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第一章
01 . 雨の檻
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新宿を濡らす雨が、街の喧騒を重苦しく塗り潰していた。
ここは関東最大の広域指定暴力団・神代組が支配し、その威光が最も色濃く影を落とす街。
今夜も冷たい雨の向こうから、血と硝煙の匂いが静かに漂い始めている。
そんなことも知らず多くの人々が傘の波に紛れて行き交う中、光の届かない路地裏には、一人の男が深く影を落として佇んでいた。
冷たいコンクリートを背にして猫のように目を光らせ雨に打たれるその姿は誰が見ても息を飲むものだった。
「…」
濡れた黒いスーツの袖を軽く捲って時間を確認して煙草をふかす。
その一連の動作は「氷の執行人」そのものだった。
そんな彼の名は、久我 怜
関東最大の広域暴力団「九条組」の直系、神代組で、この業界では珍しいとされる27歳と、若くして若頭補佐を務めている。
切れ長の目で見つめるだけで射抜かれそうな黄金色の瞳に、透き通るような白い肌。
極道の凄みとは無縁に見える端正な顔立ちだが、その実、組の若手からは「氷の執行人」と異名が付くほど恐れられていた。
感情を表に出さず、自分自身を道具として使うことに一切躊躇わず、淡々と、かつ確実に「仕事」をこなす。それが久我怜としてのスタイルだった。
「久我さん、お迎えに上がりました」
雨に紛れて音もなく現れ、傘を差し出したのは舎弟の真壁だった。
久我は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、無言で歩き出し、真壁が用意した車に乗り込んだ。
向かう先は、役職の名のもとに普段から仕え、命を投げ打ってでも守る対象にあたる、「ある男」が待つ場所だった。
今夜は、その組の運営に深く関わる「ある男」との会食が予定されていた。
「久我さん、そこにスーツの替えを置いておきました」
ハンドルを握ったまま、ルームミラー越しに目で誘導された先には綺麗に畳まれた三つ揃いの真っ黒なスーツが置かれていた。
「感謝する」
短く返し手に取ると、真壁が気を遣い後部座席を遮断するようにカーテンを閉めてくれ、無駄のない動きで淡々と着替えを済ませる。
外の止まない雨を眺めながら、窓の反射に映った自分を見てネクタイを整えた。
(少々時間を取られ、あの方を待たせてしまっている…)
久我は性格が故に自分自身の計画や決められた時間を狂わせ、狂わされるのが大嫌いであり、眉を寄せた。
「 ──到着しました」
存在を隠すように木が生い茂り、その葉から雫が落ち神秘的な雰囲気が漂う、格式高い老舗の料亭の前にゆっくりと車が停車した。
襟を整えながら、料亭「徒花」の長い廊下を無駄のない足取りで歩き、床を擦る音が静かに刻まれる。
1番奥の部屋に通され、襖の前で軽く会釈をする。
「…久我です」
「入れ」
有無を言わせないその低く響く声が間髪入れずに聞こえ、襖を両手で丁寧に開けると、そこには酒を少し煽りながら1人の男が鎮座していた ─── 。
ここは関東最大の広域指定暴力団・神代組が支配し、その威光が最も色濃く影を落とす街。
今夜も冷たい雨の向こうから、血と硝煙の匂いが静かに漂い始めている。
そんなことも知らず多くの人々が傘の波に紛れて行き交う中、光の届かない路地裏には、一人の男が深く影を落として佇んでいた。
冷たいコンクリートを背にして猫のように目を光らせ雨に打たれるその姿は誰が見ても息を飲むものだった。
「…」
濡れた黒いスーツの袖を軽く捲って時間を確認して煙草をふかす。
その一連の動作は「氷の執行人」そのものだった。
そんな彼の名は、久我 怜
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極道の凄みとは無縁に見える端正な顔立ちだが、その実、組の若手からは「氷の執行人」と異名が付くほど恐れられていた。
感情を表に出さず、自分自身を道具として使うことに一切躊躇わず、淡々と、かつ確実に「仕事」をこなす。それが久我怜としてのスタイルだった。
「久我さん、お迎えに上がりました」
雨に紛れて音もなく現れ、傘を差し出したのは舎弟の真壁だった。
久我は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、無言で歩き出し、真壁が用意した車に乗り込んだ。
向かう先は、役職の名のもとに普段から仕え、命を投げ打ってでも守る対象にあたる、「ある男」が待つ場所だった。
今夜は、その組の運営に深く関わる「ある男」との会食が予定されていた。
「久我さん、そこにスーツの替えを置いておきました」
ハンドルを握ったまま、ルームミラー越しに目で誘導された先には綺麗に畳まれた三つ揃いの真っ黒なスーツが置かれていた。
「感謝する」
短く返し手に取ると、真壁が気を遣い後部座席を遮断するようにカーテンを閉めてくれ、無駄のない動きで淡々と着替えを済ませる。
外の止まない雨を眺めながら、窓の反射に映った自分を見てネクタイを整えた。
(少々時間を取られ、あの方を待たせてしまっている…)
久我は性格が故に自分自身の計画や決められた時間を狂わせ、狂わされるのが大嫌いであり、眉を寄せた。
「 ──到着しました」
存在を隠すように木が生い茂り、その葉から雫が落ち神秘的な雰囲気が漂う、格式高い老舗の料亭の前にゆっくりと車が停車した。
襟を整えながら、料亭「徒花」の長い廊下を無駄のない足取りで歩き、床を擦る音が静かに刻まれる。
1番奥の部屋に通され、襖の前で軽く会釈をする。
「…久我です」
「入れ」
有無を言わせないその低く響く声が間髪入れずに聞こえ、襖を両手で丁寧に開けると、そこには酒を少し煽りながら1人の男が鎮座していた ─── 。
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