1 / 4
第一章
01 . 雨の檻
しおりを挟む
新宿を濡らす雨が、街の喧騒を重苦しく塗り潰していた。
ここは関東最大の広域指定暴力団・神代組が支配し、その威光が最も色濃く影を落とす街。
今夜も冷たい雨の向こうから、血と硝煙の匂いが静かに漂い始めている。
そんなことも知らず多くの人々が傘の波に紛れて行き交う中、光の届かない路地裏には、一人の男が深く影を落として佇んでいた。
冷たいコンクリートを背にして猫のように目を光らせ雨に打たれるその姿は誰が見ても息を飲むものだった。
「…」
濡れた黒いスーツの袖を軽く捲って時間を確認して煙草をふかす。
その一連の動作は「氷の執行人」そのものだった。
そんな彼の名は、久我 怜
関東最大の広域暴力団「九条組」の直系、神代組で、この業界では珍しいとされる27歳と、若くして若頭補佐を務めている。
切れ長の目で見つめるだけで射抜かれそうな黄金色の瞳に、透き通るような白い肌。
極道の凄みとは無縁に見える端正な顔立ちだが、その実、組の若手からは「氷の執行人」と異名が付くほど恐れられていた。
感情を表に出さず、自分自身を道具として使うことに一切躊躇わず、淡々と、かつ確実に「仕事」をこなす。それが久我怜としてのスタイルだった。
「久我さん、お迎えに上がりました」
雨に紛れて音もなく現れ、傘を差し出したのは舎弟の真壁だった。
久我は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、無言で歩き出し、真壁が用意した車に乗り込んだ。
向かう先は、役職の名のもとに普段から仕え、命を投げ打ってでも守る対象にあたる、「ある男」が待つ場所だった。
今夜は、その組の運営に深く関わる「ある男」との会食が予定されていた。
「久我さん、そこにスーツの替えを置いておきました」
ハンドルを握ったまま、ルームミラー越しに目で誘導された先には綺麗に畳まれた三つ揃いの真っ黒なスーツが置かれていた。
「感謝する」
短く返し手に取ると、真壁が気を遣い後部座席を遮断するようにカーテンを閉めてくれ、無駄のない動きで淡々と着替えを済ませる。
外の止まない雨を眺めながら、窓の反射に映った自分を見てネクタイを整えた。
少々時間を取られ、あの方を待たせてしまっている…
久我は性格が故に自分自身の計画や決められた時間を狂わせ、狂わされるのが大嫌いであり、眉を寄せた。
「 ──到着しました」
存在を隠すように木が生い茂り、その葉から雫が落ち神秘的な雰囲気が漂う、格式高い老舗の料亭の前にゆっくりと車が停車した。
襟を整えながら、料亭「徒花」の長い廊下を無駄のない足取りで歩き、床を擦る音が静かに刻まれる。
1番奥の部屋に通され、襖の前で軽く会釈をする。
「…久我です」
「入れ」
有無を言わせないその低く響く声が間髪入れずに聞こえ、襖を両手で丁寧に開けると、そこには酒を少し煽りながら1人の男が鎮座していた ─── 。
ここは関東最大の広域指定暴力団・神代組が支配し、その威光が最も色濃く影を落とす街。
今夜も冷たい雨の向こうから、血と硝煙の匂いが静かに漂い始めている。
そんなことも知らず多くの人々が傘の波に紛れて行き交う中、光の届かない路地裏には、一人の男が深く影を落として佇んでいた。
冷たいコンクリートを背にして猫のように目を光らせ雨に打たれるその姿は誰が見ても息を飲むものだった。
「…」
濡れた黒いスーツの袖を軽く捲って時間を確認して煙草をふかす。
その一連の動作は「氷の執行人」そのものだった。
そんな彼の名は、久我 怜
関東最大の広域暴力団「九条組」の直系、神代組で、この業界では珍しいとされる27歳と、若くして若頭補佐を務めている。
切れ長の目で見つめるだけで射抜かれそうな黄金色の瞳に、透き通るような白い肌。
極道の凄みとは無縁に見える端正な顔立ちだが、その実、組の若手からは「氷の執行人」と異名が付くほど恐れられていた。
感情を表に出さず、自分自身を道具として使うことに一切躊躇わず、淡々と、かつ確実に「仕事」をこなす。それが久我怜としてのスタイルだった。
「久我さん、お迎えに上がりました」
雨に紛れて音もなく現れ、傘を差し出したのは舎弟の真壁だった。
久我は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、無言で歩き出し、真壁が用意した車に乗り込んだ。
向かう先は、役職の名のもとに普段から仕え、命を投げ打ってでも守る対象にあたる、「ある男」が待つ場所だった。
今夜は、その組の運営に深く関わる「ある男」との会食が予定されていた。
「久我さん、そこにスーツの替えを置いておきました」
ハンドルを握ったまま、ルームミラー越しに目で誘導された先には綺麗に畳まれた三つ揃いの真っ黒なスーツが置かれていた。
「感謝する」
短く返し手に取ると、真壁が気を遣い後部座席を遮断するようにカーテンを閉めてくれ、無駄のない動きで淡々と着替えを済ませる。
外の止まない雨を眺めながら、窓の反射に映った自分を見てネクタイを整えた。
少々時間を取られ、あの方を待たせてしまっている…
久我は性格が故に自分自身の計画や決められた時間を狂わせ、狂わされるのが大嫌いであり、眉を寄せた。
「 ──到着しました」
存在を隠すように木が生い茂り、その葉から雫が落ち神秘的な雰囲気が漂う、格式高い老舗の料亭の前にゆっくりと車が停車した。
襟を整えながら、料亭「徒花」の長い廊下を無駄のない足取りで歩き、床を擦る音が静かに刻まれる。
1番奥の部屋に通され、襖の前で軽く会釈をする。
「…久我です」
「入れ」
有無を言わせないその低く響く声が間髪入れずに聞こえ、襖を両手で丁寧に開けると、そこには酒を少し煽りながら1人の男が鎮座していた ─── 。
3
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる