ろに180度ボキボキッという音と共に回転させ、そのままアッパーカットで殴り飛ばした。

「ぶぐえっ!!」

 怪異が天井に激しく叩きつけられると、床に落下する。
 次の瞬間、アルファのフリルのついたスカートが跳ね上がった。
「ぐぎゃあ!」
 かかと落としっ!!
 アルファのハイヒールにより怪異の顔が原型を留めないほど潰れ、激しく地面にめりこむ!

「今です!みお中尉!あの心臓をっ!!」

 僕は瞬時に背後を向くと、ベレッタの狙いを遠くの床に落ちている、真っ赤に光る心臓のようなものにバスバスバスッ!と3連続で叩き込む。
 心臓のような物から真っ赤な光輝く鮮血が噴水のように吹きあがった。

「やめろ----っ!!」
 ぐりが腕を激しく伸ばしながら、心臓の方に飛びかかろうとする。

 しかしそれは愚かな選択だった。
 琴子がそんな伸びきった腕を見逃すと思ったのか!
 

「でやああああっ!!」
 琴子は思いっきり地面を蹴り上げムーンサルトキックの態勢で、そのままぐりの伸びきった腕を切断した。
 そして着地した瞬間、体重を乗せた下段からのさかあげで、ぐりの首に刃を振り上げた。

「あ!」
 ぐりは叫ぶ間もなく、首が胴と分かれて空しく宙を舞った。

 子供型の怪異は必死に飛び出る鼻血を両手で押さえていた。
 何が起きたのか理解できない。
 どうしてボクがこんな目に?オカアさん助けてえええ。

 しかし怪異が次に見たのは、ピクピクと動きが弱っていく真っ赤な光る心臓の姿だった。
 ピュッ、ピュッと光り輝く鮮血が飛び散る。

 あれれ?もう何もかもダメなのぉ?

 さらに、悲惨な状況が怪異を襲う。
 目の前に二つの靴が見える。
 琴子のブーツとアルファのハイヒール。
 両方とも血で真っ赤に染まっている。
 それが意味するのは・・・。
 

「起きろ。クソガキ」
「起きなさい。クズ。」
 両方とも怪異を見逃してくれないのは明白だった。

 そうだ!いいこと考えた!
 この裏切り者と三つ編みの女はただの化け物だが、もう一人のこのショートヘアの非力な女ならボクの話術で丸め込める!コイツはボクのところにやってくる学生上がりと同じだ!
 お勉強しかできないタイプだ!

 怪異は相手の同情を誘うようにみおに泣き声で話しかけた。
「お願いだよお。話し合いをしようよ。話し合えばきっとお互いの妥協点を見つけられる。」
 みおはじっと怪異の事を見つめる。
 いいぞ、こっちに来い!ボクのこの口の針でお前も仲間にしてやる!

 しかし次の瞬間。
「起きろと言ったはずだ」
 みおは怪異の両膝をバスバスッとベレッタで撃ち抜いた。

「ぐぎゃああああ!」
 怪異は凄まじい激痛に絶叫する。

 なんだコイツう!膝を撃たれたら起きられないじゃないか!
 どうしよう!コイツも頭おかしいよ!助けてオカアさあああん!

 

「困りましたわ。起きろという命令に逆らいますわ。許せませんわ。」
 アルファがそう言って今度は怪異の手をハイヒールでぐちゃっと踏みつぶす。
 ぎゃあああ痛いよお!この裏切り者お!お前は頭おかしいのかああ!?

「仕方ありませんね。このまま事情聴取を行います。琴子中尉、首を刎ねてください。」
 おおい!事情聴取するのに首刎ねるってどういうことお?誰か助けてえええ!

「わかったわあ」

 琴子が嬉しそうにニヤアッと笑って刀を振り上げる。

 うわあどうしよう。一番頭のおかしい奴が来ちゃった。
 どうしてコイツはこんなに頭がおかしいの?

 次の瞬間怪異は自分の頭が地面の上にストンと転がるのを感じた。

 えっ?コイツ本当に首を刎ねたの?鬼かお前はアアアア!

 そして怪異にはさらに悲惨な結末が待っていた。
 アルファは懐から大きな注射器を取り出すと、怪異の頭にブスッと突き刺して中身を吸い取ったのである。

 あーーー。ボクが吸われるううう。

 アルファは注射器で怪異の頭から何かを吸い取ると、残ったゴミに向かって侮蔑の表情で、ハイヒールを思いっきり振り下ろした。
 

 頭蓋をハイヒールで粉砕される瞬間、怪異が思ったのはこんな頭のおかしい化け物共と出会った自分は、なんて不幸なんだということだった。
(続く)
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