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第28話「純喫茶あずま 前編 困りますよ部長」
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(前回のあらすじ)僕「みお」と琴子は四国山中で敵の本拠地に潜入。陸軍第十一師戦車中隊や、謎の銀髪の少女の協力もあり、人を容易に怪異に変異させるクスリを怪異ごと殲滅した。
しかし直後に海軍の爆撃により全証拠は消滅。僕たちは疲労感と共に久しぶりに高田馬場のアパートに戻ることになった。再び夏休みが始まる。
[chapter:空腹の朝]
ミンミンミン・・・。
外から蝉の鳴き声が聞こえる。
起きた時には時計の針は既に10時を過ぎていた。
琴子はまだ僕の隣でスヤスヤ眠っている。
あの四国での激闘から4日が過ぎていた。
僕たちは久しぶりにこの高田馬場のアパートで二人だけの生活を送っていた。
やっぱり家はいい。
時間も何も気にせずに、好きなだけ琴子と二人きりの静かな時間を過ごせるのだから。
昨日はさすがにこれまでの疲れが出たのか、僕と琴子はお互いに抱きつきながら1日中寝てしまっていた。
今日は外に出るべきだろう。
長らく家を空けていたせいで、部屋の中には殆ど食糧が無かった。
夕べは外に買いに行く気力も無く、琴子と貴重な備蓄食料である棒ラーメンをゆでて食べてしまったばかりである。
朝ごはんはどうしようか。確かもうクラッカーぐらいしか無かったような気がする。
僕が戸棚を開けると・・・箱の中のクラッカーは綺麗さっぱりなくなっていた。
おや?大きいネズミでも入ったのかな?
「ごめんなさ~い、夕べ食べちゃいました~。ぷりんぷり~ん☆」
声のする方を見ると琴子がパジャマのまま、ごろんごろんと回転していた。
お前食べたんかい。
しかも謝罪の意思は全く感じられない。どうしてくれよう。
その時、僕のお腹がぐう~っと鳴った。
これはまずい。僕がこのアパートの中で餓死してしまうではないか。
ひとまず、朝ごはんを食べに行こう。
僕は溜息をつくと、パジャマを脱いでブラウスに着替え始めた。
僕と琴子が高田馬場駅前の純喫茶「あずま」に入ったのはもう11時を回っていた。
琴子をパジャマから着替えさせるのにとっても時間がかかったからだ。
どうしてくれる琴子。
もうモーニングが終わってしまったではないか。
いつもの無口なマスターが小さく「いらっしゃい」と言う。
相変わらず接客の意思は感じられない。
僕はカウンターに行くと、厨房の中のバイトに「日替わりランチ。ライス大盛。ドリンクはトマトジュース」と告げて、琴子と奥の席に座った。
この店では待っていても注文は来ない。
マスターも店員も接客の意思がないからだ。
ではなぜこの不景気に店が潰れていないのか。
理由は簡単でこの店が駅前で、かつ店内が異様に広い為である。
要は待ち合わせ場所に持ってこいなのだ。
しかしこの店には喫茶店として致命的な欠点がある。
コーヒーがまずいのだ。
繰り返す。「コーヒー」が、「まずい」。
僕が嘘を言ってるんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれない。
しかしこれは残念ながら厳然たる事実である。
そんな店潰した方が世の為人の為、更地にしてマンションにでもした方が良いのではないかと思われるだろうが、この店はコーヒーのまずさと反比例するようにご飯が超ボリューミーでおいしいのである。なあにコーヒーがまずいのならジュースを飲めばよい。どうせ業務用のパック(しかも濃縮還元)である。
(なお一応店の名誉の為に言うと、紅茶はマシである。)
僕は注文した後、暇つぶしにそばに置いてある新聞を手に取った。
新聞には「我が海軍、徳島山中で堂々演習す」という記事が出ていた。
流石にあの規模の大爆発を完全に無視する訳にはいかなかったらしい。
新聞には大和が電磁砲を一斉射撃する威勢の良い写真が掲載されていた。
まったく勝手な物だ。
あの「演習」で僕と琴子だけでなく、アルファも第十一師団の野村隊長の部隊も危険にさらされたのに。
冗談抜きにもう少しでみんな死ぬところだった。
そういえばアルファは無事だったのだろうか。まあ問題ないとは思うが・・・。
しかし彼女には今回最初から最後まで大変世話になった。
僕は思う。なぜ彼女は僕と琴子をあんなにまで助けてくれたのだろう?
彼女の目的は一体何だったのだろう?
その時だ。僕はカウンターの所に大きなプレートが二つ置かれているのに気付いた。
もちろんこの店に、テーブルまで配膳してくれる人はいない。
全て自分で取りに行く必要がある。
ますます喫茶店である必要に欠ける店だった。
僕はプレートの上を眺めた。
今日の日替わりランチは、玉ねぎが大量に入った肉の無いカレーピラフの大盛と芯が混じったキャベツの炒めすぎたもの。それと業務用パックのトマトジュース。以上。
カレー粉以外は粗末なメニューだが、不思議なことに味は抜群である。
僕はプレートを二つ持つと愛する琴子の所に戻った。
「わーい。今日はカレーピラフだ。やったー☆」
琴子が嬉しそうにスプーンを振り回す。
僕と琴子は犬のように空腹であった。早速食事(朝食?昼食?)を開始する。
[chapter:部長現る]
どう見てもごはんとカレー粉と玉ねぎしか入っていないはずだが、スパイシーで美味しい。
しかも量がたっぷりある。これは嬉しい。
僕と琴子はものの数分で食べ終えてしまった。
「はふはふ、ごちそ~さま~」
「コラコラ、琴子、キャベツを残すんじゃない。」
僕は琴子に炒めすぎたキャベツをムシャムシャと食べさせた。
何だかヤギに餌をあげているような気がしないでもない。
と、その時我々のテーブルに誰かが座った。
もうお店が混んでくる時間なのか?と思ったらまさかのジャズサークルの部長だった。
「やあ、君島さんたち奇遇だね?朝ごはん?昼ごはん?」
「琴子はお寝坊さんなのでわかりませ~ん。ぷる~ん☆」
「ところで部長、こんな所に来るなんて珍しいですね。どうしたんです?」
「いや、今日は友達にレコードを貸しに来たんだよ。時間までまだあるから早めにお昼と思ってね。」
部長は天ぷらそばの大盛(注:ここは喫茶店です)を食べながら僕たちと他愛も無い話をした。
ところが・・。
「あっ、そうだ。サークルの合宿、今週の金曜日に変更になったから。」
突然の部長の話に僕は思わず飲んでいたトマトジュースを噴きそうになった。
琴子も驚愕する。
「金曜!?今日は月曜日だから4日後じゃないですか!?9月の予定じゃなかったんですか!?」
「あ~いや、実は元々軽井沢でやる予定には変わりないんだが、合宿先の方から今週の土曜日に地元でジャズコンサートがあるから君たちもどうかって誘われてね。他にも何組か来るらしい。」
「で、また二つ返事でOKしたわけですか・・。困りますよ~。僕たちも予定があるんですから~。」
「いやあ、スマンスマン。でもこういうのはご縁だから。」
「僕たちはともかくとして他のみんなは大丈夫です?きっとバイトとか入れてますよ?」
「あ~、そうだ。急いで連絡しなきゃねえ。実は今朝決まったんだ。アハハ。」
「今朝あ!?」
僕と琴子の大声が店内に響き渡る。
それでも店内の他の客は微動だにしない。単にこの店がおかしいだけなのだが・・。
「部長お!今すぐみんなに電話してください!そこに電話ありますから!」
「あ、そのまだお蕎麦が・・。」
「1分で食べてください!!」
琴子は部長に強制的に蕎麦を食べさせると、店の赤電話まで引きずっていった。
「これは罰だ」
僕と琴子は一つずつ部長の天ぷらを強奪する。
部長は困った顔をしながら部員のリストに一人ずつ電話をする。
電話の向こうでさぞかし阿鼻叫喚の騒ぎになっているだろう。
僕と琴子は困惑した表情で席に戻った。
「コンサートということはみんなで曲も決めて練習もしなくちゃいけないわ。
あと4日だから、今日を除いて明日からたったの三日間で!?ええええっ」
「こりゃ朝から夜までスケジュール空けないとまずいぞ。困ったな、今週は暇だから陸軍情報センターで小遣い稼ぎにシステムの仕事でもしようと思ってたのに。」
「それ私もセンター長から言われたわよ。また案件が溜まってきたからそろそろお願いしたいって。どうするの?」
こりゃまずい。今週は琴子とのんびりしながら、まったり過ごそうと思ってたのにいきなり超ハードスケジュールになったぞ。どうしてくれよう。
すると部長が苦笑いをしながらやってきた。
「やあ、ごめん。何人かに電話したらむっちゃ怒鳴られたわ。やっぱり早く連絡しなきゃいけないから、手伝ってくれる?」
琴子がヒステリーを起こす。
「んま~。部長さんお子様でございますか?年いくつ?何ちゃいでございますか?」
「ん~。24歳・・。」
「きいい!早く職についてお国に貢献してください!私とみおに特大パフェ一つずつ!
それで手伝ってあげます!」
「え~と、コーヒーは?」
「死にたいんですか!?」
僕と琴子はやむを得ず、部員の名簿を持って店の外に出ると、手分けして公衆電話からみんなに連絡をすることにした。
そしてみんなに連絡した結果、軽井沢で部長の人民裁判を開くことが決定された。
実に楽しみだ。
僕と琴子は30分ほど公衆電話で阿鼻叫喚の騒ぎを繰り広げると店に戻った。
席では何と部長が呑気に「コーヒー」を飲んでいる。
「ん~。不味い・・。」
この人は一体何を考えて生きているのだろう?
ただ問題はそこでは無かった。
僕たちのテーブルに巨大な白い聳え立つ塊が二つ並べてあった。
特大パフェであった。
えっ!?これ何人用なの!?
しまった。こんなに大きいと思わなかった。
僕たちはこの店を舐めていた。
しかも僕たちはたった今カレーピラフの大盛を食べたばかりなのに!?
琴子も最初少し固まっていたが、すぐに笑顔になって席に戻って食べ始めた。
食べるんかい?
そして部長は勝手に僕のパフェの上の方をスプーンで何口か食べると、笑顔で「じゃあ、また明日。15時から部室でね。」と席を立って行ってしまった。
参ったぞ。スケジュールを勝手に決められてしまった。
ただ15時からという事は午前中市ヶ谷の陸軍情報センターで一仕事はできそうだ。
しかし琴子は血相を変えて「しまった!」と呟く。
どうしたのかな、琴子?
「私たちのランチセットの伝票もこっそり部長にねじ込んでおけば良かったわ。」
確かにそれは我々の失態であった。
僕と琴子がパフェを食べ始めてから早くも30分が過ぎようとしていた。
時刻は既に13時をまわり、満員だった店内もいつの間にか人が減っていた。
しかしパフェは減らない。つらい。
僕は早くもパフェに飽き始めていた。よりによってこの店にしては珍しく味も普通である。
誰が注文するんだ。こんな物?
その時であった。
僕たちの席の近くの赤電話が3回鳴って切れた。
僕と琴子は顔を見合わせた。
実は僕たちが家を留守にしている場合、僕たちへの仕事の電話は事前に指定した場所に転送される仕組みになっている。
今回はこの喫茶店にしていたのだが。。、
何の連絡だろう?
この状況で出動と言われても困る。
お腹はパンパンだしパフェも残っている。
しかし本当に緊急だったら無視する訳にもいかない。
僕はシブシブ赤電話のダイヤルを回し始めた。
(続く)
しかし直後に海軍の爆撃により全証拠は消滅。僕たちは疲労感と共に久しぶりに高田馬場のアパートに戻ることになった。再び夏休みが始まる。
[chapter:空腹の朝]
ミンミンミン・・・。
外から蝉の鳴き声が聞こえる。
起きた時には時計の針は既に10時を過ぎていた。
琴子はまだ僕の隣でスヤスヤ眠っている。
あの四国での激闘から4日が過ぎていた。
僕たちは久しぶりにこの高田馬場のアパートで二人だけの生活を送っていた。
やっぱり家はいい。
時間も何も気にせずに、好きなだけ琴子と二人きりの静かな時間を過ごせるのだから。
昨日はさすがにこれまでの疲れが出たのか、僕と琴子はお互いに抱きつきながら1日中寝てしまっていた。
今日は外に出るべきだろう。
長らく家を空けていたせいで、部屋の中には殆ど食糧が無かった。
夕べは外に買いに行く気力も無く、琴子と貴重な備蓄食料である棒ラーメンをゆでて食べてしまったばかりである。
朝ごはんはどうしようか。確かもうクラッカーぐらいしか無かったような気がする。
僕が戸棚を開けると・・・箱の中のクラッカーは綺麗さっぱりなくなっていた。
おや?大きいネズミでも入ったのかな?
「ごめんなさ~い、夕べ食べちゃいました~。ぷりんぷり~ん☆」
声のする方を見ると琴子がパジャマのまま、ごろんごろんと回転していた。
お前食べたんかい。
しかも謝罪の意思は全く感じられない。どうしてくれよう。
その時、僕のお腹がぐう~っと鳴った。
これはまずい。僕がこのアパートの中で餓死してしまうではないか。
ひとまず、朝ごはんを食べに行こう。
僕は溜息をつくと、パジャマを脱いでブラウスに着替え始めた。
僕と琴子が高田馬場駅前の純喫茶「あずま」に入ったのはもう11時を回っていた。
琴子をパジャマから着替えさせるのにとっても時間がかかったからだ。
どうしてくれる琴子。
もうモーニングが終わってしまったではないか。
いつもの無口なマスターが小さく「いらっしゃい」と言う。
相変わらず接客の意思は感じられない。
僕はカウンターに行くと、厨房の中のバイトに「日替わりランチ。ライス大盛。ドリンクはトマトジュース」と告げて、琴子と奥の席に座った。
この店では待っていても注文は来ない。
マスターも店員も接客の意思がないからだ。
ではなぜこの不景気に店が潰れていないのか。
理由は簡単でこの店が駅前で、かつ店内が異様に広い為である。
要は待ち合わせ場所に持ってこいなのだ。
しかしこの店には喫茶店として致命的な欠点がある。
コーヒーがまずいのだ。
繰り返す。「コーヒー」が、「まずい」。
僕が嘘を言ってるんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれない。
しかしこれは残念ながら厳然たる事実である。
そんな店潰した方が世の為人の為、更地にしてマンションにでもした方が良いのではないかと思われるだろうが、この店はコーヒーのまずさと反比例するようにご飯が超ボリューミーでおいしいのである。なあにコーヒーがまずいのならジュースを飲めばよい。どうせ業務用のパック(しかも濃縮還元)である。
(なお一応店の名誉の為に言うと、紅茶はマシである。)
僕は注文した後、暇つぶしにそばに置いてある新聞を手に取った。
新聞には「我が海軍、徳島山中で堂々演習す」という記事が出ていた。
流石にあの規模の大爆発を完全に無視する訳にはいかなかったらしい。
新聞には大和が電磁砲を一斉射撃する威勢の良い写真が掲載されていた。
まったく勝手な物だ。
あの「演習」で僕と琴子だけでなく、アルファも第十一師団の野村隊長の部隊も危険にさらされたのに。
冗談抜きにもう少しでみんな死ぬところだった。
そういえばアルファは無事だったのだろうか。まあ問題ないとは思うが・・・。
しかし彼女には今回最初から最後まで大変世話になった。
僕は思う。なぜ彼女は僕と琴子をあんなにまで助けてくれたのだろう?
彼女の目的は一体何だったのだろう?
その時だ。僕はカウンターの所に大きなプレートが二つ置かれているのに気付いた。
もちろんこの店に、テーブルまで配膳してくれる人はいない。
全て自分で取りに行く必要がある。
ますます喫茶店である必要に欠ける店だった。
僕はプレートの上を眺めた。
今日の日替わりランチは、玉ねぎが大量に入った肉の無いカレーピラフの大盛と芯が混じったキャベツの炒めすぎたもの。それと業務用パックのトマトジュース。以上。
カレー粉以外は粗末なメニューだが、不思議なことに味は抜群である。
僕はプレートを二つ持つと愛する琴子の所に戻った。
「わーい。今日はカレーピラフだ。やったー☆」
琴子が嬉しそうにスプーンを振り回す。
僕と琴子は犬のように空腹であった。早速食事(朝食?昼食?)を開始する。
[chapter:部長現る]
どう見てもごはんとカレー粉と玉ねぎしか入っていないはずだが、スパイシーで美味しい。
しかも量がたっぷりある。これは嬉しい。
僕と琴子はものの数分で食べ終えてしまった。
「はふはふ、ごちそ~さま~」
「コラコラ、琴子、キャベツを残すんじゃない。」
僕は琴子に炒めすぎたキャベツをムシャムシャと食べさせた。
何だかヤギに餌をあげているような気がしないでもない。
と、その時我々のテーブルに誰かが座った。
もうお店が混んでくる時間なのか?と思ったらまさかのジャズサークルの部長だった。
「やあ、君島さんたち奇遇だね?朝ごはん?昼ごはん?」
「琴子はお寝坊さんなのでわかりませ~ん。ぷる~ん☆」
「ところで部長、こんな所に来るなんて珍しいですね。どうしたんです?」
「いや、今日は友達にレコードを貸しに来たんだよ。時間までまだあるから早めにお昼と思ってね。」
部長は天ぷらそばの大盛(注:ここは喫茶店です)を食べながら僕たちと他愛も無い話をした。
ところが・・。
「あっ、そうだ。サークルの合宿、今週の金曜日に変更になったから。」
突然の部長の話に僕は思わず飲んでいたトマトジュースを噴きそうになった。
琴子も驚愕する。
「金曜!?今日は月曜日だから4日後じゃないですか!?9月の予定じゃなかったんですか!?」
「あ~いや、実は元々軽井沢でやる予定には変わりないんだが、合宿先の方から今週の土曜日に地元でジャズコンサートがあるから君たちもどうかって誘われてね。他にも何組か来るらしい。」
「で、また二つ返事でOKしたわけですか・・。困りますよ~。僕たちも予定があるんですから~。」
「いやあ、スマンスマン。でもこういうのはご縁だから。」
「僕たちはともかくとして他のみんなは大丈夫です?きっとバイトとか入れてますよ?」
「あ~、そうだ。急いで連絡しなきゃねえ。実は今朝決まったんだ。アハハ。」
「今朝あ!?」
僕と琴子の大声が店内に響き渡る。
それでも店内の他の客は微動だにしない。単にこの店がおかしいだけなのだが・・。
「部長お!今すぐみんなに電話してください!そこに電話ありますから!」
「あ、そのまだお蕎麦が・・。」
「1分で食べてください!!」
琴子は部長に強制的に蕎麦を食べさせると、店の赤電話まで引きずっていった。
「これは罰だ」
僕と琴子は一つずつ部長の天ぷらを強奪する。
部長は困った顔をしながら部員のリストに一人ずつ電話をする。
電話の向こうでさぞかし阿鼻叫喚の騒ぎになっているだろう。
僕と琴子は困惑した表情で席に戻った。
「コンサートということはみんなで曲も決めて練習もしなくちゃいけないわ。
あと4日だから、今日を除いて明日からたったの三日間で!?ええええっ」
「こりゃ朝から夜までスケジュール空けないとまずいぞ。困ったな、今週は暇だから陸軍情報センターで小遣い稼ぎにシステムの仕事でもしようと思ってたのに。」
「それ私もセンター長から言われたわよ。また案件が溜まってきたからそろそろお願いしたいって。どうするの?」
こりゃまずい。今週は琴子とのんびりしながら、まったり過ごそうと思ってたのにいきなり超ハードスケジュールになったぞ。どうしてくれよう。
すると部長が苦笑いをしながらやってきた。
「やあ、ごめん。何人かに電話したらむっちゃ怒鳴られたわ。やっぱり早く連絡しなきゃいけないから、手伝ってくれる?」
琴子がヒステリーを起こす。
「んま~。部長さんお子様でございますか?年いくつ?何ちゃいでございますか?」
「ん~。24歳・・。」
「きいい!早く職についてお国に貢献してください!私とみおに特大パフェ一つずつ!
それで手伝ってあげます!」
「え~と、コーヒーは?」
「死にたいんですか!?」
僕と琴子はやむを得ず、部員の名簿を持って店の外に出ると、手分けして公衆電話からみんなに連絡をすることにした。
そしてみんなに連絡した結果、軽井沢で部長の人民裁判を開くことが決定された。
実に楽しみだ。
僕と琴子は30分ほど公衆電話で阿鼻叫喚の騒ぎを繰り広げると店に戻った。
席では何と部長が呑気に「コーヒー」を飲んでいる。
「ん~。不味い・・。」
この人は一体何を考えて生きているのだろう?
ただ問題はそこでは無かった。
僕たちのテーブルに巨大な白い聳え立つ塊が二つ並べてあった。
特大パフェであった。
えっ!?これ何人用なの!?
しまった。こんなに大きいと思わなかった。
僕たちはこの店を舐めていた。
しかも僕たちはたった今カレーピラフの大盛を食べたばかりなのに!?
琴子も最初少し固まっていたが、すぐに笑顔になって席に戻って食べ始めた。
食べるんかい?
そして部長は勝手に僕のパフェの上の方をスプーンで何口か食べると、笑顔で「じゃあ、また明日。15時から部室でね。」と席を立って行ってしまった。
参ったぞ。スケジュールを勝手に決められてしまった。
ただ15時からという事は午前中市ヶ谷の陸軍情報センターで一仕事はできそうだ。
しかし琴子は血相を変えて「しまった!」と呟く。
どうしたのかな、琴子?
「私たちのランチセットの伝票もこっそり部長にねじ込んでおけば良かったわ。」
確かにそれは我々の失態であった。
僕と琴子がパフェを食べ始めてから早くも30分が過ぎようとしていた。
時刻は既に13時をまわり、満員だった店内もいつの間にか人が減っていた。
しかしパフェは減らない。つらい。
僕は早くもパフェに飽き始めていた。よりによってこの店にしては珍しく味も普通である。
誰が注文するんだ。こんな物?
その時であった。
僕たちの席の近くの赤電話が3回鳴って切れた。
僕と琴子は顔を見合わせた。
実は僕たちが家を留守にしている場合、僕たちへの仕事の電話は事前に指定した場所に転送される仕組みになっている。
今回はこの喫茶店にしていたのだが。。、
何の連絡だろう?
この状況で出動と言われても困る。
お腹はパンパンだしパフェも残っている。
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僕はシブシブ赤電話のダイヤルを回し始めた。
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