百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

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第27話「四国山中編 終幕 海軍総攻撃」

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(前回のあらすじ)
 僕「みお」と愛する「琴子」、そして銀髪の少女「アルファ」は敵本拠地で、人間を怪異に変異させるクスリの破壊と、首謀者である怪異の殲滅に成功した。
 これで大団円の筈だ。しかし何事も帰宅するまで完了にはならない。


 僕たち3人は、敵怪異の殲滅を実行後、地上まで戻ってきた。

 しかし地上は阿鼻叫喚の騒ぎになっていた。

 そこら中で黒煙が立ち銃声が響き、人々が走り回っている。
 見るとその内、半分は口元が怪異に変異していた。
 とても僕たちで対処できる人数ではない。
 ピオン砲も既に無人だった。

「先ほどの私たちを追ってきた怪異の仕業でしょうね。すぐにここから脱出する必要があります。お二人の脱出手段は?」
「ここの裏のケーブルカー乗り場、崖の下にモーター付きのパラグライダーがある。それで脱出する。」
「時間がありません。私が飛んで取って参ります。ケーブルカー乗り場でお待ちください。」
 アルファはそう言うと瞬時に漆黒の羽を生やして飛び立っていった。

「無事かな、戦車中隊の人たち…。」
 琴子が不安そうに呟く。
 僕も心配だった。
 ここがこんな状況なら、怪異の群れが中隊のところに向かっていないとは言い切れない。

「とにかく中隊と合流しなくては。琴子、ケーブルカー乗り場に行こう。」

 周辺からはまだ助けを求める人たちの叫び声が聞こえる。
 しかしこのままではどうにもならない。
 僕たちはやむをえずケーブルカー乗り場に向かった。

 ケーブルカー乗り場に着いた時、アルファは早くもパラグライダーを上まで持ってきてくれていた。
 しかし様子がおかしい。
 彼女が無線機で誰かと怒鳴りあいをしている。
 ん?無線機が使えるということはクラスハのECMはもう解除されたのであろうか?

 僕と琴子は無線機を取り出す。
 しかしそこからはただ水が出てくるだけだった。
 そういえば僕たちは池に飛び込んだのだった。
 完全にオシャカだ。
 恐らくアルファの無線機は大厄災前の機種なので完全防水なのだろう。

 しかしアルファは何を怒鳴っているんだ?

「正気ですか、あなた方は?国内でそんな爆弾運用するつもりですか!?まだ生きている人もいるのですよ!?」

 何だ。アルファは誰と話している?
 爆弾とは何だ?

 アルファは信じられないという表情をしながら僕たちに無線機を持ってくる。

「みお中尉。あなたに代われとの事です。」

 代われ?僕に?いったい誰から?
 しかし無線機を受け取った僕は、信じられないものを聞くことになる。

「君島中尉へ。こちら新日本帝国海軍、連合艦隊司令長官付き、藤少佐である。応答せよ。」

 僕は自分が何を聞いているかわからなかった。
 なぜ藤少佐?なぜこんな山の中で海軍?なぜアルファの持つ無線機から応答を?

「こちら憲兵隊、君島みお中尉。一体何が・・。」
「貴官の活躍に感謝する。15分後に貴官の周辺半径5kmはこの地上から消滅する。直ちに退避せよ」
「あの、何を言って・・・。」
「5分後に戦艦大和からの艦砲射撃を開始。対空兵器を排除した上で、海軍機による航空爆撃を実施する。」
「艦砲射撃!?海岸からここまで何kmあると思って・・・。」
 そこで僕は黙り込んだ。心あたりは・・・あった。

「君島中尉。貴官の協力に感謝する。」

 そうだ。僕が直した電磁砲・・・!
 僕は歯ぎしりした。海軍は最初からこうするつもりだったに違いない。
 恐らく紀伊水道か高知沖でもう待機していたのだろう。
 そうでなければ5分後に目標に向かって砲撃なんかできない。
 くそっ!すぐ近くに陸軍の部隊がいるのにコイツら正気なのか!?

「中尉、いかがいたしますか?」
 アルファが僕に聞いてくる
 しかし僕がこの状況で取れる選択肢は一つしかない。

「仲間の安全が最優先だ。アルファ、すまないが無線機をこのまま貸してくれ。」
「かしこまりました。その無線機は差し上げます。それではご武運を。」

 アルファはその場で礼儀正しく僕と琴子に一礼すると、漆黒の羽をバサバサッと羽ばたかせて飛び上がった。

「みお中尉、琴子中尉。もう高田馬場のご自宅にお戻りいただいて結構です。現状私があなた方に危害を加えることは決してございませんのでご安心を。それではまたお会いしましょう。」

 アルファはそのまま飛び去って行った。

 僕たちも今すぐここから脱出しなくてはならない。

 パラグライダーのハーネスの上に琴子とタンデムで座り、琴子が両足で地面を蹴った。
 パラグライダーがフワリと空中に飛び立つ。

 後方から人々の泣き叫ぶ声や断末魔が聞こえる。
 しかしもうどうにもできない。僕は僕にできることをするしかない。

 僕は無線機の周波数を操作した。

「君島中尉より、野村隊長へ緊急連絡。海軍より15分後に周辺一帯の爆撃情報あり。至急そこから徳島方向へ退避せよ。高松及び高知方面は爆撃対象だ。繰り返す、徳島方向へ退避せよ。我々も合流する。どうぞ。」

 しばらくしてから発砲音と共に「野村了解」と短く返信があった。

 一刻も早く合流しなくてはいけない。
 僕と琴子は無言で谷の中を進んでいく。

 その時だった。背後から白い光の様なものと大きな爆発音が次々と発生した。
 大和からの電磁砲だろう。地響きが谷全体に響き渡る。

 ピオン砲も、怪異も、スティンガーを持った兵士も、アヘン畑の労働者も……。
 何もかも吹っ飛んでいく。

 さらに……。
「みお!あれを見て!!」
 僕は琴子が指をさす方向を見て仰天した。
 

 片側3発、計6発の超巨大プロペラ機・・・。海軍の「富嶽」だった。
 とんでもない大きさだ。海軍はそこまでやるのか!?

「琴子!中隊のみんなはどこだ!?もう時間が無い!」
「みお、あそこ!」

 いた。野村隊長の車列だ。
 幸いクラスハやツングースカ含め全車残っている模様だ。

 だが九十九折(つづらおり)の道でスピードが出ていない。あれでは・・・!

 僕は瞬時に周辺の状況を観察すると、無線機に対して怒鳴った。

「君島中尉より、野村隊長へ。もう時間が無い。オートバイとトラックだけ全速力でこの先のトンネルに入れ!残りは停車して装甲車の中に駆け込め!僕たちもこのまま合流する!」

 僕はパラグライダーの傾斜を無理やりつけると、速度を上げて下方に向かって真っすぐ突っ込んでいく。
 着陸は琴子の脚力に任せるしかない。

 みるみるうちに中隊の車列が迫る。向こうもこちらに気づいたようだ。
 井田伍長が装甲車の上に上り、手旗信号で僕たちを必死に誘導する。

 僕たちは井田伍長の誘導通り、道路横の笹林にそのまま突っ込んだ。
 激しい衝撃。

 しかし時間が無い。僕は顔から血が出るのもかまわずに、琴子と一緒に装甲車の中に飛び込んだ。

「富嶽!爆弾を投下!」
「ハッチ閉めろ!身を伏せえ!」

 野村隊長の怒鳴り声と共に、僕たちは装甲車の中で頭の上に手を組み身を伏せる。

 次の瞬間、ピカッと閃光と共に、凄まじい衝撃音が車内に響き渡った。
 停車しているにもかかわらず装甲車が右に左に揺れ、ハッチの外からは何かがガンガン音を立ててぶつかっていく。
 僕と琴子は落石の恐怖に耐えながらお互いを支えあった。


 二日後。市ヶ谷の陸軍省本省の五十嵐少将の前で、僕と琴子は一連の報告をしていた。
「残念ながら一連の証拠含め全てが消滅してしまいました。生存者も我々のみです。」

 五十嵐少将がこめかみを押さえながら言う。

「信じられん。海軍と銀髪の少女が手を結ぶなんて・・・。海軍首脳部はこの事を知っているのか?」
「不明です。ただ実際に見た感じではお互いただ単に利用し合っただけの可能性があります。一方作戦については海軍首脳部の関与があった可能性は高いかと。
 大和だけではなく秘匿兵器のはずの富嶽まで引っ張り出して作戦を実行しています。普通では考えられません」
「爆撃に使用したのは第十一師団からも新型のMOAB(大規模爆風爆弾)との報告が上がっている。内地で使用するなんて正気の沙汰じゃない。中尉。一体あそこには海軍にとって何があったんだ?」

 僕は思った。
 あそこにあったのは赤く光る不気味な心臓、狂気の化け物、アヘン畑、重火器。過去の残骸。
 しかしもう全て存在しない。みんな消滅した。

「とにかく君たちが生還できてよかった。十一師団の戦車中隊も犠牲者0なのは君たちの指揮のおかげだ。困難な状況で本当によくやってくれた。
 連中の目的が何だったのか、セクトとの繋がりの実態はどうだったのか。
 今となっては確認する術は極めて限られる。
 だが、少なくともこれで怪異の血液が混入されたクスリの供給は止まる。
 それにはきっと大きな意味があるはずだ。
 後の事後処理は我々に任して今日は久しぶりに高田馬場の自宅に戻って休みたまえ。
 「君たちの報告を聞く限り銀髪の少女の危害を加えないという発言はある程度信用してもいいだろう。」
「少将。飯島准尉への連絡は?」
「彼女とは幸い不定期ではあるが連絡は取れている。私から連絡をしておこう。
 ご苦労だった」
 僕と琴子は五十嵐少将に敬礼をすると更衣室に向かった。

 夕日に照らされた高田馬場の街並みをタクシーは通り過ぎている。
 みんなで集まって談笑する外国人、空き缶を拾うホームレス、古本屋で立ち読みをする子供……。いつもの光景だ。

 何だか遠い世界の姿を見ているようだ。

 そしてタクシーはアパートの少し手前で僕たちを降ろした。
 僕たちは手をつなぎながらアパートの階段を上っていく。

 ガチャリと鍵を開け、中に入る。
 本当に久しぶりだった。

 部屋の中は飯島准尉が掃除をしてから何週間もそのままだったのだろう。
 きれいに整頓されてはいるが、観葉植物はみんな萎れていた。

 琴子は水差しに水を入れると、植物に水をやって回る。
 僕はやかんに火をかけてコーヒーの準備をした。

 疲れた・・・。

 僕はため息をついた。
 最後にこの部屋を出て陸軍情報センターに向かってから本当に色々な事があった。

 アルファの襲撃、神津島でのゼミ合宿、強羅でのファンミーティング、大学での追悼コンサート、そして四国山中での死闘……。

 でも今はこうして琴子と家で二人きりでいられる。
 こんな幸せはない。

 その時だった。
 植物に水をやった琴子が背中から僕に抱きついてきた。

 僕も琴子のことをそっと抱きしめる。

 部屋の中にコーヒーの香りが漂う。

 僕はそっと片手でレコードのスイッチを入れた。

(続く)
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